どこかで見たような異世界物語

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第二章

第22話 脱出初日

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「お、おおぉぉお! やった! やったぜ!!」

 龍之介の歓喜の声が響く。

「やっと、これで……」

 メアリーの安堵の声も微かに聞こえてくる。

「はぁ……はぁ……、やっと外に出られるって訳ね」

 戦闘に参加していない長井はレベルも上がっていないのか、道中常に息を切らしながら歩いていた。
 時折メアリーが"回復魔法"をかけたりするも、疲労回復には余り効果はないようで、気休め程度の効果しかなかったようだ。
 その為、一行の中ではダンジョン脱出で一番喜んでいるのは彼女なのかもしれない。

 各々が各々の反応を表し、一旦歩みがそこで止まってしまっていたが、

「ねっ! 早く先いこうよ!」

 由里香の急かせるような声で我に返った彼らは、一様に早足気味に光の射す方へと向かい始める。
 出口はもうかなり近かったようで、二、三分ほどしてようやく彼らはダンジョンから脱出する事に成功した。



「ほおぉ……」

 感心の声を漏らす信也の目に映ったのは、茜色の光を反射する水面だった。
 どうやら時刻は夕方(或いは朝方)のようで、太陽は地球と同じく赤く染まる夕焼け空を生み出している。
 そして信也の前方には大きな水溜まり――池と呼ぶ程小さくもなく、湖と呼ぶにはサイズが些か足りていないように思える水場があった。

 評するのなら『森の大きな泉』というのがぴったしだ。
 面積まではわからないが、一番距離の長い部分の水面の端と端では、百メートル以上の距離はありそうだった。

 その泉は、深い所では大の大人でも足が付かない位の水深がありそうで、水質は透明で美味しそうに見える。
 魚などの姿は見えないが、水辺には小さな生物が多く存在していそうだ。

 背後には五メートルほどの崖があり、その一角に先ほど脱出してきたダンジョンへの入り口が口を開いている。
 崖の上にも樹は生えているが、密度はそう高くはない。
 そして、泉や崖の周囲は樹が生い茂る森となっていて、遠方の景色を確認することはできなかった。

 信也と同じように、そうした光景を眼を瞬かせがら見つめている咲良は、空の僅かな変化に気付く。

「ねぇ、若干だけど陽が沈んできてない? 景色に見とれるのもいいけど、そろそろ行動開始しよっか」

 咲良のその言葉に皆が一斉に動き始める。
 といっても、明確に脱出後の予定を考えていなかったので、

「……とりあえず、今日はこの泉の近くでキャンプにするか」

 という信也の言葉に乗っかる事になった。
 ダンジョンの外はダンジョン内に比べて若干気温が低く、これから夜にかけて更に冷え込む事が予想された。

 そのため九人を三つの班に分けて、周囲の森から薪を集めてくる班をまず作った。
 そして、残った三人でキャンプ地に適した場所を探し、石を集めて焚き火の土台を建設する班として、二手に分かれることになった。
 薪収集時に危険事態が発生したら即座に泉へと戻る事と、焚き火をする場合の長所短所・・・・は周知済だ。

 いざ、行動! という段になって、気の早い龍之介が速攻で動き始めるのと同時に、北条がみんなに呼びかける。

「薪収集班は生木は避けて持ってきてくれぃ。設営班は石を配置する時は、所々隙間を作って、空気の通り道を確保すると良いと思うぞぉ」

 その声が開始の合図となり、それぞれ別行動へと移った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あの、北条さんってなんか妙にこういう事に詳しくないですか?」

 北条、楓、と一緒に薪集めをしていた咲良が、何度か疑問に思っていた事を北条にぶつける。

「……こういう事ってなぁ何だ?」

「えーと、その、こういうキャンプとか? あの火を付ける道具も使い方を知ってたし」

 説明不足だった部分を補う咲良。
 北条はその質問に対し、何とも言えない表情をして、

「別に詳しいって程じゃないさぁ。聞きかじった半端な知識ばかりだよ。合ってるかどうかもぶっちゃけ分からん」

 と、投げ捨てるように言葉を吐く。

「ん~、でもあれでしっかり火は付いてましたよ?」

「あー、たまたまだよ。たまたま。ひとつひとつ実践してる訳じゃあないから、俺の半端な知識は当てにせんほうがいい」

 そう言い放つと、薪拾いの作業に戻る。
 だが咲良はまだ話足りないようで、

「じゃあなんで、そんなに実践もしていないような知識を知ってるんですか?」

 咲良の追撃の質問に北条は「仕方ないな」という感じではあったが、律義に質問には答える。

「んなもん……単なる好奇心だよ」

「ふうん、そんなもんかあ」

 咲良は胸につかえが残りつつも、北条と同じく作業に没頭することにした。
 ようやく質問から逃れられた北条は、より一層作業へと集中しはじめるのだった。
 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一方こちら――信也、メアリー、龍之介組の方も雑談を交えつつの薪収集が行われていた。

「だから、こう体にぬぁああ! って力を入れて、ビシッ! っと剣を振って、ズバッ! って斬るんだよ」

 余りに感覚的な龍之介の言葉に辟易しているのは信也だ。
 龍之介はダンジョン内にて、恐らく初めは持っていなかったと思われる剣術スキルを後天的に習得している。
 そして更には攻撃スキルである"スラッシュ"をも習得した。
 それも龍之介が明かした"剣神の加護"というスキルの影響だと思われるが、スキルの効果的に"剣術"を持つ自分にも"スラッシュ"が使えるのではないか?

 そう思って龍之介に使い方を尋ねてみたのだが、信也は自分が愚かな選択をしてしまった事に、今更ながら気づいたようだ。

「はぁ……、そうか」

 素っ気なく返す信也を気にも留めず、更に続けて龍之介曰く『極意』を語り始める。
 それを与太事と思い聞き流していた信也だったが、ふと聞こえてきた龍之介のある言葉が気になった。
 それは"スラッシュ"を使用すると、体の中から目に見えない何かが僅かに抜けていく感覚・・があるという点だ。

 前にも"スラッシュ"を連発してるとスゲー疲れるから連発は無理、とは聞いていた。
 しかし、その感覚・・については初耳だった。

(これは、もしかすると……)

 実は信也にはその感覚に覚えがあった。
 傍でなんとはなしに話を聞いていたメアリーも、どうやら何かに気付いたようだ。
 二人が気づいた点。それは魔法を使用した時の感覚に近いのでは? という事だった。

 信也は徐ろに剣を抜き、精神を集中させる。
 その様子に龍之介が、

「おっ!? 俺の話でなんか掴んじゃった系? いやー、まあ流石の俺様だけど、そう簡単に真似はできねーと思うぜ?」

 少々イラっとくる外野の声を無視し、信也が剣を一閃させる。
 しかし、それはただの気合の入った横払いでしかなかった。
 その後も何度もスキルを繰り出そうと試行錯誤する信也。

「あー、そろそろ諦めて薪集めした方がいーんじゃね? やっぱこういうのって才能がものをい……」

 鼻につく顔で龍之介がそう口にし終わる寸前、

 フォオン!!

 と、風を切る音と共に信也の"スラッシュ"が発動したのだった……。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 三者三様に薪を拾い集めてから泉の方へ帰還すると、そこでは円形に石で囲まれた焚き火予定地が設営され、設営班としてこの場に残っていた、長井、慶介、陽子の三人は丁度いい塩梅の大きさの石の上に腰を下ろしていた。
 見れば他にも人数分の平たい石が置かれている。
 それを見た北条は、

「……よくこんな石が見つかったなぁ? 元々川辺でもなかったから、焚き火用の石すら集めにくいかなと思ってたんだが」

 そんな少し驚いた様子の北条に、少し得意げな陽子は、

「いいでしょ? ここから泉を挟んで反対方向に、なんか石がいっぱい落ちてる所があったのを、慶介君が見つけたのよ」

 当の慶介は「ちょっと運ぶの面倒でしたけどね……」と、少し疲れた様子だ。

「ん? 魔法の袋は使わなかったのか」

 北条のその疑問の声に、思わず慶介ら設営班は「その手があったかぁ!」との声が漏れる。
 かくいう薪収集班でも、由里香、芽衣、石田の班は手に抱える形で薪を持ってきていた。

「えぇぇ……。せっかくこんなに抱えてきたのにぃ」

 他の班が、〈魔法の小袋〉から次々と薪を吐き出す様子をみて、げんなりした様子の由里香。
 だが、仕方ないとばかりに抱えていた薪をみんなと同じ場所へと置く。

「大分集まったな。じゃあ、早速組み立てていくかぁ」

 てきぱきと作業を開始する北条。
 その様子を見ていた由里香は、

「あの、なんかあんま焚き火っぽくないっすね」

 そんな事を突如口にした。
 他の人が集めてきた枝の数倍は太い、というか丸太といっていいような木を土台に設置しはじめた北条は、作業を続けながらも由里香に尋ねる。

「……焚き火っぽいってなんだぁ?」

「いや、ええっと、そーゆわれても困るっすけど……。形が全然イメージと違うし……」

「由里香ちゃんが言ってるのは~、漢字の『火』みたいな~? 形だと思います~」

 付き合いが長い為なのか、意を察した芽衣が由里香の言葉を補足する。

「……まあ、焚き火の組み方にも色々種類があるようでなぁ。以前焚き火の組み方を調べた時の情報によると、この組み方が長時間暖を取るには良いらしいぞぉ。その焚き火っぽい形だと、火力はでるけど薪の消費も多くて、長時間の運用には向いてなかったはずだぁ。そもそも、素人が組むんだから、あまり立体的に組むとすぐに崩れる可能性もある」

 雑学集めが好きなのか、相変わらず妙な知識を披露する北条に、周囲からは感心の視線を向けられるが、本人は余りその事を歓迎していないようだ。

 組みあげていた北条曰く「長時間向け簡易暖房」ということになるこの組み方。
 その後で実際に火を熾した後に、風の通り道などを苦戦しながら調整し、どうにか無事に起動することができた。

 それから、周囲に陽子が結界を張り(天井部分に焚き火の換気用の穴を開けて)、改めて無事脱出が出来たことを語りながら、食事を済ませる。
 そして、夜番の順番を決めると、各々就寝につくのだった。


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