どこかで見たような異世界物語

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第二章

第29話 ジョーディの提案

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「いやー、助かったじゃが。一番ケガが酷かったゴラッサも、すっかり元気になってよかったわぃ」

 ご機嫌な様子で語っている村長の隣には、幾分疲れた様子の咲良とメアリーが立っていた。
 特にメアリーの方が妙に疲れた様子なのだが、まずは村長へ話をするべく北条が話し掛ける。

「村長、その二人が役立ったようでなによりだぁ。依頼は成功って事で構わんかぁ?」

「勿論じゃが。待っとれ、今とってくるでの」

 老人とは思えない速さで家の奥へと消えていく村長。
 相変わらずなせっかちぶりに、やれやれといった感じで村長が戻って来るのを待つ。その間に信也が気になっていた事を口にする。

「細川さん、どうもお疲れのようですが大丈夫ですか?」

「え、あ、いえ、大丈夫です……」

 気遣う様子の信也に慌てた様子で答えるメアリー。しかしどう見ても様子がおかしいのは誰の目にも明らかだ。

「ヒールの連続で疲れたんじゃねーのー?」

 訂正すると、どうやら誰の目にも明らかなのではなく、若干一名の目以外には明らかだったようだ。

「あのね……。細川さん、あの人に――」

 恐らく事情を知っていると思われる咲良が、何か口にしようとした所で無言の圧力を感じたのか不意に口を止める。

「イヤ、ナンデモナイデス」

 一連の流れからして、何かあったのは間違いないだろうが、深刻なものではなさそうだ。と、判断した信也は次いでメアリーに尋ねた。

「そ、そうか。それならまあ、いいのだが……。ところで、今回の治療依頼の報酬は、本当に全員で分配しても構わないのか?」

 その言葉に無言の圧力を発していたメアリーが答える。、

「はい、構いませんよ。幾らになるかは分かりませんが、少しでもあれば変わるでしょうし」

 と朗らかな笑顔で答える。その笑顔はまるで慈愛に満ちた女神のようであった。

「そうか。こちらとしてもそれは助かる。まとまった金が手に入る算段はついたんだが、すぐには用意できないようでな」

「え、それってどうゆ――」

「待たせたのじゃが! 婆さんに説明するのに手間取ってしまったじゃが」

 メアリーの疑問の声に割り込むように、威勢のいい村長の声が響いた。
 見ると村長がいつの間にか戻ってきており、手には袋を握っている。

「この袋に八十銀貨が入ってるじゃが」

 村長がそのずっしりとした袋を北条へと手渡す。
 その袋の予想以上の重さに、受け取った右手を一度がくんと下に下げてしまったが、力を入れなおして持ち直す。

「確かに受け取ったぁ。これで依頼は完了という事だな。後は、ジョーディに聞いたんだがぁ、この村には空き家が幾つかあるそうだなぁ、村長」

「空き家か? それなら確かにあるぞぃ。……なるほど、そういえば住むところも探していたんじゃがな。よし、それならジョーディ。彼らを案内してやってくれんか。そうじゃが……タークんとこの近くに空き家が二軒あったじゃろ。そこまで頼むぞぃ」

「え? 私がですか?」

 唐突の抜擢に思わず反射的に聞き返してしまうジョーディ。
 てっきり村長が案内するのだと思っていたが、当の村長は急に演技めいた口調で腰を叩きながら、

「うぅむ……先ほど村を歩きまわったせいか、疲れてしまったのぉ。そんな年寄りの頼みを聞いてくれんという事はないと思うのじゃが……なあ、ジョーディ?」

 そんな村長の猿芝居に、ため息を吐きながらも「はいはい、分かりましたよ」と了承するジョーディ。

「ほっほっほ。それでは案内を頼んたじゃが。それと、まだ話し合いたい事があるなら、ついでにジョーディに話してくればいいぞぃ」

 せっかちなだけのじーさんかと思いきや、流石に村長なだけはあるのかささやかな気配りを見せる。
 ジョーディも北条達もその村長の気配りを無言で受け取り、村長への挨拶だけを済ませ、空き家へと移動する事になるのだった。


▽△▽


「あ、見えてきました。あの右手に見える家と、左手奥の方に見える家ですね」

 ジョーディの案内の元辿り着いた空き家は、他の村人の家と同じで木材を主にした作りのようだ。
 二軒の家の外観を見比べると、今から入る右手に見えた家の方が若干大きい。

 家の中に入ると、まず広間があり簡素な机と椅子が置かれている。
 入口から見て右手には、台所があり小さな竈門がこの場所からでも窺える。
 左手には物置用の小さな部屋と、少し奥まった所の小部屋にはトイレが設置されているみたいだ。

 広間の奥には、二つの部屋に通じる廊下があり、そちらの部屋が寝室になっているようだ。
 なお、台所に限らず全ての部屋が土間のようで、村長宅のような床板は少なくとも村人レベルの家では使用されてないとのことだ。

 むき出しの土の床では冬場は寒くなりそうだが、広間の隅には火鉢らしきものが置いてあり、これで暖を取るのだろうと思われた。
 更に屋内をよく見ると、空き家にも関わらず汚れがそれほど目立たないのが気になって質問してみると、どうやら定期的に掃除をしているらしかった。

「この村は宿屋がありませんからね。稀に泊まりのお客さんが来た場合、村長宅かこうした空き家を利用するんですよ」

 道理で家具まで配置されたままな訳だ、と納得している北条らにジョーディが、

「もう一軒の方はまだ案内してませんが、先ほど紹介した左手奥の方にあった家で、大体作りもここと同じですね。なので案内は省かせてもらって、ここでお話をしたいと思うのですが……」

 と、こちらを窺うような視線を向けてくる。

「そうだな。ただ、流石に椅子の数が足りないので、何人かはスマンが立ったまま話を聞いてくれ」

 そう言い放ち自らは座席につく信也。それから会話相手であるジョーディには向かいの席に座るよう促し、信也の両隣には北条とメアリーが座る。
 他の面子はその場で佇んでいたり、壁に寄りかかったりしていた。

「それで、何か話があるような印象を受けたんだが、何の話なんだ?」

 着席するなりすぐに信也が口火を切ると、ジョーディもつられるようにすぐに返事を返してきた。

「一般知識の事などで、色々と聞きたい事はあるでしょうが……まずは、直近の問題で、あなた方の今後の身の振り方についてです」

 そこで一旦言葉を区切ると、信也達を見回してから再び話を再開する。

「貴方達が過ごしていた地名や、『ヤマト』という島国に関しては聞いたことがありません。この《ヌーナ大陸》の極東にあるという《クラトン諸島》のどれかの島かもしれませんし、全く見当違いの場所かもしれません。ただ、広範囲で活動しているはずの冒険者ギルドの事を知らないようでしたので、後者の可能性の方が高そうですね」

 冒険者ギルドの職員だからなのか、それとも彼個人が特別なのかは分からないが、ジョーディはこのような未発達な世界の一般人としては、そこそこの知識を有しているようだ。

「……ですので、残念ながら故郷の村へはすぐには帰れないという事になります。そこで貴方達の今後の選択肢として――」

 ジョーディが語った事を要約すると、まずはこの村の農民として暮らすというのがあるらしい。
 『ロディニア王国』では戸籍管理はきっちりしておらず、年に一度の租税を収める際に、村長が子供が何人生まれただの、病で何人死んだだのを報告するだけという事だ。その際に一緒に十二人移住者がいたと報告すればいいらしい。

 同じ王国内の村から村へ転居する場合は、両村の村長の承諾が必要となるが、他国からの移住の場合は村長が認めればそれで良いってことだ。
 だが、農民となると収穫物を収めないといけないし、金銭的収入も得られないしで、故郷へ戻りたいならお勧めはしないと忠告を受けた。

 次にこの国の一般民となる道もあるようで、こちらは街まで移動して色々面倒な書類手続きと、初期費用もいくらかかかるらしい。
 以降は人頭税と、商売を始めるなら売り上げに応じた税を商業ギルドに収めればいいようだ。
 ただし、税が払えなくなると、借金奴隷として市民権も一時的に剥奪されてしまうので、注意が必要とのことだ。

 そして、最後の選択肢としてジョーディが上げたのが、冒険者として登録するというものだった。


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