33 / 398
第二章
第30話 天恵スキル
しおりを挟む「冒険者……か」
信也がぽつりと呟くのを耳ざとく拾ったジョーディが、水を得た魚のように猛烈に営業を仕掛けてくる。
「えぇ、えぇ! そうです、正直貴方達の話を聞いて真っ先に浮かんでましたのが、冒険者への道です。『職業』をまだ詳しく窺っておりませんが、ヒーラーが二人も在籍し、低層とはいえダンジョンから脱出してこれるだけの戦闘力。まさに冒険者としてうってつけだと思いますよ! 今までは辺境の村として、この『出張所』の役割といったら、仮登録してる村人が周辺の弱い魔物を倒したり、薬草などを採取したりといった仕事しかなく、ぶっちゃけ暇を持て余しておりました。しかし、これからは違います! ダンジョンが発見された事によって、《鉱山都市グリーク》だけからではなく、もっと遠方の地からも冒険者がわらわら集まって来る事でしょう! もっとも、それはダンジョンの規模にもよるんですが……そもそもダンジョン自体がこの国で確認されてるだけでも、両手の指で数えきれる程度しか存在しないので、今よりも多くの人が集まるのはまず確実のハズッ! それにもしそのダンジョンが『祝福されたダンジョン』だったら……。くぅっ! 夢が膨らみますね! 最初この田舎の村に派遣された時は『もう終わった』と思ったものですが……あっ! 別にこの村の暮らしが嫌って訳でもないんですよ。確かに最初はちょっと思いましたけど、ここの静かな暮らしも案外悪くないものですしね」
せきを切ったように喋りだすジョーディは、ようやく周囲の反応に気付いたようで「ゴホンッ!」と咳をして誤魔化す仕草をする。
「えー、まぁ、そういう訳で、私としては冒険者がお勧めですよ」
落ち着きを取り戻したのか、先ほどの鬼気迫る様子はなりを潜めたが、こちらを見つめる期待に輝く目は相変わらずだった。
「あー、色々と冒険者について気になる事はあるんだがぁ……まず伝えておくと、俺らぁ一人も『職業』には就いていない。ギルド出張所で職業変更は出来るのかぁ?」
北条の言葉に、同じ異邦人の中でも怪訝な表情を浮かべる者がいた。
確かにまだ学生だった子供達は職業には就いていないし、大人組も日本ではともかく、こちらの世界では無職といえるだろう。
だが、北条の言う"職業"とはいわゆるゲーム的な職業という意味合いだった。
先ほどのジョーディの話から、職業システムのようなものが存在してると読み取った上での、先ほどの北条の質問という訳だ。
「え……? でもヒーラーがお二人いるんですよね? それに低層とはいえダンジョンを脱出して来たんですし――」
そこで何かに気付いたかのように、はっとした表情を浮かべるジョーディ。
「も、もしかして『天恵スキル』をお持ちなんですか?」
「天恵スキル?」
聞きなれない言葉に思わず聞き返してしまう信也。
「ええ、極僅かな選ばれた人は、生まれた時からスキルを持って生まれる事があるんです。しかも、同じスキルを持っている人と比べても、天恵スキルの方が効果も強く成長が早いと聞きます。まさに神に愛された方達です」
ジョーディのその言葉に反応しかけた者が何人かいたが、真っ先に声を張り上げて反応を示したのは北条だった。
「あああぁ! 俺達の村で言う所の"神子"の事だなぁ! 確かにその通り、俺ら十二人はみんな生まれながらにスキルを持っている。だからこそ、遺跡の探索者に選ばれたんだぁ」
咄嗟に事前に組み上げていた設定を用いて、ごまかしに入る北条。
「俺達の村もぉ、ここに劣らず……いや、ここ以上に辺境の村でなぁ。国からの支援も期待できんので、頼りになるのは自分達のみ。そういった場所で暮らしてる故郷の村では、"神子"が比較的よく生まれるようでなぁ」
北条の咄嗟のでっちあげ話を、うんうんと頷きながら聞いているジョーディ。
「なるほど、そうでしたか。確かに天恵スキル持ち同士の子供は、天恵スキルを持って生まれやすいとは聞いたことありますね。にしても、回復系の天恵スキルっていうのは、凄いですねぇ。『教会』が聞いたら飛びついてきそうだ」
何やらまた気になる話も出てきたが、北条は一旦話を戻して職業変更について再び尋ねる事にした。
「それで、職業変更の方はどうなんだぁ?」
「あ、申し訳ありませんが、この村の出張所では"転職"は出来ません。というか、冒険者ギルドでは転職そのものが出来ません。ですが、『鉱山都市グリーク』でしたら転職碑が職業神の神殿に設置されているので、そちらでなら転職もおこなえますよ」
どうやら転職をするには街まで赴く必要があるようだった。
「あー、それなら丁度いいなぁ。報奨金を受け取りに行くついでに、転職も済ませちまえばいい。……その後ついでにギルド登録もまとめてやっちまえばいいかぁ」
「え、ギルドに加入してくださるんですか?」
期待の籠った目で北条を見つめるジョーディ。何故そこまで熱心に勧誘してくるのか。もしかしたら勧誘に成功した場合、勧誘した人に特別報酬でも入るんじゃないだろうか、などとつい考えてしまう北条。
「まぁ、この後お前さんが帰った後でみんなと話し合った結果次第だけどなぁ。まあ、少なくとも俺ぁ加入するつもりだぁ」
「……分かりました。より良い返事を期待してますね。では私は今日はこの辺で失礼させていただきます。この家は定期的に掃除しているとはいえ、気になる所も多々あるでしょうし。あ、それと、明日はダンジョン調査があるので、朝早く伺う事になるかと思います」
「あぁ、了解したぁ。また明日よろしく頼むぞぉ」
▽△▽
ジョーディが家を出て行ったのを見送った一行は、肩の力が抜けたように息をつく。
彼ら自体、元々赤の他人の集まりであるが、完全な部外者がいなくなることで緊張の糸も切れたようだ。
「あー、とりあえず話はああいう風にまとまったがぁ、まずはヒーラーの二人がいない時に話していた情報を共有しておこうかぁ」
咲良とメアリーの二人に対して、大まかにこれまでの話の内容を説明する。
報奨金と貨幣価値について特に興味を持っていたようなので、特にその辺は重点的に説明をした。
といっても、説明する側もまだまだ分からない事は多い。
二人への説明が終わると、今度は二人の方から――というよりは、咲良の方からちょっとした報告があった。
「村の人達、私達が魔法名だけで魔法を使う事に驚いていたわね」
なんでも、魔法というのは使用する時に魔法名を唱える前には長ったらしい呪文を唱える、というのが村人の共通認識らしい。
ただ同行していた村長の話によると、別に呪文そのものは必要ないという。
村長も魔法職ではないので詳しくは知らないようだが、かつて村長が冒険者をやっていた時の仲間の魔術士によると「腕に自信があるなら必要ない」との事だ。
「魔法使いに中二病患者が多いって事かしらね」
辛辣な言葉を吐くのは軽く伸びをしている陽子だ。
「いや、流石にそれは……。何か理由もあるんじゃないか?」
などと雑談を交えながら一通り情報の共有が終わると、まずは村長の依頼報酬の分配をすることになった。
受け取った銀貨は全て一パノティア銀貨だったので、分配をしやすい。
とりあえず頭数で割って各自六銀貨ずつを分配し、残りの八枚は十二人共同の資金として、生活必需品や食費などに充てられる事になった。
次に今後の方針だ。
ジョーディが挙げていた三つの選択肢、農民か一般民か冒険者か。
北条は既に冒険者になるつもりだと言っていたが、他の者達はまだどうするかを表明していない。
だが話を聞く限り、結局は当初から話していた通りに、冒険者としてとりあえず生計を立てるという道が無難だろう。
戦闘向けのスキルを選ばなかった長井ですら、結局冒険者になる事を選択したのだから。
と、ここまで話し合いが終わった所で、次の話に移る前に先に家の掃除ともう一軒の家の確認などを先に済ませる事になった。
ジョーディの言っていた通り、もう一軒の家も同じような作りだったが、こちらの方が少しほこりが目立つようだ。
信也らは二班に分かれ、初期アイテムの布切れと慶介の"水魔法"を利用して、掃除をすることになった。
日本で生活していた頃からすると、比べようもないほど内部が不衛生ではあるが、二時間程も掃除をした事によって、多少はマシになる。
掃除が終わった頃にはすっかり夜も更けていたので、夕食を取りつつ話し合いが再び行われることになった。
0
あなたにおすすめの小説
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
才能は流星魔法
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。
流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。
ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。
井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。
山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。
井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。
二日に一度、18時に更新します。
カクヨムにも同時投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる