どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第二章

第32話 転移部屋

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 戦闘開始からおよそ十分が経過した。
 すでにネズミは全滅しており、各自ドロップを回収している所だ。
 数は少し多めではあったが、最早ネズミ程度なら問題はない。
 一連の戦闘の様子を見ていたジョーディは、感心した様子で、

「いやー、皆さん職業を持っていないのに、お見事ですね! 確かにジャンガリアンはHランクで農民でも倒せる魔物ですが、動きが鮮やかでした。しかも、天恵スキルで"雷魔法"を使える方もいるとは……」

 と、芽衣へちらり視線を送る。
 視線を向けられた芽衣は、通じるのか微妙な所だが無言でVサインを出していた。

「それに、使用者の総数が少ない"闇魔法"も加われば、ダンジョンの低層なら問題なさそうですね」

 お次は石田へと視線を向ける。
 しかし、ドロップ回収中の石田はそんな視線に答える事なく、黙々と作業を続けている。
 幾分興奮した様子のジョーディは、そんな二人の微妙な反応を気にした素振りを見せない。
 そこへ、ドロップ回収から北条が戻ってくる。

「回収は大体終わったぞぉ。それで、ダンジョンの確認ってのはどこまで進めばいいんだぁ?」

「え、あ、そうですね。少なくともココがダンジョンだというのは十分確認は取れました。あとは……アレ? あの先ってどうなってるんですか?」

 ジョーディが指し示したのは、浅い水溜まりの奥の壁にぽっかり空いた通路だ。
 この広間の構造は、広間に入って真っすぐ直線状の先にダンジョンの奥へと通じる通路がある。北条達が最初に通った道だ。
 しかし、それとは別にもう一本の道がこの広間から繋がっているらしい。


「ん? あんなとこに道なんてあったっけ?」

 龍之介の疑問の声が上がるも、誰も記憶にないらしい。「新しくできた通路?」なんて声も聞こえてくる。

「うーん、ありゃあ恐らく前回は気づかなかっただけだろうなぁ」

 どうやら北条にはその理由について、心当たりがあるようだ。

「え、でも私達マッピングしながら進んでましたし、分かれ道に気付かないまま進むって事はないような……」

 しかし心当たりのない咲良は、北条の意見に懐疑的だった。
 すると北条は何を思ったのか、ダンジョン奥へと繋がる通路の方へと歩き出す。そして通路に入る手前で止まると、咲良達の方へと振り返る。

「あー、やっぱこっちから見ると、そこの通路は土壁に隠れていて見つけにくいなぁ。それにあの時は、水蒸気で視界も悪かったし、見逃したとしても不思議じゃぁない」

 確かに広間の構造的に、北条の位置からでは新しく発見した横道にはかなり気づきにくい。
 咲良も実際自分の目で確認してみて、「あー、確かにこれだと分かりにくいですねー」と納得していた。

「なるほど、なるほど……。そちらが奥へと通じる道で、こちらが前は気づかなかった横道……と」

 そんな彼らの様子を見ていたジョーディが、何やらぶつくさ言っていたかと思うと、

「みなさん、それではその横道を探索してからダンジョン確認を終わりとしましょうか。ちょっとその横道、気になります……」

 どの辺が気になるのか尋ねても「恐らく行けばすぐに分かります」と言うだけで、回答も得られなかったので、ジョーディに従ってさっさと横道を探索することになった。

 その通路は、出入り口部分だけはダンジョンの奥へ続く通路と同じ大きさだったのだが、一歩入ると平均的な一階の通路より横幅も高さも高くなっていた。
 また、部屋の両隅は日本の道路脇にありそうな側溝があり、そこを水が流れている。
 どうやら、あの広間の水溜まりの元はこの先から流れてきたもののようだ。

 通路は二、三分程歩いた所で九十度に左に曲がった作りになっており、その曲がり角を越えた瞬間に見えてきた光景に、彼らは目を見張った。
 この先にはまだ少し直線の通路が続いていたものの、更にその奥には先ほどの広間が小さく思える程の巨大な空間が鎮座していたのだ。



「…………っ」


 そこはまるで神聖な祭祀を行う場所のように、厳かでいて静謐に包まれた空間だった。
 自然と口を閉ざし無言で空間の入り口へとたどり着いた一行は、その光景に思わず見とれていた。
 何かを知っているようだったジョーディですら驚きに満ちた顔をしている。

 広さはサッカーグラウンド何面分もありそうで、天井の高さも高いところでは十メートル以上はあるだろう。
 それだけの広い空間なのにこうして視認できるのは、他のダンジョン部分とは違い、壁だけでなく床や天井も青く発光しているためだ。

 それもこれだけの空間を全体的に照らすためなのか、光量自体も通常よりは強い。
 それでいて、目に刺さるような刺激的な光ではなく、眩しさのあまり目を閉じる必要もないような、そんな優しい青の光だ。


 そういった情景だけでも十分この場所が幻想的に見えたであろうが、この空間には更に神秘さを際立たせる特徴があった。
 それは、この空間内を大きくぐるりと円を描くように配置された、十二柱のモノリス状の構造物だ。

 まるで石碑のようにも見えるそれらは、それぞれアナログ時計の1から12の数字の方角に順に時計のように配置されている。
 そしてその石碑には、天井部分から例の謎の青い光が一筋の光として降り注いでおり、この厳かな空間の雰囲気作りの一端を担っている。

 更に、それぞれの石碑の足元部分の床には、石碑を中心として半径五メートル余りの複雑な魔法陣が描かれており、そこの部分だけ材質が他と違うのか、ツルリとした反射光を見せている。


 そして一段上がった高所にある、この広大な空間における中央部。一段上ると言っても、高さは四十センチ程なのでそのまま上る事も可能だ。ただ念のためか南部分と左右部分には短い階段部分も存在する。
 そこは長方形に形作られており、その周囲の一段下の部分を囲むようにぐるりと水堀のような小さな水路が巡っている。

 その長方形の高所の奥の部分には異様な構造物――しかし、北条ら異邦人にとっては馴染のある――がどっしりと待ち構えている。


 それは巨大な鳥居であった。


 構造体の大部分を占める朱色と、一部分の黒で構成されたその鳥居は、高さ四メートルはあるだろうか。
 特に額束などの飾りもないシンプルなその鳥居は、見る人を圧倒させる何かを放っている。

 そしてその鳥居の手前にある、石畳に覆われた一本の小道。その両端には向かい合うように二つの石像が配置されている。
 この世界の人が見れば新種のガーゴイルだ、と言いそうなその石像もまた北条らには見覚えのあるモノだ。
 獅子や犬に似たその石像――狛犬は、鳥居には及ばないものの二メートルほどの巨体で、まるで生きているかのように精巧な作りだ。

 今にも動き出しそうなその狛犬の更に手前、鳥居を正面に見た場合の小道の右手側には、蓋のとっぱらわれた棺のようなものが見える。
 洞窟内だというのにその棺――というよりは石桶――を中心とした頭上部分には、光沢を放つ石で来た屋根で覆われている。

 そして、棺のような石桶の中からは水が溢れでており、中をよく見てみると中央部に穴が開いていて、そこから水が湧き出してきているようだ。
 やがて、溢れた水は桶の周囲を這う小さな水路を流れていく。

 その水路は中央高所をぐるりと巡る水堀部分の水路へと流れているようで、そこから更に三時と九時の真横方向へと繋がっている。
 恐らくその先は空間内の外壁の隅を伝って、先ほど歩いてきたネズミ広間へと通じる通路の側溝へと繋がっているのだろう。



「これは……まさかここまでとは……」

 一通り観察が終わると、嘆息するようにジョーディが声を漏らす。
 やはりこの空間の存在を知っていたかのような口ぶりだが、どうもそれでもこの規模は規格外といった反応だ。

「……で、一体この空間は何なんだぁ? 何か知っているようだったがぁ」

 北条の質問に未だ驚きを抑えきれない様子のジョーディは、慌てた様子でその問いに答える。

「ここまで大規模なのは聞いたことありませんが……これは『転移部屋』に間違いないと思います」

 転移部屋という言葉に、北条、龍之介、咲良辺りは何かに気付いたような反応を見せていたが、全く見当が付かなかった芽衣は、

「てんいべやですかぁ……?」

 と、いまいちよく分かっていないような反応を示した。
 そんな芽衣に言い聞かせるように、ジョーディは転移部屋について語りはじめた……。

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