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第三章
第41話 『鉱山都市グリーク』
しおりを挟む「お前たちはどこから来たんだ? 身分証を見せてみろ」
…………といった、お約束なやりとりもなく、一行は門の内側へと足を踏み入れていた。
なんでもジョーディの話では、商人以外の出入りは基本自由だそうな。
これは『ロディニア王国』では大体同じらしく、王都ですら多少の厳しい監視の目はあるものの、出入りは自由らしい。
これがお隣の帝国では商人以外の人も身分証の提示を求められたりするし、国や地域によっては街に入るだけで入街料を取られるような所もある。
「まずは宿を決めましょうか」
そうジョーディは口にすると、勝手知ったる何とやらとばかりに、スタスタと先に進みだす。慌ててその後に続く異邦人達。
周囲をキョロキョロ見回しながら入口付近から歩いてくる彼らの姿は、街の人にとってはお馴染の風景だった。
大概村から初めて訪れた者たちが都市に入ると、人混みの多さや物珍しさで同じような反応を見せるものだ。
今入ってきた彼らもそういった人たちなのだろう、と周囲の人々は考えていたが、信也達に関してはもっと人の多い場所を知っているので、半分正解で半分外れといったところだろうか。
人々が行きかう大通りにはしっかりと石畳が敷かれており、日本の道路のように中央辺りを馬車が通行している。
しかし支道や脇道などまではしっかりと石畳で舗装されておらず、踏みしめられた土の地面が広がっていた。
時折そうした脇道から子供達が飛び出してきたりと、街の営みは時と場所が変わってもそう違いがないという事を異邦人に知らしめる。
そんな感慨に耽っている者がいる一方、別の心配をしている者もいた。
「おおぅ、ちょっとお前たちぃ。ああいった輩には注意しておけよぉ。特にコレだけは取られんようになぁ」
そういって北条は〈魔法の小袋〉を指差す。
その意味を理解した信也は、慌てて気を引き締めるかのように咳払いをする。
「そうだったな。俺達には余り馴染はないかもしれんが、ここではスリやら強盗やらも日常茶飯事だったな。みんなもその辺はしっかりしておこう」
その信也の警告に「いやぁ……。スリはともかく強盗は日常茶飯事でもないような……」とブツブツ言っているジョーディの姿はあったが、他の異邦人組は意識を切り替えたようだった。
この大通りはどうやら真っすぐ街の中心に向かっている訳でもないようで、時折曲がったりロータリーのような広場に繋がっていたりと、大分入り組んだ作りをしている。碁盤の目状に作られた京の街とはだいぶ異なるようだ。
ジョーディは流石地元だけあって、迷う素振りも見せずに歩いていく。
しかし他のメンバーはついに間近で見れたドワーフや獣人などに、先ほど引き締めた意識が持っていかれかけており、その足取りも鈍っていた。
龍之介も通りの反対側を歩いていた猫獣人の娘に気を取られすぎて、前から人が歩いてくるのに気づくのが遅れてしまう。
「おわっ! っと……」
まるで鋼鉄の壁にぶつかったかのような感触に、慌てて相手との距離を取る龍之介。
そこには二メートル近い体躯の大男がニコニコとした笑顔で佇立していた。
派手な紫色のローブを纏い、その内側には何かしらの制服のような印象を受けるきちっとした衣服がちらりと見える。
服の上からでも分かる筋肉質な体つきと、二メートルという巨躯。そして剃っているのかわからんが、一本も毛が生えていない禿頭。
その外見的特徴からか妙な威圧感を感じるが、常に浮かべている笑顔のせいで妙な嘘臭さをも感じられた。
「おー、これはソーリーね。ユー、ケガはだいじょぶですかー?」
「あ、あぁ……。す、すまなかったな、ボーっと歩いてしまってたみてーで……」
見た目のイメージほど重くはない、少し高めの声で呼びかけてくる謎の大男。
その異様な雰囲気から龍之介も思わず言葉が出なかったようだが、どうにか謝罪の返事をする事に成功する。
その様子を見た咲良が「もう、何やってるのよ……」と言いながら近寄ってくるが、咲良がその大男の前にたどり着く前に、北条の声が間を遮った。
「ほら、二人とも早くこないと置いていくぞ」
どこかあせったような声の北条だが、その視線の先にはすでに十メートル以上先を進んでいるジョーディ達の姿があった。
「あー、ちょっと連れが先いっちゃってるみたいなんで、もう行かせてもらうわ。すまなかったな」
龍之介にしては珍しくそこそこまともな対応をしたかと思うと、咲良と共に北条に続いてジョーディの後を追い始める。
そんな咲良の後ろ姿を、なりゆきの任せるままに見つめていた大男。
「んー、ちょっとだけペキュリアーな感じがしたね。ケド、今はそんな事より彼とのプロミスのが大事ネ」
そう言うと、大男は龍之介達が歩いてきた方へと再び歩き始めた。
▽△▽△
どんどんと先へ歩いていくジョーディに、ようやく他のメンバーが追い付いたときには、すでに目的地へと到達していた。
彼らの目の前にある建物の軒先には『森の恵み亭』という文字と共に、宿と定食を提供してる事を示すイラスト付き看板が分かりやすく飾られている。
「ここです、ここです。噂によるとこの『森の恵み亭』は料金の割にサービスの質もよくて、料理も美味しいと評判らしいですよ」
そういってさっさと中へと入っていくジョーディ。故郷に帰ってきたからなのか、妙に機嫌がよさそうだ。
ドアを開けると同時にドアの上部についていた鐘がディンドンと鳴り響く。
その音が聞こえたのか、受付カウンターの奥から一人の女性が出てきた。
「あら? いらっしゃい。『森の恵み亭』へようこそ。……って、結構な団体さんだねえ。悪いんだけど、定食を求めてきたんなら全員すぐには入れないんだけど……」
奥から出てきた女性は三十代とみられる茶髪ロングの線の細い女性で、緑色のエプロンを身に着けている。
総勢十三人という団体客に薄っすらと驚きの表情を浮かべているようだ。
「ああ、おかまいなく。私達は全員宿泊予定なんですが……十三人分の部屋は取れますか?」
ジョーディが如才なく女将らしき女性に問いかけると、女性はハキハキとした声で答える。
「はい! ええと、四~六人用の部屋が三つ、二~四人用の部屋が二つ。後個室も一応ひとつ開いてるよ」
それを聞いた信也達は、更に詳しく話を聞いてみると、四~六人用の部屋というのはベッドは四つしかないが、内二つは大きめなので詰めれば二人寝れない事はないそうだ。二~四人用の部屋も同様らしい。
「宿泊料金は一泊三十銅貨で、夕食付だよ。一人部屋だけは一泊四十銅貨になるけど、その分過ごしやすくなっているはずさ」
女将の話を聞いて、一応軽く相談はしたものの特に問題はなさそうだったので、一行はこの宿に泊まる事に決めた。ちなみに料金は全額前払いだ。
「それでは、私は一人部屋に五泊、彼らは男女に分かれて大部屋に男達、中部屋二つに女性たちで、同じく五泊でお願いします」
五日分の宿泊料金である二銀貨を払いながらジョーディが答えると、異邦人達も各々お金を取り出して支払う。
そして女将の差し出した記帳に、信也が代表して皆の名前を書いてからまた女将へと返す。
「まいどありー。それでは……こちらが鍵になるわ。個室は一階廊下左奥の部屋、大部屋は二階の奥右の部屋で、中部屋は三階ね。一応各部屋には貴重品を入れる金庫もありますが、自己責任でご利用ください。ではどうぞごゆっくりー」
流石に《リコ村》の宿屋とは違って、きっちりドアには鍵もついているようだし、一応金庫も付属しているようだ。
部屋の鍵と金庫用の鍵を受け取った後は、各自一旦部屋へと荷物を置きに行く。貴重品などは無論身に着けたままだ。
ついでに金庫とやらも確認してみたが、工具箱程度の大きさの金属製の箱で、簡易的な鍵がかけられるようだ。
ただ、その手の人には簡単に開けられそうな感じはするので、女将の言う通りここに全財産を預ける気にはなれない。
他に室内でする事もなかったので、早々に部屋を出て全員集合すると、女将に外出すると声を掛けてから街へと繰り出すことになった。
その最初の目的地は……《ジリマドーナ神殿》。
転職など職業に関する事を司る神『ジリマドーナ』を信奉する神官たちが治める神殿で、転職をする際には大抵の人がお世話になる所だ。
どんな職業に就けるのか、どんな能力が得られるのか。
期待に胸を膨らませる彼らの足取りは自然と軽くなっていた。
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