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第三章
第43話 冒険者ギルド
しおりを挟む――『冒険者ギルド』――
それはかつて一人の偉大なる英雄「ギーダ・ユーラブリカ」によって設立された組織であり、その歴史は数百年以上の長きにも及ぶ。
ギルド設立以前は冒険者ギルドの前身となる組織が幾種類か存在し、それぞれが同種の商売敵同士で、互いに縄張りを争いあっていた。
『魔石協会』、『冒険者組合』、『探索者同盟』、『採取ギルド』など、今では『冒険者ギルド』としてひとつにまとまっている取り扱い内容を、それぞれ別の組織が担っていたのだ。
分業化といえば聞こえはいいが、それぞれが組織としてきっちりまとまってもおらず、同業者同士での潰しあいや低品質のサービスによる集客率の低さ。
危険をはらむ依頼で呆気なく死んでいく『探索者』や『採取者』達。
当然そうなると依頼料や採取した素材の値段も上がり、余計組織として立ち行かなくなっていく。
そんなどん底状態の組織をまとめ上げ、現在に至る『冒険者ギルド』の屋台骨を作ったのが前述のギーダであり、後に初代グランドギルドマスターへと就任することになる。
更には後に冒険者の王国と呼ばれる事になる『ユーラブリカ王国』を建国し、初代国王となった。
現在では《ヌーナ大陸》の各地に冒険者ギルドの支部が軒を連ねており、この《冒険者ギルド・グリーク南支部》もそのひとつという事である。
「おー、こいつはまた……」
「とってもらしいわね……」
ギルドにたどり着いた龍之介と咲良が、思わずそう呟く。
建物の建築様式などは周囲の建物とそう大きく変わってたりはしていない。
だが、その入り口部分は西部劇にでも出てきそうなスイングドアになっており、佇立する人の胸の部分の高さに小さな木の扉が付けられている。
スイングドアの向こう側は受付カウンターのようになっているようで、いかにも冒険者らしい風体の連中がここからもちらほらと見える。
どうやらカウンター前で依頼に関する話をしているようだ。
思った程人が並んでいないのは、時間帯のせいだろうか。
興味深げに様子を眺める異邦人達を尻目に、古巣へと帰ってきたジョーディはさっさと中へと入っていく。
「皆さん、早くいきますよ」
この街について以来、妙にはしゃいだ様子のジョーディに急かされるように後へ続き、中へと足を踏み入れた。
一歩中へ踏み入れた途端「ギロッ」と音が出そうな程の視線を浴びる。
十二人という人数だけでも注目を集めるものだが、中には幼い子供――日本人顔のせいか、彼らにはより幼く見える――も混じっているとあっては、更に彼らの好奇心や親切心がくすぐられたのだろう。
しかし、そういった状況を予期してか、すぐさまジョーディは受付嬢に、
「マスターに例の件で話があるので、先に会議室で待たせてもらいますね」
とだけ告げ、信也らを手元に呼び寄せて建物の奥――会議室の方へとさっさと歩き出した。
「え、ちょっと、あの?」
慌ててジョーディへと追いすがろうとする受付嬢だったが、近くにいた男性職員が慌てて彼女を止めた。
「あ、イーナちゃん。いいんだよ、その人たちは。連絡事項にもあっただろ?」
「あれ、そうでしたっけ?」
イーナと呼ばれた受付女性はどうやら覚えがないようだったが、明らかに先輩であると思われる男性職員の言ってる事に、下手に逆らう訳にもいかないようだった。
結局建物の奥へと進む彼らの後ろ姿を見送ったイーナは、再び受付業務へと戻っていった。
「……にしても、一体何の話なんだろうねえ」
残された男性職員も要件の内容までは聞かされていないようで、不思議そうな顔を浮かべている。
見知らぬ顔ぶれの十二人を先導していったジョーディの事は知っていたが、小さな村に飛ばされた位の情報しか持っていない。
それが急に連絡があったかと思ったら、この街のギルドマスターが直々に会うという。何か大きな出来事があったのは間違いないだろう。
しかし考えてみても特に何も思い浮かばなかったのか、彼もまたイーナと同様にギルドの業務へと復帰した。
▽△▽
その部屋は大きな机に椅子が何脚も並べられている部屋で、まさしく会議をするにはうってつけの部屋だと言えた。
ジョーディを先頭にこの部屋に入ってきた面々は、思い思いの席に座りながらも、相手方の到着を待っている所だ。
ジョーディの話では、この街のギルドマスターが直々に話を聞きにくるという。
この街のギルド支部は北と南の二か所存在し、普段はそれぞれを副ギルドマスターが管轄し、ギルドマスターはその双方を総括する立場にあるとの事だ。
平社員どころか田舎の村に左遷――便宜上は派遣となっていたが――されたジョーディからすれば、雲の上の存在だ。
「この後来るギルドマスターってのはどういう人なんだ?」
待ち時間の間にちょっとした話題をもちかけた信也だったが、それに対するジョーディの態度はどこかよそよそしい。
「えーっと、マスターは……その、部下想いのとてもいい人ですよ」
何故か奥歯にものが挟まったような言い方になるジョーディを、不審に思いながらも話を合わせて会話を続ける信也。
しかし、ギルドマスターの話題になるとどこかぎこちなさを感じてしまう。
果たしてこの後この場に現れるギルドマスターとは一体どんな人物なのだろうか。
不安に思いながらも会議室で待たされる事十数分。
ようやくその会議室の重いドアを開ける音が、ジョーディ以外の注目を一点に集めた。
「ほおーう、お前達がダンジョンを発見したっていう連中だな?」
部屋に入って来るなり一同を見回すと、早速要件についての確認をする男。
身長は百九十センチほどで、筋肉質な体つきをしており、何故かその鍛えられた筋肉を見せつけるような動きで入室してきている。
頭部は側頭部だけに髪が生えており、その男性ホルモン溢れる雰囲気からして、ヘアスタイルの一種ではなくこれはつまり地毛なんだろう。
年は四十を超えているように見えるが、実際の所どうなのかは窺えない。
非常に覇気に満ちており、一度面しただけでギルドマスターという役職にいるのも納得させられる説得力を持っていた。
「あ、はい。俺らが最初に発見したみたいです」
男の持つ妙な迫力に冷静沈着な信也も思わずタジタジっとした様子になる。
信也の返事を聞いた男は二カッと白い歯を見せながら笑顔を見せると、
「よーし、でかした!」
「ぐぼほぁあぁ!」
男がねぎらいの為か信也の背中を軽く叩いた途端、信也がコントのような大げさな声を上げむせはじめる。
その余りの様子に固まってしまった他の面子だったが、当の叩いた本人は笑い声を上げながら、
「おー、すまんすまん。少し加減を間違えてしまったようだな。わーっはっは」
と軽く流して笑っていた。
少ししてようやく落ち着きを取り戻した信也は、日本での社会人生活を経験した身として、こういった場面で怒る訳にもいかないし、相手も悪気はないようだし、どうしたもんかと迷っていた。
そんな様子を見て、ケガをさせてしまった訳でもないようだな、と判断した男はここでようやく自己紹介を始めた。
「俺の名はゴールドル。この冒険者ギルド・グリーク支部のギルドマスターだ。よろしくな!」
そう言いながら右手の平をこちらに翳す挨拶の仕草を見せた。
信也もそんなゴールドルに対して同じように挨拶を返しながら、
「初めまして。俺の名前は信也。で、隣にいるのが……」
と丁寧に一人ずつ紹介をしていく。
流石に人数が多いので、一人一人紹介するか迷いはしたのだが、ゴールドルも紹介を途中で留める素振りを見せなかったので、結局十二人全員紹介することになった。
全員の紹介が終わると、改めて信也は今日ジョーディと共にギルドへと訪れた理由、その前提となる作り話を披露する事になった。
仲間内でも定期的にこの設定話を持ち出して、周囲に不自然に見えないように役になりきる努力をしていた信也。
スラスラと偽の身の上話をしている信也に不自然な点は見当たらず、ゴールドルも転移魔法装置だの異国の話などに興味を覚えた様子で、静かに筋肉を見せつつ話を聞いていた。
▽△▽
「……なるほどな。話は理解できたぜ。つまりはギルドに入会して食い扶持を確保するのと同時に、そのダンジョンを探索して故郷への帰還方法も探るってところか」
ゴールドルの問いかけにコクリと無言で頷く信也。
「そーなると……まあ、まずはこちらからも確認の人員を派遣させてもらうぜ。ああ、一応確認自体はそっちの坊主がしてるみてーだし、報奨金は……今日すぐは無理だが明日までには用意しておく」
とりあえず目的のひとつが無事達せられた事に安堵の表情を浮かべる異邦人達。
「それとギルド登録の方も問題はないだろう。ただ、ダンジョンの低層を突破してきたとはいえ、実力も分からんからHランクからとなるが――」
とそこまでゴールドルが言いかけた所で、この妙な迫力のある男にも気負いもせず、会話に割り込んできた者の姿があった。
空気が読めない事に定評のある男。そう、龍之介である。
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この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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