どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
50 / 398
第三章

第43話 冒険者ギルド

しおりを挟む

 ――『冒険者ギルド』――

 それはかつて一人の偉大なる英雄「ギーダ・ユーラブリカ」によって設立された組織であり、その歴史は数百年以上の長きにも及ぶ。
 ギルド設立以前は冒険者ギルドの前身となる組織が幾種類か存在し、それぞれが同種の商売敵同士で、互いに縄張りを争いあっていた。

 『魔石協会』、『冒険者組合』、『探索者同盟』、『採取ギルド』など、今では『冒険者ギルド』としてひとつにまとまっている取り扱い内容を、それぞれ別の組織が担っていたのだ。

 分業化といえば聞こえはいいが、それぞれが組織としてきっちりまとまってもおらず、同業者同士での潰しあいや低品質のサービスによる集客率の低さ。
 危険をはらむ依頼で呆気なく死んでいく『探索者』や『採取者』達。
 当然そうなると依頼料や採取した素材の値段も上がり、余計組織として立ち行かなくなっていく。

 そんなどん底状態の組織をまとめ上げ、現在に至る『冒険者ギルド』の屋台骨を作ったのが前述のギーダであり、後に初代グランドギルドマスターへと就任することになる。

 更には後に冒険者の王国と呼ばれる事になる『ユーラブリカ王国』を建国し、初代国王となった。
 現在では《ヌーナ大陸》の各地に冒険者ギルドの支部が軒を連ねており、この《冒険者ギルド・グリーク南支部》もそのひとつという事である。



「おー、こいつはまた……」

「とってもらしい・・・わね……」

 ギルドにたどり着いた龍之介と咲良が、思わずそう呟く。
 建物の建築様式などは周囲の建物とそう大きく変わってたりはしていない。
 だが、その入り口部分は西部劇にでも出てきそうなスイングドアになっており、佇立する人の胸の部分の高さに小さな木の扉が付けられている。

 スイングドアの向こう側は受付カウンターのようになっているようで、いかにも冒険者らしい風体の連中がここからもちらほらと見える。
 どうやらカウンター前で依頼に関する話をしているようだ。

 思った程人が並んでいないのは、時間帯のせいだろうか。
 興味深げに様子を眺める異邦人達を尻目に、古巣へと帰ってきたジョーディはさっさと中へと入っていく。

「皆さん、早くいきますよ」

 この街について以来、妙にはしゃいだ様子のジョーディに急かされるように後へ続き、中へと足を踏み入れた。
 一歩中へ踏み入れた途端「ギロッ」と音が出そうな程の視線を浴びる。

 十二人という人数だけでも注目を集めるものだが、中には幼い子供――日本人顔のせいか、彼らにはより幼く見える――も混じっているとあっては、更に彼らの好奇心や親切心・・・がくすぐられたのだろう。
 しかし、そういった状況を予期してか、すぐさまジョーディは受付嬢に、

「マスターに例の件で話があるので、先に会議室で待たせてもらいますね」

 とだけ告げ、信也らを手元に呼び寄せて建物の奥――会議室の方へとさっさと歩き出した。

「え、ちょっと、あの?」

 慌ててジョーディへと追いすがろうとする受付嬢だったが、近くにいた男性職員が慌てて彼女を止めた。

「あ、イーナちゃん。いいんだよ、その人たちは。連絡事項にもあっただろ?」

「あれ、そうでしたっけ?」

 イーナと呼ばれた受付女性はどうやら覚えがないようだったが、明らかに先輩であると思われる男性職員の言ってる事に、下手に逆らう訳にもいかないようだった。
 結局建物の奥へと進む彼らの後ろ姿を見送ったイーナは、再び受付業務へと戻っていった。

「……にしても、一体何の話なんだろうねえ」

 残された男性職員も要件の内容までは聞かされていないようで、不思議そうな顔を浮かべている。
 見知らぬ顔ぶれの十二人を先導していったジョーディの事は知っていたが、小さな村に飛ばされた位の情報しか持っていない。

 それが急に連絡があったかと思ったら、この街のギルドマスターが直々に会うという。何か大きな出来事があったのは間違いないだろう。
 しかし考えてみても特に何も思い浮かばなかったのか、彼もまたイーナと同様にギルドの業務へと復帰した。


▽△▽


 その部屋は大きな机に椅子が何脚も並べられている部屋で、まさしく会議をするにはうってつけの部屋だと言えた。
 ジョーディを先頭にこの部屋に入ってきた面々は、思い思いの席に座りながらも、相手方の到着を待っている所だ。

 ジョーディの話では、この街のギルドマスターが直々に話を聞きにくるという。
 この街のギルド支部は北と南の二か所存在し、普段はそれぞれを副ギルドマスターが管轄し、ギルドマスターはその双方を総括する立場にあるとの事だ。

 平社員どころか田舎の村に左遷――便宜上は派遣となっていたが――されたジョーディからすれば、雲の上の存在だ。

「この後来るギルドマスターってのはどういう人なんだ?」

 待ち時間の間にちょっとした話題をもちかけた信也だったが、それに対するジョーディの態度はどこかよそよそしい。

「えーっと、マスターは……その、部下想いのとてもいい人ですよ」

 何故か奥歯にものが挟まったような言い方になるジョーディを、不審に思いながらも話を合わせて会話を続ける信也。
 しかし、ギルドマスターの話題になるとどこかぎこちなさを感じてしまう。
 果たしてこの後この場に現れるギルドマスターとは一体どんな人物なのだろうか。

 不安に思いながらも会議室で待たされる事十数分。
 ようやくその会議室の重いドアを開ける音が、ジョーディ以外の注目を一点に集めた。

「ほおーう、お前達がダンジョンを発見したっていう連中だな?」

 部屋に入って来るなり一同を見回すと、早速要件についての確認をする男。
 身長は百九十センチほどで、筋肉質な体つきをしており、何故かその鍛えられた筋肉を見せつけるような動きで入室してきている。

 頭部は側頭部だけに髪が生えており、その男性ホルモン溢れる雰囲気からして、ヘアスタイルの一種ではなくこれはつまり地毛ハゲなんだろう。
 年は四十を超えているように見えるが、実際の所どうなのかは窺えない。
 非常に覇気に満ちており、一度面しただけでギルドマスターという役職にいるのも納得させられる説得力を持っていた。

「あ、はい。俺らが最初に発見したみたいです」

 男の持つ妙な迫力に冷静沈着な信也も思わずタジタジっとした様子になる。
 信也の返事を聞いた男は二カッと白い歯を見せながら笑顔を見せると、

「よーし、でかした!」

「ぐぼほぁあぁ!」

 男がねぎらいの為か信也の背中を軽く・・叩いた途端、信也がコントのような大げさな声を上げむせはじめる。
 その余りの様子に固まってしまった他の面子だったが、当の叩いた本人は笑い声を上げながら、

「おー、すまんすまん。少し加減を間違えてしまったようだな。わーっはっは」

 と軽く流して笑っていた。
 少ししてようやく落ち着きを取り戻した信也は、日本での社会人生活を経験した身として、こういった場面で怒る訳にもいかないし、相手も悪気はないようだし、どうしたもんかと迷っていた。

 そんな様子を見て、ケガをさせてしまった訳でもないようだな、と判断した男はここでようやく自己紹介を始めた。

「俺の名はゴールドル。この冒険者ギルド・グリーク支部のギルドマスターだ。よろしくな!」

 そう言いながら右手の平をこちらに翳す挨拶の仕草を見せた。
 信也もそんなゴールドルに対して同じように挨拶を返しながら、

「初めまして。俺の名前は信也。で、隣にいるのが……」

 と丁寧に一人ずつ紹介をしていく。
 流石に人数が多いので、一人一人紹介するか迷いはしたのだが、ゴールドルも紹介を途中で留める素振りを見せなかったので、結局十二人全員紹介することになった。

 全員の紹介が終わると、改めて信也は今日ジョーディと共にギルドへと訪れた理由、その前提となる作り話を披露する事になった。
 仲間内でも定期的にこの設定話を持ち出して、周囲に不自然に見えないように役になりきる努力をしていた信也。

 スラスラと偽の身の上話をしている信也に不自然な点は見当たらず、ゴールドルも転移魔法装置だの異国の話などに興味を覚えた様子で、静かに筋肉を見せつつ話を聞いていた。


▽△▽


「……なるほどな。話は理解できたぜ。つまりはギルドに入会して食い扶持を確保するのと同時に、そのダンジョンを探索して故郷への帰還方法も探るってところか」

 ゴールドルの問いかけにコクリと無言で頷く信也。

「そーなると……まあ、まずはこちらからも確認の人員を派遣させてもらうぜ。ああ、一応確認自体はそっちの坊主がしてるみてーだし、報奨金は……今日すぐは無理だが明日までには用意しておく」

 とりあえず目的のひとつが無事達せられた事に安堵の表情を浮かべる異邦人達。

「それとギルド登録の方も問題はないだろう。ただ、ダンジョンの低層を突破してきたとはいえ、実力も分からんからHランクからとなるが――」

 とそこまでゴールドルが言いかけた所で、この妙な迫力のある男にも気負いもせず、会話に割り込んできた者の姿があった。
 空気が読めない事に定評のある男。そう、龍之介である。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

処理中です...