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第三章
第44話 冒険者ランク
しおりを挟む「はい! はいっ!」
勢いよく手を上げる龍之介に嫌な顔も見せず、むしろ元気の良いその様子をほほえましいものを見るような目で見つめるゴールドル。
「何だ、何か疑問でもあるのか?」
「疑問ってか質問なんだけど、テストかなんかを受けて少し上のランクから始めるってできねー……出来ないですか?」
全然上手くいっていないが、途中で以前北条から受けた指摘を思い出したのか、微妙な具合の口調になる龍之介。
ゴールドルは相変わらず暑苦しい笑顔と筋肉で答える。
「確かにそういったテストを行う事も時にはあるが……おい、そこの。えーと、ジョーディだったか」
突然名指しされたジョーディは思わずビクッとした様子でゴールドルに視線を移す。何だか蛇に睨まれたカエルのようだな、などと北条辺りが思っていたが、ジョーディ本人はそれどころではないようだ。
「は、はい! ジョーディです。何でしょうか?」
明らかに緊張が伺える様子だったが、ゴールドルは気にせず話を続ける。
「こいつらとダンジョンまで確認に行ったんだよな? 戦闘の方はどうだったんだ?」
「は、はい。全員一緒ではありませんでしたが、十二人の内六人で一緒に向かいました。ジャンガリアンやケイブバット程度なら全然問題はなさそうです」
「ふうむ……」
それを聞いたゴールドルは何かを考え込みはじめたようで、会議室内には静けさが溢れ始めた。
その静寂は当初余計にジョーディをあせらせたが、時が経つにつれ次第に落ち着いてくると、ひとつ報告すべき点があったのを思い出した。
「あの、そういえば彼らはダンジョン内の罠でゴブリンルームを引き当てたみたいです。そして、ホブゴブリン率いるゴブリン数十匹と戦闘になったようですが、無事に切り抜けられたとの事です」
「それを先に言え!」
それを聞いたゴールドルは、ジョーディの頭を軽く小突く。しかし、この男の軽く小突くというのは普通の人が思いっきり叩くのとそう変わらないレベルだ。
「……っつ」
頭を押さえて声なき声を上げるジョーディ。
先ほど同じようにゴールドルの一撃を食らった信也が、ジョーディに同情の視線を送る中、問題が解決したといった顔でゴールドルが話し出した。
「それなら問題はねーだろう。一応お前達の中から二、三人選んで後でギルド訓練場で腕前を見せてくれ。問題がなければ、HランクではなくGランクからという事で登録しておこう」
どうやら希望通りに飛び級できそうという事で、龍之介は素直に喜んでいたが、他のメンバーは必ずしも同様の反応を示していた訳でもなかった。
「あのっ」
そう声を出したメアリーもその一人だった。
「ん、どーしたー?」
「その、私達の住んでた地域では冒険者ギルドというのもありませんでした。ジョーディさんから幾つか話は伺いましたが、まだ分からない事もたくさんあります。例えばそのランクというのはどういったものでしょうか?」
冒険者は魔物を倒してドロップを売り払ったり、依頼を受けて採取や討伐をしたり……といったような事は、ジョーディに会う前からすでに龍之介達から話を聞いてはいた。
ジョーディと出会ってからは、この世界の常識の話から冒険者ギルドに関する話まで幅広く聞いていたが、一から百まで聞いている訳ではない。
今回のランクの話のように、抜けてる部分は多々存在していた。
「あー、そうだな。まずはその辺の話をしといたほうがいいか」
そう言うなり、冒険者ギルドに関しての話を始めるゴールドル。
一応ギルドマスターという事で忙しい身分のはずなのだが、受付嬢が対応するような入会者への説明も特に気にした様子もなく行っている。
「まずはランクってのぁー、要するに冒険者としての腕前を示すもんだな。Hランクから始まってAランクまで、そしてその上にSランクというのがある。依頼の達成を重ねたり、何らかの業績を見せりゃーギルド側が勝手に評価を付けてく。んで、それが一定ランクに達したら昇格っつー訳だ。あ、勿論ランク相応の強さも必要になってくるぞ」
それは昨今のライトノベル小説系に詳しいものならお馴染の設定であり、龍之介や咲良などはすんなりと理解する事ができた。
「で、各ランクの目安だが……最低ランクのHは仮登録と言われるランクで、農民や一般民が副業でやったりするようなもんだ。Hランクの依頼は荷物運びの手伝いだとか、そんなもんだな。魔物退治なんかの依頼は最低Gランクからだ」
そこで一旦一息入れて筋肉を振るわせると、話についていきてるか一同を見回した後に、再び話の続きを再開する。
「Gランクからが冒険者としての始まりってな感じで、ひよっ子共が蠢いてるのがこのランクだな。そっからF、Eと上がっていき……Dランク辺りが恐らく一番数が多いだろーな。だからCランクともなれば、周囲からは徐々に注目を集め始めるぜ」
話を聞いていくうちに、かつて見聞きした創作物の話でも思い浮かんだのか、まるで自分がそういった作品の主人公にでもなったかのように、冒険者として活躍する自分を夢想しはじめる龍之介。
そんな龍之介とは逆に、周囲から注目を浴びるということに強いおびえと拒否反応を密かに覗かせる楓。
特に心動かされる事もないのか、慶介と共に落ち着いた様子で話しを聞いている陽子。
いまいち何を考えてるか分からない表情の北条や石田。
十人十色な反応を見せる彼らに、ゴールドルの話はまだまだ続く。
「そんでもってBランク辺りからは立派なベテラン扱いだな。小さな村ではそりゃーもう英雄扱いされる位だぜ。ただし、Cランク辺りからは単純に依頼の業績や強さだけで上に上がれる訳でもねーんだ。詳細は言えねーが、人を切り刻むのが好きだとか、そういったイカレタ奴らを昇格させる訳にはいかねーからな」
一応そういった部分も考慮されているらしい。
この世界一般の世間のイメージでは、冒険者は野蛮だとか粗野だとかいったイメージが強いのだが、それでもCランク以上ともなると多少は違ってくるらしい。
「そしてAランクともなりゃ……そらー凄ぇぞ。うちでもAランクで滞留してる奴は、今は……一人だけだな」
ゴールドルの表情に親しい人に見せるような、柔らかい表情が一瞬浮かぶ。
厳つい顔のこの男だが、その表情の時だけは普段は泣いて逃げ出す子供ですら近寄ってきそうな、そんな優しさが感じられた。
「『氷の魔妖精』エスティルーナさんですね」
そこへジョーディが口を挟んでくる。
「あぁ……。あいつには今も助けられてる」
「ゴールドルさんのお知り合いの方なんですか?」
咲良は思わず気にかかった事をそのまま口に出して質問していた。
どうやらゴールドルにとって特別な相手のようであるし、ジョーディがさも当然といった口調で話していた事から、恐らくはこの街でも名が知られた人なのだろう。
「知り合いなんてもんじゃーねえ。あいつとは、昔冒険者パーティーを組んでいたのさ。今はもう皆バラバラになっちまったがな……」
そう語るゴールドルの声には、本人にしか分からない哀愁を思わせる響きが強く含まれていた。
初対面の自分達が気安く触れていい話題ではない、そう判断した咲良は話を少し違う方向へともっていく。
「えーと、ということはゴールドルさんもAランクの冒険者だったんですか?」
「いや……。パーティーを解散した時はみんなまだBランクだったんだよ。そん中でもエスティは当時から俺達の中じゃあ一番Aランクに近いと言われてた。エスティがAランクになったのは解散後になる」
言葉の節々からも色々な物語があったのだろうな、と思わせるゴールドルの話に、北条や咲良も大分興味深々の様子だ。
しかし、今は他に話す事もまだまだある状態だ。
「あの……それでSランクというのはどういった感じなんでしょうか?」
ゴールドルもそのAランク冒険者について深く語ろうとはしていなかったので、メアリーは話を戻し、残された最後の"Sランク"について尋ねてみた。
「Sランク……か。そこまでいけば、もうどこいっても英雄扱いだな。冒険者の頂点であり、誰もが初めはその頂を目指して必死に足掻く。そして、多くの人間が挫折をするもんさ。いまんとこ、直近で新しく増えてない限りはこの《ヌーナ大陸》ではSランクは四人しかいない」
冒険者の母数は不明だが、それでも多くの冒険者の中でたった四人しかいないというその頂。
もしそこにたどり着くことができれば、富も名誉も思いのままだとゴールドルは言う。たどり着くまでの道は果てしなく険しいが、頂点からの眺めは最高だろうとも。
それが冒険者勧誘のセールストークだというのは分かっていても、この弱肉強食が色濃い世界において、"力"の象徴でもあるSランクというものの魅力は抗いがたいものがある。
「うおー、まじかー! すげーやる気になってきたぜー!」
若干一名、セールストークだという事に気付ていない者もいたようだが……。
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