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第三章
第46話 ゴールドルとの模擬戦 その1
しおりを挟むその場所は一見これといって特徴のない、ただ地面が広がっている運動場といった場所だった。
しかし、広場の隅の方には矢を当てる為の的のようなものが設置されていたり、木製の各種模造武器がずらりと並ぶ武器置き場なども設置されている。
今も幾人かの冒険者と思しき人々が各々の得物を手に腕を磨いていた。
といっても、その数はこの訓練場の広さからすればまばらといった所だ。
一人剣を黙々と振っている人もいれば、同じパーティーの仲間なのか、一対一の模擬戦をしている二人。
特に何をするでもなく独り地面に座り目をつむっている男や、一休みしてるのか何やら談笑してる人達もいた。
そんな中、ゴールドルを先頭にジョーディや信也達が訓練場へとやってくると、大きな注目を浴びる事になる。
もっとも、その視線の多くはギルドマスターたるゴールドルに向けられているが、信也達にもチラホラと視線を向けてくる冒険者もいた。
「おう、お前ら。ちょっとそこ使うぞ」
冒険者達の視線を一顧だにせず、ゴールドるはズンズンと模擬戦スペースに侵入していくと、信也達に向けて手招きをする。
「よーし、んじゃあー、そうだな……とりあえず三人だな。一応腕を見るって事なんで一人ずつかかってきな。得物は自前のでもいいし、そこに置いてある模造武器でも構わんぞ」
そう言うと二カッとした笑顔を浮かべる。 新人相手とはいえ戦う事に喜びを感じているようだ。
周囲の冒険者もこれがギルド入会前の腕試しだなとはすぐに察する事はできたが、ギルドマスターが直々に相手をするというのも珍しい。
戦闘自体は好きではあるが、立場的にそうそう新人の相手ばかりしてられれないゴールドル。
普段は新人相手というよりも、時折できた休息時間に態々訓練場にやってきて、仕事の憂さを晴らすかのようにその場にいた冒険者に稽古をつける事の方が多い。
どうやら今回は新人の腕試しのようだし、態々ギルドマスターが相手するという事で、興味を覚えた冒険者達は各々の訓練を中断し、これから行われるイベントに注目し始めた。
「よーし、じゃあまずは俺からいくぜ! 武器は本当にこの剣をそのまま使ってもいいんだな?」
腰に佩いた剣を抜きながら確認を取る龍之介。
それに対し鷹揚に頷きながら「ああ、構わんぞ」と答えるゴールドル。
「それなら思いっきりいかせてもらうぜー! って言いたいとこなんだけど、そっちは武器は持たなくていいのか?」
「ん? ああ、構わんぞ。ちなみに、俺の武器はこいつだ」
そう言いながら己の両拳を胸の前でゴツゴツと打ち合わせる。
確かにゴールドルの見た目的には格闘術というのはピッタシなイメージだった。
「そうか。そんじゃ、こちらから行かせてもらう、ぜ!」
そう口にしながら初め! の合図もなく急に剣で袈裟懸けに切り込みにいく龍之介。
無論そんな一撃を元Bランクの冒険者でもある歴戦の男が食らう訳はない。
その体格からすると違和感を覚えるほど軽やかなステップで、単調なその攻撃を躱す。
そこに、
「スラアァァァッシュ!」
剣を振り下ろすと同時にスキル"スラッシュ"を発動し、横薙ぎに一閃する。
しかしすでにその時には先ほどまでいた位置にゴールドルの姿はなく、一瞬その姿を見失った龍之介が周囲を見回してる内に、龍之介の右側面へと移動していたゴールドルが、大分力を加減した突きを龍之介の横っ腹にぶちかます。
「ぐぼぉぁ!」
想定外のタイミングでの想定外の場所への打撃に、龍之介は胃の内容物を吐き出しそうになる。
その突きの衝撃だけで龍之介は地面を十センチ程ジリジリと動かされており、先ほどの衝撃の強さを物語っていた。
しかし、龍之介もこの世界でレベルアップや職業についたおかげか、プロボクサーでも下手したらダウンしてしまうような攻撃にも耐え、すかさず次の攻撃に対して守りを固め始める。
だが、大きな攻撃チャンスであるにも関わらず追撃は飛んでこず、ゴールドルは少し離れた位置で楽しそうに龍之介の様子をみていた。
その姿を見た龍之介は舐められてると思い、カッと頭に血が上る。
腹部の痛みをアドレナリンが忘れさせたようで、再び龍之介はゴールドルへと何度も切りかかる。
彼なりに対人用に頭に描いていた攻撃パターン。スキル"スラッシュ"を交えたそのコンボはスキル"剣術"の効果もあってか、素人がただ剣を振り回すのに比べたらずっと様にはなっていた。
しかし……当たらない。
まるでわざとやっているのではないか? という位に龍之介の剣先はゴールドルにあと一歩届かず、剣が空振る音だけが周囲に響く。
ゴールドルは完全に様子見に入ったようで、攻撃を躱すだけで攻撃はしかけていない。
その事が更に龍之介を発奮させるも、全てが空回りとなってしまう。
やがて、剣を振りまわした事でかなり疲れを見せてきた龍之介に、ゴールドルが目にもとまらぬ速さで正面から接近し、腹部に突き上げるような一撃を放つと、龍之介は持っていた剣を手放し、くの字に折り曲がって地面に崩れ落ちた。
「ふむ、元気のいいガキだな。これは将来に期待だな」
と全くを息も切らしていないゴールドルが嬉しそうに口にする。
しかし、それ所ではないと慌ててメアリーが龍之介の元へと駆け寄り、"回復魔法"を掛ける。
すぐさま龍之介のダメージは回復したが、どうやら気を失ったようで目を覚ます事はなかった。
「ほおう。嬢ちゃんも"回復魔法"を使えるのか。珍しいな、俺以外の"回復魔法"の使い手なんてあんま見ねーんだけどな」
同じ"回復魔法"の使い手として、ゴールドルはメアリーに関心の目を向ける。
一般的にはすでに"嬢ちゃん"なんて呼ばれる年齢でもないのだが、ゴールドル自身がすでにそこそこ年をとっているのに加え、日本人から見てもメアリーは若作りに映る。
とても三十過ぎには見えないその容姿は、この世界の多くの人からすれば、二十代どころか十代といっても騙される人はいそうだ。
しかし嬢ちゃん扱いされた当人は回復に夢中で聞いていなかったようだ。
代わりにそれとは別の人物である咲良が思わぬ言葉を聞いて、
「え、あのオッサン"回復魔法"も使うの!?」
と、別視点からの反応を口に出しつつ驚いていた。
てっきり格闘家とかモンクとかそういった系統だと思っていたのが、その外見とは百八十度逆のヒーラー職とは、誰が予想できただろうか。
しかしその事はこの街で暮らす者には有名な話だったようで、
「そうですね。マスターは『回復マッスル師』と『拳闘士』の二つの職業を持っていますので、"回復魔法"も使用できますよ。というか、本業はヒーラーの方ですし」
ジョーディのその言葉に一同は驚きを禁じ得ない。
「ちょ、『回復マッスル師』って何よ?」
「というか、職業は二つも就けるのか?」
「あの見かけで本業がヒーラーって……」
と陽子や信也などが様々な反応を見せる。
そんな彼らの言葉にジョーディは解説を始めた。
「えーと、『回復マッスル師』というのは回復系とマッスル系の複合職ですね。結構珍しい職業です。職業の保有数ですがレベルでいうと五十一以上、冒険者ランクでいえばCランク以上の方は職業が二つ就けます。それから更にレベルが上がると――」
「おおう、その説明はあとでもいいだろ。次は誰が相手なんだ?」
と解説モードに入りかけたジョーディを止め、次の犠牲者――もとい、対戦相手を求めるゴールドル。
ゴールドルとの余りの実力差を見せつけられた面々は、すぐさまその声に応じる者はいなかったが、仕方なく……といった様子で信也が立候補を申し出た。
「ほおう、次はそっちのあんちゃんか。得物はさっきの坊主と同じ剣みたいだな。いいぜ、いつでもかかってきな」
そう言うと特に構えるでもなく自然体のまま信也の動向を伺い始めるゴールドル。
そんなゴールドルに対し、信也は魔法発動の準備をしながらジリジリと間合いを詰め始めるのだった。
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