どこかで見たような異世界物語

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第三章

第47話 ゴールドルとの模擬戦 その2

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 龍之介との戦闘で見せたあの目にも止まらぬ動き。
 あれを見てしまうと、どこまでがゴールドルの攻撃可能範囲なのかが分からなくなってしまう。

 リーチとしては圧倒的に優位であるはずの剣を持っているというのに、あの素早さはそんな優位差を絶望的にゼロにしてしまう。
 これが実戦であったなら、そのまま絶望に震えてしまい、ろくに抗う事すらできずに殺されているだろう。

 しかし、あくまでこれは実力を試す模擬戦であるという事が、信也をかろうじて冷静さを保てる精神状態に押しとどめてくれた。

 じりじりと近寄っていく信也に対し、相変わらずの自然体のままのゴールドル。
 信也はゆっくり迫りつつも、剣の持ち方や向きを変えたりとフェイントのような動きを見せており、ゴールドルもその動きには注意を払っているようだった。
 やがて、間合いが信也からして後一歩で攻撃が繰り出せる、という段階に達した所で、信也は準備していた魔法を発動した。

「【ライティング】」

 丁度ゴールドルに対し見せつけるように剣を構えていた信也は、自身の持つ剣先を中心として光量を強く意識した【ライティング】を発動した。
 と同時に、その場から一歩、更に一歩。避けられる事を考慮して奥へ奥へと足を踏み入れつつ、愚直に前へと進みながら突きを放つ。

 更に攻撃が命中したかの確認などする間もなく、連続して右側面へと向けて横薙ぎの"スラッシュ"を発動する。
 これは先ほどの対龍之介戦を見て、即座に建てた作戦とも言えない作戦、のるか反るかの賭けとも言える攻撃だったが、どうやらその薄い勝負に勝つ事が出来たようだ。
 ザギイィン、と剣を打ち付ける音が辺りに響く。

「……っ!」

 しかし確認の為【ライティング】を即座に解除した信也が見たのは驚くべき光景だった。
 てっきり信也は、己の振るった剣はゴールドルの身に着けている装備の金属部分にでもあたったのかと思っていたのだが、その剣先に接していたのはゴールドルの生身の"拳"だった。

 日本刀のように切れ味を追及したような剣ではないといえ、それでも今まで魔物を何度も切り裂いてきた剣である。
 それがまさか生身の部分で止められるとは、流石の信也も度肝を抜かれた。

「おら、ボーっとすんなよ」

 そう口にすると同時にゴールドルのミドルキックが飛んでくる。声を掛けられたことで、かろうじて防御態勢を取る事が出来た信也だったが、拳による攻撃とは違い蹴りによる攻撃は三倍の力があるとされる。
 これはあくまで同じ速度で攻撃が放たれた場合の話らしいが、元々大分力を抜いていたゴールドルの突きと蹴りの速さは大して違いはなかった。

「っくう……」

 それは龍之介の時とは違い、メートル単位で吹き飛ばされている信也の姿を見ればその威力の差は歴然だと理解できるだろう。

 かろうじてガードが間に合ったとはいえ、すでに信也の左腕は感覚がなくなっており、まともに動かせそうにはなかった。
 しかしそれでも諦めずに【光弾】を放ちつつ、右腕だけで剣を振って切りかかる信也。

 そこへ容赦ないゴールドルの拳が信也の腹部へと突き刺さり、結局信也も龍之介同様にノックダウン。
 メアリーの介護を経て、地面へと横たわる無意識組へ仲間入りと相成った。

「ちょっとアレ・・どうなってるのよ?」

 最近グループ内での立ち回りを覚えてきたのか、他のメンバーとの衝突が多かった長井は周囲の会話に積極的に立ち入る事はせず、楓・石田などと共に空気感漂うポジショニングになっていた。
 しかしこの冗談みたいな男の所業を見て、思わず口を挟まずにはいられなかったようだ。

「ハッハッハ。新人の放つ攻撃位ではこの筋肉の鎧はそう易々と突破はできんさ。とはいえ、少し指が切れてしまったようだ。あの攻撃は中々見事だったぞ」

 そう言いながら剣を受け止めた左手の指の第二関節部分に、"回復魔法"を掛けるゴールドル。

「筋肉の鎧って……。そもそもあんな指先に筋肉なんてあるの?」

 あきれた様子の陽子の声に、他のみんなも声なき同意を示した。
 あからさまな化け物を見た彼らは、この世界のでたらめさを今日初めて思い知ったと言えるだろう。

 しかしそれは同時に彼らにとっての可能性でもあった。
 この世界ではああいった化け物じみた力を持つ事が出来るのだと。
 勿論誰も彼もがそうした力を獲得することは出来ないだろう。
 しかし、彼らの出自は特殊だ。

 この世界ではどうやら希少とされる"天恵スキル"を、二つも所有した状態でこの世界に放り込まれたのだ。
 更に付け加えれば、唐突な展開と短い時間制限という枷はあったものの、自分で好きな天恵スキルを選ぶこともできた。
 この世界で生まれた多くの人間からしたら、それだけでおおいに恵まれているといえるだろう。

「んー? 当然じゃねーか。指先どころか俺の全身至る所、それすなわち筋肉だぜ。筋肉=俺様といっても過言ではないな、わああっはっは」

 陽子達だけでなく、訓練場の隅で様子を窺っていた冒険者達も「こいつは何を言ってるんだ?」といった面持ちだったが、ゴールドルは気にした様子もなく自慢の筋肉を見せびらかしていた。
 だが、まだ腕試しの途中だった事を思い出したのか、

「おう、それより最後の一人はどうするんだ?」

 と、残りの面々へと問いかけてきた。
 この世界へはまだ来たばかりで未熟なのは重々承知していた彼らだったが、今まで出会ってきた魔物を問題なく対処出来ていた事から、多少の自信はついてきていた。

 しかしそれはどうやら吹けば飛ぶような、ちっぽけなものでしかなかったと思い知らされた。
 前衛の二人がこうもあっさりとやられてしまっては、力不足を痛感するほかない。

『既に二人を相手にして実力も十分見せたんじゃないか? どうせまた相手しても同じ結果だろう。これ以上戦う必要もないよ』

 ――そんな心の声が聞こえてきそうだった。
 だが、それでも……それでも自分の進む道の先を示された、一人の少女――由里香は自ら三人目の相手として立候補していた。


「次はあたしの相手お願いするっす!」

 そう言ってナックルを装着する由里香。
 回復術士としての能力は今の所持っていないが、本日行った転職で『格闘家』へと転職していた由里香は、同じ戦闘タイプのゴールドルに対して強い興味を抱いていた。

 今の所あのような素早い動きは出来そうにないし、そもそも力量差が開きすぎているのも分かっている。
 だが、先達者の胸を借りるつもりで思い切ってぶつかっていこうと覚悟を決めた。

「ほおう……。うむ、その心意気や良し! さあ、かかって来い」

 身長二メートル近い巨漢の男と、まだ成人前で見た目も小さい少女。
 両者が戦った場合、誰がどう見ても勝者の姿は決まっているだろう、そう思われた。

 しかし、この世界では稀に"力を持った子供"というのも存在する。いわゆる天恵の戦闘系スキルを持って生まれた子供だ。
 とはいえ、今回の相手は元Bランクの冒険者であり、流石に金星を上げることは無理だろう。
 だが相手が一般人レベルであれば、小娘が大男に勝つ事も十分あり得るのがこの世界なのだ。

 由里香はゴールドルには遠く及ばないが、信也や龍之介以上の身体能力を発揮して、ゴールドルへと迫る。
 その予想以上の動きの速さにゴールドルは少し驚いた表情を見せるが、すぐにその顔は嬉しそうな表情へと変わった。

 遠距離攻撃手段を持たず、剣や槍など間合いの取れる武器も持たない由里香は、ただひたすら自分の間合いへと潜り込もうとする。
 同じ格闘系ではあるものの、体格の大きいゴールドル側からすると、足元などの超至近距離に接近されると少しやり辛いものがある。

 そこを狙って超接近しようとする由里香だが、それはリターンだけでなく高いリスクをも背負っている。
 というか今の力量差からすると、ハイリスクローリターンという厳しい選択肢。

 そしてその大きなリスクが形に――膝蹴りという攻撃となって由里香へと迫ってくる。
 至近距離で放たれた出掛かりの攻撃なので、本来なら威力は抑え目になるはずだが、この男の放つ攻撃がそんな軟な訳はない。
 まともに食らったら一発KOするだろうその攻撃を、由里香は後ろに下がるでも左右に躱すでもなく、更に斜め前方へと躱しながら前にでる。

 スゥッ……。

 完全に躱しきれなかったゴールドルの膝蹴りが、由里香のおでこの部分を滑るようにかすり、一瞬後にはパカッと傷口が開く。
 しかしそんな事は気にせず、勇猛果敢なその前身によってゴールドルの背後をつく事に成功した由里香は、目の前にある太く大木のような足に向けて、フック気味の拳を放つ。

 直後、とても人体を殴ったとは思えない鈍い音がしたかと思うと、ゴールドルが一瞬苦痛に顔を歪めた。
 どうやら由里香の拳は弁慶の泣き所へと上手く決まったようで、剣を拳で受け止めた時も大してダメージを与えたようには見えなかったのに、今回は『タンスの角に小指をぶつけた』程度のダメージは与えられたらしい。

「っってえな!」

 しかし所詮ダメージは軽微だったようで、すぐにも打ち下ろしの右ストレートが飛んできた。
 由里香はその右ストレートに対し、転職によって得られたスキル、"ジャブ"を数発撃ちこみ軌道を反らす。
 スキル"ジャブ"は威力こそ弱いものの攻撃速度は速く、更に消費MPもスタミナも極僅かで済む燃費の良さが特徴だ。

 当初、攻撃スキル発動に関して龍之介は「すげー疲れるから連発できない」としていたが、その後信也が"スラッシュ"を取得する際に、スキル使用時にはスタミナだけでなくMPも消費している事を感覚的に突き止めた。

 後にジョーディに確認した所によると、それは間違っていなかったようで、スタミナとMP――この世界の人は魔力と呼んでいる――を消費して放つ攻撃スキルを"闘技スキル"。
 スタミナだけを消費して放つ、スキルではないものを単に"武技"と呼ぶらしい事を聞いていた。

 そんな闘技スキル"ジャブ"の連打で危機をひとつ回避した由里香だったが、ほぼ同時に放ったのではないか、というタイミングでゴールドルの蹴りが迫ってきており、右ストレートを躱すのに精一杯だった由里香は、それをまともに食らってしまう。

 ひとつ前の戦いでの信也以上に由里香の身体は宙を舞い、数メートル以上も吹き飛ばされてしまう。
 アニメや映画などでは見た事あるかもしれないが、実際に目の前で人が吹っ飛んでいく様子を見るのは、地球で生まれ育った彼らにとってはなかなかショッキングなシーンだった。

「ちょ、ちょっとあなた。あんな子共になんてことするんですか!」

 その様子を見たメアリーが、珍しく今までにないほどの怒りを見せてゴールドルに抗議するが、ゴールドルも周囲で見ていた冒険者達も、メアリーの意見に戸惑っているようだ。

「んなこと言ってもな……。俺ぁ十分手加減してやってるぜ? ほら、みてみろよ」

 ゴールドルの示す先。
 そこには、フラフラになりながらも立ち上がる由里香の姿があった。


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