どこかで見たような異世界物語

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第三章

第57話 路地裏の凶行

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「そいじゃぁ、ぶらっとしてくるわ」

 そう北条は口にすると、他数名と一緒にギルドを後にした。
 既に彼らはギルドでパーティー登録を済ませており、後はジョーディとの待ち合わせの昼までは自由時間だ。

 その自由時間の過ごし方については、主に三つに分かれる事になった。
 ひとつは昨日と同じように資料室で過ごすグループ。
 次にギルド裏にある訓練場にて、スキルや戦闘の練習をするグループ。
 最後に街にでて思い思いに過ごすグループ。

 時間については、この街では朝・昼・夕に鐘がなるので、昼の鐘を目安にすれば合流もしやすい。
 ちなみにこの世界での時間の数え方は一日を二十に分けた二十刻制となっていて、十刻が丁度正午ということになる。

 肝心の現在時刻に関して知る方法だが、おおまかに空を見て太陽の位置で把握する基本的な方法もあるが、街の数か所にある広場には日時計が設置されており、夜間や天候不順の時以外はそれで大体の時刻を知る事は出来る。
 もし、より正確な時刻を知りたい場合、手間はかかるが「ライエル神殿」へ向かうといいだろう。

 ライエル神殿は秩序と時間を司る神"ライエル"信者の拠点であり、ある程度の規模の街ならば、大抵は魔法道具による時計が神殿のよく見える個所に設置されているのだ。


「それじゃー、俺達も早くいこうぜ」

 そう龍之介が口にすると、残りの七人は二手に分かれてそれぞれ訓練場と資料室へと向かうのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「俺はあっちの広場の方へと向かう。ここでお別れだぁ」

 ギルドを出て少し歩いた所で北条は同行者にそう告げた。
 残りの三人の同行者――信也、陽子、慶介はそれに対し特に大きな反応は見せていない。
 元々は北条が単独で出かける予定だったのだが、話を聞いた陽子が慶介と一緒に出掛けると言い始めたのがそもそもの始まりだ。

 だが、北条はともかく、陽子と慶介の二人ではいざという時心配が残る。
 そこで信也が護衛役を買って出た訳なのだが、陽子の方は二人きりの"デート"が邪魔されたので不満気だった。

 だが見知らぬ街を女と子供二人、それも安全神話などとも言われる日本の治安に慣れている日本人が出歩くのは確かに不安が残る所ではあった。
 特に真面目な性格の信也は、陽子がどう思おうとついて行くと決めていた。
 それを陽子も感じ取ったのか、仕方なくといった感じで同行を認め、三人で行動をする事になったという経緯だ。

 最初から単独行動をする予定だった北条は、三人との距離が離れていくのを感じながら、周囲を用心深く観察しつつ広場へと向かう。
 そして広場の一角に到着すると、手ごろな目標・・を物色しだす。

「さて、早速はじめるか」

 丁度良さ気な目標・・を発見した北条は、早速行動に移し始めるのだった。



▽△▽



「うーん、こうして歩いてみると余り出店ってないのねえ」

 商店街などが立ち並ぶ、街の南の商業エリアを練り歩く陽子達一行。
 通りはなかなかの賑わいを見せているが、陽子の言うように出店――この場合は軽食などを扱う屋台――の姿をほとんどみることがなかった。
 食材自体は扱っている店が何件か軒を連ねているのだが、それを調理して販売している出店が見当たらないのだ。

「あのー、屋台とか出店ってないんですか?」

 物怖じせず、道を歩くガタイの良い女性に話かける陽子。
 話しかけられた女性は、百六十センチ程の背丈をしており、この世界の一般女性からすると背が少し低い方だ。
 そして骨太というか肉々しい外見から、肝っ玉かーちゃんといった風情がする。

「ああん? そんな、祭りの時期でもねーんだし、屋台なんて普段はあんま出てねーべさ」

 気さくに答えてくれた女性は、少し変わった方言をしていたが、謎言語知識を得ていた彼らには問題なく通じるようだ。

「あ、そうなんですかあ。じゃあ、普段の食事ってどうしてるんですか?」

 女性はきょとんとした顔をしながらも、食事事情についてを語ってくれた。
 それによると、基本は家で食べるか定食屋――その多くが宿屋や酒場などと兼任している――で取るのが一般的のようだ。
 街で暮らす一般民の場合、勤務先がよほど離れていない限りは昼休憩で自宅まで戻り食事を取ったり、弁当のようなものを持っていくのが一般的らしい。

「あら、あんた見た目によらず冒険者なのかい?」

 一般民の食料事情についてから冒険者についての話に移り、陽子達が冒険者と気付いた彼女は少し驚いた様子を見せた。

「それなら、朝とか夕方なんかにゃ冒険者ギルドの近くに出店が建ちならんでるのを見た頃あるべ。まー簡単な移動販売が多いみたいだけんども」

「へー、そうなんですかあ。私冒険者になったばかりなんで、その辺詳しくなくて……。色々教えてくれてありがとうございましたー」

 女性とお喋りを終えた陽子は、立ち去っていく女性に礼を述べる。
 にこやかに手を振りながら去っていく女性を見ていた陽子。

「んー、屋台の料理って期待してたんだけど、あんま活発にやってないのかー」

「お祭りがあるって言ってましたね。どんなお祭りなのか楽しみです!」

 残念そうな陽子とは対照的に、慶介はお祭りの事が気になるようだ。
 とはいえこの街に拠点を張る訳でもないので、狙ってこない限りはお祭りに行くことも難しそうだ。
 子供らしい慶介の反応に、いちいち可愛らしさを感じてしまう陽子は、先ほどまでとは打って変わってテンションが上がっていく。

「そっか! じゃあ、いつか二人でお祭りに行こうね」

 すっかりご機嫌になった陽子の表情を、少し離れた所で見ていた信也はやれやれといった様子でそんな二人を見ていた。
 その後も浮かれ気分の陽子は、他の二人を引き連れ街をあちこち練り歩き、ライエル神殿の時計なんかも見に行ったりと、あっという間に時間は過ぎていった。

 しかし浮かれすぎていたせいか、いつの間にか時間は大分経っており、露天で売られていた木彫りの彫刻品を見ていた彼らに、正午を告げる鐘の音が聞こえてきた。

「え、もうそんな時間?」

 慌てて陽子は手にしていたなんとかいう聖者の像を元の場所に戻すと、二人に「急がないと!」といいながら、ちゃっかり慶介の手を引いて駆けだし始める。
 信也も少し遅れてそんな彼らの後に続いた。
 背後からは「また今度見てってくれよー」という露店のおっちゃんの声が聞こえてくる。

 三人が小走りでギルドの方へと向かっていくと、見覚えのある道を見かけた。
 今来たのは反対方向からではあるが、以前ジョーディにお勧めされた食堂があった、あの細い路地だ。
 この先を抜けると大通りにでて、右に曲がって進んでいけばギルドに着くはず、そう思った瞬間、陽子と慶介は前から歩いてきた三人組の男とぶつかってしまった。

「おおう、てめえらどこ見て走ってやがる!」

「うおおお、いてえええぇええ。昨日神官に治癒してもらったばかりのあばら骨にまたヒビがああ!!」

「大丈夫か、デリンク。おう、お前達この落とし前どうつけてくれんだ? ああ?」

 いかにも三下といったその登場の仕方に、他人事だったら笑ってしまいそうになるほどだったが、当事者としてはそうも言っていられない。
 いちゃもんを付けてきた三人の男達は、それぞれナイフと斧と弓を身に着けており、革製の防具も身に着けていた。

 ボサッと伸ばしたままに見える脂ぎった髪や無精ひげ。
 防具はお揃いのものではなく、大分ぼろくなっている部分も見え隠れしている。
 そして何より彼らの顔に浮かぶその表情。

 弱者をいたぶる事に愉悦を感じているような、その下卑た表情は彼らが衛士や街の兵士などではない事を物語っている。
 となれば、残るは冒険者か裏社会の人間か。

「そ、そんな事言われても……」

 こういった事態に慣れていない陽子は、それでも慶介を守るように傍に寄せながらも、その顔は真っ青になっていた。
 そんな陽子の様子を見て、いけると判断したのか男は強気に話を続ける。

「こちとら高い金払って神官様に治してもらったばかりなんだよ! なのに見てみろ。デリンクもまた傷口が開いて痛そうじゃねえか。こりゃあ、神官様に払う治癒の倍額の料金を払ってもらわねーと、話はすまねーぜ?」

「うおおお、いてえええ。ガングズ、助けてくれ。傷口が開いちまいそうだぜえ」

 やたらとオーバーなリアクションのデリンクというらしい男は、三人の中では細身の体型でナイフを腰に佩いた男だ。
 最初にいちゃもんを付けてきた、斧を背に帯びた肥満体型の男の名前はガングズというらしい。
 どうやらガングズはこの三人の中ではリーダー的な立場のようだ。

「ほら、デリンクもこう言ってるだろう? ほらほら、早くさっさと払うもん――」


「それ位にしておくんだ」

 ガングズが追い込みをかけようとした所に割り込んできた声があった。
 それは慣れない事態の対処に戸惑っていた信也のものだ。
 そして両者の間に割り込むようにして陽子の前に立つと、目の前の男を見上げた。

 信也の身長は百七十センチとちょいなので、シークレットブーツのようなものを履いていない限り、この巨漢の男の身長は恐らく百九十センチ近くはあるだろう。
 身長や体格というのはただそれだけで相手に威圧感をもたらす。
 信也も表面は冷静を装っていても、脈拍は上がり始め心臓がうるさい位に騒ぎはじめた。

「ああん? てめーは何なんだ?」

「彼女達は俺の連れだ」

 きっぱりと言い切った信也に鬱陶し気な視線を送ったガングズだったが、すぐにターゲットを切り替え信也に詰め寄る。

「じゃあてめーが代わりに治療費を払うってことだな?」

 普段からこういった事をやり慣れているのだろう。
 一般人が見たら震えあがりそうな顔で威圧をかけてくるガングズ。
 しかし信也も負けず劣らずといった調子で強く相手を睨みつけると、

「そのつもりはない。そもそも俺は少し離れた所から見ていたが、彼女達にぶつかっていったのはお前達の方だろう?」

 そう強く言い返した。
 実際、陽子達は前方不注意気味ではあったが、ぶつかりそうになった直前に避けようと体は動いていたのだ。
 だが、その動いた先にわざわざ合わせてぶつかってきたのは男達の方であった。

 しかしそんな信也の正論にも、馬耳東風といった態度で聞く耳を持たない男達。弓を背に帯びた男が「いい加減さっさと金払って失せればいいんだよ」などと好き勝手言っていた。

「いい加減にするのはお前達の方だ。こんな小さな子供と女性相手にゆすりをかけるなんて、弱者相手にしか強気になれない最低な人間だ」

 信也の言っている事は間違ってはいない。いないのだが、こういった輩には得てして正論を言うと逆切れを起こすというのはままあることだ。
 まあ、そこで逆切れするということはまだマシな方であるとも言えるのだが。

 三人の男の内、信也の言葉に一番反応を見せたのは弓を背に帯びた中肉中背の男だった。
 男は顔を真っ赤にしながら信也へと殴りかかる。
 その拳は意外と早く、不意を受けた事もあってまともに顔面に食らってしまう。
 続いて蹴りが飛んでくるが、信也はこれを後ろに下がって回避する事に成功した。

「お前達、何をする!」

 ここで即座に殴り返せないのは、こういった場に慣れていないせいもあるが、信也の大元の性格が一番の理由だった。
 揉め事が起こった際にまず言葉で解決しようとするのは、現代地球に於いては必ずしも悪い手ではなかったが、こちらの世界ではそんな事をしていると――

「ぐああぁっっ」

 このように相手の攻撃を受けるだけだ。

「いいぞ、モブスター。その調子で勘違いヤローをぶちのめせ!」

 続けて信也は何度か連続で殴られ続ける。
 そして、殴られる度に低く苦しそうなうめき声を上げ続ける信也。
 初めの内は激情にかられて殴りかかってきたモブスターだったが、殴っているうちに落ち着いてきたのか、今度は相手に苦痛を与える事を目的とした暴行へと切り替わっていく。

 一か所を集中して殴るのではなく、器用に均一に殴り続けるモブスターは、その手並みから慣れた様子が窺える。
 すでに信也は体中に痣ができていて酷い有様だ。

 陽子と慶介はその凄惨な光景を黙ってみている事しかできなかった。
 慶介は"水魔法"による攻撃という手があるにはあったが、街中での攻撃魔法の使用は基本的に厳禁だ。
 もっともそんな事抜きにしても、魔法を使うなどといった精神状態ではなかった。

 それは大人である陽子も同様で、"結界魔法"だけなら直接攻撃する訳でもないのでこの場ではかなり役立つし、使い慣れていないとはいえ"支援魔法"を使えば、信也にかなりの追い風を吹かす事も出来たはずだ。
 だがしかし、陽子の体はまるで別人に乗っ取られたかのようにみじんとも動かす事ができなくなっていた。

「っっひいぃ!!」

 ピチャっと陽子の頬の部分に信也の顔から出血した血が飛び散る。
 その艶めかしい感触と、錆びた鉄の匂いは陽子を恐慌状態へと陥れた。

 すでにまともにガード態勢も取れなくなっている信也に、モブスターと呼ばれた男は執拗に殴る蹴るの暴行を加えていく。
 その様子を血の抜けたような青い表情で見つめる事しかできない陽子と慶介。
 既に信也は、蹴られても反応らしい反応も見せずに地面に蹲ったままだ。
 陽子の脳裏に最悪の可能性がよぎった時、その声が聞こえてきた。

「そこまでだ」

 反射的にそちらの声がする方向に振り向くと、そこには陽子も初めて見る、森の妖精とも呼ばれる事のある種族、エルフの女性が静かに佇んでいた。




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