どこかで見たような異世界物語

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第三章

第65話 鍛冶士見習いのルカナル

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 町の南側にある商店街エリアで、装備を見繕う事にした北条率いる『サムライトラベラーズ』は、既に幾つかジョーディお勧めの店を回り、各自装備を整えていた。

 それら戦利品は同じジョーディのアドバイスを参考にしているため、信也達とそう変わらないものが多い。
 ただ北条は防御力よりも動きやすさを重視して、ハードレザーアーマーではなくソフトレザーアーマーを購入していた。
 同様に、由里香と楓もソフトレザーアーマーを購入し、他三人は防具の購入はしていない。

 そして芽衣と咲良はそれぞれ石田と同じような木の杖を購入して、それで装備の買い揃えは終わった。
 なお、北条達の方は、防具のサイズ調整は在庫のを微調整しただけで済んだので、その場で少し待った後に完成品を全員受け取ることができた。

 サイズ調整に若干時間が取られたとはいえ、早めにメインの買い物が終了した北条達は、信也パーティー同様に適当な店をぶらついて買い物を楽しんでいた。


 ――ただひとりを除いては。

 買う訳でもないのに露店に並べられた商品を見ながらあれこれ喋りつつ、一通り見終わったら次の店へ、という行程を繰り返す女性陣達。
 その様子を達観したような、諦めたような目で見ながらも周囲への警戒などは怠らない北条。

 先ほども『ダラス鍛冶店』という店を覗いてきたばかりだ。
 する事もなかったので、北条も店内の商品を見回していたのだが、特にこれといった特徴のない下町の鍛冶屋さんといった感じで、武器や工具、調理器具から釘など雑多な品物が並んでいた。

 結局その店でも何も買う事なく店を出て、見通しの良いところまで移動すると、次の店を物色し始める女性陣。
 ため息をつきながらも周辺を見回していた北条は、先ほどの『ダラス鍛冶店』から一人の青年が出てくる所を見かけた。

 見た目からも店の関係者だろうと、特に注意を払っていなかった北条だが、前方不注意だった彼はそのまま咲良へとぶつかってしまう。

 短い悲鳴を上げぶつくさ文句を言う咲良を尻目に、北条は足元に転がっていた彼の持ち物を拾い集める。
 そしてその内のひとつ、工具などに交じって何故か食事用のナイフが落ちており、それを拾った北条はその出来に良さに気付いた。

 そこで落ちたものを集めてくれた事に礼を述べる青年に対し、北条はそのナイフについて尋ねる。


「え、あ、はい。僕の作品です。……親方には投げ捨てられましたけど」

「ほおぅ、そいつは見る目がない親方だぁ。さっきそちらの店を見せてもらったが、十分店に並んでいてもおかしくない出来だと思うがなぁ」

 そう言って北条は青年の方を見つめた。
 その言葉を聞いた青年は、嬉しさを隠せない様子で北条を見返す。
 先ほどまでの沈んだような表情とは打って変わった明るい表情になった青年は、北条が手渡した物の中からナイフを取り出すと、

「なら、どうぞ! これを受け取ってください! 不注意でぶつかってしまったお詫びと、僕の作品を認めてくれたお礼です!」

 ぶつかったのは北条ではなく咲良なのだが、その事には言及せず北条はうなずきながら返事をする。

「あぁ、わかったぁ。こいつはありがたく受け取っておくぞぉ。ところで、あんたの名前はなんていうんだぁ?」

「僕の名前はルカナルといいます。そこの『ダラス鍛冶店』で今は下働きをしています」

「そうかぁ。俺の名前は北条だぁ。見ての通り冒険者をしている。また機会があったら寄らせてもらうかもしれん。よろしくなぁ」

 そう言って右手を翳す北条。
 青年もそれに応えて右手を翳すと、

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 その後、別れの挨拶を交わすとルカナルはどこぞへと浮かれ足で去って行った。
 彼の姿が見えなくなった所で、咲良が北条に話しかけてきた。

「……そのナイフ、そんなに良いものなんですか?」

 咲良の疑問の声に、北条は満足そうな笑みを浮かべて答える。

「ああ、別にこのナイフ自体はそんな値打ちものでもないだろうがなぁ。あの青年自身は良いもの・・を持っていると思うぞぉ」

 そう口にしながら、北条は受け取ったナイフを通行人などからは見られないように、こっそり・・・・《魔法の小袋》へと収納した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 正午の鐘が鳴って小一時間程が過ぎた頃、合流を果たした信也達と北条達は、合流場所である宿の食堂にて昼食を取りながら午前の話などをしていた。
 幸い誰かに絡まれるといった事もなく、無事買い物を終えた彼らは、次に今日の午後の予定を立て始める。
 といっても、これといって遊びにいくような場所に心当たりはないし、結局の所選択肢はそんなに多くはない。


「この街を出発するのが三日後だっていうのに、なんかあんますることなくなっちゃったな」

 思わず龍之介がそうぼやいてしまう。

「別にすることがない訳ではないと思うが……そうだな、今日はもう遅いだろうが明日は朝からギルドに行って簡単な依頼を受けてみるか?」

 冒険者ギルドでは、受理された依頼は急ぎのものでない限り、大体次の日の朝には掲示板に掲示される。
 それ故、朝の冒険者ギルドは非常に混雑している。

「お、いいねえ。さんせーさんせー」

「そうね、いいんじゃないかしら」

 信也の暴行事件以来、どうも気分が参りがちだった陽子は、気分転換になるかもと賛成の意を示す。
 ギルドの依頼は必ずしも外に出る訳ではなく、街中での依頼も存在するのだが、今は一旦外に出てみたい、というのは陽子だけではなかった。

 こうして明日の予定は決定されたのだが、今日の午後の予定は特に案が浮かばなかったので、結局今日もギルドで資料室組と訓練場組に分かれる事になった。
 龍之介などは訓練場組へと加わっていたが、今日はムルーダ達の姿は見当たらなかったので、適当に北条や信也らとの模擬戦をし、魔法組は魔法の練習と、その内容はさして昨日と変わりはない。

 陽子と慶介は近接戦闘にもしっかりと励み、ヘトヘトになるまで武器を振るった。
 その様子は鬼気迫るものがあり、二人があの事件をどれだけ引きずっているかが伝わってくるようだ。


 そして今日も陽が落ちるのをきっかけに、ギルドを出て宿へと戻ってきた。
 それから少しするとジョーディも宿屋に帰ってきたので、みんなで夕食を取るため食堂へと向かう。
 いつものようにお喋りを交えながらの夕食となったが、今の話の話題はジョーディの事だった。

「で、いっつもギルドで何話してるんっすか?」

 それは由里香のこの質問がきっかけだった。
 ジョーディはその質問に対し、まずは周辺をチェックして、近くのテーブルに人が座っていない事を確認してから小声で話し始めた。

「勿論例の件についてですよ。ギルドとしても色々対応することがあるんです」

 例の件というのがダンジョン発見の事だというのは由里香達にも理解は出来たが、それに対してギルドが何をしてるのかまでは関知していなかった。
 ダンジョン発見の情報は準備を整えつつ約一か月後に告知されるとの事で、それまでに他の冒険者ギルドの支部、それからもちろん本部へとその情報を伝えることがまずひとつ。

 次にこの地を治める領主にダンジョン発見の報告を行い、今後の方針を定めること。
 なお、今回は冒険者(発見当時は違ったが)がダンジョンを発見したので、領主がそのダンジョンの所有権を訴えることは出来ない。

 あとは、冒険者ギルドグリーク支部で特別に編成したパーティーを実際にダンジョンへと派遣して、表層部分などの調査。
 《ジャガー村》の冒険者ギルド出張所を正式に支部へと昇格させる為の手続きと、建物を建築するための人材の確保と派遣。

 他にもダンジョン探索に向かう冒険者の為に、新しく鍛冶屋とか雑貨屋とか必要な施設と人員を《ジャガー村》へと誘致などもするらしい。
 ジョーディの話を黙って聞いていた北条は、そこでジョーディに対してひとつ提案を持ち掛けた。

「その《ジャガー村》への誘致だがぁ、ひとつ推薦したいやつがいる。この街の南商店街の、端の方にある『ダラス鍛冶店』で下働きをしているルカナルって男だ。腕はいいと思うんだがぁ、親方に恵まれてないようでなぁ」

 北条の提案を受け、ジョーディは腕を組んで考えを巡らしてから答える。

「うーん、そうですねえ。一応今でも《ジャガー村》にはダンカンさんっていう鍛冶士の方が一人いらっしゃるんですけど、今後の事を考えると今の内に鍛冶士は確保した方がいいでしょうねえ。とりあえず、マスターには報告しておきますので、後は相手の出方次第ですかね」

「そうだなぁ。あ、誘いをかけるときは俺の名前を出してくれないかぁ。今日初めて会ったばかりではあるがぁ、多少でも接点がある相手からの方が、相手も誘いに乗りやすいかもしれん」

「分かりました。マスターにはそう伝えておきます」

 そして一通り話がまとまると、話の内容が気になったのか、龍之介がルカナルの事について尋ねてくる。
 その後はルカナルの事や、今後の《ジャガー村》の事についてなど語り合いながら、その日の夜は更けていく。


 彼ら異邦人達に新たな運命の歯車がまたひとつ絡み、そして動き始めている事は誰にも知る由はなかった。




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