どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
78 / 398
第四章

第67話 鉱夫街

しおりを挟む

「随分と人通りが多いんですねえ」

 そう口にするメアリーの視線の先には、道の向かい側から街の方へと向かう二台の荷馬車と、それを操る御者が少し大きな声で喋りながら接近してくる様子が映っていた。

 ここは《鉱山都市グリーク》から東へと通じる道。
 この道だけは、《グリーク》から周辺の町村へと通じる道とは違って、きっちりと石畳で舗装されていた。
 そのため馬車も運行しやすくなっており、こうして今も二台の荷馬車とすれ違う所だ。

 この道は《鉱山都市グリーク》から東にある《ドルンカークの森》へと通じており、終点には鉱夫街などと呼ばれている場所がある。
 そこは、鉱夫達の住居と鉱石を精錬する施設、採掘した鉱石置き場などがあり、奥には幾つか坑道の入り口も散在している。

 書類上ではここも《鉱山都市グリーク》の一部という事になっており、ここの鉱山を掘るために発展していったのが《グリーク》という街だ。
 本街・・から歩いて一時間と離れた場所に実際の鉱山があるのには理由がある。

 まず鉱山の傍では大勢の住民の水源を確保するのが困難な事、すぐ傍にある《ドルンカークの森》には魔物が蠢いていること、鉱山内部でもダンジョン程ではないが魔物が湧く事がある事。

 こういった理由で少し離れた場所に街が作られていった訳だが、大量の資源を運びやすいように石畳で道が整備されたり、鉱山傍に鉱夫達の住居を用意したりと、グリークの主力産業の為に多くの労力が割かれている。

 冒険者からの視点としては、直接森へと向かう場合も勿論あるのだが、先に鉱夫街に寄って軽い休憩や準備を整えたり、何かあった時のための集合場所にしたりなど、鉱夫以外に冒険者にとってもこの場所は大きな役割を持っている。
 そして信也達もまずはこの鉱夫街へと向かい、そこから二つのパーティーに分かれて行動すると決めていた。

「鉱山かー。オレのイメージだと、罪人が働かされてるところっつーイメージがつえーな」

 鉱山での労働はきついものである、というのは地球でもこちらでも変わりはないようで、実際に龍之介の言うように犯罪奴隷も多く労役についている。
 ただし、ファンタジーなこの世界では昔の地球に比べれば遥かにマシではあった。

 単純にレベルアップや職業による補正で身体能力が優れている事もあるし、"土魔法"の使い手によって坑道を強化することで、落盤事故などの被害もある程度抑えられたりもしているからだ。
 そして坑道内で沸いてきた水を排出するのにも"水魔法"が役に立ったりと、魔法による補助の力は大きい。


「確かに強制労働ってイメージが強いわね。アンタも鉱山で働いてきたらどう?」

「ふんっ、オレ様にはそんな泥臭い仕事は似合わないぜ。その内この腕一本で成り上がってやるからな!」

「ま、言うだけなら誰でもできるケドねー」

「なにおう!」

 龍之介と咲良がそんな取り留めもない話をしてる間にも歩みは進み、やがて目的地である鉱夫街が見えてきた。
 街といってもあくまで街の一角を切り取った程度の規模で、外壁の変わりに木の柵で周囲を囲われていた。
 そして鉱夫街の西側にある入口脇には、《グリーク》から派遣された衛兵が立ち番をしていて、信也達は挨拶を交わして中へと入っていく。

 中にはいると、周囲からはがなり立てるような鉱夫たちの喧噪が聞こえてくるが、初めて訪れた信也達にもうっすら分かるほどその様子はどこかおかしかった。
 そしてそれは鉱夫街の中心部にある広場へと到着した事で、確信へと変わる。
 広場はそこそこの広さがあるのだが、そこにずらりと鉱夫たちが集まっていたのだ。
 しかも皆つるはしやらシャベルやらを手に持ち、剣呑な雰囲気も漂っている。


「な、なんだ!? ストライキか?」

 信也も思わずその様子に妙な事を口走ってしまう。
 龍之介もこの異様な光景に「おいおい、一体なにがあったんだー?」と困惑の様子を隠し切れない。
 すると、そんな龍之介の声を聞きつけたのか、鉱夫集団の中心部から龍之介の元へと近寄ってくる男の姿があった。

「リューノスケ! お前達も来てたのか!」

 そう声を掛けてきたのはギルド訓練場で一緒に訓練をし、特に龍之介とは妙に打ち解けあっていたムルーダであった。

「なんだ、ムルーダじゃねーか。なんか妙な騒ぎが起こっているようだが、お前らが原因だったのか?」

 龍之介の問いかけに、そんな訳ないと軽く手を振りながらムルーダが答える。

「んな訳ねーだろ。おれ達は適当に常設依頼でもやろうかと、《ドルンカークの森》まで行ってたんだけどよ……」

「はーん、俺達と同じ目的か」

「ん、ああ。そうかお前達もか……。いや、まあそれなら話は早いか。おれ達は特にこれといった目標は決めずに森へと向かったんだが、その先で厄介なモノ・・を見つけちまってな」

 そう言ってしかめっ面を浮かべるムルーダ。

「危険な魔物でも見つけたのか?」

 思わず横から口を挟む信也に対し、イエスともノーとも言えない反応を返すムルーダ。

「危険っちゅう程でもねーとは思うんだけどな。ゴブリン共が比較的森の浅いところで、いつの間にか村を作ってやがってな――」


 なんでも妙にゴブリンとの遭遇が多いなと思いながらも、依頼達成には丁度いいやと余り気にせず森を探索していたらしい。
 そうしたら偶然にもゴブリンの村を発見したらしく、慌てて鉱夫街へと引き換えしてきたという訳だ。

「数は……パッと見た感じだと百から多くて百五十位だったかな。作られたばかりの新しい村みてーで、メイジやプリーストなどの数も少なめ。ノーマルゴブリンが多かった印象だな」

「けっ、ヤツらはほんと隙を見せるといつの間にか増殖してやがるっ!」

 そう吐き捨てたのは近くで話を聞いていた、鉱夫と思われるガタイの良い禿頭の男だ。

「まあ、そういった訳でこれからその村に襲撃をかけるつもりだったんだが……丁度よかった。お前達も手伝ってくれねーか?」

 妙に眼光の鋭いその禿頭の男が信也達へと頼みをもちかけてきた。

「ゴブリンの魔石はお前達冒険者で山分けしてもらって構わない。俺達としては、とにかくあいつらを駆除したいだけなんでな」

 突然の申し出に戸惑う信也達。
 そこでまずは身内で話をさせてくれと男に告げ、軽い会議を始める。
 短い話し合いの結果、元々ゴブリン討伐は目的のひとつでもあったので、受け入れる方向で話はまとまった。

「だが、その前にこちらの戦力を教えてくれぃ」

 しかしそれも味方の戦力にもよる。
 先ほどの様子だと、信也達がこなかったとしても討伐に向かっていたと思われるし、ムルーダもそれほど危険だという認識を持っていなかったので、勝算はあるようには思えるが……。

「そうだな。まずは、俺達鉱夫が七十六名。ゴブリン程度なら俺達も森からふらっと来る奴と時折戦ったりしてるから、一対一じゃまず負けねーぜ。それから、この鉱夫街に詰めている兵士も立ち番の者以外は七名全員参加してもらえる事になっている。あとは、報告してきた坊主の冒険者パーティーが五人。合計で……八十六人か?」

 最後の計算だけちょっと自信がなさそうだったが、確かに人数だけみたら結構な数である。……計算が間違っていたのはわざわざ指摘しなくてもいいだろう。
 だが、それだけでは安心できなかったのか、北条は更に追加の情報を求めた。

「それで、おたくら鉱夫の中の最高レベルと、兵士の最高レベルはどれくらいなんだぁ?」

「む、なんだ、妙に心配性だな。まあ、その方が冒険者は長生きできるってもんか。鉱夫の中では俺が十六レベルで一番ではないが高い方だ。兵士の方は……たしか一人だけ二十を超えていたのがいたはずだ」

 人数だけで言えば、相手のゴブリンは最低でも百体との事だから、信也達が参加したとしても数の上では負けている。
 しかしゴブリン相手なら十分以上にやれるだろう。

 結局鉱夫の頼みを受ける事になった異邦人達は、兵士の人も交えて作戦を立てる為に簡単な打ち合わせを行うのだった。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

処理中です...