どこかで見たような異世界物語

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第四章

第68話 ゴブリン村征伐戦 その1

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「作戦といっても、大抵の人は従軍経験などないだろうから、単純なものとなる」


 鉱夫の代表数名、ムルーダのPTからはムルーダとシィラ、異邦人達からは信也、北条、咲良、龍之介、メアリーが参加し、事前の打ち合わせが行われていた。
 先ほどの発言は、この鉱夫街の警備主任である衛士長の言葉であり、禿頭の鉱夫が言っていたレベル二十越えとはこの男の事であった。
 名をトムといい、少し疲れた中年サラリーマンのような印象を受けるが、腕は確からしい。

「まずは村の周囲を斥候で探った後、襲撃に適した場所に部隊を配置する。地形にもよるが、最低三個所に分けるつもりだ。そして合図と共に攻め入る訳だが、まず最初に遠距離攻撃の出来る者達で、役職付きのゴブリンを先に始末してほしい」

 役職付きのゴブリンとは、ゴブリンメイジやゴブリンプリーストなどの事を指す。
 ホブゴブリンは役職付きには含まないが、ホブゴブリンにもメイジ種などは存在するので、そちらはホブゴブリンの役職付きという扱いになる。

「後は全員一斉に襲撃をかける。作戦は以上だ。何か質問がある者はいるか?」

 そう言ってトムがみんなの顔を見遣るが、特に意見がある者はいないようだ。
 作戦自体が単純で分かりやすく、所詮はゴブリン相手なので力押しでも行けると思っているからだろう。

「よし、では早速行動を開始する。ムルーダ達のPTは目的の場所までの案内を頼む」

「おう、まかせとけ!」

 軽く自分の胸を小突き自信満々といった様子で答えるムルーダ。
 こうして急造チームによるゴブリン村征伐作戦が急遽始まったのだった。


▽△▽△


 準備などに多少時間をくったものの、鉱夫街を出発してから二時間程で目的のゴブリン村の近くまで辿り着く事が出来た。
 村自体はまだもう少し先になるのだが、先に斥候を放って情報を集める必要がある。
 すでに斥候としてムルーダPTの一人であるディランが調査に向かっており、今は彼の帰りを待っている所だった。

「相手がゴブリンだとはいえ緊張するわね……」

 陽子のその表情はどこか不安そうにも見える。
 他にもメアリーや慶介なども同じような表情をしており、大規模な戦闘を前に皆緊張をしているようだ。

「はんっ、ゴブリン程度なら経験値稼ぎに丁度いーぜ」

 そんな中緊張とは無縁の者も数人いるようで、龍之介はその内の一人だった。

「まあ確かにね……。ただ、魔法組で範囲魔法を使える人がいたらもう少し楽になりそうだったんだけど」

 そう口にする咲良は、ギルドの訓練場で範囲魔法の練習をしていたのだが、ついぞ発動する事はできなかった。
 初級魔法にも【ファイアボール】や【ライトニングボルト】のように範囲を攻撃出来る魔法は存在するのだが、どれも単体攻撃魔法より習得難度が高くなっている。

「範囲魔法ねぇ。ちょいと試してみるかぁ」

「え、オッサン使えるのか?」

 北条の呟くような声に思わず聞き返す龍之介。

「出来るかはわからんがぁ、コレ・・の効果も試すついでになぁ」

 そういって左手中指に光る指輪をみんなの見える位置に翳す。
 その指輪は石などが嵌められている訳ではないが、プラチナリングのようにきれいな銀色をしており、僅かに幅のある縁部分には幾何学模様の装飾が施されていた。

「え、その指輪どうしたんですか?」

 メアリーが指輪を見つめながら質問をしてくる。
 他にも女性陣はその指輪が気になるようで、じっと北条の答えを待っているようだ。

「どうしたって、そりゃあ勿論買ったんだよ。昨日……いや、一昨日かぁ。なんでも魔法が上手くなる指輪らしいぞぉ。うさん臭い男の露店で売ってたもんだから、効果をあてにしてる訳でもないがなぁ」

「へー、効果はともかく見た目は結構いい感じですね、その指輪」

「確かに……。これ幾らしたんですか?」

 どうやら女性陣には受けがいいようで、次から次へと質問が飛んでくる勢いだった。

「んあ、こいつは確か……十銀貨位だったかな」

「それなら特殊効果がなくても"買い"ね」

「うんうん。私も同じのが同じ値段で売ってたら絶対買っちゃう」

 まだそんな余裕のある生活を送れている訳でもないのに、これ程食いつきが良い女性陣の反応に、若干北条はたじろいでいた。
 そんな話をしている間にも斥候に出たディランが戻ってきたようで、最終打ち合わせを行うため、先ほどのメンバーに集合するようにとの号令がかけられた。


「少し想定外な事が判明したが、予定自体は当初の通り行う」

 トムの発言にみんな沈黙を持って応える。
 想定外な事、というのは敵の数が予想より多かったという点だ。
 当初は百から百五十程度と思われていたが、恐らく百五十から二百程度と情報修正されたのだ。

 だが、元々の人数だったならまだしも、新人とはいえ更に冒険者が十二人も加わったので問題はないと判断された。
 ダンジョンの魔物とは異なり、フィールドの魔物は状況によっては背中を見せて逃げる事もよくある。全てが死に物狂いで襲ってくるダンジョンとは違うのだ。

 こちら側としても本来取り逃したくはないが、この数相手では多少の取りこぼしは仕方ないだろう。

「部隊は村の北東部、南東部、南西部の三方向に配置して攻め込む。そして、弓や魔法などの遠距離職は村の東部が少し小高い丘のようになっているので、そちらから支援を行ってもらう。攻め込む合図は最初の遠距離攻撃を撃ち終わった後になる。何か質問は?」

 最終確認を取るトムに、一人手を上げた者がいる。
 それは北条だった。

「相手の数が予想以上だという事で、ケガをするものも増えるだろぅ。俺達の中にはヒーラーが二人いる。村の東の高台に配置するので、重傷で動けなくなる前に退避してくれぃ」

 咲良とメアリーに確認を取った訳ではないが、この打ち合わせの場に参加している二人は反論はないようで、静かに頷いていた。

「そうか! それは助かる。これで犠牲も少しは減るだろう」

 あくまで偶然居合わせた冒険者として協力するだけなので、本来ならこういった場面であっても、冒険者達は自分の安全を優先して、無理に他の人の為に治癒魔法を使う必要はない。
 その治癒魔法によって、いざ仲間が負傷をした時にMPが足りないなんて事もありうるからだ。
 無論これがきちんとした依頼を受けたものなら、依頼内容によっては話も多少変わってくるのだが。

 しかし、北条達も完全に協力体制を取るつもりはない。
 陽子の"結界魔法"は使う予定だが、芽衣の"召喚魔法"や、何より慶介の【ガルスバイン神撃剣】を使うつもりはなかった。

 この二つのスキルはどちらも目立つスキルである。
 そのため、今まで何度か行ってきた話し合いの中で、人前では余程の事がない限り使わない、という方針を定めてあったのだ。

「ああ、だが魔力にも限界はあるのでそこは注意してくれぃ」

「勿論だ」

 トムは短く答えると、部下である衛士たちに指示を出し部隊を三つに編成し、それらの指揮を執るように命じる。

 信也達冒険者サイドも各々の役割によって仕分けされた。
 まずムルーダ達のパーティーは、魔術士であるシィラと狩人であるディランが遠距離職として村の東に布陣。残り三人は南東部隊の配属となる。

 そして信也達に関しては、北条、咲良、芽衣、陽子、信也、石田、慶介、メアリー、長井の九人と人数の大部分が東に、残る三人がムルーダ達と同じ南東部隊に配属となった。


「……お前達のパーティーって、なんか、すげーな」

 その偏った構成にムルーダもぽかんと口を開けて間抜けな表情を晒していた。

「まー、うちらはヒーラーも二人いるしな! それにリーダーとオッサンは遠距離だけじゃなくて近距離でもいけるぜ」

「ほらほら、そんなとこで話してないで、さっさとあんた達は南東部隊の所にいってきなさい」

 仲間の自慢をしていた龍之介と、話を聞いていたムルーダが、そう咲良に言われて追い出されるように部隊へと合流する。
 そして咲良も他の後衛陣も、所定の位置へと向かって移動を開始した。
 なお、東の遠距離職は冒険者組以外では弓を持った兵士二人だけである。
 今回の指揮官であるトム衛士長は北東の部隊の指揮を執る事になっている。

 そして十五分程が過ぎ、全員の配置が完了して、後は遠距離部隊の攻撃を待つのみとなった。
 北条達の眼下にはゴブリン達の暮らす村が見える。
 鬱蒼と茂る木々はその一帯だけは生えておらず、その少し開けた場所にゴブリン達は村を建設したようだ。

 ただ、村といっても粗末な家が何件か立ち並ぶだけではある。
 あの調子では野ざらしで屋外で寝泊まりしてるゴブリンも多いだろう。
 元々森の中でも普通に暮らしていけるゴブリンにとっては、家など特に必要はないのかもしれない。


「よぉーし。そいじゃぁ、まー行きますかぁ。――【エアーダンス】」

 北条のいまいちやる気のない声をきっかけに、他の者も一斉に弓や魔法を撃ち始める。
 ゴブリン村征伐戦はこうして始まった。




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