どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第四章

第75話 初依頼報酬

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 話し合いの後、休憩を小一時間挟んでから昼食を取る事になった信也達。
 しかし、半数近くはほとんど食事を取れていない状態だった。

「アンタ達、よくこの状態で食べてられるわね」

 陽子が呆れたような、感心したようないまいち判別が付きにくい調子で言う。

「おう! 食わねーと元気沸かねーからな」

 そう言いつつも、いつもよりは食事のペースが遅い龍之介。
 お腹の具合でいえば、みんな空腹ではあるのだが休憩を挟んだとはいえ、凄惨な現場を見てしまった為か、未だに影響を受けているらしい。

「そうだな、食べられる時には食べておくのは重要だ……例え食べたくない状態や心境であってもだ」

 信也もしかめっ面をしながらも食事をしていた。
 皆が食べているのは、朝寄った冒険者ギルドを出た後に、近くの露店や移動販売していた人達から買ったものだ。

 その場で食べるものと、後で食べる用の携帯しやすいものとに分けて購入していたのだが、特に昼食用に買ったものが、肉の主張が激しいものだった由里香などは、〈魔法の小袋〉から取り出してみただけに留めていた。

「由里香ちゃんはよく動くんだから、ちゃんと食べたほうがいいよ~」

 そんな由里香を見かねて声をかける芽衣。
 芽衣自身は生野菜とベーコンを挟んであるパンに齧りついていた。

「ううー、ううー……。確かにもうお腹もげんかいー」

 結局食欲に負けた由里香は、タレのついた大きな肉をいくつもサンドしてあるパンを食べ始めた。
 焼きたての肉を挟んだそのパンは、〈魔法の小袋〉の中で時間を止められていたので、暖かい状態のままだった。

 そのため、食欲をそそる暴力的な匂いを発しており、比較的すんなりと由里香はそれに屈してしまった。
 昼食の時間はそれからも続き、食事になかなか手を付けられなかった者も、幾人かは少し位お腹に収めることはできた。


「よーし、それじゃー午後もがんばるよー!」

 何だかんだで昼食を完食した由里香が、元気そうに拳を握ってそう口にする。
 魔法職の者達も、元々そこまでMPをつかってた訳でもないので、完全回復とまではいかずとも、十分問題ないレベルには回復していた。


 その後、午後いっぱいの時間をかけて森の浅い所を中心にかけずり回った彼らは、ホブゴブ含むゴブリン系を二十四体、コボルトを四十二体、薬草の〈ヘルマ〉を七十株、〈グルアジン〉を二十株それぞれ採取し、ようやく帰路へとついた。

 森の中では結局テイルベアーに出会う事もなく、依頼を遂行していく内に、徐々に昼間のあの光景も頭の中から薄れていく。
 もちろん完全に忘れた訳ではないが、グリークへと歩みを進める彼らの表情は、幾分かマシになっていたのだった。



▽△▽△▽△▽



「はい、こちらが全部合わせた報酬になります。薬草は全部状態がよかったですし、この時期には見つけづらい〈グルアジン〉も持ってきていただいたので、薬草分に関しては少し多めに査定してあります」

 夕方の混みあう冒険者ギルド内において、もっとも混雑する場所がこの報告・買取カウンターだろう。

 そこには一日の仕事を終えて帰ってきた、冒険者による行列が出来ており、報告をするリーダー以外の者達は、近くの待合用の座席か軽食件待合スペースの方で、食事をしたり飲み物を飲んだりしながら仲間の報告を待っていた。

 報告・買取カウンターは幾つもあるが、隣同士は仕切りがされており、またギルド職員は直接その報酬額を口にはしない。
 カウンターの上には木板が立てかけられており、その木板には小さなパネルのような木板を嵌められる個所が六ケ所ある。

 それらは金貨□□、銀貨□□、銅貨□□のように区分けされていて、その窪んだ部分にそれぞれ数字の描かれた小さい木札を嵌めこんで報酬額を呈示するシステムらしい。

 信也の前にあるその木板には銀貨の所に二十一、銅貨の所に五十の木札が張られていた。
 木板に報酬額を示す木札を呈示した後、職員の男性は報酬である銀貨と銅貨を直接カウンターの上に乗せた。

(袋に入れて、とかじゃなくて直接渡すのか)

 などと思いつつも、信也は枚数が間違ってないか確認した後に、それらの貨幣を自分の手持ちの袋へと移す。
 手持ちの袋がない場合は、一応職員に頼めば報酬から天引きする形で袋もつけてもらえる。
 有料化したレジ袋のような感じだが、報酬額が金貨以上になってくるとサービスで袋を付けてくれることもあるらしい。

「はい、ではこちらになります。この度はありがとうございました。緊急依頼とは別扱いになりますが、今回の事はギルド側としても大きな評価になるでしょう」

 神妙な顔で信也は職員から報酬を受け取る。
 今回の件は、どうやら先にトム衛士長からの知らせがギルドまで届いていたようで、パーティー名を告げると、今回だけ特別な対応が取られることとなった。

 それは薬草の買取のプラス査定とはまた別で、本来ならGランクである信也達はFランク以上の常設依頼は達成できない事になっているのだが、今回に限りその条件を撤廃し、報酬がもらえる事になったのだ。

 一応適正ランクより上の魔物、もしくは規定個数に及ばない半端な数の魔石でも、買取自体はしてもらう事は可能で、今回も幾つかそうした半端な数のも別途買い取ってもらっている。

 ただし、常設依頼として扱われない魔石の買取は、依頼として受けるより安い値段での買取となってしまう。
 今回の場合はホブゴブリンとその役職持ち、それからゴブリンチーフの魔石が常設依頼を受けた時と同じ値段で引き取ってもらったので、そこそこ買い取り額は増額されている。

「それと、こちらをどうぞ。『ムスカの熱き血潮』からの持ち込み品の受け取り札になります」

「むすかの熱き血潮? 何の事だかわからんが……。それとその札はどうすればいいんだ?」

 困惑顔の信也に職員が説明を加える。

「Gランク冒険者パーティー『ムスカの熱き血潮』のリーダーである、ムルーダさん達が持ち込んできたテイルベアーのものですね。貴方から見て左手側にある扉を先に進むと、隣にある解体専用の施設に繋がっていますので、そちらでこの札を渡してください。持ち込まれてから時間も大分経っているので、解体なども終わっているかと思います」

「ああ、そうか。ムルーダ達、ちゃんとここまでもってきてくれたんだな」

 幾ら身体能力に優れたこの世界の人間でも、あの重さを運ぶのは大変だったろうと、感謝を込めながら信也は受け取り札を受け取った。
 その後パーティーメンバーに経過を報告し、全員で隣の建物にある解体場まで移動して受取札を渡すと、


「六十銀貨だってぇええ!」

 由里香の驚きと嬉しさが混じった声が解体場に響き渡る。
 その比率は嬉しさよりも驚きの方が大きかっただろうか。

 先ほどの受付カウンターでもらった二十一銀貨と五十銅貨というのは、実は魔石だけでなく採集品も加わっての価格だった。
 薬草なども採集品ともいえるが、それとは別にゴブリンの中で稀に角が生えてる個体がおり、この角が収集品として買取対象になっているのだ。

 そう、ダンジョンではドロップ品として稀に魔石と一緒にでてきたアレだ。
 今回は、ゴブリンの小角という名前だったらしい小さな角を六つ、それよりサイズの大きい、ゴブリンチーフやホブゴブに生えていた、ゴブリンの大角を二つ一緒に買い取ってもらっていた。

 だが、テイルベアーの収集品は、肉は食料として一体だけでもかなりの量が取れ、毛皮も勿論用途がある。そして更には胃の部分が薬にもなるということで、まるまる一体を解体に出すだけで今回の魔石・採集報酬の三倍近くもの値段が付いた。

 テイルベアーは一般人からすると恐怖の象徴であるが、Dランクの冒険者にとってはこの春先の時期の美味しい獲物でしかない。
 とはいえ、大きさが大きさなのでDランクの冒険者でも一日にそうたくさん狩れる訳ではないのだが。

「へぇ、結構な額になるのね。ムルーダ達には感謝しないと」

 思わぬ収入に咲良も緩む頬が止められないようだ。

「ってーことは、全部で約八十銀貨って事になるか。大体一人当たり六銀貨だな!」

 龍之介の言う通り、今回の報酬は一人頭六銀貨となった。
 端数である九銀貨と五十銅貨は共同資金となる。

 ちなみにテイルベアーの魔石は、血抜きする時にすでに抜き取ってあり、依頼報告時にもらった二十一銀貨の内に含まれている。
 もっとも細かい内訳までは教えてもらっていないので、テイルベアーの魔石に幾らの値段がついたかは信也も知らないでいるが。

「それではそろそろ宿に戻りましょうか。今日は大分疲れてしまいました」

 見た目にはそれほど疲労の色は見えないが、メアリーがそう意見するとみんなもそれに従いギルドを後にする。
 龍之介や由里香たちが、夕方頃に集まる冒険者目当ての店から串焼きなどを買いつつも、『森の恵み亭』へとついた頃には既に日がほとんど暮れた後だった。



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