どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第五章

第93話 長期戦

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 召喚罠部屋での罠発動からおよそ三十分と少し。
 今なお室内では激闘が繰り広げられていた。


「ハァハァ……。一体、どれだけ、出てくるのー!」

 話ながらもゴブリンへと拳を打ち付けていく由里香。
 その声からは流石に疲れが見え始めていた。

 前回と比べ格段に身体能力が向上したとはいえ、長時間の戦闘は体力をガンガン奪っていく。
 こちらのパーティーには"回復魔法"の使い手もおらず、魔法で疲労を取り除くこともできない。
 ポーションで似たような効果のものはあるらしいが、今の彼らには手の届くものではなかった。

 あれから新しく召喚される度に範囲魔法をお見舞いしていたのだが、その数が十を超えた辺りで、楓からMPが厳しくなってきたと申告があった。
 以降は由里香と共に近寄って来るゴブリンや、範囲魔法の射程外にいるはぐれたゴブリンなどを、お得意の存在感の無さと"影術"を活かして一体ずつ首を掻っ切っていく。

 それからそう回数も重ねずに芽衣の方もMPが厳しくなってきたと、珍しく悔しそうな口調で伝えてきたので、現在は敵の遠距離攻撃をしてくるゴブリンや前衛の様子を見て援護射撃をするに留まっている。

 持久戦は数の少ない側にとっては相当不利に働くのだが、今の所戦線が崩れることもなく持ちこたえていた。
 ただ投げナイフが尽きた陽子は、若干ヒマそうではあった。

 こうまで持久戦が継続しているのは、今回の罠のボスであるゴブリンチーフがいまだ健在であるからなのだが、何も範囲魔法に耐えまくっていたという訳ではない。
 そうではなく、僅かな手勢を連れて後方に退避していたからであり、範囲攻撃の範囲内に収まっていなかっただけだ。

 また経験値などを目当てにしていた北条達も、後方にいるチーフには魔法攻撃などを仕掛けていなかったので、未だにピンピンとしていた。
 これがフィールドだったら、相手もとっくに逃げ出す算段をしている頃だろうが、今この場で指揮をしているゴブリンチーフは、ただ機械的に役割りを果たそうとしているだけのようにも見えた。

 既に百……いや、二百体くらいはゴブリンを屠っただろうか。
 部屋のあちこちには、その証拠であるドロップアイテムが散らばっており、中には恐らくゴブリンスカウトのドロップ品だと思われる、ゴブリンダガーまで転がっていた。

 今は回収している余裕などはないが、そうした報酬・・を目にしたりして維持してきた士気も、いつ終わるともしれない戦闘によって徐々に削られつつあった。

「ふぅぅ……。ねえ、もうそろそろアイツやっちゃってもいいんじゃない?」

 たまらず咲良が、奥でふんぞり返っているゴブリンチーフを指差しつつ提言してくる。

「そう、ね。私はそこまでMPは消費していないけど、みんなそろそろキツイんじゃないかしら」

 陽子も同意見のようだが一番負担が少ないだけあって、まだ余裕はありそうだ。
 しかし、前衛で息を荒くしながら戦っている由里香は、まだまだやる気のようで、動きに精細を欠いてきてはいるが、戦闘に対する意欲はいまだ健在だ。

 同じくあれだけ動きながら戦闘し、魔法まで使っていた北条も、ズバシャァっと、元気に敵を薙ぎ払っていた。

「わたし、も……まだいけます~」

 勇ましい言葉ではあるが、魔法の使いすぎで無理をしているせいか、芽衣の声に含まれる、いつもののほほんとした響きは弱かった。

「で、でもみんな、もういっぱいいっぱいじゃないの?」

 意外と継戦派が多い事に驚きながらも、陽子の説得が続く。
 しかし、そこに北条の声が響き渡り、話の流れは変わっていく。

「……これはぁ、いけるぞぉ! 恐らくストック・・・・がもう尽きたぁ。後は残っているのを倒すだけだぁ」

 北条の声に改めて辺りを見回してみると、部屋の奥でプリーストと思われる杖持ちと、盾役と思われるホブゴブリンに守られたチーフ。
 それから他にはノーマルゴブリンからホブゴブまで、まだ北条達以上の敵が残ってはいた。

 しかし、これまでのケースでは、これほどまで数を減らせば、魔法陣によって次の補充が来ている筈だった。
 だが、一向に新たな魔法陣の光が輝く事は――ない。

「あとは殲滅戦だぁ。残りのゴブリン相手なら、里見達後衛も、"杖術"の訓練を兼ねて近接戦闘で行ってくれぃ。MPはともかく、体力はまだいけるだろぉ?」

 そう指示を出しつつ、北条はようやく奥で指揮を執っていたゴブリンチーフの元へ駆け寄り始めた。
 途中その動きに気付いたチーフの鶴の一声で、二体のゴブリンが立ちはだかって、北条を足止めにはいる。

「邪魔、だぁ! どけぃ "二段突き"」

 北条が素早く槍を二回連続で突き出す闘技スキル、"二段突き"を放つと、ケイブホブゴブリンが身に着けていた革鎧ごとぶち抜いて、心臓部にポッカリとした穴が開く。

 しかも二回攻撃だったせいか、その穴は通常よりも広く、血が広範囲へと飛び散っている。
 咄嗟にお気に入りの黒のマントでその血しぶきを防ぎつつ、もう一体のゴブリン――ハンマーを持っていたゴブリンに対し、"横一閃"の闘技スキルをお見舞いする。

 こちらは槍で思いっきり横に払うだけの攻撃なのだが、こういった単調で基本的な動きをする闘技スキルというものは、使用者の力量を見るのにはうってつけだと言われている。

 "スラッシュ"なども同様だが、同じスキルであっても熟練者と初心者の放つソレではまったくモノ・・が違う。
 それは単純に威力そのものも変わってくるし、攻撃された側からすると回避のしやすさなども変わってくる。

 その点を考慮してみると、すでに北条の放つ闘技スキルは、初心者冒険者の域をとっくに超えており、中級冒険者としても通用するレベルだろう。
 先ほどの心臓をぶち抜かれたケイブホブゴブリンは勿論だが、"横一閃"による一撃も見事首筋に命中し、ハンマーを持ったゴブリンの頸動脈からは、勢いよく血が噴出していた。

 これが低ランクの槍使いが放つ"横一閃"だったら、一撃でこうした致命傷を与えられなかったであろう。

 ただ、もしかしたらこのゴブリンはハンマーを手にしていたが、ゴブリンウォリアーではなく、ゴブリンの中での生産職であるゴブリンスミスだった可能性はある。

 そうなると、戦闘力は戦士職のウォリアーより弱くはなるのだが、ノーマルの役職付き程度ではそこまでの差はない。
 なんにせよ北条は、二体のゴブリンを屠った勢いのまま、最後尾に控えるゴブリンチーフの元へとひた走る。


 他方では、後衛も入り乱れての戦闘が各所で始まっていた。
 咲良だけは未だに"杖術"のスキルを取得していないが、残る芽衣と陽子は"杖術"のスキル効果もあってか、危なげなくゴブリン達相手に近接戦もこなしていた。

「おわっと、あぶないわね」

 思わず雑言を漏らしながらも、陽子が相手の杖持ちゴブリンに、こちらも杖で攻撃をしかける。
 刃物や鈍器と比べて火力不足感は否めないが、それでも打ち付けたり叩きつけたりしていく内に、相手のゴブリンの動きはどんどんと悪くなっていく。

 多少慣れてきたとはいえ、人型の相手を杖で殴り殺していくという作業は、近接戦に慣れていない後衛にとっては眉をしかめてしまうものだったが、決して力を緩める事なく戦い続ける。

 杖の頭の部分で思いっきり相手を殴りつけた時の、自分の手に返ってくる相手の骨が折れたような感覚。
 何を言っているかは分からないが、殴り、突きさす度に上げる、ゴブリンの苦しそうな声。

 夢に出てきそうなそんな戦闘は、魔法で戦っていた三十分間以上に、彼女達には長く感じられていた。
 しかし、実際の所は十分にも満たない時間だった。

 そうして彼女達が部屋に散らばっていたゴブリン達を、全て打ち倒したのを確認した北条は、すでに取り巻きを倒して一対一となっていたゴブリンチーフに、終わりを告げる。

「ふはははっ、よおおおおし。これで後はお前さんだけだぁ。大分疲れたし、サクッと片付けさせてもらうぞぉ」

 そう言ってニヤリと笑うと、何時も通りに槍で攻撃しはじめる北条。
 ゴブリンチーフも指揮に特化している種とはいえ、そこいらのホブゴブリンよりは戦闘能力は上だ。

 しかしそんな事実をものともせずに、北条はあざ笑うようにゴブリンチーフの手にする斧と打ち合っていく。
 やがて北条の槍がゴブリンチーフの片口に当たった瞬間、穂先が薄っすらと赤く光る。

 すると急に脱力したかのように動きが鈍るゴブリンチーフ。
 そこに、更に闘技スキルでの追い打ちが見事決まり、長い長い戦いに終止符が打たれるのだった。




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