109 / 398
第五章
第94話 おたから開封
しおりを挟む最後に残されていたゴブリンチーフも無事倒し終わると、前回と同じように、閉ざされていた部屋の出入り口が再び開かれた。
あれだけ終始、血とゴブリンの匂いが立ち込めていた部屋の中も、まるで夢であったかのように綺麗さっぱり立ち消えていた。
しかし奴らが存在した証として、部屋の中にはゴブリン達のドロップ品で溢れている。
しかし、それらドロップ品を見ても、未だ誰も回収に動こうとはしていなかった。
もちろん長時間の戦闘で疲れていた事もあるのだが、チーフ討伐後に起きた変化について、様子を見ていたからでもあった。
「あれって……なにかしら」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながら、陽子がボソッと口にする。
そんな陽子の視線の先には、二つの宝箱が並んで置かれていた。
片方は最初に部屋に入った時に置かれていた銅の箱だ。
範囲からは外れていたとはいえ、近くであれだけの激戦があったというのに、傷一つ付いている様子は見られない。
もしかしたら、罠の発動中はダンジョンの不思議パワーで守られてるのかも、などと咲良はぼんやり考えていた。
それよりも問題はその隣に並ぶように置かれている鉄製の箱だ。
たまたま咲良はその様子を見ていたのだが、ゴブリンチーフを倒して光の粒子となった後に、唐突に小さく魔法陣が出現して、警戒していた咲良を尻目にズドーンと設置されたのが、その鉄の箱だった。
「おおう、ちゃんとでたかぁ」
その鉄の箱を見て訳知り顔で頷いている北条。
気になって仕方ない様子の由里香は、早速気になる質問をぶつけてみた。
「これが何だかわかるんっすか?」
「ああ、これはなぁ……」
由里香の質問に、勿体ぶることもなく答えようとした北条を遮って、先に質問を答えるものがいた。
「これは『報酬箱』というやつですね~」
北条に割り込んでその正体を言い当てたのは、まだ戦闘の疲れが色濃く表情に残っている芽衣だった。
声そのものは無理をしているのか、何時も通りのほほんとした声を保っており、戦闘直後でまだ残っていたみんなの緊張を、少しずつほぐしていく。
芽衣の発言を受け、意外そうな顔を見せていた北条だったが、我に返ると補足の説明に入った。
「芽衣の言う通りこいつぁ俗に『報酬箱』と呼ばれているもので、正式名称があるかどうかは知らん! ダンジョンの召喚罠部屋が発動した際に、ボスを倒すのではなく、ストックが尽きるまで戦って突破すると、その報酬としてこうして出現するらしい」
今回は一応ボスである、ゴブリンチーフを一番最後に残して倒していた北条だったが、追加の召喚がこなくなった状態でボスを倒しても、きちんと報酬箱は出てくる。
ちゃんと追加が出ないことを確認する為にも、残り数体になるまで魔物を倒した後に、ボスに止めを刺す事になるので、手間は結構かかるし危険もある。
この報酬箱目当てに無理をして、挙句全滅という話も稀によくある事なので、冒険者ギルドでは決して無理をするな、と忠告は促されている。
最初の転移直後の脱出途中にあった罠部屋では、慶介の"ガルスバイン神撃剣"で一気に片を付けてしまったので、その時には得られなかったものだ。
あの時はそんなシステムがあるとは勿論知らなかったが、どうにか"リベンジ"を果たした事で、北条は大分満足そうだ。
「なるほどねえ。箱の見た目が違うのも、特別な箱だからかしら?」
陽子が鈍い光沢を放つ鉄の箱をなでなでしながらつぶやく。
「いやぁ、そいつぁ単純に中身の違いによるものだぁ」
「中身?」
「ああ。中に良いものが入っている宝箱ほど、箱のグレードも上がっていくらしいぞぉ」
一応みんなで同じ資料室で同じように資料を漁っていたはずなのに、相変わらず北条は妙に博識だ。
先ほどの報酬箱については芽衣も把握していたようだが、宝箱のランクについては知らなかったようで素直に北条の話に耳を傾けている。
「あ、それは私も資料でみました! 確か木製が最低ランクで、それから銅、鉄、銀、金と上がっていくんじゃなかったかな?」
しかし咲良の方は逆に報酬箱については知らなかったようだが、ダンジョンで出現する宝箱についての情報は調べていたようだ。
「……ああ、まあ大体そんな所だぁ。補足すると、"銅"と"鉄"の間に"青銅"が入るんだがなぁ」
「うっ……」
以前に龍之介にも指摘された事があったが、咲良は調べた知識の所々の知識が抜け落ちているようで、恥ずかしそうに顔を俯かせていた。
とはいえ、その程度の物忘れや覚え違いは誰にでもあることだ。
北条のように、きっちりと多方面の資料を覚えられる人の方が少ないだろう。
(あの時パラパラッて本をめくるようにしてたけど、あれまさか全部中身覚えてるのかしら)
ふと陽子が資料室での北条の様子を思い浮かべ、ちょっとした疑問が脳裏によぎる。
瞬間記憶能力というのは、日本で暮らしていた時にも時折耳にした能力なので、北条がそうした能力を持っていても不思議ではない、のだが……。
「ほんっと、謎な人よねぇ」
小さくボソッと呟く陽子の声を拾う者はいなかった。
その後、宝箱の傍まで近寄っていた北条が、不意に場違いな質問をし始める。
「ところでお前達ぃ、食事の時に好物は先に食べる派か、後にとっておく派のどっちだぁ?」
「あたしは先に食べる派っす!」
不意に場違いな質問をされ戸惑う女性陣だったが、由里香は速攻で急な質問にも答えていた。
その勢いに押されたのか他の仲間もポツポツと答え始める。
「あたしは~、最後に取っておく方かな~」
「んー、私も最後に取っておく方ですね」
「質問の意図が分からないけど、私も咲良と同じね」
「あ、私はその、その時の気分で変わり……ます」
戦闘も終了し、緊張感から解放された上、身近な話題へと突然移ったために、急速に戦闘ムードも霧散していくかのようだ。
「そうかぁ。俺は好物は後に取っておくタイプだぁ。……という訳で、過半数が後派ということになった……ので! 宝箱より先に、周辺に散らばったドロップ品をかき集めるぞぉ! 箱の方はもう罠は無いとは思うが、万が一に備えて休憩後に開ける方針でいこう」
何の事はない、今後の方針を決める為のちょっとした質問だったようで、陽子は苦笑を浮かべながらも指示に従い、みんなと一緒に動き始める。
ただこうしたちょっとしたやりとりで、少し気分がほぐれたのも事実だったのだろう。
一様に晴れ晴れした顔でドロップ品を回収していく。
幾ばくかの時間が経過し、全てのドロップの回収を終えると、少し遅い昼食休憩へと入った。
食事中にも先ほどの戦闘についての話など、話題が尽きる事なく和気藹々と、ダンジョンの中だというのに穏やかな時間が過ぎていく。
そしてしっかりと休憩を挟み、MPもそこそこ回復した一行は、ついに宝箱を開ける事にした。
「……だ、大丈夫です。両方とも罠はありま、せん」
楓の"罠調査"スキルによるお墨付きを受け、まずはランクの低い銅の箱の方から開ける事にする。
すると中からはリングがひとつと、何らかの植物の種子と思われるものが十粒ほど。
それから試験管のような、透明なガラス製の容器に、赤い液体が入っているものと青い液体が入っているものが数本ずつ。口はコルクのようなもので密閉されている。
後は茶色い革のブーツと、ブロンズレッドの色合いとステンレスのような光沢を放つ、二色のツートンカラーを持つ二十センチほどの筒状の謎アイテム。
見た目に分かるような金銀財宝というものはリング位であり、中身を見た者達は微妙そうな表情を浮かべた者が多い。
とはいえ、中に入っていたアイテムの数は、前回の召喚罠部屋のものよりは多く、その分配について考える必要も出てきた。
この辺りについて、異邦人達は事前に決めていたルールがあり、まずは消耗品のアイテムに関しては適切な相手に分配をする。
また魔法道具や魔法の装備についても、一番適した相手に――例えば槍が出たら北条に――優先権を持たせて分配する。
最後に個人的に欲しいアイテムなどが出た場合は、その人が買い取って代金を他の五人に払うという形式を取る事になっている。
あとは分配で気になる事があれば、その都度話し合いで決める。
とはいえ、アイテムの効果などが分からなければ分配のしようもない。
今後最寄りの村である《ジャガー村》には、ギルド施設の拡張や各種施設の充実が図られていくだろうが、その計画の中には鑑定屋というものも含まれている。
これはダンジョンが付近にある町・街では大体どこでも存在しているのだが、鑑定料を取って、ダンジョンから出土したアイテムを鑑定してもらうための店だ。
そういった店では、そのまま鑑定したものを買い取って店に並べたり、他の専門店に流したりといった事で生計を立てている。
鑑定屋の店主は、大抵は何らかの鑑定系のスキルを有しており、元々商人にそうしたスキルの使い手は多い。
とはいっても鑑定のスキルは、魔法の使い手よりは若干少ないくらいの割合だ。
特に対人に対して効果のある鑑定スキルを持つ者は極々稀で、物品に対しての鑑定系スキルを持つ者は一定数存在している。
ダンジョンの数自体もそこまで多くない事から、ダンジョンの存在を公開すれば、どこかしらから鑑定スキル持ちの人材は集まってくるかもしれないし、事前にこちらから集めることも出来るだろう。
しかしそれはあくまで先の話である。
「この試験管に入ってるのは、多分ポーション、よね?」
「ええ、そうだと思います。確か赤がケガなどを回復……つまりHPを回復する薬で、青いのは魔力、MPを回復する薬だったはず……」
まず見た目で分かりやすそうなものを手に取りつつ尋ねた陽子に、若干自信無さ気な声で答える咲良は、口に出しつつチラッと北条の方を見遣る。
「あぁ、ポーションの方はそれで合ってるぞぉ。で、他のものに関してだがぁ……ここは俺に任せてくれないかぁ」
咲良の視線に応えつつ、何やら自信あり気な北条。
「実は《鉱山都市グリーク》で色々露店を漁ってたせいか知らんが、途中で"目利き"なるスキルを取得してなぁ。はっきりと判別できる鑑定系のスキルとは違うようだが、これでもなんとなくアイテムの価値や効果が分かるっぽいぞぉ」
こうして北条の"目利き"スキルによる査定が始まるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
才能は流星魔法
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。
流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。
ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。
井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。
山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。
井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。
二日に一度、18時に更新します。
カクヨムにも同時投稿しています。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる