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第五章
第98話 深夜の密談
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むしゃむしゃもぐもぐ……。
蒼い光に照らされた洞窟内の部屋で咀嚼音が鳴り響く。
あれからずっと四層の探索を続けていた信也達は、探索の途中に下へと降りる階段を見つけてはいたものの、四層の探索がほとんど進んでいない事もあって、先に地図埋めを行う事にしていた。
すでに先へ進む道が示されているのに同じ階層を進むというのが気にくわないのか、龍之介はテンションだだ下がりでの探索であった。
恐らく半分位は探索出来ただろう、という所で腹時計が夕食の時間だと知らせてきたので、現在は今夜の野営地を見繕った後に、夕食を取っている所だ。
「大分この階層にも慣れてきたな」
龍之介のテンションが低いというだけで、パーティー全体が静かになるという極端な図式になってしまっている中、信也がぼそりと確認するようにつぶやいた。
「んん? ああ。最初はちょびいいっとあせったけどよ。まあ、慣れてくりゃあオレ様を止められるような奴は、いないってことだな!」
相変わらず調子こいてる龍之介はさらりとスルーされていく。
「……だが、油断はするべきじゃない……」
以前に比べて少しは他人に聞こえるように喋るようになった石田が、それでもやはり聞き取り辛い音量で呟く。
これで石田の見た目がもっと良ければ、クールなイケメンとしてもてはやされそうだったが、生憎と今の状態ではただの陰気な男である。
「そうね。特にどっかの誰かさんは、何度注意されても調子に乗るのを止めないようだけど、調子に乗っていないと死んでしまう病気にでもかかってるのかしら」
「ああん? 気にくわねー言い方しやがって。喧嘩売ってんのか、オラァッ」
この生活にも慣れてきたからなのか、長井は徐々に素に戻りつつあるようで、今の言葉もあからさまに龍之介に対してのあてつけだった。
「ハッ、そうやってすぐに暴力に訴えようとする辺り、自覚はあるようね」
存在するかは分からないが、"煽り"スキルのようなものを持っていてもおかしくない位、長井の口からは素で人をいらつかせる言葉がポンポンと出てくる。
そして生憎と煽り耐性のストックを切らしてしまっている龍之介は、小さな子供のようにすぐに感情を動かされる。
「二人共、そこら辺にしておけ」
何度注意してもこの二人の揉め事はなくならないため、最近は二人を止める声もおざなりになってきている信也。
「アァン? 私は間違った事を言ったつもりはないんだけど?」
「そうかもしれんが、相手はまだ子供なんだ。大人が率先して煽ってどうする」
仲裁に入った信也だったが、子供扱いされてしまった龍之介は、信也に対しても不満気な顔を向ける。
すでにほとんど食事自体は終えている夕食の時間だが、この空気はよくないと、メアリーも会話に加わってくる。
「まあまあ、これ以上その事で話し合っても無駄に時間を過ごす事になりますよ。それよりも、明日の探索方針を決めてしまいましょう」
元より話をこじれさせるつもりのなかった信也は、メアリーの提案に乗って明日の行動予定を話し合う事にした。
四層は罠が少し配置され、ゴブリンが主体となって出てくるフロアだ。
一層や二層にいた蝙蝠とは別種の蝙蝠の魔物や、開いた状態の傘のような魔物が新しく出現するようにはなっていたが、およそ七割から八割はゴブリン系が占めている。
そんな四層だが、信也達は既に予想される広さの半分ほどは探索が完了しており、明日はどこまで四層を探索するかで意見が分かれていた。
ひとつは九割方地図を埋めてから、次の五層に進もうという意見。
それからもうひとつは、このまま四層の探索などはせずに、既に見つけてある五層へと降りる階段を進み、さっさと先に行こうという意見。
後者は龍之介が強く推していたのだが、話し合いの結果、両者の中間といった所に話が落ち着いた。
まずはお昼までは四層の探索を続け、キリの良いところまでいったら、残りの探索を諦めて五層へと向かう、というものだ。
午前中でどれだけ探索できるかはわからないが、これで五割だった探索が六割か七割位まで終われば、そう悪くはない選択だろう。
斯様に明日の探索方針も決まり、後は当直の順番を決めて寝るだけだ。
起き続けになってしまうが、一番楽であろう最初の当直は慶介がやるとして、残りの順番をジャンケンで決めた結果、信也は二番目の当直当番となった。
この世界に来てからすでに何度も野営は経験してきているので、みんなも大分手慣れた様子で各々の領域を形成して、床へと就いていく。
信也も当直の時間までの僅かな時間を、横になって過ごした。
「あの、和泉さん。そろそろ交代の時間です」
体を揺すられて眼を覚ました信也は、申し訳なさそうにこちらを見ている慶介に「分かった」と一言だけ告げると、すぐさま交代するために場所を移動し始める。
決して眠りが浅かった訳ではないのだが、信也は寝起きには強いのか、その動きはキビキビとしたものだった。
「にしても妙にスッキリしてる気がするな」
無論まだ眠り足りないとは思っているのだが、思いのほか信也の思考はクリアになっていた。
それはぐっすり寝ている様子の信也を見て、起こす事を躊躇った慶介の配慮が原因だった。
既に今頃は宝箱から手に入れた懐中時計で、きちんと当直の時間分けをしている北条達のパーティーとは異なり、こちらはなんとなくの感覚でしか時間を判断できない。
四交代制だったのが、三交代目が終わる頃には朝になっていた、なんて事もありえるのだ。
ともあれ、余分に睡眠時間を取れた信也は、この静かな夜の時間も無駄にしないよう、魔法の鍛錬を密かに続けていた。
「魔法のイメージ、か……」
信也は北条が時々言っていた言葉を思い出す。
イメージ、とはいうもののゲームや漫画などといったものに、さほど傾倒してこなかった信也にとっては、なかなかイメージなどそうは浮かばない。
しかし、既存の"光魔法"については『光魔術士』であるシディエルから聞き及んでおり、【ライトビーム】などの範囲を攻撃出来る魔法も会得していた。
「まあまずは既存の魔法から練習していくか」
そうして自分の当直の時間が過ぎると、次の相手へとバトンタッチして再び眠りへと就こうとする信也だった。
▽△▽
「――――」
「――――――――」
水音以外聞こえてこない静かなダンジョンの夜に、密かに会話する二人の声が宵闇へと消えていく。
周囲で寝ているメンバーを気にしているのか、ひそひそとした声で話しているのは石田と長井だ。
お互い目をみて話し合っているその様子だけを見れば、真剣な話し合いをしているようにも思えるが、長井の表情を見るとそうではない事がすぐにわかる。
口角を上げ、嗜虐的な笑みを浮かべているその表情からは、控えめに見ても悪だくみしているようにしか見えなかった。
「じゃあ、アンタは私の下につくって事でいいのね?」
両目を怪しく光らせてそう尋ねる長井に対し、石田は気圧されたかのように、無意識に体を後ろへと移動させながらも答える。
「あ、ああ。それで、構わない……」
「んふふふふふ、いいわあ。予定はまだ先だけど、それまでもせいぜい私の為に働いて頂戴ね」
満足気な表情でそう口にする長井。
対する石田は、長井からの何らかの強引な要求を飲まされたにしては、その顔には畏怖や嫌悪などといったものは薄い。
この二人の密談、小声で深夜に行われていたものだったので、本来は二人以外は聞いている者はいないはずであった。
しかし、最初の短時間の睡眠で妙にスッキリと寝る事が出来てしまった信也は、その後も浅い眠りが続いており、ちょっとした刺激で目が覚めてしまう程だった。
距離も、二人が話していた場所からは一番近いということもあって、最初の部分はともかく、途中からの二人の会話は信也に筒抜け状態だ。
とはいえ、聞こえてきたのは話の途中からだったので、今いち何について話をしていたのかは分からなかった。
漏れ聞こえた話だと、何か派閥争い的な話のように思えたが、結局信也は「人が集まればそういう事もあるか……」と考え、眠気が襲ってきたこともあり、そのまま意識を手放して、睡魔に身をゆだねるのだった。
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