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第五章
第99話 第五層 攻略開始
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明けて翌日。
前日に建てた予定の通り、午前は四層の探索の続きとなる。
日本にいた頃に比べれば、大分こうした野営にも慣れてきてはいたが、それでも疲れが完全に取れたとはいえず、疲労は目には見えない形で蓄積されていっている。
見張りを立てているととはいえ、魔物がいつ襲ってくるか分からない場所で眠りにつくというのは、中々度胸のいることだ。
『冒険者ならば、或いは戦う者ならば、どこででも寝れるようになる必要がある』
とは、その手の作品ではどこかで耳にしたことのある台詞ではあるが、ティルリンティの世界でもそれは同様で、きちんとすぐに起きれるように気を張りつつも、休息もちゃんと取れるようになってからが一人前の冒険者なのだ。
このパーティーでいうと、見た目では悟らせる振る舞いをしていないが、メアリーなどがまだまだ野営にはきついものを感じていた。
睡眠時間が当直によって不規則になるというのは、看護師として働いていたメアリーにとっては大きな問題にはならなかったが、闇の中からこちらを窺っている魔物という存在が、未だに就寝しようとする時に心の平穏を乱していた。
そうした時に、"回復魔法"の【平穏】や【疲労回復】などを、鍛錬の意味も含めて自分自身に使いまくり、MPが減ってきたら【メディテーション】で瞑想して回復を図る。
そんな事を裏で繰り返していたメアリーは、メキメキと"回復魔法"の腕を上げていた。
「この道はここで行き止まりのようですね」
そう口にしながら手元の地図に書き記していくメアリー。
ダンジョンというものは、冒険者以外の人からすると『恐るべき魔物の巣』であったり、『財宝を守る魔物を倒し、大きな富を得る話』などといったイメージの方が強いのだが、実際はこうした地味な作業や単調な作業の方が多い。
「はあ……またかよー。ここまで来るのにけっこー時間かかってたのに、また前の道まで戻らないといけねーのか」
ダンジョンの地図がある状態では一、層を抜けるだけならそこまで長い時間は必要とはしないが、こうして地図を埋めていくとなると、結構な時間が必要になってくる。
そのため既存のダンジョンでは、大体冒険者ギルドやダンジョン前で声を張り上げている地図売りなどから、先に地図を買うのが一般的だ。
しかし地図の値段はそこそこ高額であり、それは深い階層にいけばいくほど当然値段も跳ね上がっていく。
龍之介も一応そこら辺は分かっているのか、文句を言いつつも探索に手を抜くつもりはない。
「おい、通路後ろからあの傘みてーなのが飛んできてるぞ!」
それはこうして魔物を警戒し、辺りの様子を注意していた点からも窺える。
「む、あいつらか。奴らは風の魔法攻撃が厄介だ。射程距離に入ったら全員一斉に魔法攻撃をしかけて、後は前衛がダッシュで突っ込んで片を付けよう」
テキパキと指示を出す信也。
そうこうするうちにも敵の姿が近づいてくる。
その魔物は龍之介の言うように、開いた状態の傘のような見た目をした魔物だ。
傘の主要部分は蝙蝠の皮膜のようなもので覆われており、傘の中央部分から伸びた持ち手の部分には牙が生えた口がある。
傘の外延部には手足らしい部分も見受けられるが、退化したように小さくなっており実際には使われていない。
そんな状態でどうやって移動してくるのかというと、上手いこと風を利用してふわふわと飛んで移動してくるのだ。
なのでそんなに精密な動きはできないし、接近戦にまで持ち込めば大した強さの敵ではない。
しかし、恐らく自身を動かすのにも利用していると思われる、風の魔法が厄介で、遠距離から音もなくふわりと近寄ってきては、魔法攻撃をしかけてこられるので、大分斥候泣かせの特徴を持った魔物でもあった。
しかし既にこの魔物とは二度戦っており、戦い方もつかめている。
信也の出した指示通りに、最初に魔法で敵の数を削ると、その後に接近しながら龍之介が闘技スキル【真空斬り】を放つ。
これは斬撃を飛ばすスキルで、魔法程の射程はないのだが遠距離攻撃が出来るという、剣士にとっては重要なスキルのひとつだ。
周囲の魔術士の影響を受けて、空き時間などにウンウン唸って魔法の練習をしていた龍之介であったが、その成果は未だ芽を出さず、代わりに剣術のスキルの方で魔法っぽいものを覚えてしまっていた。
戦闘の経過は、途中魔物の"風魔法"によって、信也が腕にかすり傷を負ってしまう場面もあったが、すぐにメアリーによって治癒を受けて回復されている。
今はすでに戦闘も終了しており、ドロップを回収している所だった。
「お、おおお? なんだこれええええ!」
やかましい声を上げながらドロップを回収していた龍之介が、手に何かを持ってみんなの元へと駆け寄ってきた。
最初は「またいつもの馬鹿騒ぎか」と淡々とした反応だったのだが、少し離れた場所からでも龍之介が手に持っている物体を確認する事ができ、次第に全員が一か所へと集まっていく。
「わー、なんか綺麗ですねえ」
「これは今までに見た事はないものですけど、何に使うんでしょうねえ」
慶介とメアリーはまったく心当たりがないようで、見たまんま素直な感想を述べている。
しかし興奮した様子の龍之介は何か心当たりがあるようで、
「これはやっぱアレだろ! この龍玉を7つ集めると願いを叶える龍が――」
そう、龍之介が拾ってきたのは北条達のパーティーの方でも手に入れていた、あの青い水晶玉のようなものだった。
「……確かに中にそれっぽい星のマークはついているが」
漫画などには疎い信也でも、流石に国民的作品は知識にあったのか、すぐに龍之介の言葉が何を示しているのかが分かったようだ。
「だがあれはもっと違う色をしていただろう。そもそもこの世界にああいったものがあるとは思えんのだが」
至極真面目な口調でバッサリ切り捨てられた龍之介も「それくらいはわかってるけどよー」と、冗談を真顔で返されたような信也の反応に、尻すぼみしていた。
だが今までと同じような敵を倒したというのに、こうした違うアイテム――レアドロップが出てきた事に龍之介は期待に胸を膨らませた。
MMORPGなどでも、こうしたちょっとしたレアドロップというのは、長時間狩りをしてレベル上げなどをするプレイヤーにとって、一種の活力剤ともなるものだ。
「まあどんなアイテムなのかは分からないが、そいつはとりあえず仕舞っておけ。それから引き続き探索に戻るぞ」
信也の淡々とした態度に「こいつ宝くじが当たってもこんな態度してそーだな」などと龍之介は考えていた。
他にもドロップを珍しがっている人はいるが、いまいち反応が薄いことに若干納得がいかない龍之介は、
「アイツなら、もっと反応してくれるんだろうけどなー」
と、普段よく喧嘩もして今は別行動をとっている、咲良の事を思い浮かべるのだった。
▽△▽△
青水晶玉のドロップ以降は特にこれといった変化はなく、午前中の探索は終了した。
今は昼食を終えて五層への階段を下りた所だ。
相変わらず周囲の様子は今までと同じで、蒼い光が舞う洞窟タイプのダンジョンになっている。
しかしまるっきり変化がないという訳ではなく、
「きゃああああぁあ!!」
探索の途中、通路からのしのしと現れた巨大な蛙の魔物を見て、今までにない大きな声を上げるメアリー。
最近は前衛と一緒に、メイスを手に殴り込みをかけることも多い彼女だが、この巨大蛙は生理的に厳しかったのか、その場にとどまって落ち着きを取り戻そうと必死だ。
しかし龍之介や信也はほとんど気になっていないのか、何時もの勢いで敵に突撃をかける。
巨大蛙は器用に舌を伸ばして攻撃をしかけてきており、見る人が見ればますます嫌悪感をそそられる光景ではあるのだが、それよりもその舌による攻撃がそこそこ威力があるようで、気持ち悪いなどと言っている場合ではない。
まるで鞭のようにしなって襲いかかって来る舌は、これまでのゴブリンが使う人間の武器に比べると格段によけにくい。
伸ばしてきた舌をそのまま断ち切ろうとしても、その瞬間だけ舌の筋肉を緩めでもしたのか、瞬時に舌の弾力が増す。
更に、舌を覆うヌメッとした粘液の効果もあって、ズバッと切り裂くのも難しいようだ。
「少し無理をしてでも、舌を無視して先に本体をやるぞ!」
中距離から近距離に入る位の、微妙な距離感の所で地団駄を踏んでいた信也は、そう言って強引に突破を図る。
巨大蛙の魔物は見た限り六匹ほどいるようで、突撃してきた信也と、それに一歩遅れて迫ってくる龍之介に戸惑ったようで、パラパラと両者へ舌の攻撃が飛んでくる。
「ふんっ!」
その内の舌の一本を長井の舌……ではなく、巨大蛙の舌のように動くロングウィップが見事捉えて巻き付いた。
「ぐげげげぇ」
力が足りないため、そのままからめとった鞭で、無様に鳴いている巨大蛙を引き寄せる事は出来なかったが、一匹を足止め状態にすることには成功した。
その間に前衛の剣士二人は多少被弾をしながらも、巨大蛙のすぐそばまで接近し、その大きな腹部を見事剣で切り裂く事に成功していた。
結局メイスで殴りにいけなかったメアリーは、前衛二人が一定量のダメージを負った時に、なんとか"回復魔法"を飛ばしている。
こういった時に、近寄る事なく治癒できる"回復魔法"はやはり便利だ。
"神聖魔法"だと初級レベルの回復魔法では、遠くにいる味方のHPを回復させる魔法はない。
中級魔法の【リープキュア】なら、距離の離れたパーティーメンバーにも治癒魔法は飛ばせるのだが、"神聖魔法"はそれまでが大変だ。
それから十数分後。
初見の魔物ではあったが、結局致命傷を負う事もなく、無事全てを倒しきる事に成功した一行は、ドロップを回収し、本格的に五層の探索へと乗り出していった。
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