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第六章
第121話 最悪な再会
しおりを挟むラミエスが取り出したのは、壺というよりはとっくりといった方が日本人には馴染みがある形状をしていた。
先の部分は蓋がされているが、瓢箪型といいサイズといい、思わず日本酒を注いで熱燗にしたくなる。
「壺っていうからもっと大きいかと思ったけど、そうでもないのね」
「ああ。マジックアイテムだから、大きさなんて関係ないのさ。この〈従魔の壺〉には、ひとつに付き一体の魔物をしまっておける。『精霊使い』が〈精霊石〉に精霊を宿らせるのと似たようなもんだね」
「それがあればかなり便利そうね。芽衣ちゃんの今後の目標かな?」
『召喚士』が召喚した魔物も〈従魔の壺〉に収納できるかどうかは、今の所不明だ。
だが、もし収納可能であるなら、是非とも手にしておきたいマジックアイテムになるだろう。
「こいつは多分ダンジョンからの戦利品しか出回ってないけど、『魔物使い』の数が少ないせいか、そこまで高額ではないよ。少なくともひとつは確保しとくといい」
なんだかんだでラミエスが無口なせいで、ほとんどディズィーが喋ってしまっているが、彼らにのパーティーにとってこれは日常風景のひとつのようだ。
そのラミエスだが、急に足を止めて立ち止まる。
そして徐に先ほど取り出した〈従魔の壺〉に魔力を籠めて、
「ウル、でてきて」
そう言うと同時にラミエスの前に魔法陣が展開され、そこからは体長だけで二メートル近くはある巨大な狼が姿を現していた。
「こいつぁ……」
さしもの北条もその大きさに驚いていたようだが、他にも気になった点が存在していた。
「なんか、ダンジョンの罠で魔物が出てきた時と似てるね!」
そう。由里香の言う通り、その魔法陣から魔物が出てくる一連の流れは、嫌というほど戦う羽目になった、ゴブリンルームを彷彿とさせた。
だが、"召喚魔法"で召喚する時はいちいちこんな派手な魔法陣はでてこない。
そこら辺の違いは一体何だろうと考えていた北条に、ラミエスの従魔紹介の声が届く。
「これはウル」
もっともこの一言だけで説明は終わってしまったのだが。
そして先輩相手に委縮気味のマンジュウに、何やら会話でもするかのようにガウガウと吠えていたウルであったが、ラミエスの「もどって」の一言で、コミュニケーションの途中にも関わらず、あっさりと壺の中へと戻されてしまう。
そしてラミエスは何事もなかったかのように帰り道を歩き始める。
「ハ、ハハハッ……。まあ、こんな感じでね。進化とかしていくと体も大きくなっていくし、ディズの言う通り『魔物使い』なら〈従魔の壺〉は確保しておくと便利だよ」
シグルドが、いつも通りに雑な従魔の扱いをするラミエスに対し、苦笑いを浮かべつつアドバイスをくれる。
「なるほどお。ちなみに、ラミエスさんは何体の魔獣をテイムしてるんですか~?」
芽衣の質問にラミエスは口頭で答える事なく、三本指でその数を示した。
「ラミエスは狼のウル、鳥のクック、ゴリラのゴリの三体の魔獣を使役してるんだ。どれも頼りになる仲間だよ」
確かにあの大きさの狼を使役できるのなら、他の魔獣もかなり強そうだ。
ただ、それよりもネーミングセンスが気になるのか、北条達の反応は感嘆するというよりは、戸惑いの方が強かったかもしれない。
そういった話をしていると、すぐに彼らの寝泊りするテントまで辿り着き、そこから更に立ち話をして共に時間を過ごす。
なかでも、総合的にGランクの冒険者の枠を超えている北条達に、驚きの反応を示される事が多く、特に魔法の使い手が多い事が特に衝撃的だったようだ。
それほどまでに、冒険者をやっている魔法使いというのは余り多くはないらしい。
また魔物罠部屋で報酬宝箱をゲットした話にも驚かれ、もしかしたらFランクどころかEランク位あるんじゃないか? という話もされる。
ただこれは異邦人達が特別なだけで、確かにレベルだけで見ればFランク級には達しているが、それでもEランクにはまだまだ届いていない。
Eランクの冒険者ともなると、レベルが20以上は求められるようになる。
北条達がレベル以上に余裕があるのは、メインのスキルが"天恵スキル"である点と、彼ら自身は気づいていないが、スキルの熟練度の高さが原因だった。
「じゃあ、私たちは村に帰ります」
そういった話をしていたらすっかり日も落ちてきていた為、あまり長時間の話はできなかった。
だが、気の良い先輩たちとの会話は、不安な気持ちを抱える彼女達の心を慰めた。
幾分か気分を取り戻した彼女達は、そのまま各自の寮へと戻り……始めた所で、背後から声が掛けられる。
「待って」
そう、背後から声を掛けてきたのはラミエスだった。
彼女は立ち去り始めた北条達の元へ小走りで駆け寄ると、手にしていたモノを芽衣に手渡した。
「これあげる」
「え、あの~……」
戸惑う芽衣の掌の上には〈従魔の壺〉が置かれていた。
それはラミエスの従える従魔が宿る壺ではなく、どうやら何も入っていない空の壺のようだった。
「へぇー。本当に珍しいねぇ。ラミエスがここまで他の人に入れ込むなんてさ」
「ええと~、ありがとうございます~」
少し離れた所から聞こえるディズィーの声と、芽衣の声が辺りに響く。
最初は戸惑っていた芽衣だったが、素直に好意を受け入れる事にしたようで、ラミエスに感謝の意を伝える。
その言葉を受けたラミエスは無言でV字サインを出すと、再び仲間の元へと戻っていった。
「よ、よく分からない人だったわね。でも良かったじゃない?」
「そうですね~。あとは、私の召喚したマンジュウでも、この壺が使えるかどうかなんですけど~」
そう言って気負いなしに芽衣が〈魔法の小袋〉にものを収納するように、〈従魔の壺〉に触れながらマンジュウに触れる。
すると、たちまちマンジュウは魔法陣のエフェクトもなく壺へと収納された。
どうやら魔法陣のエフェクトが出るのは呼び出す時だけのようだ。
これは今更の事ではあるが、下手に村人の近くでマンジュウを連れ歩くのもよくないという事で、マンジュウは家に帰るまでは壺にしまわれたまま運ばれる事になった。
翌朝、北条達『サムライトラベラーズ』は朝食後に話し合った結果、今日は朝からダンジョンに向かい、そのまま探索を再開する事を決定していた。
未だ戻らない信也達が不安ではあるものの、だからといってここで手をこまねいていても仕方ない。
「本当にこのままダンジョンに行ってもいいのかなあ?」
咲良が不安そうに誰に言うでもなく呟く。
「でも寮で待っていたからといって、事態がいい方向に向かうとは限らないわよ」
「いちおう手紙は残して来たから、すれ違ってるだけならだいじょうぶですよ~」
完全に割り切った訳でもないだろうが、陽子と芽衣はダンジョン探索には賛成のようだ。
咲良も別に反対というほどでもないのだが、やはりどうしても信也達の事がきにかかるようだ。
だが、すでに村を離れ、建設予定地をとうに過ぎてしまっていた。
「ダンジョンに着くまでに合流出来ればいいんだけど……」
そんな事を口にする咲良。
まさかそれがフラグになったという訳でもないが、咲良の期待した展開は最悪な形で実現することになる。
それは北条達がダンジョンまであと少し、といった地点に差し掛かった時の話になる。
雑談を交わす事もなく黙々と歩いていた北条達は、先の方から光の筋のようなものが輝くのが見えたのだ。
「アレはッ……」
「先を急ぐぞぉ」
その光を見た北条が慌てたように先を急ぎだす。
他の者もその後を必死についていく。
距離的にはそう遠くない場所のはずだが、気が急いているせいか移動中の一分一秒が長く感じられる。
先ほどの光――それは彼らには見覚えのあるものだった。
もしかしたら"光魔法"でも見た目的には同じようなのがあるかもしれないが、北条達の脳裏に真っ先に浮かんだのは、
(慶介くん、お願いだから無事でいて!)
慶介の"天恵スキル"である強力な範囲攻撃のスキル、"ガルスバイン神撃剣"であった。
それほどまでにあのスキルは威力、見た目共に異邦人達の記憶に強く焼き付いている。
光が放たれてから、恐らく五分と経たずに現場へとたどり着いた北条達。
《サルカディアの泉》の水辺の近く。ダンジョンからはそう離れてない場所で北条達が目撃したのは、一人の男と戦っている信也達の姿だった。
ただ、慶介は先ほどの"ガルスバイン神撃剣"のせいか、地面に頽れて肩で息をしており、長井も何やら少し離れた場所で慶介同様に苦しそうな様子。
戦っているのは残りの四人になるが、今の所大きなケガを負った者はいないようだった。
それもそのはずで、いくらレベル差があったとしても、四対一という数の差がまず大きいだろう。
それに相手の男が、短剣を手にしたいかにも盗賊職風な男であり、戦闘メインの前衛ではなかった点。
加えて敵の使用する短剣では余り大きなダメージを出せず、遠距離からでも癒せるメアリーの"回復魔法"を随所で織り込んでいた事も、敵の男にとっては厄介であった。
その盗賊風の男以外の相手方の状況はというと、何故か二人ほどが水辺で倒れていて戦闘に参加できそうな様子ではなかった。
その二人の人物は片方がドワーフで、もう片方は亜人。
ガルドの話にあった奴隷の二人とは彼らの事だろう。
一体何があったのかと思いつつも、状況を更に分析していく北条。
近くにいるのはあと二人で、身長二メートル近くあるんじゃないかという筋骨隆々な男は、左腕と左足の一部が焼けただれたようになっていて、まともに動かせるのかどうかも怪しい程だ。
最後の一人は更に酷い状況で、全身の至る所が先ほどの男と同じような状態であり、身に着けていた金属製の鎧の一部が融解して皮膚に癒着したようになっている部分もある。
だが、完全に溶け落ちたり蒸発したりしていない辺り、ただの鉄などではなく他の上位のこの世界独特のファンタジー金属なのだろうと推測できる。
異邦人達は、これまでそういった謎の金属の話は何度か耳にしてきていた。
彼らは、恐らくは両者共に慶介の"ガルスバイン神撃剣"をまともに食らったのだろう。
アレをまともに食らってまだ生きている辺り、レベルの高い冒険者のタフさには驚愕ものだ。
見ると、どうやら良い鎧を身に着けていたお陰で、重要な器官を幾つも含む上半身への直撃は免れていたようだ。しかし、その他の部分――特に肌が露出した部分は酷かった。
だがその一番状態が酷い男は、全身にポーションを振りかけつつガブガブと経口摂取もしていたようだ。
恐らくはまだ激しい痛みと、まともに動かせない体の部分もあると思われるのだが、怒りに我を忘れて顔を真っ赤にしている――実際顔の半分程が真っ赤に焼けただれていた――男は、少し長い柄の戦斧を手に怒声を上げる。
「ああああぁぁあぁぁぁぁぁぁッッッ!! でめええらぁ、皆殺しにじてやるううう!!」
鬼気迫る表情を浮かべたまま信也達の元に向かう男。
その足取りは大分心もとないが、一対四でも勝負がつかなかった局面で更に一人追加されては、信也達に勝ち目は薄い。
……だが、今は慌てて駆け付けた増援がいる。
「そうはさせんよぉ。 【風の刃】」
狙いすました北条が放つ複数の【風の刃】は、怒りで完全に注意力を失っていた男の足部分へと見事命中するのだった。
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