どこかで見たような異世界物語

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第六章

第122話 湿地帯の探索

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△▼△▼△▼△▼△▼


 時間は少し遡って、信也達がまだ『流血の戦斧』と出会う前のこと。
 予定より長い探索となった《フロンティア》の帰り道の途中、パラパラといった感じで少数で現れて襲ってきた魔物相手に、龍之介が楽しそうに戦っている姿があった。

「ハッハア! オラオラァ!」

 ご機嫌な様子で剣を振るう龍之介。
 その手に握られているのは今まで使っていたものとは異なり、刀身が薄緑色をしていた。

 少し長めでスリムなその剣を振るいながら、龍之介は剣に魔力・・を込める。
 そして剣に魔力が行き渡るのを確認すると、徐に少し離れた場所にいる狼系の魔物に向けて、剣を振るった。

 すると、薄緑の剣は込められた魔力を元に、風の刃を生み出し、魔物のもとへと飛んでいく。
 ズシャッという音と共に、その風の刃は狼の首を一発で斬り落とした。
 雑魚の狼の魔物とはいえ、どうやらそこそこの威力があったようだ。

「よっしゃああっ」

 その結果に満足した龍之介が快哉の声を上げる。
 龍之介の手にした薄緑色した刃を持つ剣。
 これは今回のフロンティア探索において、"青銅の宝箱"からゲットした魔力の込められた魔法剣であり、見ての通り風の刃を飛ばしたりといった風属性の能力を持っている。

 同じ剣使いである信也が、大人・・な対応をした事もあって、この剣の所有者は龍之介に決定し、これまでの帰り道の道中にも何度かその剣を振るってきていた。
 「風の刃を飛ばす」という能力だけでいえば、龍之介は"真空斬り"という似たような闘技スキルを使えるのだが、魔法の剣で使うという事がどうやら龍之介には格別なものだったらしい。


「よいしょっ……と。どうやらこれで終わりみたいですね」

 そう言ってメアリーが、狼に対して振り下ろしていた赤いメイス・・・・・を持ち上げる。
 そのメイスはあちこちに血のようなものがこびりついているように見えるが、これらは今倒した魔物のものではない。
 ダンジョンの魔物は倒した際に、光の粒子となって消えてしまい、血すらも残さないのだ。

 つまり、このメイスについた"赤い何か"は元々付着したものであるのだが、剥がそうとガリガリしても剥がれることはなく、仕方ないからメアリーはそのまま使う事にしていた。

 この血まみれのメイスも、龍之介の風の魔剣と同じ宝箱から入手したものだ。
 効果の方は風の魔法剣のようにはっきりと分かるものではなく、メアリー曰く「前使ってたものより若干威力が増している?」程度のものらしい。
 ただ魔力を帯びているのは間違いないので、他にも何かしらの効果があるのかもしれない。

 それらの装備が入っていた"青銅の宝箱"は、どのようにして発見したのか。
 話は更に前に遡る。



△▽△▽△


 信也達は、今回の《フロンティア》探索でスタート地点から南へと進路を取っていた。
 しかし、いけどもいけども風景に変化は見えず、いい加減引き返そうかと思っていた所でようやく変化が訪れた。

 それまでの見渡す限りの平原といった場所から、地面がぬかるんだ水溜まりが目立つ湿原へと変化していったのだ。
 その湿原は所々に枯れた木が生えていて、地面にはポツポツと黄色い花がまばらに咲いている。
 見るとその花が咲いている周辺の水だけは、泥水のように濁ることなく澄んだ色を称えている。

 これまで特にこれといった成果もなかった《プラネットアース》の面々は、この変化を見て、もう少し先まで探索続行を決断。
 進むにつれて地面に足を取られて歩きにくくなってきたので、ぬかるみが酷い場所を避けるように、更に南にしばらく探索を進めていくと、眼前に一際大きい枯れ木が見えてくる。


「……ちょっと、いつまで進むつもりなの?」

 ブーツが泥まみれになって、不快な表情を隠しもしない長井が話を切り出す。

「ううん、そうだな。確かに風景に変化もあったし、出てくる魔物の種類も変わってはきたが、この湿地帯もまだまだ先は長そうだな……」

 そう言って額に浮いた汗を拭いながら、信也が足を止める。
 この時点ですでに探索五日目になっており、今から急いで引き返しても週一の休みには間に合わず、繰越休日になるのは確定していた。

 当初湿地帯の探索を強硬に主張していた龍之介も、あまりの変化のなさには辟易としていた。
 ただ、魔物自体は今まで戦ってきた中では恐らく上位にはいる強さになってきたので、経験値的には悪くないな、とも思っていた。

 とはいっても、このぬかるんだ戦いにくい地形、昆虫系やヒルなどの厄介な魔物が多かった事もあり、さしもの龍之介もここでレベル上げしようという気にはなれなかった。

「……確かに、こりゃーちょっと一筋縄じゃいきそうにねーな。とりあえず、あそこに見えるでけー枯れ木まで行ったら引き返そうぜ」

 何故ここですぐに引き返すというのでなく、更にもう少し先の目印まで進むという選択を出したのかは分からない。
 単に龍之介の気まぐれだったのかもしれないし、運命の神の思し召しかもしれない。

 意外とこうしたなんでもないような選択が、後に運命を変える事というのは往々にして存在する。
 今回の彼らもまさにそういった事例に当てはまる事になる。


「はーー、にしてもこの枯れ木だけ妙にでけーよなあ。元は立派な樹だったんかねえ」

 大きな枯れ木の近くまで到着した龍之介が、ぼへーっとした様子で感想を漏らす。
 実は枯れ木のように見えている木はしっかりと生きており、花や葉は咲かせないが、地中に巡らせた根が時折地上へと向かって伸びていき、そうして新たな枯れ木が誕生する。
 そんな竹のような地下茎を持つ植物に近い性質を、この枯れ木は持っていた。

「どうせこんなとこまで来たんだから、アンタついでにその枝を切り落としなさい。薪に丁度良いでしょ」

 鼻に着く長井の物言いだが、龍之介としては薪としてよりも何らかの素材に使えるかもしれないと思い、返事をすることなく黙って木へと近づき、近くに伸びていた枝を切り落とそうと剣を振るう。

 しかし、グサッといった感じで剣がめり込むだけで、一発では切り落とす事ができなかった。
 レベルも上がってステータスも上がり、"剣術"スキルを持っている龍之介でも切れないとなると、見た目以上の硬さを持っていることになる。

 その理由というべきか、はたまたどうしてこの枯れ木だけ妙に大きいのか。
 次の瞬間その訳が明らかになった。

 ブオオォォンッ!

 急に聞こえてきた風を切る音に、だがしっかりと龍之介は反応して、バックステップでその音の元凶を躱していた。

「っとお……。あっぶねえなあ、オイ!」

 音の元凶はうねうねと動く枯れ木の枝が振るわれた音だった。
 人間の腕程もある枝が、龍之介を薙ぎ払おうとして振るわれていたのだが、実は少し警戒をしていた龍之介はどうにか避ける事ができたのだ。
 枝を躱した後は、更に後ろ向きに移動してメンバーの元へと後ずさる。

「っつう訳で、どーやらアレ・・魔物のようだぜ。トレント……にしちゃあちょっと趣がちげー気はするけどな。木だけに」

 誰も反応を示さないが、龍之介には冗談を言えるほどの余裕があった。
 それは、相手の体が五メートル近くある大きさのせいか、繰り出された枝もそれほど早い攻撃ではなく、不意打ちを食らっても躱す事ができたからだ。
 確かに当たれば相応のダメージはもらいそうだが、当たらなければどうということは無い。

 本性を現したその枯れ巨木――イービルトレントの変異種である、ヴァリアントイービルトレントは、中心部分に大きな眼がひとつ開かれている。
 まがまがしい雰囲気を纏ったその眼は、獲物である信也達の姿を捉えるとその巨体をゆっくりを動かし始める。

 こうして、ヴァリアントイービルトレントとの戦闘の幕が切って落とされた。






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