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第六章
第123話 ヴァリアントイービルトレント
しおりを挟む「えーと……。植物が相手だから、"水魔法"より"氷魔法"の方がいいかな」
そう呟きながら新たに取得した"氷魔法"のスキルで、遠距離攻撃を仕掛ける慶介。
その後に続いて信也や石田、それから龍之介も、遠距離攻撃のスキルで攻撃を始める。
敵は攻撃が遅めなだけでなく、やはりその巨体さ故に移動力も相当低い。
もしこの大きさで機敏に動けたら、単純に運動エネルギーだけで攻撃力も凄い事になっていそうだ。
そういった訳で動く魔法の的となっていた敵だったが、それでも距離を詰めると長く太い枝を複数本伸ばしてくる。
最初の不意打ちのように、払うような動きもあれば、単に真っすぐ伸ばしてくるものまで幾種類かあった。
中でも真っすぐ伸ばしてくる枝は動きが速く、ぐんぐんと信也達の元まで迫ってくる。
「させるかあっ」
その伸びてくる枝を途中で切断してやろうと、龍之介が剣を振るうが、不意打ち前に最初に斬りつけた時よりも更に硬さが増しており、刃が半分ほども通らなかった。
「ちぃっ、この枝止められねーぞ! 避けろおおお!」
「なっ! みんな逃げろ。あれは俺が対処する!」
安全だと思っていた、後衛のいる位置まで枝を伸ばしてくるヴァリアントイービルトレント。
虚をつかれたようなその動きに、他の者は一時動きが止まる。
だが続く信也の声に、我に返ったように各々回避行動を取った。
そして信也がひとり伸びてくる枝に立ちはだかり、手にした盾を前面に構える。
直後、ザギイイィインという音と共に、強烈な衝撃が信也を襲う。
ゆうに数メートルは吹っ飛ばされた信也は、飛ばされてる最中に自分を吹き飛ばした枝の先が、更に二つに枝分かれするのを目撃する。
「うああっ」
「クッッ……」
その枝分かれした二本の枝は、それぞれバラバラに動いて慶介と長井を薙ぎ払う。
威力は信也を吹き飛ばした攻撃に比べると弱いようだが、後衛の慶介と戦闘力が低い長井は、すぐには起き上がれない程のダメージをもらったようだ。
「ぐううう、まさか"シールドガード"越しでもこんなに強力だとは……。みんな、もっと距離を取って立て直すぞ! 見た目以上に枝は伸びてくる!」
信也は先ほど枝の衝突する前に、盾の闘技スキルである"シールドガード"を使用していた。
一時的に、盾による防御能力を上げるスキルを使用していたにも関わらず、あれだけの衝撃を受けた事に、信也は若干の動揺を見せる。
完全に防げると思い、引く体制を見せずがっちり盾を構えていたせいで、盾を構えていた腕がキシキシと痛みを訴えてくる。
その痛みを強引に抑え込むようにして、信也は次の敵の動きに備える。
信也がちらりと敵の様子を窺うと、先ほどの攻防の間に敵のふもとまで飛び込んでいた龍之介が、大技を繰り出そうとしていた。
これだけ目標がでかくて動きも鈍いなら、命中率が低い大技も当てやすい。
「これでもくらいやがれええ! ダブルスラアアアアッシュ!」
しかし元々剣を扱う龍之介は、そのようなタイプの闘技スキルは憶えておらず、結局"ダブルスラッシュ"を打ち込む事にしたようだ。
斧系の闘技スキルならば、命中率が下がるが代わりに威力が大きくなる攻撃スキルもあったし、樹木系の敵には斧の一撃はより効果もあっただろう。
だがないものは仕方ない、とばかりに本来闘技スキルを使用する際には不要である、スキル名を叫びながらヴァリアントイービルトレントに切り込む龍之介。
ザンッ! という音と共に龍之介の斬撃は樹皮の部分をぶち破り、内部へとある程度斬りつける事には成功する。
だがその巨体からすると、ほんの擦り傷程度のものだったらしい。
まともにスキル攻撃を食らったにもかかわらず、敵の動きを見た感じでは、まったくダメージを受けているようには見えない。
「こ、んのヤロウッ!」
それからも何度も至近距離から闘技スキルを繰り出していく龍之介だが、余り効果的には見えない。
ただ、途中から一度に二度斬りつける"ダブルスラッシュ"よりも、一撃の威力が大きい"ハードスラッシュ"に切り替えた所、若干効果がみられるようになってきた。
それはそれでいい事ではあるのだが、まとわりつくコバエを払うかのように、今まで相手にされてなかった龍之介に向けて、太い枝が幾本も攻撃を仕掛けてくるようになった。
これまでは射程ギリギリ位の位置で、後衛を守るようにしている信也の方に攻撃が集中していた分、攻撃の密度が減ったので信也の方は少し楽にはなっていた。
だが龍之介としては攻撃の頻度が減る結果となってしまう。
このようにして、戦闘は長期戦の様相を呈し始める。
防御や継戦能力はあっても、ダメージが通らなければ意味はないのだ。
龍之介の近距離からの捨て身の攻撃と、遠距離からの魔法攻撃で少しずつでも相手のHPは削れているはず、なのだが、痛みの声を上げるでも苦しむ素振りを見せるでもない枯れ木の化け物に、本当に倒せるのかという気持ちになってくる。
「ちぃ! いくらなんでもタフすぎだろおおがああッッ!」
既に戦闘開始してから二十分ほどが経過している。
最初こそ枝の異様な伸び具合で後衛までも攻撃をくらってしまったが、戦っていく内に枝の伸ばせる距離に限りがあるのが分かってきた。
どこか一本の枝を長く伸ばすと、他の部分の枝が短くなっている事に気付いたのだ。
この法則に気付いた後は、後衛にまで魔の手が伸びる事はほぼ抑えられたが、代わりに判明したのが相手の異様なタフさだ。
「これは……もしかすると『番人』と呼ばれる存在なのかもしれません」
いつ味方がダメージを負っても対応できるように気を張っていたメアリーが、記憶の引き出しからこの魔物の素性を推測する。
ダンジョンでは最下層に守護者と呼ばれるボスが存在しているが、ダンジョンの規模によってはその途中の特定の場所に、領域守護者や番人と呼ばれる存在が配置されている事がある。
メアリーが口にした番人とは、特定の場所や宝箱などを守る文字通り番人の事であり、守護者が大ボス、領域守護者が中ボスとするならば、番人は小ボスとも呼べる存在だ。
だが、小ボスとて侮ってはいけない。
今までの戦闘からして分かるように、基本的にボス系統は総じてタフだ。
これは元々の魔物の強さに、HPだけが異様にかさ増しされたようなもので、これらのボスは雑魚として出た時の数倍から数十倍もタフになるという。
更に、今回の信也達には関係ないことなのだが、一部の即死効果を持つようなスキルや魔法、他にも幾つかの状態異常に対する耐性も、ボス系統は持ち合わせているので、結果として長時間の戦闘になりがちである。
これらの情報は《鉱山都市グリーク》の冒険者ギルド資料室や、『リノイの果てなき地平』などから得ていた情報だが、実際目の当たりにするとその厄介さが目立つ。
ペース配分などせず、いつも通りに挑んでしまった結果、龍之介などは最早スキルをほとんど使わず、通常攻撃がメインになってきている。
それでも、途中からガンガン行くような戦い方から長期戦を見据えての戦い方にシフトしていき、徐々に徐々に敵のHPを削っていく。
そんな単純作業のような戦闘の最中、突然敵がこれまでにない行動をしてきた。
「なっ! グアアアァァッ」
地中を這っていた木の根っこ部分が、突如龍之介の足元からにょきっと現れて足首を掴む。
そうして足の動きが不自由になった龍之介に対し、大振りの丸太のような枝の横殴りが炸裂したのだ。
「うっ……」
避けることもできず強烈な一撃をもらった龍之介は、意識を失うところまではいかなかったが、フラフラとした様子で棒立ち状態になっていた。
「龍之介君! 今治しますッ」
即座にメアリーから【癒しの光】が飛んでくる。
現在メアリーも信也の隣で、這い寄って来る枝をじわじわと攻撃していた所だったのだが、敵のすぐ近くにいる龍之介まで回復が届くというのは、こういった場面で大きな意味を持ってくる。
魔法により急激に意識が覚醒してきた龍之介は、続く敵の攻撃をかろうじて避ける事に成功し、一旦敵との距離を取る事が出来た。
「俺達の所まで、あの地中からの根っこを伸ばしてこれるかは分からんが、今後は気を付けるぞ!」
信也の声掛けによって、シャキンッ! と気を引き締められた『プラネットアース』の戦いは、まだまだ終わる様子は見せない……。
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