どこかで見たような異世界物語

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第六章

第124話 湿地帯の激戦

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 あれから更に二十分程の時間が流れた。

 何度かメアリーの【疲労回復】の魔法を受けながらも、善戦を続けていた信也達『プラネットアース』。

 だが精神的な疲労や、消費したMPまではどうしようもなく、すでに後衛組はジッとしてMPの回復に専念している。
 パーティーの要であるヒーラーのメアリーも、"メディテーション"を使って少しでもMPの回復に努めていた。

 そんな後半戦……であってほしいと願っている信也達に対し、敵は新たな札を切ってくる。
 あれ以降何度か足を取られそうになる場面はあったものの、龍之介は地中から迫る木の根にも対応して、ガッチリ捕らえられる事はなくなっていた。

 つい先ほども、懲りずに足を絡め取ろうとしてきた枝をひょいっと躱し、更に着地した所に待ち構えていた木の根をも、軽業師のように避けていく龍之介。

 目の届かない地中からの攻撃とはいえ、動きそのものはやはりそこまで早いものではなく、現在の龍之介なら集中していればこれ位の芸当は可能だった。
 ただそれもこのまま戦闘が更に続き、集中力が切れてきたらどうなるか分からない。

 そういった認識は龍之介の中にもあったのだが、何故か急に動きを止めた龍之介は続く木の枝の攻撃をまともに食らってしまう。

「ぐぼぁ!」

 内臓がやられたのか、口から血を吐き出して地面を転がっていく龍之介。
 すぐにメアリーの"回復魔法"が飛んでくるが、一回で回復できるダメージではなかった。
 二回、三回と続く内に、ようやく立ち上がれるようになった龍之介は、先ほどの自身に起きた異常・・について警告を発する。

「ハァハァハァ…………。みんな、気を付けろ! 奴のあのでかい眼に睨まれた途端、体がまったく動かなくなった!」

「なにっ!」

 信也ももちろん常に敵の様子には気を配っていたが、別段眼が怪しく光るなどといった兆候は見られなかった。
 何の前触れもなくそんな事をしてくるのだとしたら、対処のしようがない。

「ちょっと、どうすんの!?」

 最初に攻撃を受けて以降、相手が相手だけに、何もできずに後ろで様子を見ていた長井が問いかけてくる。
 それはもういい加減撤退しよう、という意図が窺えるような声色だった。

「……奴のあの動きなら、逃げ切るだけならいけるだろう。いざとなったら、そうしよう」

「……それはそれでいいが、あんな奥の手を出してきたってことは、大分追い詰めてもいるんじゃねえか?」

 これまた同じくMPが尽きて何も出番がなくなった石田が、信也の言葉に対して気付いた点をひとつ指摘する。
 敵の動きそのものは最初の時から変わらずに、弱っているのかどうかは見た目ではさっぱりわからない。
 しかし、これだけやって「実は無傷でしたー」なんて事はないだろう。

「ああ。できる所まではやるつもりだ」

 そう言いつつ、這い寄ってきた枝を斬りつける信也。
 あれからの戦いで判明したのだが、木の根を這い寄らせるのは近距離限定なようで、信也のいる位置までは届かないようだった。
 しかし、新たに判明した動きを止めてくる"睨み攻撃"の射程は、いまだ不明だ。

「とりあえず細川さんは、後衛が休んでいる位置まで一度下がってください」

 樹木の魔物であるはずのヴァリアントイービルトレントだが、今までの戦闘を振り返ると、斬りつける剣の攻撃よりも打撃系のメアリーのメイスの方がダメージが出ているように見える。

 ここでメアリーが抜けるとその分火力は減ってしまう事になるが、謎の拘束状態をどうにかしないと、ヒーラーであるメアリー自身が危険だ。
 渋々、といった様子で指示に従って後ろに下がるメアリー。
 これで現状まともに戦っているのは信也と龍之介の二人のみという、厳しいものになっていた。

 本来は数が少ないので歓迎されることの多い魔術士系の職であるが、こうも偏って魔術士ばかりが集まると、こういった事態も起こってしまう。
 幸いにも、今回の相手は攻撃力と耐久力だけが売りの魔物なので、そこそこの強さがあれば前衛二人だけでもある程度は凌げる。

 しかし、その後も本格的に"眼"による拘束を食らい続けた龍之介は、その度にメアリーに回復してもらっていたが、いい加減限界も見えてきていた。
 更にメアリーも節約をしつつ、"メディテーション"をも使って何とか騙し騙しこれまでやってきていたが、ついにMPが底をつく。

 文字通り「必死」となった戦闘の間に、どうも"眼"の能力の範囲は木の根っこと同じく、信也達までは恐らく届かないのだろう、という事が判明する。

 今更分かった所でどうだという事ではあるが、これで最後の切り札を切る決断が出来た。

「慶介君、最後に一発強力なのをお願いする」

「は、はい。分かりました!」

 満を持しての最終兵器の登場に、もう限界ギリギリの龍之介は戦線を離脱し後衛のいる位置の方まで下がる。
 信也は龍之介がいなくなったことで、徐々に移動し始めた敵の前に立ちはだかり、そのすぐ後ろに慶介がスタンバイした。


「すうぅぅ……。では、いきます!」

 これまでの探索の最中、余裕がある時はスキルの熟練度を磨くために、何度か使用してきたこの大技。
 このHPもMPも消費しない、しかしながら強力な効果を持つスキルは、確かに初回使用時に比べ負担は減ってきたのを慶介は感じていた。
 極僅かずつではあるが、使用する度にその感覚は増していくのだ。

 だがしかし、それと同時にこのスキルは力を振り絞れば振り絞るだけ威力が増すという特性がある事も分かってきた。
 今回のような相手の場合は、結局無理して全力でスキルを使わなければならないので、結果としては初回使用時のように気を失う可能性もあった。

 それでも慶介は全く手を抜くつもりなどなく、「もし気を失ったら運んでください」とすまなそうに小声で信也に頼む。

 慶介の決意を無言で頷いて受け取った信也は、何があってもこの子を守るという意思を固める。
 そんな信也に少し頼もしさを感じながら、慶介はスキル発動のキーワードを唱えた。
 信也も発動に合わせて慶介の背後へと移動し、準備を整える。


「"ガルスバイン神撃剣"」


 余計な文言を口にせず、ただスキル発動のキーワードだけを唱えた慶介の口から、にじり寄って来る枯れた巨木に向けて、光線が放たれる。

 それは徐々に角度を広げつつ効果範囲を拡大していくが、流石に五メートル以上はあろうかという敵を全て覆う事はできず、てっぺんの部分だけが効果範囲から逃れていた。

 だが効果はまさに絶大で、見た目は枯れた木だというのに、眩しい光でまともに見えなくなった敵の体からは、内部の水分が蒸発したのか水蒸気のようなものが上り始める。

 ただそれ自体はたいした量ではなく、視界が遮られるという程でもない。
 慶介が"ガルスバイン神撃剣"を打ち終えると、そこには佇立している枯れ巨木の姿があった。
 これまでの相手は大抵が体ごと蒸発するようなダメージを負って即死していたが、さすがにこの強敵相手ではそうもいかなかったらしい。


「まだまだだ! これも食らっておけ。 【光弾】」

 続いて信也が残りのありったけのMPを使い、威力を強化してから放った三つ・・の光の球が、動きを止めた敵へと飛んでいく。
 信也には相手の魔物があれで倒せたかどうかの判別はできなかったが、以前同じような状況でも油断せず、ギリギリで生き残っていたホブゴブリンを倒した北条の事は記憶に焼き付いていた。
 これで信也のMPもすっからかんになってしまったが、信也の中ではやり切った感が強く芽生える。


 信也達は知らない事であったが、守護者ガーディアン領域守護者エリアボスは、周囲から魔物が寄ってこないような作りや仕組みになっているので全力を出し切っても問題はない。
 だが、番人キーパー相手の場合、番をしているエリアが狭い事もあって、戦闘終了後少しすると魔物が近寄って来ることもあった。
 なので、本来なら多少の余力を残しておくのがベストである。


 ――付け加えると、そこまで総力を尽くしても仕留めきれなかった場合は、最悪の一言でしかない。



 グゴゴゴゴゴ……。


 その大きなものが動くような音の発生源は、言わずとも知れていた。

「まさかっ!」

 信也が上げた驚きの声と、僅かに動きを再開した敵に向けて突っ込んでいく影が見えたのは、ほぼ同時の事だった。


「ダラアアアアアッッ!! くたばれええ、こんちきしょうがあああ!」


 後衛のMPは切れ、ヒーラーによるゾンビアタックすらできず。
 物理的な遠距離攻撃手段やスキルなどもなく、残るは己の身のみ。
 そんな状況にも関わらず、まっすぐ敵に向けて突っ込んでいく龍之介は、確かに蛮勇が過ぎたかもしれない。

 だが、その勇ましい背中を見た信也は、自分の足が動き始めているのを知覚する。
 自然と体が動き出してしまった信也は、その勢いのまま龍之介の後を追う。
 すぐ後ろの方からも、同じように駆けだしてくる者の足音が聞こえてくる。

 敵も流石に相当弱っているのか、この距離にまで近づいても枝や根を伸ばしてくる事はなく、睨み攻撃もしてくる気配がない。
 そこからは龍之介と信也……それから後ろから追いついてきた、メアリーによる半ば暴走気味の連続攻撃が、次々と枯れ木の化け物へと襲いかかる。


「こいつでトドメだああああっ!」


 既にMP切れで闘技スキルすら発動できない信也とメアリーだったが、まだかろうじてMPが残っていた龍之介が、とにかくこの相手に通用するような攻撃をイメージしながら攻撃を放つ。
 その攻撃は新しい闘技スキル、"インパクトスラッシュ"となって発動され、斬りつけた本人も驚くような衝撃を相手にもたらす。

 その一撃が止めになったのか、或いはその少し前からすでに事切れていたのか。

 底知れぬタフさを持っていた巨大な枯れ木は、ようやく光の粒子へとなって消えていくのだった。



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