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第六章
第125話 青銅の宝箱
しおりを挟む激戦の末に見事ヴァリアントイービルトレントを打ち倒した『プラネットアース』の面々だが、流石に力尽きた様子で主要メンバーはその場で立ち尽くしていた。
地面がぬかるんでいるので、幾ら疲れ果てているとはいえ、座ったり寝転がったりする気にはなれなかったからだ。
ただ戦闘にほとんど参加する事のなかった長井は案外ピンピンとしており、先ほどのヴァリアントイービルトレントのドロップをひとり回収していた。
流石に小ボスだけあってか、ドロップしたアイテムは一つや二つだけではなかったのだが、その大半はあの木の体の一部であった枝や表皮などだ。
中には、少し形は異なるが赤いリンゴのような実もひとつだけあったのだが、得体のしれない実を食べる気にもならず、一先ずは〈魔法の小袋〉行きだ。
それ以外には〈ワンスターボール〉がひとつ、〈ゼラゴダスクロール〉と思われるものがふたつドロップしていて、これには疲れ果てていた龍之介も歓声を上げた。
戦う前はまさかこんな激戦になるとは想定していなかった分、きちんと報いもあったのは救いだっただろう。
「……ちょっと、こんなものがいつの間にかあんだけど」
戦闘も終わり、集中力も切れて休息モードに入っている信也達。そこに、ドロップの回収も終わって、周辺を探索していた長井の声が聞こえてくる。
見れば長井は少し離れた場所に立っていて、何かを発見したようだ。
まだまだ疲れた体は休息を欲していたが、距離もそう遠くはないので、信也を先頭にのろのろと長井の元まで移動する。
場所的には最初にあの巨大な枯れ木が立っていた辺りだ。
そこには、それまでには存在していなかったはずの宝箱が設置されていた。
青銅製のその箱は、それなりの大きさをしてズドンとその場に座しており、そこそこの重厚感を放っていた。
「お、おおぉぉ……」
いつもだったら真っ先にはしゃぎまわる龍之介も、その重厚感に気圧されたのか、単に疲れ果てていたからなのか不明だが、軽く感嘆の声を上げるに留めた。
「これは……。先ほどのあの枯れ木はこの宝箱を守っていたようですね」
「ああ。番人という奴か」
「はい。それも青銅の箱……ランク的には木の箱、銅の箱と続いて三番目のランクですね」
信也とメアリーが宝箱について話をしている傍らでは、しっかり長井が宝箱について、各種盗賊スキルを使って罠の確認をしていた。
恐らくは、こういった報酬的な宝箱に罠が仕掛けられている可能性はないとは思うのだが、油断は禁物だ。
ほどなくして長井による一通りのチェックが終わり、罠も鍵もかかってないと告げられると、早速彼らは宝箱を開けてみる。
箱の中には別所で北条達が開けたものと同じ様に、複数の品物が詰め込まれていた。
ポーション各種に、薄緑色をした刀身の剣。
なんらかの巨大生物の牙のようなものに、血に塗れているようなメイス。
魔力を帯びてはいないが、宝飾品としての価値がありそうな指輪がふたつにネックレスがひとつ。
レンズ部分が外れた虫眼鏡のような形状をした魔法道具に、こちらは魔力を帯びている事から何らかの効果があると思われる瞳型をしたペンダント。
それから〈ゼラゴダスクロール〉が二枚に、魔力を帯びた金属製の扇。
これら全てが青銅の箱の中に収められていた。
だが、この場には北条がいなかった為、"目利き"スキルによるおおまかな鑑定を行う事はできない。
とはいえ、単に魔力を籠めて発動させることができた虫眼鏡については、すぐに効果が知れた。
「これはすぐにでも使えそうね。魔力を籠めて――って何もならないわああああ!?」
辺りに珍しく取り乱した様子の、長井の大きな声が轟き渡る。
長井も自身の声に驚いてしまい、思わず手にしていた虫眼鏡を取り落としそうになってしまったほどだ。
「どうやらそいつは拡声器の効果があるようだな」
信也の指摘した通り、レンズの外れた部分に向けて声を出すと、その声が何倍にも拡声される効果があるらしい。
「へんっ、いつもボソボソと喋る石田のおっさんにはピッタリなアイテムだな!」
何気ないいつも通りの龍之介の軽口だが、石田の眉間の皺がピクピクと震えている事には誰も気付かない。
その後北条達のパーティーと同じような方式で、ここで分配できるものを分配しようという件になり、血まみれのメイスは他に使用者がいないのでメアリーの元に。
剣の方は龍之介と信也が競合しているのだが、信也には魔法もある事だしと大人な対応を見せて今回は龍之介へと剣が渡る。
次に魔力を帯びた帯びた瞳型のペンダントは、どうもそのデザインが好みに合致したのか、長井が強く獲得を主張したので、そのまま長井が着用することになった。
あとは魔力を帯びた扇については、
「あー、作品によっちゃあ、こういうのを武器にして戦うゲームとかってあるよなー」
という龍之介の指摘はあったのだが、実際にこの世界ではどういった扱いなのかまではよく分からなかったので、とりあえず保留ということになった。
しかし、鞭であろうと"鞭術"などという戦闘スキルがある世界なので、"扇術"のような戦闘スキルが存在していてもおかしくはない。
こうして一通りの配分が終了したのだが、更に龍之介より〈ゼラゴダスクロール〉による強化を行いたいという提案がなされた。
確かにこのペースで入手できるなら、安全に強化できるという二回分の強化まで行うのも悪くないだろう。
丁度魔法の剣やメイスもみつかったのだ。
しかもおあつらえ向きに、ヴァリアントイービルトレントからのドロップと、宝箱の中からでたものが丁度二枚ずつ、計四枚である。
装備の強化は彼ら自身の命をも救うことにもつながる筈だ。
こうして、魔法剣と血まみれメイスには、それぞれ二回ずつ〈ゼラゴダスクロール〉による強化が行われる事となった。
「えーと、確かスクロールを強化したい装備に張り付けるように押し付けてから、スクロールに魔力を送り込む。それから、『強化』という文言を唱えればいいんだったな」
三回目以降の強化を行う際には一定確率で失敗し、装備もろとも蒸発する可能性が出てくるので、やたらとこの『文言』の部分に力を入れる人も一定数いるのだが、あくまでそれはジンクスみたいなもので、成功率自体が変わるものではない。
特に今回は絶対失敗しないという、二回の安全圏の中で治めるので、龍之介とメアリーは気負う事なく〈ゼラゴダスクロール〉による強化を二回ずつ行った。
強化を行った際にはチラッと魔法の剣が光った程度で、派手なエフェクトはなかった。
あまりになさすぎて、いまいち強化された実感はないのだが、それは追々判明していくだろう。
といっても、今回はしょっぱなから装備を強化してしまったので、強化の具合を実感したいのならば、ここから更に強化しないといけないが。
「にしても、なんだかんだで使わねーからこの星玉だけが溜まってくなあ。タマだけに」
そう言って青色の〈ワンスターボール〉を手にしていた龍之介。
確かにこちらはダンジョン内の魔物ならば、極低確率で誰でもドロップするものなので余りがちになりそうに思える。
「以前チラッと聞いた話だと、高ランクの冒険者ともなると逆にスクロールの方が手元に増えてきちゃって、〈スターボール〉の方が足りなくなるって聞いたな」
高ランクの冒険者が戦うような高レベルの魔物は、それだけスクロールなどのアイテムを落とす確率も高くなっていく。
しかし、〈スターボール〉のドロップ率は高レベルの魔物でもそれほど変わらないので、そのような事態になるらしい。
ただし、高ランクの魔物からは二つ星の球がドロップするので、高ランク冒険者が低ランクの魔物を乱獲するという事はあまりない。
またギルドとしても規則には載せていないが、そういった行為は推奨していない。
ダンジョンの事に関しては、ダンジョンごとにこういったローカルルールのようなものが幾つか存在していて、それによって色々と問題が起こったりする事もある。
だが、このダンジョンに関して言えば、少なくともまだ誰色のルールにも染まっていない真っさらなダンジョンだ。
今後どうなっていくかは分からないが、ギルドから送られた危険人物達の事を知りつつも、こうしてダンジョンに挑んでいるのは、今だけはほぼ自分達でこのダンジョンを好きなように探索できるからである。
信也達のような低ランクの冒険者たちは、ダンジョン発見の報を聞けばそれはもう山のように押し寄せてくる事になる。
そうなると数の多い下のランクの狩場は混雑する事も予想され、その分だけ問題ごとも多く発生すると思われる。
新しくサービスが始まるネットゲームのように、スタートダッシュをしておけば後々にも効いてくるだろう。
「へー。じゃあ、こいつは大事に取っておいた方がいいんだな」
そう言って、龍之介は信也に手にしていた〈ワンスターボール〉を手渡す。
こうしたまだ使い手のないアイテムなどは、基本的にリーダーである信也が管理する事になっていた。
「まあこいつをいつ使う事になるかは分からんがな。それよりも、今はしっかり休むぞ。今の状態で魔物に襲われたらマズイ」
こうして能天気に会話しているようにみえるが、その実二人共かなり力を消耗していた。
その後、休息に入った彼らに対し、二度程魔物の襲撃があった。
ただ少しは回復してきていた事もあって、どうにか魔物の襲撃を撃退する事ができた。
そしてキッチリと休憩を取った彼らは、進路を迷宮碑へと向ける。
その先に待ち受ける奴らの事を未だ知らぬまま……。
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