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第六章
第128話 Cランク相当の実力
しおりを挟むドヴァルグの突然の攻撃によって吹き飛ばされた長井は、地面に横たわったまま身じろぎひとつしない。
微かに肩が上下している事から死んだという訳ではないが、すぐに立ち上がるのは無理そうな状態だ。
「き、貴様らアアアァァァッ!!」
攻撃を受けたのは気にくわない相手ではあったが、それ以上に気にくわない男達を前にし、龍之介は目の前の男の存在しか映らなくなる。
その前に一度茶々が入ったせいで信也の拘束も解かれており、今度こそ龍之介が相手に飛び掛かるのを防ぐ事が出来ない。……そう判断した信也の耳に小さな声が聞こえてきた。
その小さな声は、ドヴァルグの事以外が見えなくなっていた龍之介にも届く。
――それは本能に刻み込まれたかのような動きだった。
激昂して相手に飛び掛かろうとした龍之介だったが、急にその足を真横へとスライドさせたのだ。
もし意識してやっていたなら、かなり迫真のフェイントになっていただろう龍之介の動きに、ドヴァルグの対応も若干遅れてしまう。
「……撃剣!」
その直後、小さな声の持ち主である慶介のとっておきが、不意を衝くように発動される。突然の未知のスキル攻撃を、真正面からマトモに食らってしまうドヴァルグ。
このスキルの凶悪な所は、この直線状の光線だけでは終わらない点だ。
ここから更に扇状に範囲が拡大していく為、初見で完全に対応するのが難しいという特徴がある。
実際興味なさげに様子を見ていたヴァッサゴは完全に避ける事が出来ず、左腕と左足を焼かれている。
しかし、"危険感知"スキルを持つ盗賊職のコルトだけは持ち前の身軽さもあってか、完全に躱す事に成功していた。
慶介の暴発に呆気に取られる信也達であったが、すぐに我に返ると各自行動を始める。
まずメアリーは長井へと【癒しの光】を飛ばしつつ、大技を放って意識を手放してしまった慶介を抱えて一旦後ろへと下がる。
そして信也はどこからともなく飛んできた短剣を弾くが、完全に軌道を反らせることは出来ずに、弾かれた短剣が信也の腕を僅かに切り裂いた。
龍之介はその短剣を投擲した相手――コルトの方へと我武者羅に突っ込んでいき、石田の"闇魔法"もそれに合わせ敵に向けて放たれる。
「グググ……」
短剣の投擲をかろうじて弾いて、急所への攻撃を防いだ信也だったが、その顔色は悪く、龍之介の援護に行く余裕もなかった。
見ると、短剣によって微かに付けられていた傷周辺の皮膚が、紫色に変色しているのが分かる。
「あれはっ!? 和泉さん、今治します! 【解毒】」
信也の様子のおかしさから目ざとく腕の傷の状態に気付いたメアリーは、即座に毒状態を治療する"回復魔法"を信也へとかける。
実際今までそれらしい症状にかかったことはほとんどなかったが、「状態異常」については異邦人一同は既に下調べはしてある。
いわゆる一般的なゲームではよく登場するようなものが多く、テイルベアーの咆哮による体のすくみもその一種だ。
今さっき信也が腕に受けたのは、状態異常の中では最もポピュラーである毒だ。
丁度奴らとの会話の中にも、"毒耐性"をドワーフ奴隷に身に付けさせた云々という話が、憎らし気に語られていた。
「チィ、治癒魔法……それも"回復魔法"持ちかよッ」
今までの口調からガラリと変わったコルトは、押し寄せる【闇弾】の魔法を躱しつつ、龍之介の風の魔剣による風の斬撃をも見事躱していた。
だが、攻撃はそれだけで終わらず、最後に龍之介自身による攻撃が加えられる。
「ッッツ!」
まるで軟体生物のような体の柔らかさでもって、紙一重で龍之介の攻撃を避けるコルト。
ただし完全には避けきれなかったのか、或いは風属性を持つ魔剣が原因なのか。すばしっこく避けまくるコルトに対し、革鎧の一部と顔の一部に切り傷を与える事に成功していた。
「新人の分際でッ!」
自分が新人相手に傷を受けるとは思っていなかったのか、苛立たしそうに吠えるコルト。
しかし、龍之介のように熱くなって思考が鈍る事はなく、冷静に現在の戦況を分析していた。
(コイツら、新人とは思えねえ腕をしてやがる。あの直情的なガキも、あれで剣の鋭さだけで言えばDランク位はありやがる。とりあえず、あのとんでもねえ攻撃はもう来なさそうだが……)
実力だけで言えばCランクの領域に入っているコルトは、瞬時に相手の力量を見極めていく。
そこに戦線復帰した信也の攻撃をも混じり始め、さしものコルトも徐々に考える余裕を奪われていく。
(マズイぜ、アイツらは何してやがんだ!?)
龍之介と信也、それから時折飛んでくる魔法攻撃に対処しつつ、チラッとコルトが仲間の方へと視線を送る。すると、未だドヴァルグはまともに動ける状態ではなく、その手はポーションを収めていた鞄を手探りで探っている状態。
ヴァッサゴの方はドヴァルグよりは軽傷だが、地面に膝をついて負傷部分にポーションを振りかけたり服用したりしてる状態で、まだ戦線に参加できそうにはなかった。
(普段いばり散らかしてるくせに、クソの役にも立たねーじゃねえか!)
心の中で悪態をついていたコルトは、状況が改善しない事に対する若干のあせりと、仲間の容態を窺ったために生まれてしまった隙を突かれることになる。
「これでも、食らえ!」
闘技スキルを交えながらの巧みな龍之介の攻撃と、それを補うように動く信也とのコンビネーションによってコルトは徐々に追い詰められていく。
「ちくしょうが!」
しかし急に敏捷性が増したコルトは、絡め取って来るような龍之介と信也の連携攻撃を難無く避け始める。
それまでの動きも信也らからすれば驚愕する動きだったのだが、今の動きは最早一般人では目で負えないレベルの速さだ。
「なぁッ!?」
突然の相手の動きの変化に思わず驚愕の声が漏れる龍之介。
そして逆に今度はコルトが二人相手にしながら怒涛の如く攻め始める。
とはいえ短剣使いのコルトの場合、幾ら動きが素早くなろうと至近距離まで接近しなくてはならない。
龍之介らが使う剣も刀身が特別に長いという訳ではないが、リーチ的には短剣相手には圧倒的に有利だ。
だが「そんな事は百も承知」とばかりに、コルトは目に負えないような速さで何度も龍之介達を斬りつけ、相手に防御や回避をさせる暇すら与えない。
しかし、ダメージを負う度にメアリーからの【治癒の光】で傷は癒されてしまう。
その内にまたコルトの動きが元の速さに戻り、どうにか龍之介達も体勢を立て直す事に成功していた。
先ほどコルトが使用していたスキルは、"機敏"という一時的に敏捷を大幅に伸ばす身体ステータス強化系のスキルだ。
常時ステータスが強化される"筋力強化"などのパッシブ系スキルとは別で、効果はスキル熟練度に応じて持続時間と効果が変わる。
効果とは先ほどのコルトの動きを見ての通りで、使用者の敏捷を一時的に大幅に上昇させる事ができるスキルになる。
他にも一時的に筋力を増す"剛力"や器用さを高める"手練"なども存在している。
これらのスキルは大体冒険者達がレベル十代半ばを過ぎたあたりから使えるようになってくるスキルで、このスキルを使いこなせるようになってようやく新人扱いを卒業扱いされる。
なお、一度使用すると数分は使用出来なくなる制限――クールタイムがあって
、連続しての使用ができない。
また使用する際には闘技スキルと同様に、スタミナと魔力を結構消費するので、無尽蔵に好きなだけ使用できるという訳でもない。
コルトがそんな虎の子のスキルを早々に使ったのは、仲間の助けを期待してのことだ。
あのガキの奥の手の威力はかなりのものだったようだが、それでも倒しきれなかったのならすぐにでも参戦してくるはず。
だがそう思っていたコルトの期待を裏切り、なかなか救いの手は差し伸べられない。
一瞬いつもの悪癖で、自分が苦しんでるのと見て喜んでいるんじゃないかとドヴァルグの方を見遣るが、ようやくポーションを探り当てたのか体に振りかけたりしている所で、まだそちらは回復に時間がかかりそうだった。
だがドヴァルグよりは軽傷で、ポーションによる治療なら問題なく行えていたはずのヴァッサゴは、じっと様子を見ているだけで戦いに参加する様子がない。
確かにポーションを使用したとはいえ、見た目的にはまだキツそうではあるのだが……。
一方信也達の方は戦いの最中だというのに焦りが抑えきれず、時間が経つほどにそれは強くなっていく。
まさか本職の前衛でもない盗賊職相手に、ヒーラーも入れて四人体制でどうにか拮抗出来るレベルだとは想定外だったのだ。
一番身近にいる盗賊職の長井の場合、確かに戦闘は行えてダンジョン低層の雑魚相手なら一人でも戦える位にはなっていたが、それでも信也や龍之介と比べると雲泥の差がある。
(流石にCランククラスは伊達ではないか)
今も短剣の闘技スキルである"スラストエッジ"を食らい、メアリーに治療されたばかりの信也は、あせりつつもそう冷静に分析する。
なにせ実力でCランククラスという事は、おおよそレベルが五十一以上――つまり、職業を二つ持てるという事だ。
この男がどういう職業構成なのかは知らないが、メインの盗賊職の他に、サブで戦士系の職業を取っている事だって十分ありえる。
今回の場合ひとつ救いなのは、彼らはCランククラス相当の実力があるとされるが、それはあくまでCランクの中では下の方の実力しか持っていなかった点だろう。
(このままの互角の状態がどこまで続くか分からないが、後ろの連中が参戦してきたら……逃げるしかないな)
(このクソガキ! 徐々に俺の動きにも対応してきやがる……。気にいらねえぜッ!)
そんな両者の思惑がぶつかり合う互角の戦い。
そこへ、戦いに終止符を告げるかのような荒々しい声が響き渡る。
「ああああぁぁあぁぁぁぁぁぁッッッ!! でめええらぁ、皆殺しにじてやるううう!!」
未だ全身に痛々しいやけど跡が目立つドヴァルグの、獣の如き怒号が辺りへ響き渡る。
その怒りを体現したかのような声を聞いただけで、信也達には絶望という言葉浮かび上がってくる。
しかし、意外にもそんな彼らを救う希望の声は、そのすぐあとに訪れた。
「そうはさせんよぉ。 【風の刃】」
普段と変わらない余裕のありそうな口調と共に、北条の放った【風の刃】がさらに事態を混迷させていく。
まるでヒーローが窮地に表れるかのようなタイミングで、現れた『サムライトラベラーズ』。
彼らの登場によって、絶望を感じていた信也の心に、希望が灯り始めるのであった。
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