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第六章
第129話 善戦
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「どうにかギリギリ間に合ったって所かぁ?」
現場に到達するなり、激昂して信也達へと向かっていく火傷だらけの男に【風の刃】を放った北条が独り言ちる。
丁度、いま信也たちのいる位置からは、正反対の森側から駆け付けた北条。
その北条の魔法攻撃によって、足を切断するには至らずとも、片足の腱の部分を断ち切る事に成功したようだ。突進していたドヴァルグは、バランスを崩して地面へと倒れ込む。
しかし咄嗟の事でも受け身はきちんと取れており、頭に血が上っていたとは思えないほど即座にポーションを取り出し、今しがた斬られた足の部分へと振りかけはじめる。
しかしそんな真似はさせまいと、後から追いついてきた咲良と芽衣が即座に魔法による攻撃を開始する。
まず、上手いこと直線状の配置になっていたのを良いことに、芽衣の【ライトニングボルト】が発動し、ドヴァルグに当たったあとに更に奥にいたコルトへも命中する。
すばしっこいコルトであっても、ドヴァルグが壁となっていたせいで魔法の対処に遅れてしまったようだ。
「ぐ……【ライトニングボルト】か」
先にドヴァルグに当たって威力が弱まっていたのか、ただのレベルの差によるものなのか。壁越しとはいえ直撃したはずのコルトには、そこまでのダメージは見られない。
これでも一応は雑魚ゴブリン程度ならまとめて屠れる程の威力はあるのだが、やはりレベル差によるステータスの違いというのは大きいようだ。
しかし続いて放たれた咲良の魔法は、さしもの『流血の戦斧』の面々にも脅威に映ったようだ。
「ふうぅぅ……。【フレイムランス】」
息を整えて集中しながら放たれた咲良の中級の"火魔法"は、咲良の持つ"エレメンタルマスター"のスキルによって更に威力が強化され、力強く敵へと突き進む。
中級クラスの魔法となるとMP消費も多くなり、今はまだ余り連発できるものではない。しかし威力に関してだけ言えば、これが咲良の現在の手札の中では一番強かった。
対峙するドヴァルグらもすぐにこの魔法の脅威を感じ取ったようだが、コルトはともかく、這う這うの体のドヴァルグは避ける事も出来そうにない。
誰もが魔法が命中するのを確信する中、一人の男が襲いかかる炎の暴力に立ち向かった。
それは何やらぼろきれのような物を手に持ったヴァッサゴだ。
ヴァッサゴは迫りくる炎で出来た槍に向けて、そのぼろきれを掲げるようにして構える。
すぐに炎の槍はそのぼろきれへと命中するが、意外にもすぐに燃え広がるようなこともなく、僅かの間その炎の槍を受け止め続けた。
「え、マジ?」
その光景を見て思わず素の言葉が漏れる咲良。
しかし、流石に完全に抑えきれなかったようで、そのぼろきれもすぐに突き破られ、そのままヴァッサゴへと命中する。
ぼろきれと同じくヴァッサゴも火だるまになるのかと思いきや、そこまで大きなダメージは与えられなかったのが遠目にも確認出来た。
「お前ら、気を付けろ。〈火狐の衣〉で勢いを弱めた上、【火耐性】のスキルを持つ俺でもそこそこ効いた」
そう仲間に忠告している間にも戦いは動き続けている。
ヴァッサゴらが、北条達が到着してすぐさまの魔法の連発に注意を取られている間にも、由里香は真っすぐ敵の方へと向かっていた。
その事に気付いていたヴァッサゴは、迫って来る由里香に対して警戒を向ける。
一度相手の前衛と接敵して入り乱れて戦えば、あとは相手に魔法攻撃をさせないような立ち回りを意識すればいい。
そう考えていたヴァッサゴは、由里香の背後から少し遅れてついてきている陽子の存在については深く考慮していなかった。
「和泉さん、今援護するわ! 【敏捷低下】」
ある程度の距離まで接近した陽子が、新たに取得していた"呪術魔法"と手持ちの〈スロウワンド〉のダブルで、コルトとヴァッサゴの両方一遍の敏捷を下げる。
通常なら一度にひとつの魔法しか使うことは出来ないが、魔法道具などを併用すればこのような事も可能となる。
ただし、これら相手のステータスを下げるデバフ系の魔法は、射程距離が短めなので、ある程度相手に接近しないと使用することができない。
すでに背後からは由里香一人では抑えきれない事も考慮して、続く予定の魔法攻撃をキャンセルした北条が、前に出た陽子を守るべく前線へと走っていた。
「く、こいつは!?」
レベル差のせいもあってか十分に効果が発揮できなかった【敏捷低下】だが、完全にレジストしない限りは若干でも効果は発揮される。
更に"呪術魔法"だけでなく"付与魔法"まで使える陽子は、先走っていきそうな由里香の首根っこをどうにか押さえ、【筋力増強】と【敏捷増強】を施していく。
こちらの魔法は由里香がその魔法効果を抵抗する訳もなく、十全にその効果が発揮され、相対的に由里香が有利になっていく。
由里香はまだ敵のふもとにまで踏み込んでおらず、距離的に少し離れた場所にいる。そのせいで、"付与魔法"による強化を少し離れた場所から見守るしかないヴァッサゴ達。
その新人とは思えぬ手札の多さに舌を巻く。
「親分、こいつらただの新人じゃねえですぜ!」
「そんな事は見ればわかる」
相手方の増援に冗談じゃないとばかりの口調で喚くコルトに、まだ余裕があるのか冷静に答えるヴァッサゴ。
だが彼らにゆっくりと話している時間などない。
誰も接近していない今のような状況こそが、魔法使いの多い異邦人達にとって絶好のチャンスだからだ。
「今度こそ! 【フレイムランス】」
「では私も大技で~。 【落雷】」
「俺は、魔法攻撃よりこちらのがいいか"光剣"。 そして【ライトウェポン】」
「ここはあの魔法の使い処かぁ? よぉし……【風纏】」
「…………死ね」
示し合わせた訳ではないが各人の攻撃の対象はばらけており、咲良の【フレイムランス】は先ほど防がれたヴァッサゴに、芽衣の中級"雷魔法"の【落雷】はコルトに向けられる。
そして弱っている所に止めを刺そうとしたのか、石田はドヴァルグに【闇弾】を複数展開して放つ。
それら攻撃系の魔法に対し、信也と北条は自身を強化する方を選ぶ。
今まで余り使ってこなかった"光剣"スキル、そして"光魔法"【ライトウェポン】は共に装備している武器などに光属性を付与する魔法だ。
攻撃力自体を強化する訳ではないのだが、属性を付与することによって属性ダメージというのが発生しているようで、結果として多少敵に与えるダメージが増加していることを信也は発見している。
この使い方は、元は龍之介の発想から生まれたものだ。
そして自分の不甲斐なさからより力を求めた信也は、実際に何度も使用して検証していた。
一方北条は、すっかりオリジナル魔法の創作にはまっているようで、これまでの拠点づくりに必要な生活魔法ではなく、戦闘時に使える戦闘魔法の開発に勤しんでいた。
そして想像の翼をはためかせ、試行錯誤しながら作り上げたのが【風纏】という"風魔法"だ。
これは魔法発動時に籠められた魔力を元にして、自身に風を纏う魔法である。
移動の補助にも使えるし、いざという時の防御としても使う事が出来る。。
更には低ランクの"風魔法"を、最初に籠めた魔力を使用して詠唱などせずに放つことも可能だ。
移動、攻撃、防御となんでもこなす便利な魔法だが、北条によるとその分扱うのは相当難しいらしい。
移動の補助だけとか防御だけ、といった使い道の魔法はそれぞれ存在しているのだが、全部組み込んだ魔法というのは恐らくこれが初だろう。
「少しミスったか……?」
そんな魔法マシマシの異邦人達に対する『流血の戦斧』は、異邦人達の動きに対応して動き始める。
こんな事ならさっさと敵に突っ込んで乱戦にすればよかった、と内心後悔しつつも、ヴァッサゴは北条達の方へと突っ込んでいく。
その目標はバフとデバフ魔法を使ってくる陽子だ。
「ぐ、ぐぐぐぐ……これ位で俺様を倒せると、思うなよ!」
ドヴァルグは大分ダメージが効いているようで、飛来してきた石田の【闇弾】を全てまともにくらっていた。
しかし、やはり初級魔法では火力に劣るのか、全弾命中した割には重傷のドヴァルグ一人を倒しきれずにいた。
「ギ、ギヤアアァァァーー!!」
一方芽衣の放った中級の"雷魔法"は、あの敏捷性が売りのコルトですら避ける間もなく完全に当てる事に成功する。
【落雷】はその字面の表す通り、自然発生する雷の如く一瞬の一筋の光とその後に続く轟音をもたらし、相手に避ける暇すら与えない。
芽衣の"雷魔法"は最初から使えた天恵スキルであり、その威力は他の魔法使いの放つソレより強力だ。
確率で「状態異常:感電」をもたらす事もある【落雷】だが、今回はその効果は得られずに純粋にダメージだけをコルトに齎した。
Fランククラスの魔物を一撃で倒せる【落雷】の直撃を食らったコルトは、流石にレベルが高いだけあって、盗賊職ながら一撃で沈められる事はなかった。
「クソッがああぁぁあ!」
しかし相応の痛手は与えられたようで、被ダメ直後で動きが鈍いながらも全力でその場から離脱を始める。
戦う相手を失った信也と龍之介は、仕方なく二手に分かれてドヴァルグへの止めを刺す方と、北条への援護に別れようとする。しかしドヴァルグはすでにコルトによって強引に連れ去られた後だった。
その際、何やら喚き散らしながら強引に引っ張っていたようだが、今は逃げ出した奴の事より、北条達の方が心配だと二人で援護に向かう。
ヴァッサゴはコルトとは違い、バリバリの前衛職であり、未だ左腕と左足にはやけど跡が残っているが、いささかも気にした様子もなく戦斧を振るっていた。
そのひとつひとつが当たれば致命傷となりえるのは疑いようもなく、対峙する者は常にその恐怖と戦わなければならない。
特にその恐怖を増長させるのは、襲いかかって来るヴァッサゴのその狂ったような表情だ。
これまでの様子から主要面子の中では一番マトモそうにも見えていたが、ここにきてついに「血狂のヴァッサゴ」という二つ名の由来が垣間見え始めた。
「ルァァァァアアアアアッッ!」
不気味な唸り声を上げながら襲いかかってくるヴァッサゴは、狂っているように見えて動きはしっかりとしており、"格闘術"も取得しているのか随所で突きや蹴りなどの闘技スキルをも混ぜてきて、これが非常に厄介だった。
【風纏】で風をスラスト噴射して強引に避ける北条とは違い、由里香は何度もその攻撃を食らってしまう。
それは信也と龍之介の二人が応援に駆けつけても大きくは変わらなかった。
前衛四人相手にしつつも、一人の相手を抑える事が手一杯。
後衛陣は接近戦となったせいで迂闊に魔法も使えず、一先ずはメアリーらと合流を果たし、魔法の攻撃チャンスを逃さないように手を拱いて見ているしかなかった。
そうした戦闘の最中、手数の多い信也らの攻撃は時折命中していて、ヴァッサゴの体にはやけど跡に加えて切り傷も増えていく。
……のだが、ヴァッサゴは全く意に介した様子はない。それどころか傷つける度に動きがよくなってくるような気すらしてくる。
先に離脱したコルトとドヴァルグらは、咲良達の魔法の射程外でヴァッサゴの戦闘の様子を見るばかりで、助太刀するつもりはないようだ。
この状況で逃げないという事に、何かしら奥の手が控えているようで不安な気持ちをメアリーは抱く。
そして、その不安はすぐに的中することになる。
「もう、十分だ」
突然の音を上げたかのようなヴァッサゴの低く通る声は、後ろで控えていた咲良達魔法組の耳にも不思議とよく届いた。
それは相手方にも同様だったようで、ヴァッサゴの言葉に反応して言葉が返って来る。
「そうデスか? ではイキますネ。 【ダークネスボム】」
いつからそこにいたのだろうか。
ふらりふらりと幽鬼のように立つローブ姿の顔色の悪い男が、北条達とは別方向の泉と森の境目辺りから顔を出している。
そして枯れ枝のような腕から伸びる手には、魔法使いの持つような杖が握られており、男はその杖を振るって魔法を撃ちだすのだった。
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