どこかで見たような異世界物語

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第六章

閑話 転移前 ――龍之介編 前編――

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 太田龍之介は昔っからおじいちゃんっ子だった。

 しかし、自宅では両親二人との三人暮らしで、祖父母は車で一時間は離れた場所に住んでいる。
 そのため、幼い頃から夏休みや冬休みなどの長期休みに入る度に「ケンじぃのとこにいきたい」と親に喚いていたものだった。

 「ケンじぃ」とは龍之介の祖父「太田健三郎」の事で、周囲の人から呼ばれていた愛称を、まだ幼かった龍之介はそのまま呼び名として認識していた。

「ケンじぃ! 見てみて! 逆上がりができるようになったんだぜ!」

「おお、龍之介。大したもんだ、スゴイぞ」

 近所の公園の鉄棒で自慢げに逆上がりをしてみせる龍之介。
 近年、公園から遊具が撤去されスッカラカンの広場のみの公園が増えていく中、ここにはいまだに鉄棒やブランコなどの遊具が残されていた。
 流石にグルグル回る奴やロープウェイなどは撤去されてしまったが、周囲には龍之介の他にもそうした遊具で遊ぶ子供の姿が見受けられる。

 熱い真夏の日差しの中、涼を求めて日陰のベンチへと腰かけた健三郎は、少し離れた場所にある鉄棒で得意げに声を張り上げる孫の姿を、眩しそうに見つめていた。


「ハンッ! 逆上がりなんて俺だってできるぜ!」


 鉄棒で逆上がりをしていた龍之介に、そう声を掛けてきたのは、同じ位の年の男の子だった。
 「見てろよ」といいながら、隣の鉄棒で逆上がりを決めてみせた男の子は、ドヤ顔で「こんなのラクショーだよ、ラクショー」と、龍之介を煽る。

「自慢するならこれぐらいはできねーとな!」

 そう言いつつ、更に男の子は鉄棒で蹴上がりまで披露してみせる。
 初めてみた奇妙な動きを見せるその技に、思わず龍之介は内心ですげーと感心してしまう。
 だが素直に相手を認められる程大人ではなかった龍之介は、そう感じてしまった自分に、情けさや悔しさを感じていた。

「あそこにいるお前のじーさんだって、本当は逆上がりなんて大したことねーって思ってるぜ。なのに素直に信じてるなんてバカじゃねーの?」

 その言葉を聞いた龍之介は、思わず我を忘れて男の事に殴りかかろうとする。

「龍之介ぇぇぇっ!」

 しかし、健三郎の鋭い声が飛んでくると龍之介の足は止まった。
 男の子もその気迫を感じて思わずビクッとしているようだ。

「お、お前のじーさん。声でけーな」

 そんな憎まれ口を叩いて、男の子はブランコの方へと逃げるように去っていく。
 それから龍之介の元まで近寄ってきた健三郎は、

「いいか、龍之介。気に入らない事があったからといって、すぐに暴力を振るってはいかんぞ」

「で、でもケンじぃ。アイツ、ケンじぃがオレの事をスゴイと思ってないって……オレの事をバカにしたんだ!」

 男の子のセリフを思い出したのか、再び頭に血が上る龍之介。
 そんな龍之介に諭すような口調で話しかける健三郎。

「龍之介はどう思っているんだ?」

「え?」

「俺の言う事とあの子の言ってた事、どっちを信じているんだ?」

「そ、それはもちろんケンじぃの方だよ!」

 その言葉を聞いて嬉しそうな表情を浮かべる健三郎。

「それならあの子の言うことを気にする必要はないだろう?」

 理屈の上ではそうかもしれないが、子供心に納得がいかない様子の龍之介。
 そんな龍之介に、健三郎は畳みかけるように言葉をつなぐ。

「周りがなんと言おうと、俺は本当にお前の事がスゴイって思ってるぞ! でもお前が悔しいと思ってるなら、あの子がやってた技も練習してみるか?」

「う、うん! オレもあの技を使えるようになりたい!」

 それから龍之介の蹴上がりの練習が始まった。
 今日は猛暑日という程ではないが、夏の日差しの中、適度に休憩と水分補給をしながら練習を続ける二人。
 一時間程が過ぎた頃だろうか。ベンチで休憩していた二人は、先ほど龍之介に絡んできた男の子が困った様子で公園内をウロウロしているのが見えた。

 更によく観察してみると、何やら探し物をしているようで水飲み場やゴミ捨て場などをガサガサと漁っている。
 しかし目的のものが見つからないようで、やがて人目も気にせずその場で大声で泣き始めてしまった。


「へん、いい気味だ!」

 そんな男の子の様子を見て悪態をつく龍之介。
 その龍之介の態度に、健三郎は静かでありながら力のある声で孫に話しかける。

「龍之介……。人様が困っている様子を見て喜ぶような子は俺の孫ではない」

 その強い物言いに、龍之介は半ばパニック状態に陥る。
 しかしそんな龍之介の様子を見つつ、更に健三郎は話を続ける。

「いいか、龍之介。誰かが困っている所を見たら、迷わず助けられるような男になれ。その時余計な事は考えなくていいんだ」

 健三郎のこの言葉は龍之介の心の奥深くに楔となって突き刺さった。
 そしてその衝撃が去った後、龍之介は祖父に追加で何か言われる前に男の子の元へと向かい、「どうしたんだ?」と声を掛ける。
 話を聞くと、どうやら親に絶対肌身離さず持ってなくさないように、と渡されていた子供向けの携帯をどこかで落としてしまったらしい。

 それを聞いた龍之介は、男の子と一緒に落としてしまった携帯を探し始める。
 二人の様子を見ていた健三郎も一緒になって探し始めるが、携帯は中々見つからない。
 男の子に携帯の番号を聞いてみても、覚えていないという事で着信音からたどる事もできなかった。

 やがて陽が暮れはじめ、当の本人である男の子もあきらめ始めた頃。

「やった! 見つけたっ!」

 と、龍之介の大きな声が聞こえてきた。
 ブランコの脇にある生垣の茂みで、四つん這いになって探していた龍之介はついに目的のものを探し当てることができたのだ。

「なるほど、ブランコで遊んでいたときに飛んでいったしまったんだな」

 健三郎が納得顔でそう呟いている中、男の子の方は泣き笑いのような顔をしていた。
 初めに自分から絡んでいった相手に助けられる。
 それは小さな子供にとって親に隠し事をした時のような罪悪感を感じさせた。
 しかし、

「見つかって良かったなっ!」

 以前のやり取りを忘れたかのように、心底嬉しそうにしている龍之介の姿を見て、男の子の中の罪悪感も吹き飛んでいく。

「あ、ありがとう!」

 実際龍之介は探し物をしている間、男の子の言っていた悪態については忘れてしまっていた。
 そして、今。
 男の子から感謝の言葉を受けた龍之介は、祖父の言っていた言葉の意味を本当の意味で理解できた気がした。



 その後、帰路の途中で静かに龍之介の頭を軽くポンっと触れた健三郎は、

「よくやったな」

 と、穏やかな声で龍之介に語り掛けるのだった。



▽△▽△



 そんな龍之介の自慢の祖父、健三郎だが、公園でのあの出来事からおよそ二年後に、入院していた病院で息を引き取ってしまう。
 入院生活中、辛そうな表情を一切龍之介に見せなかった健三郎は、最後の時まで、

「龍之介、困っている人を助けられるような男になれ」

 と口にしていた。

 その祖父の言葉は、その後の龍之介の人生の大きな指針となる。
 だが、一度その指針が折れた事があった。
 それは祖父の死からそう間が経っていない頃の話だ。


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