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第七章
第151話 メンタルケア
しおりを挟む「由里香がやる気になってくれたのは俺としても助かるがぁ、気持ちだけではどうにもならない事もある。あのエリアにまたすぐに行くことはないだろうがぁ、鉱山エリアの魔物とは戦えそうかぁ?」
「やってみないと分からないっすけど、大丈夫だと思うっす」
「なら、いずれ力を付けてあの猿達にリベンジするとしたらどうだぁ? 動けそうかぁ?」
「それ……は……」
その質問にハッキリとイエスといえる自信は、今の由里香にはないようだった。
そんな由里香の様子を見た北条は、話を続ける。
「……まあ、精神的なものというのは如何ともしがたいわなぁ。そこでだ。その件に関して特訓してみるってのはどうだぁ?」
「特訓……っすか?」
キョトンとした様子で北条に聞き返す由里香。
対して北条は自信ありげな様子で詳細を語り始める。
「そうだぁ。そもそも由里香があの猿の魔物についてトラウマになってしまった原因は、恐怖に起因していると思うのだが、間違っているかぁ?」
「それは……。そうっすね、多分そうだと思うっす」
そもそもの原因を北条に指摘され、少し考えた由里香は自分自身に確認するかのようにそう返事した。
「それなら話は早いかもしれん。なあに、話は簡単な事だぁ。要するに恐怖に対する耐性を身につければいい」
「耐性っすか?」
「ああ。和泉の奴も"ストレス耐性"のスキルを身に着けてから、以前ほど顔色が悪くなる事が減ってきただろう? それと同じように恐怖に対する耐性を身に着けて、トラウマを打ち破る!」
握りしめた拳をグッと前に押し出すようにして、力強く由里香に告げる北条。
その力強い勢いに呑まれたのか「おお、おおおぉっ」と何やら感嘆の声を上げる由里香。
「あ、でもどうやって耐性を身に着けるんっすか?」
「それに関しては俺に心当たりがぁある。まぁ、今度拠点予定地で訓練をする時にでも、早速試してみるとしよう」
「りょーかいっす!」
快活に返事をする由里香。
まだ不安な所もあるだろうが、表面上は問題なさそうなくらいには回復してきたようだ。
「んじゃあ、俺ぁここの椅子を片付けてから戻るから、由里香は先に戻っててくれぃ」
「ハイっす!」
心なしか軽い足取りで元の野営地に戻っていく由里香。
その背を見送りながら、北条は魔法で作った簡易的な椅子を元の何もなかった状態に戻す。
「話は終わったぞぉ」
北条がそう声を掛けると、暗がりの奥から人影がひとつ這い出てきた。
「や、やっぱり……気づいていた……んですね」
自信のなさそうな声でそう声を掛けてきたのは、スキルなどで気配を消していた楓だった。
「まあな……。で、どうしたぁ? 見張りなら今夜は俺ひとりで担当するぞぉ」
「いえ……その。と、特に用事はないん……ですけど、き、気になってしまったので……」
しどろもどろといった感じで慌てて答える楓。
北条も別に咎めるつもりはないのか、更に追求することはせずに、ふと気になった事を尋ねてみた。
「ところで、お前さんは大丈夫なのかぁ? 今回は直接痛い目に合った訳ではないがぁ……」
北条にとって、メンバーの脱退という事態は絶対に避けねばならないという程ではないが、可能ならばそういった事にはしたくないと思っていた。
自身が他人の感情の機微に疎いという自覚を持っている北条は、察するという事が上手くできない故に、こうして言葉で語り掛ける。
「私は大丈夫ですっ! あ……、その。北条さんがいれば何とかしてくれるって、し、信じてますので……」
楓の言葉は一見耳触りよく聞こえるかもしれないが、その実言われた側には少なからずプレッシャーを与えるものでもある。
北条は今までの経緯からしてそのように頼られるのも仕方ないな、というのは理解しているが、基本的には他人から褒められたり持ちあげられるのが苦手だ。
「……そうかぁ。それならいい」
内面のことをこれっぽっちも表に出さずに返事した北条は、そのまま野営地の方へと歩き出す。
背後からは、影に溶け込むようにして後を付いてくる楓の気配が、微かに漂っていた。
▽△▽△▽
「見えてきたなぁ」
北条の言葉通り、視線の先には壁に覆われた建築物が見えてくる。
周囲を空堀が巡り、堅牢な作りの壁がビッシリと覆っているそれは、彼らの拠点予定地だ。
今の時間帯は、早朝に目覚めて食事を済まし、すぐに村へと向かったので昼前といったところか。
今回北条達は少し予定より帰還が遅れてしまったので、先に帰還した信也達がここで訓練でもしてるかと思ったが、中には誰の姿もなかった。
北条が調子に乗ってやたら広い敷地を確保したせいか、誰もいないとなると若干の寂しさを感じさせられる。
そのまま誰もいない拠点予定地を後にすると、すぐ先には村の拡張工事の騒がしい様子が見えてくる。
北条達は大体五日~六日くいらの間隔でダンジョンに潜っているのだが、その短い間だけでも行く前と帰ってきた後では差は歴然としていた。
特にここ最近は、次々と《鉱山都市グリーク》から追加の人員や物資が運ばれてきているようだ。
この調子だと、流石にグリークの方でもその騒ぎに気付いている人も出てきてるんじゃないか? などと北条達も話していた所だった。
実は既に昨日、北条達のあずかり知らぬ所で一般に向けて、ダンジョン発見が正式に告知されていた。
その報せを北条達に齎したのは、村へと向かっている北条達とは逆に、森の方へと歩みを進めていた一団だ。
「おおう、北条のオッサン! 今帰りかー?」
見るとそこには長井と石田を除く『プラネットアース』の面々が顔を揃えていた。
四人という所を見ると、ダンジョンに向かうのではなく、恐らくは拠点予定地へと向かうつもりだったのだろう。
「あぁ。そっちは拠点予定地で訓練かぁ?」
「あー、そのつもりだったんだけど……」
と口ごもった龍之介の後を、補足するように信也が続ける。
「訓練でもしながら北条さん達の帰りを待つ予定だったんだ。ちょっと話もあってな」
結局、信也達はその場でグルリと足を反対側にむけ、北条達と共に村へと向かい始める。
その短い道中にダンジョンの情報が公開された事も告げられた。
「ほおう、ついに……かぁ」
「ああ。ギルドのナイルズからその一報を受けたんだが、まだ詳しい話は聞いていなくてな。そろそろ北条さん達も帰ってくるから、一緒の時に聞きに行こうと思ってたんだ」
そんな話をしている間にもギルドの仮支部に到達する。
いや、もはや仮支部とはいっても、一番基本となる受付のある建物はほとんど完成しているように見える。
現在の工事の状況は、急ぎで建てる必要のある建物をブロックごとに分けて集中的に工事している。
教会などもメインの施設部分である聖堂部分などが優先して作られていて、そちらも完成しているようだった。
「へぇ、たいしたもんねえ」
ギルドの建築物を見て感心した様子の陽子。
どうも、短期で集中的に工事が行えるように、わざわざ建築系の魔法が使える術士をかき集めてまでして急がせているらしい。
その甲斐あってか、ギルド以外にも建物が目立ち始めていた。
「ん……、やあ君たちか。どうやら戻ってきたようだねえ」
ギルドの建物の中はまだ最低限の設備しか整っていないようで、机や椅子の設置などといった雑務を支部長自ら行っていたようだ。
他にも一緒に派遣されてきていた受付嬢のシャンインも、同様の作業を行っていた。
「つい今しがた戻ってきた所だぁ。そっちは支部長自ら大変そうだなぁ」
「ハハハ、なあに。書類作業などより体を動かす方が性に合っているよ。それにそろそろ追加の人員も来る予定なのでね。少しは見栄えをよくしておきたいのだよ」
「なるほどぉ。ところで和泉から聞いたんだがぁ、ダンジョンの情報を告知したらしいなぁ? それに合わせて本格的にギルドも動き始めたってことかぁ」
「ま、そういう事だね。冒険者ギルドだけでなく、あちこちの組織から大規模な人員が派遣されてくるし、勿論気の早い冒険者たちも我先にと集まってくるだろうね」
「はぁ……。騒がしくなりそうね」
やれやれといった口調の咲良。
人が増えれば色々厄介ごとや面倒な事も増えてくるだろう。
しかし、逆に利便性が向上していくのは間違いない。
信也と合流した北条達は、そうした世間話を一通りした後に、本題へと移り始めた。
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この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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