どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第七章

第153話 特訓開始!

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 陽子の質問を聞いて、思わず由里香が顔を歪める。
 しかし由里香の示した反応はそれだけだった。話を聞く分にはそこまで大きな反応を示す程ではないらしい。

「ああ? 猿の魔物ぉ?」

 何のことか分からない龍之介はハテナ顔を浮かべている。
 信也も同様の顔をしているが、陽子が話題を出した途端に北条達に流れた空気は察していた。

「あぁ……。体長は人間と同じくらいで、茅色をしたパワータイプの猿と、白銅色の隠密タイプの猿。それと、数は少なかったがぁ淡藤色の奴もいたなぁ」

「む、それは……」

 北条の説明を聞いてすぐさま何の魔物かを把握したらしい。
 ナイルズはそれら三種の魔物のランクや特徴などを説明してくれた。

「そいつらは単独でもC~Dランクの魔物だ。しかも単独では出没せず、大抵は集団で行動しているので、Cランクの冒険者パーティーでも厄介な相手だね」

 ナイルズは、そんな魔物相手に無事帰って来れた事に驚いているようだった。

「必死に逃げ帰ってきたから……ね」

 しおれた様子でそう呟く咲良を見て、龍之介も茶々を挟む事はなかった。

「それで、何か弱点はないの?」

「弱点、ねえ。特にこれといった弱点は聞いたことないが、狡猾猿スライエイプについては相手の嫌がる事を喜んでやる傾向があると聞く。こちらの命をすぐに狙ってこないという点は弱点かもしれん」

 言われてみると、確かにあの時の由里香はそのように弄ばれていたように見えた。
 あれが真っ先に命を奪おうとしてたらどうなっていたことか……。

「よーするに、レベルアップしてリベンジっちゅーことだな!」

 実際に魔物と接していない龍之介は気楽にそうのたまっているが、逆に龍之介の言葉で由里香たちの肩の力も抜けたようだ。
 その後、ギルドを後にした一行はそれぞれの用事を済ませた後に、拠点予定地に集合することになった。


 一方その頃、信也達とは別行動をしていた長井は、「チッ、誰もいないか」と、ひとり誰もいない山小屋の中で呟いていたのだった。





▽△▽△▽




 ギルドで一度解散してから少しして、拠点予定地に先ほどの面子が全員集合していた。
 そして各自思い思いの時を過ごし始める。といっても、その大半は自身の鍛錬に充てられていた。
 なんだかんだで、こうして私生活の部分でも鍛錬をかかしていない辺り、日本のブラック企業勤務とそう変わらない気もしてくるが、自分の命がかかっているのでそれも仕方ないだろう。

「よーし、じゃあ由里香ぁ。の特訓、いくぞぉー」

「オォーッ!」

 メンバーが揃い、準備を整えて一息していると、北条と由里香のやり取りが他の人にも聞こえてくる。
 軽く準備体操をしていた由里香は北条の元に駆け寄っていくが、さりげなくその後を芽衣も付いていく。
 その様子を見て更に咲良が……さらに龍之介が、と客引きでもしたかのように北条の下に集まってくる。
 密かに気配を消した楓もすでに待機済だった。

「お、おおう? なんか皆集まってきたがぁ……。ついでだから、お前らも一緒に特訓するかぁ?」

「おう、なんだか知らんがいいぜ!」

「特訓……? なにかしら」

 何の特訓をするかも提示していないのに、集まった面々は妙にやる気のようだ!

「特訓というのは~、恐怖に対する耐性を身に着けるというモンだぁ。《流血の戦斧》の連中も言っていたらしいがぁ、この世界ではベクトルごとの刺激を過度に受ける事で、耐性スキルを身に着けられる」

 そこまで説明をした北条は、視線をメアリーへと向ける。

「そこでまずは『状態異常:恐怖』になってもらい、ビビリはじめた所に細川の"回復魔法"、【平穏】で治してもらう。あとはこれを繰り返して耐性取得を目指す」

 黙って北条の説明を聞いていた一同だが、ひとつ大きく気になる点があった。
 その疑問点を、手を上げた慶介が尋ねる。

「あのー、まずその『状態異常:恐怖』ってどうやってなるんですか? 驚かしてもらう、とか?」

「ああ、そうか。その点の説明がまだだったな」

 時折、自分にとっては既知の事を前提として他人と話してしまうのは、北条の小さな欠点のひとつだった。
 またやってしまったな、と思いつつ説明に入る北条。

「《マグワイアの森》でテイルベアーと戦った事は覚えているよなぁ? あん時、奴の使った咆哮のスキルを体感して、自分でも使えたらいいなと、俺ぁ密かに練習をしていたぁ」

 "魔力操作"スキルがあれば、体内の魔力を移動させることが可能だが、それを口元に集めて声として発したらどうか? とか、ひたすら気迫を籠めて、相手を威圧するつもりで叫んでみたらどうか、だとか。
 傍から見ると「この人大丈夫か?」と思われるような、実のある行為かも分からない事を続けた結果、最近になって"咆哮"というスキルを取得出来たらしい。

「猿戦の時に使ってみた感覚としては、恐怖に竦んで動けなくなる……って感じだったなぁ」

「あ……。あの時の、ですか……」

 猿戦ではみんな余裕がなかった中で、楓は比較的周囲の状況が見えていた方だった。なので、北条の叫び声の後に、猿達の動きが止まっていたのをよく覚えていた。

「そうだぁ。そいつをこれからお前たちにぶち当てる。なあに、肉体的なダメージは心配ないぞぉ」

 北条はそう言うが、強制的に恐怖の感情を呼び起こさせられるというのは、進んで体験してみたい事ではない。
 しかし、戦闘中に恐怖の為に動けなくなった時の事を考えると、そちらの方がより恐怖を感じるし危険だ。

「なるほど、なら俺も参加した方がよさそうだな」

 いつの間にか信也までもが近くに移動しており、結局マンジュウを含む全員が一か所に集っていた。

「よおし。では早速いくぞぉ。ア"ア"ア"ア"ア"ア"アァァァッっ!」

 せっかちなのか、返事を聞く間もなく放たれた北条の"咆哮"は、北条自身と回復役のメアリー以外を一斉に恐怖のどん底へと突き落とす。

「あ、あ、あ……」

 恐怖の余りひきつった顔をしている面々に、魔法で治癒するように指示した北条は、全員の治癒が終わると躊躇なく、

「次、いくぞぉ。イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"イ"ィィィィッッ!」

 と濁音混じりの"咆哮"を浴びせていく。
 やがて、北条の叫び声が「ドオオオオオッ!」になった時点で参加者全員が息も絶え絶えになり、今日の訓練はひとまず終わりとなった。

「…………次からは特訓前にトイレに行くことにするっす……」

「あ、あはははははははは」

「…………まいった」

 心情的な面を無視すれば、効率的な耐性トレーニングだったかもしれないが、参加者の様子を見ると「そうだね」と素直に頷けない、ひどい状況となっていた。

「あの……北条さん。これで本当によかったのかしら?」

「仕方ない、命には代えられんさぁ。まあ今回は恐怖への耐性という事でこんな事・・・・になってしまったがなぁ……」

 思わずメアリーがそう呟いてしまうが、これも犠牲だと北条は割り切る。
 こうして《鉱山都市グリーク》からの派遣部隊が到着するまでの間、定期的にこの特訓は続けられた。
 そして、途中からは回復役であるメアリー自身も参加をし始める。

 これには特訓をしていくうちに、北条が"咆哮"スキルの加減の仕方を覚えてきたという点もあるが、もうひとつ改善点を見出したからだ。
 それは、予め陽子の"付与魔法"のひとつ、【精神増強】で精神力を強化しておくというものだ。

 耐性スキルというのは、今回のような"恐怖耐性"の場合、別に状態異常にまでなる必要はない。
 あくまで恐怖を抱かせる現象に対して抵抗しようとする事で、"恐怖耐性"のスキル熟練度が磨かれているのだ。

 これは例えば"火耐性"だとかでも同じで、予め火属性に対する耐性を高める魔法なりスキルなりを使用してから、火属性の攻撃を受けることで、ダメージを軽減しつつ"火耐性"のスキルを磨くことが出来る。
 もっとも、こんな苦行みたいな事をする者は普通はいないし、こうした手法も一般的に知られている訳でもない。

 そもそも耐性スキルというのはそう簡単に生えてくるものではない上に、人によって相性も存在する。
 実際、効率的な特訓とはいえ、数日程度の特訓では由里香らも"恐怖耐性"のスキルを取得することは出来なかった。

 従って、今後もこの訓練は続けられる事となるのだった。




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