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第七章
第154話 ドロップの買い取り
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北条による"恐怖耐性"スキル取得特訓を始めてから三日後。
大規模な団体が続々と《ジャガー村》へと到着し、村はかつてないほど賑わいを見せ始めていた。
その間、北条達は何も耐性訓練だけをしていた訳ではなく、開いた時間には各々活動をしていた。
その多くは結局のところ別の戦闘訓練をしている者が多かったのだが、北条などは拠点予定地に共同施設として石造りの建物を作り始めていた。
前々からちょこちょこと村の人や、村の拡張現場で働く人たちに基本的な建物の建て方というのを学んでいたらしい。
まだ土台部分しか出来上がっていないが、作り事態は単純な構造で、石壁部分だけをまず自立するように建てていく。
それから床や屋根部分を木造で作って設置する、といったものでいわゆる柱や梁などといったものを使用しない、シンプルな構造だ。
聞けば、この辺りでは地震などほとんど起こらないらしく、耐震に関しては気にしないでもいいらしい。
建築に関してはもちろん素人だった北条。だが基本的な構造と、あとはお得意の"土魔法"を使えばとりあえず形にはなりそうだ、と張り切って建築に勤しんでいた。
他には、長井がやたらと活発に動き回って色々な人と会話をしていたり、石田が一人こっそりと森の中で魔法の練習をしていたりと、この二人に関しては相変わらず他のメンバーとなれ合う気がなさそうだった。
今日も「用があるから後は任せるわ」と言い残し、長井は別行動をしている。
ただし石田に関しては珍しくこうした団体行動に参加していた。
彼ら異邦人達は現在冒険者ギルドへと向かっており、その目的は今までのドロップの買い取りと、既に到着していると思われる鑑定士への鑑定依頼だ。
信也達がギルドにたどり着くと、そこでは幾人かの人々が荷物を抱えたりしながらギルドへと出入りしていた。
忙しそうにしている彼らの横を通り中へと入ると、そこでも何やら作業をしている人たちがいる。
彼らのほとんどは大規模輸送隊と一緒に派遣されてきた人員で、ダンジョン公開に先んじて出発していたので、まだ一般の冒険者の姿はないようだ。
信也はあたりを見回してみるが、ナイルズの姿が見当たらない。
代わりに、最初に彼に付いて派遣されてきた受付嬢のシャンインがいたので、彼女と話をすることにした。
「どうも忙しそうだが、ドロップの買い取りは出来るのか? あと、鑑定士も到着してると思うんだが、鑑定の方も可能か?」
「ああ、えっと……はい。買い取りは可能です。鑑定士の方はまだ姿を見ておりません。今頃は荷ほどきでもしていると思われるので、今日中にはこちらにも顔を出すかとは思うのですが……」
「む、そうか。ならまずは買い取りの方をお願いしよう」
そう言って、信也は背負った袋をよいしょっと受付に出そうとする。
「あ、ドロップの買い取りはあちらに専用カウンターを用意してますので、そちらでお願い致します」
このギルドのメインの建物部分は、突貫で作られた割には内部はなかなかの広さがある。
小、中学校にあるような二十五メートルプールを、二つ合わせた位の面積があるのだ。
シャンインが示した場所は、その広い建物の中でも入り口から入って左手側にある、幾つか間仕切りがされたカウンターだ。
どことなくお役所の窓口を彷彿とさせるその場所へ改めて移動すると、同じようにカウンター内部にいたシャンインも買い取りカウンターの方まで移動してくる。
そして今度こそ信也を初めとして、他の面子も背負い袋から次々とドロップ品を出していく。
その際には、ドロップはきちんとパーティーごとに分けて提出される。
二つ分のパーティードロップ、更にしばらくため込んでいただけあってかなりの量だ。
その量の多さに、ベテラン受付嬢のシャンインも少し笑顔がひきつりつつあるが、
「それではこれより査定を致しますので、こちらの木札を持ってお待ち下さい。今回はパーティー二つ分という事ですが、身内同士という事で両方一辺に査定致します」
と事務的な口調で告げてきた。
他に冒険者の姿もないので、受け取った木札を見て一瞬「別にこれ必要ないんじゃ……」などと思う信也だったが、型通りに対応するのも大事かと思い直し、一旦カウンターを後にする。
買い取りカウンター前には待機用のスペースなのか、テーブルと座席が用意されていたので、信也達はそこに座って査定を待つことにした。
冒険者ギルドでは、持ち込みの量が多かったり、珍しい素材で査定に時間がかかる場合、交換用の木札を渡して待機してもらう事がある。
故に、こうした買い取りカウンターと待機スペースは大抵のギルドには設置されているのだ。
査定の結果を待つ間、待機スペースではちょっとした雑談が行われていた。
「いくらになるかなー?」と期待に胸を膨らませている由里香や龍之介達だったが、ダンジョン探索においての買い取りで大部分を占めるのは魔石の買い取りだ。
今回は特殊なレアドロップや、宝箱から出たものなどは除外しているので、査定に出したのは通常ドロップだけになる。
魔石に関してはダンジョンから帰還する度に買い取ってもらっていたが、ドロップ品の売却益は魔石には届かないだろう。
稀にランクに似合わない位、ドロップ品の買い取り価格の高いものも存在するが、低層ではそういった例は少ない。
しばしそういった雑談を続けていると、ギルドの入り口が開かれ三人の男が中へと入ってきた。
その内の一人は、彼らも既に顔馴染みとなっているナイルズだった。
残りの二人は見知らぬ男達で、片方は中肉中背の狐顔をした男だ。
肩にかかるくらいの、男にしては長めの茶髪。
その長い髪で目元を隠すような髪型をしていて、時折見える男の目は糸のように細い。
顔は終始笑顔を浮かべているが、能面のように張り付けたようなものであり、商人などがよく浮かべる営業用の笑顔といったところか。
しかし、レザーアーマーを身に着け、短剣を腰に帯びているその姿は盗賊職と言われても納得できる。
もう一人の男は大分ガタイのいい男で、こちらは見たまんま戦闘を生業にしている事がすぐに分かった。
茶色混じりの黒髪をしたその男が放つ雰囲気はただごとではなく、その背にある大剣と相まって子供が泣いて逃げ出しそうな程だ。
顔の方も武骨な戦士そのものの強面であり、ゴツゴツとしたその顔には幾つか傷跡も残っている。
そして、背には大剣を背負っているにも関わらず、腰にも剣を帯びており、他にも短剣や投げナイフなども外套の内側にチラリと見え隠れしている。
鎧は金属鎧を身に着けており、手甲や脚甲。それから熊でも蹴り殺せそうないかつい金属製のブーツなど、装備すべてを合わせたらかなりの重量になりそうである。
しかし、歩く姿は重さを感じさせずにしっかりとしたもので、それだけでも男の身体能力の高さの片鱗が窺える。
ギルドに入ってきた三人は中に少し入った所で何やら話を始める。
しかし、ナイルズは信也達がいることに気づくとそちらへと近づいてきた。
二人の男もその後を続く。
「やあ、君たち。これは丁度よかった」
そう声を掛けてきたナイルズは、背後の二人が良く見えるように少し横に移動すると、信也達の返事を待たずに彼らの紹介をし始める。
「こちらの男性が、当ギルドに鑑定士として派遣されてきた、『メッサーナ商会』のコーネスト君だ。そして、隣のいかつい彼はその護衛のアレクルト君」
「どうもぉ、初めまして。『メッサーナ商会』より派遣されて参りましたコーネストと申します。ナイルズ様より話は伺っていましたが、貴方達が今回ダンジョンを発見されたという方々でしょうか?」
少しイントネーションに訛りはあるが、柔らかい流麗な口調で話しかけてくるコーネスト。
「そうですね、発見したのは俺達です。俺は『プラネットアース』のリーダーをしている信也で、こちらが……」
「同じく『サムライトラベラーズ』のリーダーの北条だぁ」
信也の言葉を受け継ぎ、北条が自己紹介をする。
二人の紹介を受ける際、コーネストはさり気なく気取られぬように、二人をジィっと観察する。
流石商会の人間というべきか、自然と相手を観察しつつ、どういう人間かを第一印象で測るのに長けているようだ。
「それは……」
二人の挨拶に対し、何か言葉を返そうとするコーネスト。しかし、その一瞬後には予想外の事態が起こってしまう。
「……ッッツ!?」
それまで営業用のスマイルを浮かべてニコニコとしていたコーネストが、突然表情を激変させたのだ。
顔色は真っ青になり、寒さによるものか恐怖で震えているのか、歯をガチガチと言わせている。
しかし、現在は季節的に夏に近づいていて大分気候も緩やかになってきている頃だし、会話中に恐怖に震えるというのもおかしな話だ。
護衛対象の突然の変化に、アレクルトも腰の剣に手を当てて周囲を警戒し始める。
ナイルズも元Cランク冒険者として警戒モードに移行するも、盗賊職である彼の知覚を持ってしても異変は何も感知できなかった。
「査定の方、完了いたしました!」
突然始まった緊迫した空気の中、カウンターの方からドロップ査定の完了を告げる声が聞こえてきた。
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