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第八章
第174話 昨今のジャガー村事情
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ツヴァイと共に、ギルドの奥へと入っていく北条を見送る咲良達。
既にギルドでの要件を済ませていた彼女達は、ギルドを出てブラブラと村の内をぶらついていた。
サルカディアへと潜り、村に帰ってくる頃には新しい建物が何件も増えている。
咲良達は村をうろついてそういった違いを探す事が最近の楽しみになっていた。
自分で作っている訳ではないし、昔からの住人という訳でもないのだが、徐々に変化し大きくなっていく村の姿はなかなかに乙なものなのだ。
「なんっか……。もう村ってより普通に町よね、これ」
それは陽子だけでなくメンバー全員……すらも通り越して、現在この村にいる多くの人が思い始めてる事でもある。
『ロディニア王国』では、村から町になるには幾つかの条件が定められているのだが、すでにその内幾つかは達成できている。
気になる点といえば、町を囲う外壁が存在していない事だろうか。
だが、まだまだ拡張を続ける《ジャガー村》では、どこに壁を作るかも定まらないし、建物を建てるだけで今は忙しい。
街となると外壁の存在が必須となってくるが、村や町程度ならその必要はない。
といっても、まったくの無防備では心もとないので、簡単な壁位は今後作られていくだろうが。
「そーっすね。あと、なんか、最近獣人の人が増えたような?」
由里香の言うように、ここ最近は獣人の姿を見かけるようになっていた。
最初は獣人の冒険者をちょっと見かける位だったのだが、今では明らかに冒険者には見えない獣人も増えた。
「獣人たちは北のバルトロン領から流れてきているらしいぞ」
その声は咲良達から少し離れた場所から聞こえてくる。
周囲を見渡した由里香が声の発生源を辿ると、そこには二人の女性の姿があった。
「すまない。そちらの話が聞こえてきたものでつい割り込んでしまった」
「あ、こ、これは、その……どうも?」
咲良が少しテンパった様子で女性に答える。
そのような態度になってしまうのも仕方ない。由里香達に話しかけてきたのは、現在この村で村長補佐として派遣されてきた、グリーク領領主の娘。アウラ・グリークその人であったからだ。
「そう気を張らずともよい。あの男のようにある程度の節度を持って接するなら私も気にしない」
前回アウラと会った時に、北条が気負いすることなく話していたことを咲良は思い出したが、本人が許可を出したからといって、咲良はそう簡単に切り替えられる性格ではなかった。
「わかったっす! それでアウラさんはここで何してたんっすか?」
由里香の方は咲良とは違い、アウラの言葉を素直に受け止めたようで、彼女なりの敬語でもって話しかけていた。
そんな由里香にアウラも少し肩の力が抜けたようだ。
「む、私か? 少し冒険者ギルドに用があってな。これから向かうところだったのだ」
「そーなんっすか。アタシ達は丁度ギルドから出てきたとこっすよ」
「ほおう、ダンジョン帰りということか。……にしては、あの男の姿がないようだが、別行動をしているのか?」
パーティーリーダーである北条の姿がない事に疑問を持ったアウラ。
「あー、なんかあの人はギルドに用があるみたいで、残ったままよ」
由里香が妙な事を言い出す前に先に答える陽子。
「ほう。では向こうで鉢合うかもしれんな」
アウラとしては、あの防壁を作り出す北条という男には関心を持っていた。
前回軽く話した時は、自分の陣営に引き込む事は難しいと判断したが、関係を築いていけば手助けを頼める位にはなるかもしれない。
またそういった打算的な面とは別に、領主の娘であるアウラに物怖じしない北条に対して、興味も覚えていた。
「あの、アウラ様。そろそろ……」
「ん? ああ、そうだったな。では私達はギルドに向かう事にする。さらばだ」
アウラのお付きの小柄な女性が小声で話しかけると、アウラは挨拶の言葉を述べてギルドへと向かっていく。
その姿を見送ったっていた咲良は、
「……ふぃいい。やっぱお偉いさんと話すのは緊張するなあ」
と大きく息をつきながら、先ほどの感想を漏らす。
「だいじょーぶっす! あたしみたいに敬語で話せば向こうも許してくれるっすよ!」
「敬語……ねえ」
由里香の言葉に苦笑いを浮かべる咲良。
「んー、そういえば前にも言ったけど私には敬語はいらないのよ?」
「うー、でも、やっぱとしさかの人はうやまうべきっす! 申し訳ないっすけど、やっぱこの話し方でお願いするっす!」
「由里香ちゃん。"としさか"じゃなくて~、"としかさ"だよ~」
「えっ! う、うん。"とかしさ"ね」
人の話を聞いていないのか、素なのか判別つきにくいが、ふざけてる訳ではなさそうな由里香。
そんな姦しい三人に向けて、新しく開発が進んだエリアを見に行こうと声をかける陽子。
特にこれといって気になる店舗が出来ていた訳ではなかったが、新しい建物と人々の賑わいを感じながら練り歩いていく。
やがて、村の散策を終えた彼女達は、いつもの集合場所――拠点予定地へ向けて、歩を進めはじめた。
▽△▽△
「おおきくなあれ~」
異邦人達の拠点の一角。
咲良達は、西門の入口からほど近い場所にある、花壇の傍に集まっていた。
花壇といっても、そこに植えられているのは花ではなく若木だ。
以前サルカディアの宝箱から見つけてきた謎の種子――のちに鑑定で〈魔林檎の種子〉と判明した――が等間隔に植えられている。
まだ葉が数枚程度の小さな小さな若木だが、一つだけ一回り大きい若木もあった。
それは試しに最初に一つだけ寮の周りに植えた魔林檎で、今はそこから根本の土ごと植え替えてある。
魔林檎は魔力を吸収することでよく育ち、甘い実を実らせるという事なので、先ほど芽衣がやっていたように、皆で魔力を与えながら育てている。
そのお陰か、土壌を特に弄っていないというのに、スクスクと成長を続けていた。
「あたしもーっ! ちょっとだけだけど、大きくなれー!」
前衛職でMPが高くない由里香だが、この世界の前衛も闘技を使う際にはMPを消費するので、全くのゼロという訳ではない。
「それじゃあ私はお水をあげるね。【クリエイトウォーター】……からの、【水操作】」
【クリエイトウォーター】で作り出した水を、器用に【水操作】で均一になるようにシャワー状にして花壇に撒く咲良。
他の属性魔法でも同じ事だが、攻撃用途に用いられる"水魔法"の水、"火魔法"の火などは、魔力が変質して作られた一時的なものだ。
その為、【水弾】などを畑に打ち込んでも、少しすると水は消えてしまう。
継続的に利用するためには、きちんと魔力を物質化する必要がある。
初級という簡単な部類に分類される【クリエイトウォーター】であるが、そのせいで消費魔力は【水弾】などより断然上だった。
火の場合は、一時的とはいえ高熱を発する火を生み出すので、"火魔法"で木の枝を引火させれせば、魔法の効果が切れても木の枝は燃え続ける。
……こうした特性がある為、ダンジョンなどの閉鎖空間で大規模な"火魔法"を用いても酸欠になったりする事はない。
"火魔法"の火が燃えているのは、酸素が供給されているからではなく、魔力が供給されているからだ。
酸素濃度の高い場所だろうが、"火魔法"の効果が上がることはないし逆もまた然り。
これは耐性スキルにも関係していて、"火耐性"があるからといって、焚火に手を突っ込んでも大丈夫という訳ではなく、普通に焼けどをする。
"火耐性"で耐えられるのは火属性の魔法やスキルに対してのみ。
自然の火などに対する耐性は、別途"高温耐性"などのスキルが存在している。
「私もちょっと魔力あげとこ」
別段植物が好きだとか盆栽が趣味だとかいう事はないが、日に日に魔力をやる内に愛着が湧いてきた陽子。
咲良の魔法で潤って、心なしか嬉しそうな若木達に、一本ずつ魔力を注いでいく。
「ふう、こんなとこね。それじゃあ私は、この間覚えたばかりの"空間魔法"の練習でもしますか」
そう言っていつもの練習場所へと移動する陽子。
「ん~、わたしも"槍術"の練習をしよ~っと」
そう言って〈魔法の小袋〉から北条のおさがりの、ゴブリンランスを取り出す芽衣。
転職で『ランダ・ヌイ』という職業についてから"槍術"のスキルを覚えた芽衣は、最近は杖よりも槍による戦闘訓練を始めている。
表に出す事はないが、猿の魔物との闘いは芽衣の心境にも変化を与えていた。
「え、んーとじゃああたしはー……」
「わ、私と模擬戦……どう?」
「あ、楓さん! うん、いいよ! じゃ早速いこ?」
「ワフッ! ワフッ!」
由里香と楓が移動し始めると、自分も自分も! といったようにマンジュウが二人の周りを駆け始める。
「マンジュウも模擬戦したいの? じゃあ、順番だね!」
「ヴァフゥ!」
元気よく返事するマンジュウも一緒に、いつもの場所で各々が特訓に励む。
それから一、二時間ほどが経過した頃。西門の扉が開き中から二人の男が姿を現した。
「あ、北条さん」
特訓していた咲良達のもとにやってきたのは、あの時ギルドの奥へと消えていった北条とツヴァイの二人だった。
咲良の発した声で二人がやってくるのに気づいた陽子は、自らも近寄りながら声を掛けた。
「あら、もう用事はいいの?」
「ん、ああぁ……」
陽子の問いに判然としない言葉を返す北条。
「ん? 何かあったの? ……そういえばアウラさ……んがギルドに用事あるって言ってたけど、まさか彼女と何か問題起こしたりはしてないわよね?」
「いや、そんなんじゃあないがぁ……、ちょっとお前たち全員に話があるぅ」
そう言って北条は、模擬戦の真っ最中の由里香らも全員呼び寄せ、話を始めるのだった。
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