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第八章
第175話 流血の影
しおりを挟む全員に話があるという北条の呼びかけに、模擬戦の真っ最中だった由里香らもやっていた事を取りやめ、北条のもとに集合していく。
楓とマンジュウ相手に一人で戦っていた由里香は、大分息をきらせているが顔には満足気な表情を浮かべている。
「よおし、集まったなぁ。それで話だがぁ、二つ……いや、三つほどある」
そう話を切り出した北条は、話しながらも腰のベルトに下げている袋のひとつ――〈魔法の小袋〉とは別の袋から、白い手のひらサイズの石のようなものを取り出す。
「あ、それってダンジョンの中で見つけたやつですよね」
その石を見た咲良がすぐにその石の出どころを思い出す。
「そうだぁ。大森林エリアにあった宝箱に入っていたもののひとつだなぁ」
大森林エリアに生えていた大樹の根元の洞に、ポツンと置いてあった鉄の宝箱を発見したのは全くの偶然によるものだった。
罠部屋の報酬であったり、番人の守る宝箱であれば、中に複数のアイテムが入っていたりもするが、道端に配置されたような宝箱はそうはいかない。
だが鉄箱だけあって中身には期待はできる。そう思って開けた宝箱の中に入っていたのが、魔力の込められていない装飾品数点と先ほどの白い石だった。
北条の"目利き"によれば、この白い石は呪いを解除する力があるかもしれないという事で、売らずに取っておいた物だ。
「こいつの効果は前に説明したと思うがぁ、それとは別にシャドウという魔物について気になる話を聞いてなぁ」
未灯火エリアの途中から出現し始めた実体のない魔物、「シャドウ」。
"影魔法"を使って相手の動きを止め、"憑依吸収"というスキルで実体のある相手に取り付き、魔力や生命力を奪ってくる厄介な魔物だ。
どうやら北条は先ほど冒険者ギルドで、ナイルズからシャドウに関する情報を聞いてきたらしい。
ナイルズによると、シャドウによる"憑依吸収"を受けた際に、極稀にだが特殊な呪いにかかることがあるという。
北条達も物理攻撃が効かないシャドウを相手に、何度か"憑依吸収"を受けており、若干体が気だるくなるような感覚を味わっている。
特に初見の時などは、実体がないせいで音もなく、気配も薄いシャドウに気づけなかった。
そのため大接近を許しており、前衛だけでなく後衛にも濃厚接触されてしまった事があった。
「呪い自体は症状が出てから対処しても間に合うらしいがぁ、念のためこいつを全員に使っておくのがいいだろう」
北条の説明に納得した咲良達は、順番に白い石――〈白聖石〉を使用していく。
使用時には白い光を発し、"神聖魔法"を使用された時のような感覚と共に、心がスッとしたような感覚もした。
(ん? あれ……?)
北条以外のメンバーに順番に〈白聖石〉を使用されていく中、ひとり咲良は疑問を胸に抱く。
しかし咲良が何か声を発する前に全員の解呪が終わり、北条が次の話を始めていた。
「それで、二つ目の話だがぁ……、少しの間ダンジョン――サルカディアの探索を中止するぅ」
「え?」
胸に抱いた疑問も吹き飛ぶ北条の発言に、咲良は思わず間の抜けた声を上げてしまう。
「どうしてなんですか~?」
「大森林エリアもレイドエリアも、進むのが厳しそうだったから?」
「でも、それなら他にもまだ行ってない場所は幾つもあるっすよ!」
当然のように疑問の声が上がる中、北条はまあまあと手で女性陣を抑えるような仕草をする。
そして理由に関してを説明し始めた。
「これもナイルズからの情報なんだがぁ……、実は最近ダンジョンに潜ったまま戻ってこない冒険者が増えているらしくてなぁ」
「それって……」
咲良が何かを言いかけるが、それを制するように北条が言葉を被せる。
「"戻ってこない冒険者"といっても、一人や二人の話じゃあない。パーティー全員が戻ってこないらしい」
「……つまり、単純に魔物にやられたーとか、罠に嵌ったーとかじゃないって事?」
陽子の問いかけに北条が無言のまま首を縦に振る。
「……?? どういう事っすか?」
何が何なのかサッパリ分からないといった様子の由里香。
「ナイルズの推測だがぁ……『流血の戦斧』が関わってるんじゃないかってぇ話だ」
「えええっ!」
「あいつらっ……まだいたのね!」
あれから大分日も過ぎ、異邦人達の警戒も緩んで……由里香や龍之介などはその存在すらも忘れかけていた『流血の戦斧』。
北条から飛び出てきたその名前に、咲良達は衝撃を受けながら口々に感想を述べていく。
「ギルドの方でもこの件に関しては調査をするらしいので、その結果が出るまでサルカディアに潜るのを控えようという訳だぁ」
「そうねえ。魔物との戦闘中に背後からあいつらに襲われでもしたら……」
陽子が最悪の事態を言葉にすると、一様に他のみんなの顔も渋いものとなる。
「それは激ヤバっす……」
「ゲームならPKされてもムカツクだけで終わるけど、現実にやられるとなると……厄介よね」
今まではそういった経験はなかったが、今後ダンジョンに人が増えていくにつれてそうした事態になる可能性も増えていく。
その相手が『流血の戦斧』クラスにとなると、被害も大きくなるだろう。
うーとかあーとか唸りながら、ダンジョン内での襲撃について咲良達が考えを巡らせていると、北条が最後の話へと話題を移す。
「あー、という訳で三つ目の話なんだがぁ……。俺ぁダンジョン自粛中は、ほったらかしだった拠点中央に、建設予定の共同施設の続きを建てていくつもりだぁ」
北条の言う共同施設とは、現段階ではまだ建物のたの字も出来てない位の進捗状況だ。
まずは建物を安定させる為に何本か石の柱を地面深くに打ち込み、その上に建物の床下部分になる石の土台を連結させる。
それから大まかに部屋割りを決めて、高さ三十センチほどの石壁の敷居で部屋や廊下などを区切る。
今終わってるのはここまでで、いまだ建物自体の建築も始まっていない状態だった。
自粛期間がどれ位になるかは予想できないが、北条はこの際に最初に予定していた、柱も梁もないようなシンプルな構造はやめて、もう少し本格的な建物にするかーと息巻いていた。
「それでだなぁ、その間の事なんだけど……。実はツヴァイ達『ムスカの熱き血潮』も同じように様子見をして、ダンジョンに潜るのを控える事になった」
北条がそう言って脇にいたツヴァイを見遣ると、ツヴァイが一歩前に出て北条の話を引き継いで話し始める。
「えーっと、そういう訳で、その自粛期間中にうちとそちらとで、合同訓練をしたいというのが俺達の要望なんだ。北条さんには色よい返事をもらったけど、君たちはどうかな?」
「あたしは別にいいと思うっす!」
「私も……特に反対とかはないわね」
ツヴァイからの合同訓練の申し出に、反対意見は出なかった。
なんにせよ、しばらくサルカディアに潜れないとなると、暇を持て余すのは目に見えている。
そうなると、結局自主練になってしまうのが今までの流れで、その際に人数が増えるのは由里香らも望むところであった。
「ありがとう、よろしく頼むよ」
申し出が受け入れられた事に安堵するツヴァイ。
『サムライトラベラーズ』の面々に感謝を伝えたツヴァイは、早速この事を仲間に報告にいくとの事で、この場を立ち去っていく。
それから一同は少しの間、先ほどの北条の話などについて話す。
しかしその時間は長くは続かず、再び各自模擬戦やら魔法の練習やらに戻っていった。
その様子を見て、早速北条も建設を再開しようかと移動を開始したところで、陽子に声を掛けられる、
「ちょっと、いい?」
「……なんだぁ?」
声を掛けられ陽子の方へと振り返った北条は、陽子が思いの外真剣な表情をしているのをみて、一瞬返答が遅れる。
「何か問題ごとでもあるの?」
「さっきも言ったがぁ、流血の連中の事は問題だぁ。偶然接触する確率はそうたか――」
「そうじゃなくて」
北条の言葉を途中で遮って否定してくる陽子。
「何か……他に大きな問題があるんじゃないの?」
まるで何かを確信しているかのような陽子の物言いに、北条も思わず二の句を告げられなくなる。
「やっぱ、何かあるのね」
そんな北条の様子に更に確信を深めたのか、陽子が呟くように声を発する。
そうしてガンガンと踏み込んでくる陽子に対し、北条は珍しく迷いを見せた。
あくまで何でもないと誤魔化すべきなのか、或いは胸の内を打ち明けるべきなのか。
「…………。まぁ、近い内に分かる時が来るとは思う。がぁ、今打ち明けていいものかどうか迷いもある」
「……そう、分かったわ。今は深く追求しないでおく。何かあったら遠慮なく相談してよね」
「ああ、そうするよ」
これまでの付き合いの中で、北条がこれほど悩んだ様子を見せたことはなかった。
それだけに、どのような悩みがあるのか陽子には想像する事も出来ない。
再び歩き始めた北条の背には、心なしか重い影がのしかかっているように陽子には感じられた。
「………………」
陽子との話を終え、共同施設の予定地の方へと歩いていく北条。
その脳裏には、先ほどの陽子との会話がよぎっていた。
(どうも自分の心ってもんは思うようにならんな)
北条は感情よりも論理を優先し、他人よりは何より自分自身を最優先させる。少なくとも本人はそう認識していたし、客観的に今までの自分の行いを見ても間違ってはいないだろう。
(論理的に考えれば、陽子に打ち明けておくのも悪くはない選択だったのに……)
北条の考えた計画では、予定が狂うのを恐れてなるべく他のメンバーには内密に事を進めようとしていた。
しかし、すでに計画はある程度進み始めてしまった段階だ。
ここで一番分別があり、大きく取り乱す事もないであろう陽子に、計画の一部でも話しておくのはそう悪くない話だった。
(だが、どうも……な)
伝える内容が内容だけに、北条の内に躊躇が生まれてしまっていた。
陽子や楓辺りなら、まだ話もしやすかもとは思っていた。
だが先ほどの陽子との会話中、由里香や咲良の顔が浮かんだ途端、陽子だけには伝えておこうという考えが追いやられてしまい、結局中途半端な答えになってしまった。
(幾ら力を身に着けようが、心の弱さはそうは変わらんってことか)
深いため息を漏らしつつ、北条は暗く沈んだ思考を誤魔化すように、無心で建築作業の続きに取り掛かる。
その作業は日が暮れるまで、無言のまま続けられるのだった。
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