どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
205 / 398
第八章

第176話 網にかかる流血

しおりを挟む

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 新しいダンジョンの存在が公表され、冒険者達がこの地に集うようになってから、サルカディアと名付けられたこのダンジョンは、幾人もの人を飲み込んでいき、そして吐き出していく。
 その際、数が減っている事もあり、そうしたパーティーは軒並み沈んだ顔をしながら出てくる。

 今もまた、大きく開いたダンジョンの口から、一組の冒険者たちが姿を現した。
 一部を除き、余裕のある彼らの表情を見れば探索が上手くいったのだろうという事が窺えた。

 しかし彼らのダンジョン探索はこれで終わりではなかった。
 それは家に帰りつくまでが遠足だ! というようなノリの話ではなく、突然彼らに危険が降りかかったからだった。


「我が雷は汝を制す……。【スタンボルト】」

「大いなる大地は雨の恵みによって潤う……。【土を泥へ】」

 衛視の見張るダンジョンの入口だというのに、今しがたダンジョンから出てきた冒険者達に向けて魔法が飛んでくる。

「……ッチィ!」

 男たちの内、小柄の男はいち早く危険を察知し、魔法の範囲から逃れることに成功する。
 しかし、ドワーフの男と魔術士風の男。それから獣人の男の三人は、【スタンボルト】の魔法によって、一時的に体が動かせなくなる「状態異常:スタン」にかかっており、更に彼らの足元が抜かるんだ泥になって、移動もままならなくなっている。

「よし! 入り口は抑えた! あとは慌てずに取り囲んでいけ!」

 本来住人を守るはずの衛視までも、先ほど出てきた冒険者達をサルカディア内に逃亡させないように、入り口を封鎖する。
 そして、どこに隠れていたのか、更に十人近い衛視や冒険者たちが取り囲むようにして布陣した。
 先ほど魔法を放ったのも、この取り囲んでいる内の誰かだろう。

「あれは……『疾風の雷土』か」

 取り囲んでいた冒険者達を見て、【スタンボルト】の影響も見えない赤毛の男が、相手の素性を明かした。
 その燃えるような赤髪に反して、表面上は冷静沈着に見える。
 現在絶賛指名手配中である『流血の戦斧』のリーダー、ヴァッサゴであった。


 パーティー名を指摘された『旋風の雷土』の面々は、この状態で冷静さを保っているヴァッサゴを見て警戒を強めている。
 『旋風の雷土』は四人のDランク、二人のEランクで構成されているパーティーで、珍しい事に二人の魔術士が在籍しているパーティーだ。

 "雷魔法"の使い手であるDランクのリーダーと、"土魔法"の使い手であるEランクの魔術士。それから、疾風の如く素早い動きで相手を翻弄する、Dランクの軽戦士の存在がその名の由来となっている。

「スウゥゥ……。"連射"」

「フンッ! フンッ!」

 残る他の『疾風の雷土』のメンバーが、足元がぬかるんで動きの取りにくいヴァッサゴらに、弓の闘技スキルや、石の投擲などをしてくる。
 だがヴァッサゴらは襲い来る矢を最小限の動きで躱して避けたり、防具で弾いたりと、流石に実力だけはCランク相当というだけの動きをしてのける。

 そして【スタンボルト】の影響のないヴァッサゴとドヴァルグは、足元がぬかるんでいるとは思えない一足での踏み込みで、大きく飛んでぬかるみゾーンを脱出。
 すぐさま周囲を囲んでいる『疾風の雷土』のいる一角に切り込んでいく。

「フウ、突然なので驚きまシタ。では、こちラも……。【土を泥へ】」

 『流血の戦斧』の魔術士、デイビスの"土魔法"によって、今度は囲んでいる衛視たちの足元が泥へと変わっていく。
 それも先ほどの魔法より範囲も深さもあるようで、前衛主体の衛視たちは足を止められ慌てている。

 その様子を見て衛視や『疾風の雷土』らも、飛び出てきたヴァッサゴらに対抗しようとするが、一対一では到底勝ち目はない。

「オラオラオラァァァッッ!! これっでも、食らいぃやがれぇ!」

 ドヴァルグの放った"ボーンクラッシュ"は、受け止め損ねた『疾風の雷土』の戦士の肩口に当たり、そのスキルの持つ特性によって相手の鎖骨もろとも粉砕する。

「グアァァ!」

「ガルダスっ! おのれぇぇ!」

 仲間のガルダスが致命傷を負った様子を見て、逆上する双剣を手にした軽戦士は、身軽な動きでドヴァルグの下に迫る。

「っとお、ハハハ! お前が疾風かぁ? その程度で疾風とは笑わせてくれるぜ」

「くぅっ……」

 双剣使いのエディンは、Dランクに上がって一年程が経つが、総合的な強さはまだまだDランク中位に届かないレベルだ。
 しかし、素早さだけは自信があり、Dランク上位と比較しても並び立つことが出来た。

 だがそれもCランク相当の実力を持つドヴァルグにはアドバンテージにはなりえなかった。

「エディン、落ち着け! 一人で相手する必要はないんだ」

 自慢の素早い動きに対処されたエディンは、焦りによって動きに精彩欠いていたが、リーダーのディストマの声で我を取り戻す。

「ハンッ! 雑魚共は、群れるのが好きだなあ!」

 そう嘲るドヴァルグであったが、内心ではあせりも感じ始めていた。

(チッ。今んとこはなんとかなってるが、長期戦はよろしくねえな)

 ヴァッサゴら、流血の主要面子四人は実力的に問題はなかったが、奴隷であるドワーフのドランガランと獣人のジェイは、実力的に主人達より劣る。
 一応ドランガランはDランク中堅、ジェイもDランクなりたて位の実力は持ち合わせているのだが、他の面子に比べるとやはりそこが穴になってしまう。


「追加でこれデモどうゾ。【ダークネスボム】」

 足元が悪くなってマゴマゴしている衛視たちに、デイビスの中級"闇魔法"が襲い掛かる。
 範囲魔法とはいえ、中級の中でもそれなりに難度の高いこの魔法の威力は、決して軽く見ることはできない。

 闇魔法の特質として見た目的にはダメージを受けたようには見えないが、直接生命力を削られた衛視たちは、次々とぬかるんだ地面に倒れていく。

「おおおわいっ! あっぶねえ。もう少し範囲には気を付けろや!」

「オオ、これはこれは申し訳ありませン」

 範囲内から抜け出せないように、少し広めに設定した【ダークネスボム】は、後少しで味方のドヴァルグにも当たる所であった。
 しかしこの範囲攻撃魔法によって、相手の人数は大分減った。これなら行ける! と、ドヴァルグが思った時、ダンジョンの入口付近から何か声が聞こえたかと思うと、炎で構成された槍が高速で飛来してくる。

「グッグゥゥ……」

 予想外の攻撃にドヴァルグは躱す事が出来ずまともに食らってしまう。
 ある程度魔法をレジストしてダメージを軽減できたとはいえ、少なくないダメージをもらったドヴァルグ。
 入り口へと視線を向けると、そこには丁度帰ってきた所と思われる、別の冒険者たちの姿があった。

「旦那ぁ! ありゃあ、『青き血の集い』の連中ですぜ!」

 同じく新手の冒険者たちの姿を確認したコルトが、警告の声を発する。
 『青き血の集い』といえば、はじめ一緒にこの《ジャガー村》までやってきた、ダンジョン調査パーティーの一つであり、Cランク相当の実力者も在籍している。

「ドヴァルグ! デイビス!」

 この状況の変化に、衛視を相手に戦っていたヴァッサゴが声を張り上げる。
 今でこそCランク相当の実力者である彼らだが、かつては今ほどの力もなく、強敵から渋々逃げ出していた時期もあった。
 そこでムキになって戦いを挑んでいくようでは、長生き出来ないのだ。

 そうした今までの経験から、いざという時の流血メンバーの手際の良さとチームワークは磨かれている。
 例え、メンバーの誰しもが自分以外を信用していない……どころか、機会があればクビを狙っているような関係性であっても、撤退時だけは申し合わせたように息が合った。

「ジュンビできてますヨ。【ダークネス】」

 "増魔"のスキルで魔力を増幅し、範囲を広範囲に広げたデイビスの魔法は、辺り一面を真っ暗闇へと変えた。
 "闇魔法"の中でも初級の基本的な魔法である【ダークネス】だが、対抗属性である"光魔法"や特殊なスキル、或いは何らかの魔法道具でもないと、この暗闇を即座に解除することが出来ない。

 とはいえ、暗視スキル持ちや、元々暗闇でも目が見える魔物には、効果範囲でも星明りの照らす夜程度には明るくみえる。
 加えて闇属性への耐性が強ければ、更に暗さを軽減することが可能だ。

 そのような短所が存在し、また使う場面も限られてはいるが、【ダークネス】は意外と便利な魔法であった。


「クッ、これでは!」

「おい、お前が下手に【フレイムランス】なんて撃つから、しょうもない事になったではないか」

「フンッ! あれしきの事で逃げに徹するような相手など、私の相手ではない」

「あの……このままでは逃げられてしまうのでは……?」

「そんな事知るかっ! たまたま遭遇したから加勢はしたが、積極的に僕らが奴らを追う必要などない!」

 衛視の慌てふためく声や、『青き血の集い』の面々のやり取りが聞こえてくる中、『流血の戦斧』の面々は一斉に戦場を離脱していた。
 それも、この暗闇の中全員が同じ方向へと逃げていく。

 衛視たちも走り去るような足音を捕えている者もいるのだが、それが流血の連中なのか、流血を追いかけている味方なのかの区別がつきにくい。
 彼らの中には"闇耐性"を持つものもいたのだが、"暗視"系統のスキルも一緒にないと、夜の暗さとそう変わらない明るさにしかならない。

 こうして『流血の戦斧』は村へ続く道がある方面ではなく、裏をかいてダンジョンの入口のある崖際を沿うように、東方面へと逃げおおせることに成功した。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

処理中です...