どこかで見たような異世界物語

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第八章

第177話 龍之介×ムルーダ

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「う、うううううん……。よーやく地上だぜ」

 龍之介が伸びをしながらダンジョンから出てくる。
 周囲には勿論同じ『プラネットアース』のメンバーも一緒であり、龍之介同様に久々の太陽光に眩しそうにしている。

 ダンジョンを出てすぐ傍には、衛視たちの詰め所などの施設と共に、一組の冒険者パーティーの姿も見受けられた。
 これからダンジョンに潜るのか、或いは帰るところだったのか。
 見た目で判断すると、そこまで薄汚れている訳でもないし、疲労というものも見られなかったので、これから潜るのかもしれない。

 衛視が見守る詰め所の傍を通る時、信也らは妙に視線を受けているような感触を覚えたが、職務質問をうけるでもなく、そのまま通されたので、素直にそのまま村への帰路につく。

 いつもと違う衛視の様子に、メアリーの心は若干ざわついたが、それ以上に長井が険しい表情で衛視の反応を注視していた。
 村に帰り始めてから二十分ほどが経過した頃、耐え切れずメアリーが尋ねた。

「何か……あったんでしょうか」

 それは特定の相手に向けた問いではなかったのだが、その問いに答える声があった。

「さあ、ね」

 メアリーの問いに素っ気なく答えた長井は、先ほどの険しい表情などどこ吹く風といった面持ちで、スタスタと歩き続ける。
 長井のそうした反応に、更に何か悪い予感を感じたメアリーであったが、今更衛視たちの下に戻る程の理由も見いだせなかった。
 仕方なくどこか空虚な雰囲気を漂わせたまま、一行が歩みを進めていると、道の少し先に一人の男が立っているのが見えた。


「どなたでしょう? パーティーならともかく、こんな所にお一人でいるなんて……」

「ううん……。どこかで見たことあるような……?」

 慶介とメアリーが小声でやり取りしていると、向こうもこちらに気づいたのか、信也達の方へと近づいてくる。
 魔物のうろつく森の中という事もあって、背中には槍を背負っているが、構える様子もない事から、敵対するつもりはなさそうだ。

 まだ若い、二十代の男で、服装からして《ジャガー村》の村人のように見える。
 冒険者なら、もう少しマシな防具を身に着けているだろうし、一人でこんな所をうろちょろする事もない。

 近くにまで接近してきた男は、少し躊躇するような様子を見せながら言った。

「あの……ナガイさ、ん。ちょっとお話が……」

 どうやらその男は長井の知り合いだったようで、しかめっ面をした長井は男の方へと歩み寄る。
 そして男が長井の耳元に小さく囁くと、

「ちょっとこの男と話があるから、少し外れるわ」

 そう言って男と二人、森へ少し踏み入った辺りに消えていった。

「なんだぁ? わざわざこんな所で」

「……長井さんは、村に帰るといつも一人で行動してらっしゃいますから、その時に知り合った方ではないでしょうか?」

「んー、そーいえば、オレもどっかであのあんちゃんの顔見たような……?」

 どうやら龍之介も男の顔に見覚えがあるようだった。


 残された者達がそのような会話をしている中、しっかり距離を取って声が聞こえないような位置にまで移動した二人。
 それでも念のために、ヒソヒソとした小声で話をしていた。

「で? 一体何の用? 余程の事がない限り、パーティーで行動してるときに接触するなと言っておいたハズよ」

 イラついた様子の長井に、男も気が気でない様子ではあったが、それでも伝えないといけない事を伝えるべく口を開く。

「ええとですね、二日前に『流血の戦斧』の方々がサルカディアより帰還されたんですが、その際に衛視や冒険者の集団に攻撃を受けたそうです」

「なんですってっ!?」

 先ほどまでのイライラとした表情から一変、深刻な表情へと変わる長井。

「私の手の入った衛視はどうしていたの?」

「それが、確かのその日の昼番は、本来なら我々の手の者が二人で担当するハズだったんですが、何故か衛視が十人以上もワラワラと湧いてきたらしいです」

 ヴァッサゴから直々に事の経緯を聞いていた男は、その状況について詳しく説明を受けていく。
 包囲を敷き、闘いを挑んできた衛視の中には、長井が魅了で篭絡した者も含まれていたが、流血に加勢する事もなく、手加減を一切せずに襲い掛かってきたらしい。

「……それで、今アイツらはどうしてるの?」

「はい。今はアジトで大人しくしています」

「そう……。コルト辺りが迂闊に村に偵察にいったりはしてないのね?」

「その辺はあの方々も理解しているようで、ヴァッサゴ様がしっかり手綱を握っていました」

「となると、私はどう動くべきか……」

 この時点で、長井は流血の連中との接触を他の誰かに悟られているとは知らなかった。
 しかし、男の報告を聞いた後に、ふと先ほどの光景が脳裏をよぎる。
 ダンジョンから出てすぐの、あの衛視達の視線。
 ゴールドルのような"第六感"スキルなどは持ち合わせていない長井だが、何かが引っかかった。

 それは何も先ほどの衛視の件だけでなく、恐らくはその前までのあらゆる出来事。それら膨大な情報の中の、ほんの小さな些細な違和感が幾つも重なり合って、ぼんやりとした形を成したのかもしれない。

(心配しすぎかもしれないけど、リスクを取る必要もないわね)

「分かったわ。これから私は直々アジトに向かう。アイツらにも話を通しておくから、アンタは私の話に合わせなさい」

 そう言いながら、長井は少し離れた場所で待機している信也らの方に視線を向ける。
 そして男の了解の返事を聞いた長井は、信也らのいる元の山道へと戻っていく。



「話は終わったのか?」

 戻ってきた二人を見て信也が尋ねる。

「ええ。彼は最近知り合った、村の狩人の一人よ。今は大物を狙っている所らしいけど、一人だと難しいらしいので手助けしてくるわ」

「あぁん? 狩人ぉ? 弓なんか持ってねーようだけど?」

「何言ってんの。背中に立派な槍を背負っているでしょ。そもそも森の中だと射線が遮られる事もあって、弓ではやりにくい事もあるのよ」

 狩人といえば弓というイメージの強い龍之介が、反射的に口から出た言葉に対し、長井が反論を返す。
 この世界では、レベル次第では近接戦闘でクマや狼に立ち向かう事が可能だ。そのため、ハントの際に飛び道具に頼る必要は必ずしもない。

「……それは分かったが、一人で大丈夫なのか? この森にも魔物は出没するんだぞ」

 心配げな声の信也に対し、即座に返事をしようとした長井だったが、途中で考えが変わったのか、一瞬口に出しかけた言葉を飲み込む。

「もん…………。いえ、そうね。それじゃあ、和泉にも付いてきてもらうわ。それと……石田。アンタもきなさい」

「……分かった」

「じゃ、いくわよ」

 暗く淀んだ声で短く答えた石田。
 その答えを聞くや否や、長井は再び森の方へと歩き出す。
 信也の返答はまだ聞いていなかったが、先にあのように声を掛けてしまった以上、信也は反論する事もなく、

「スマンが、そういう訳で俺は長井らと一緒に手伝いに行ってくる。残り三人とはいえ、後は村に帰るだけだし問題はないな?」

「え、あ、はい。それは大丈夫だと思いますが……」

「そうか、では行ってくる」

 すでにせっかちな長井は、村の狩人と石田を伴い、スタスタと森の奥へと進んでいた。
 信也も慌ててその後に続くと、その場には龍之介、メアリー、慶介の三人のみが残された。

「んじゃー、オレらはオレらで帰るとすっか」

「そう……ですね」

 この場で能天気な顔を浮かべているのは龍之介だけで、メアリーも慶介も何か普段と違う様子に、漠然とした不安を抱いていた。
 二人のそうした様子に、龍之介もいつものようにベチャクチャと話しかける事はせず、静かな森の中を静かに移動し続ける。



 しばらくして、拠点予定地に辿り着いた龍之介らは、拠点の中に人の気配を感じた。
 警戒しながら門を潜っていくと、そこには『サムライトラベラーズ』の面々と一緒に、何故か『ムスカの熱き血潮』まで揃っていた。

「…………よぉ、リューノスケ」

 居所の悪そうな、それでいて喜怒哀楽で簡単に表せないような表情で話しかけてきたのは、リーダーのムルーダだ。

「お、おぅ……。ひさ、しぶりだな?」

 龍之介も龍之介で、浮気がバレた時のような曖昧な態度で応える。
 そんな二人を見て、思わず咲良が割ってはいってきた。

「ほら、ほら! アンタ達、二人ともそんな性格じゃないでしょ? いつまであの時の事引きずってるのよ!」

 そう言って、ムルーダと微妙な距離をおいて立ち止まったままの龍之介に近づき、その背をバシンッと叩く。

「おあっ! て、てんめえ……」

「いいからいいから。別に喧嘩したって訳でもないんでしょ?」

 確かに二人は別に殴り合いの喧嘩をした訳でもないし、酷い裏切り行為を働いたのでもない。
 日本にいた頃でも、同じ目標を目指す者同士では、よく発生していたような事柄だろう。

 この場合、一方的にムルーダが龍之介に対し嫉妬……というより焦りを感じた事が原因だ。
 そして、自分の不甲斐なさに、どうしようもない程の葛藤がムルーダの胸中には渦巻いていた。
 だがそれもシィラら仲間の声もあって、再び前を向くことが出来たムルーダだったが、最初の原因である龍之介に対しては、いつも通りに接することが出来ずにいた。

 向かい合ったはいいものの、目を合わせようとしないムルーダに対し、龍之介は頭の中で色々と考えを巡らす。が、元々考えることが苦手な龍之介は、頭を思いっきり振るような仕草をした後、大きな声で言った。

「ムルーダ! 手合わせッ! すんぞッ!」

 そう言って荷物を下ろし、のっしのっしと近くの訓練場まで歩き出す龍之介。
 その背を呆然と見つめていたムルーダだったが、やがて口の端を上げ、

「おうよ!」

 と答えると、龍之介の後に続く。

 こうして、ムルーダの心に絡みついていた見えない鎖は、龍之介の一声によって完全に砕かれ、やがて訓練場からは二人の戦う声が聞こえ始める。
 その後、模擬戦を繰り返す内に二人の間にあった蟠りも薄れていき、夕刻になる頃にはすっかり元通りの二人に戻っていた。



「今日はこの辺にしとくかー」

 龍之介が今日の訓練の終わりを宣言する。
 本当は途中で別れた信也らが帰って来たときに、そのまま一緒に村へと帰る予定つもりだったのが、彼らが中々帰ってこない為に、大分遅い時間帯まで訓練は続けられていた。

「そーだな。また今度頼むぜ!」

 そう言ってニカッと笑うムルーダらと共に、異邦人達も拠点予定地を後にする。

「ところで、北条のオッサンはどこ行ってんだ?」

 咲良たち他のメンバーは全員揃っていたというのに、北条に関しては姿が見られなかった。
 その事が気になった龍之介が疑問を口にするが、帰ってくる返事は曖昧なものだった。

「うーん、それがよく分からないのよね。訓練にはほとんど参加しないで、拠点作りの方に専念してるようなんだけど……」

「おぉ! そーいやなんか作りかけの建物があったなあ。あれオッサン一人で造ってんのか!」

「そうよ。私も壁みたいな単純なものならともかく、建物となると"土魔法"だけじゃなくて知識も必要だしね」

「北条さんの事だけど、村の方でもあちこち動いてるようだし、建材を確保したり、建築法を調べたりしてるんじゃない?」

「おー、なるほどな!」

 咲良と龍之介の会話に陽子が入ってくる。その陽子の言葉に龍之介は納得顔だ。

「それより、アンタ達の方はどうなのよ。和泉さん達の姿がないみたいだけど……」

「ああ、それだけどな」

 そう言って龍之介が事の経緯を説明する。


「……お手伝い、ねえ」

「ま、あの三人がついてれば、そこらの野良の魔物に後れを取る事もねーだろ。夜までには帰ってくると思うぜ」

 気に入らない相手ではあるが、石田や長井だけでも十分な所に、信也までもが一緒なのだ。
 龍之介の声音には心配の色は皆無だった。

 しかし、龍之介の想定に反して、その日、信也ら三人が寮に戻ってくることはなかった。






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