215 / 398
第八章
第186話 村長宅への襲撃 後編
しおりを挟む敵の増援の内の一人、気だるげな態度の女魔術師が魔法を使うと、村長が突然肩で息をして、苦しそうに大きく息を吸い始める。
その大きく吸った息を無理やり吐かしてやる、とでも言うように、身軽な格好をした男が、手に帯びたナックルで村長にボディーブロウをかました。
「じゃがっ!」
その一撃を、まともに食らってしまった村長は、断末魔と共に意識を手放す。
そしてデグル自身は無軌道なアウラの攻撃から逃れ、少し後ろに下がって辺りを見回す。
(ふむ……)
村長は無事に確保が成功し、あの従者の女も脅威ではない。
仲間の首尾を確認したデグルは、軽く思考を巡らす。
そして、何か結論が出たのか、追い詰められているアウラへと、交渉を持ち掛けてきた。
「お前たちに提案がある。私の目的はそこの村長と、領主の娘だ。既に村長はこちらの手にあるので、後はお前だけになる」
デグルが改めて現在の状況を突き付けてくる。
村長宅の勝手口からは、先ほどアウラが奥の手で行動不能にした斧を持っていた男も、頭を横に振りながら出てきていた。
その斧男の様子を一瞥したデグルは、話を続ける。
「そこでだ。素直に私に付いてくるのなら、その従者の娘にはこれ以上手を出さず、素直に引こうではないか」
「何を馬鹿な事をっ! 貴様の言葉など信じられると思うか!?」
「どう思うかは勝手だがな。こうしてる今も、その娘の命の灯は消えていってるんじゃないか? 今ならまだ助かるかもしれんぞ? ……ああ、そうそう。二人を連れていくとは言ったが、何も殺したりする訳ではない。二人の身の安全は保障しよう」
最後の言葉に関しては、アウラもカレンも事実であると判じていた。
奴らの背後に吸血鬼がいるなら、魅了して手駒にしてくるだろうからだ。
……そういった意味では安全であるかもしれないが、代わりに意志を奪われ、操り人形とってしまうのは目に見えていた。
「……アウラ、様。きっと、助けに行きます、ので…………。ここは奴の言う、事、を……」
「カレン…………」
苦しいであろう筈のカレンの目が、強くアウラに向けられる。
そのカレンからの言葉なき言葉を受け取ったアウラは、苦渋の決断をする。
「分かった……。貴様の言う事に従おう」
「それが賢明だな。おい……」
アウラの言葉を受けて、デグルが部下に縄を持ってこさせる。
「待て。まずはカレンの身の安全からだ。今勝手口から出てきた男とは別に、更に部屋の中に二人、いるはずだ」
「二人? ここには四人配置していたはずだが」
「……そこの女の魔法でダーヴィデはやられちまったよ」
「そうか。残る二人は無事なのか?」
デグルが斧男に問いかけていると、丁度、勝手口から件の二人が出てきた。といっても、先ほどまともに【岩砲】を腹に食らった男は気絶してるようで、もう一人の男に背負われた状態だ。
「俺はっ大したケガは、ない。ただ、こいつは肋骨が、折れてるかもなあ」
背負われた男は今も意識がないようで、だらりとその体を盾持ちの男に預けていた。
「なるほど、事態は把握した。とりあえずお前たちはこっちへ来い」
納得している訳ではないだろうが、デグルの声に従って勝手口から出てきた者たちは、大人しく本隊に合流した。
「これでいいな? そちらの娘は後は好きにするといい」
「カレンッ!」
カレンの周囲から襲撃者たちが離れたのを確認したアウラは、いてもたってもいられず大きな声を上げる。
「私の荷物にレッドポーションがある! 遠慮せずに使ってくれ! 場所は……分かるな?」
コクリッ……。
すでに声を出すのもきついのか、アウラの大きな声に、軽く頷きを返すカレン。
そしてヨロヨロとした足取りで、カレンが勝手口へ入っていくのを見届けたアウラは、
「さぁっ! 後は好きにしろ!」
と吐き捨てるように言うと、自ら護身用の短剣を鞘ごとデグルの傍に投げ捨てる。
「これは協力的で助かる」
物事がうまくいったというのに、これといった情動を見せないデグル。
まるで作業のように、部下に命令してアウラに猿轡を噛まして、魔法を封じさせる。
更に後ろ手に両手を縄で縛られたアウラは、同じように縛られて意識のない村長と共に、囚われの身となって村を出ていく。
村長宅は村でも小高い位置にあり、家の北側は、村を囲う柵と面している。
柵も簡単に飛び越えられる程度の簡易柵であり、デグル達は難無く村を後にした。
▽△▽
「デグ……ドルゴン様。あの娘、放っておいてよかったんですかい?」
後ろ手に縛られているせいで、少し歩きにくそうにしているアウラ。
その少し後方を歩いていた、デグルと名乗っていた男に、小声で話しかける部下の男。
この男の正体は、シュトラウス司祭を信奉する暗殺者、ドルゴンであった。
「あの程度、心配する必要もあるまい」
部下にそう答えつつも、ドルゴンはすでにカレンについては、時間の問題だと思っていた。
(領主の娘は結局気づかなかったようだが、傷だけならともかく〈ディアルーシ〉の毒まで食らってるのだ。あの様子からすると"毒耐性"は持っているようだが、生半可な耐性で耐えれるもんじゃあない。それに|アレ〈・・〉もそろそろ……)
〈ディアルーシ〉という植物は、葉っぱや茎、根の部分はそこまで問題でもないのだが、花の部分に強い毒性がある。
受けた量にもよるが、"毒耐性"を持たない一般人なら、数分で死に至るほどだ。
「当初の目的であった二人は、無事確保してあるのだ。シュトラウス様もお喜びになるだろう」
縄で縛られた村長もいるため、帰りの足取りはゆっくりとしたものになっている。しかし、目的を果たすことが出来たドルゴンの意識は、すでに崇拝しているシュトラウスの方へと傾きつつあった。
こうしてドルゴンらが引き上げていく一方、一人取り残されたカレンは、安堵の息を吐いていた。
(これで……ひとまずアウラ様のお命は繋がった)
アウラにはああ言ったが、カレンは最早自分が助からないであろう事を自覚していた。
腹部の刺し傷も確かに重傷ではあったが、それ以上に毒の影響が致命的だったのだ。
それでも必死に毒などにかかっている様子を見せず、アウラにああして訴えかけたのは、無茶をしてほしくなかったからだ。
もし、カレンが毒でもう助かりそうにないなどと知られていたら、アウラは自らの命をも顧みず、最後まで戦い続けた可能性があった。
相手も身柄の確保が目的だったようだが、死に物狂いで抵抗する相手では事故も起こるかもしれない。
それに、どっちにしろカレンには助かる道がなく、それならこうして誰かに託す方が救いもあるというものだ。
『アウラ 村長 捕まった 森の方へ』
懐から小さな紙を取り出したカレンは、自らの血でそのように遺言を書くと、それを再び懐にしまう。
それからフラフラとした足取りで、勝手口からキッチンへと入る。
別れ際のアウラの言葉を胸に、アウラの私室として借り受けている部屋に向かうカレン。
すでに毒は体内を回っているので、傷口を洗ってもさして意味はないが、ポーションでケガを治せば、或いは毒に打ち勝つ事もできるかもしれない。
最後まで希望を捨てずにあがこうとするカレン。
しかし、そこに襲い掛かる影があった。
「……ッ!?」
カレンの"空間感知"スキルが感知したのは、アウラの【岩砲】の直撃で死亡した筈の男だった。
「ヴァアアアァァァ……」
言葉にならない言葉を吐きながら迫ってくる男に、カレンは最後の力を振り絞って短剣を突き立てる。
しかし、男はなんら痛痒も感じないようすで、構わずカレンに掴みかかろうとしてくる。
(これ、は……ゾンビ?)
相手の正体を見極めたカレンは、突き刺していた短剣を引き抜く。
それに対し、ゾンビ男はゆったりとした動作で襲い掛かろうとしてくる。
カレンはそんなゾンビ男の両腕をすり抜け、今度は首元に短剣を向ける。
「ハアアァ!」
短剣の闘技スキル、"クリティカルダガー"はゾンビ男の首筋に大きな傷をつけた。
ゾンビはすでに死んでいる為、心臓に剣を突き刺すだけで死ぬとは限らない。だが、頭部を切り離せば数秒で動きは止まり、再び死を与えることが出来る。
カレンの一撃は頭部を切り離すまでには至らなかったものの、ゾンビ男に大きなダメージを与える事はできていた。
「ガアァァッ」
しかし完全に止めを刺すには至らず、ゾンビ男は最後のあがきとして、カレンの腕に噛みつこうとしてきた。
首に短剣を突き刺すため、ゾンビと至近距離まで接近していたカレンは、咄嗟に周囲を見回す。
その目が地下にある倉庫へと続く階段を射止めると、そちらの方面に向かってゾンビ男の腹に前蹴りを放つ。と同時に、首に刺さってる短剣を、傷口を更にえぐるようにして引き抜いた。
「グアアアァァ……」
狙いは上手く決まり、ゾンビ男はうめき声のようなものを上げながら、階段をそのまま突き落とされる。
「はぁ……はぁぁ…………」
一仕事やり終えて脱力した体は、気を抜くとすぐにその場に蹲ろうとしてしまう。
(こんな、所でっ……!)
しかし歯を食いしばり、最後の最後まで足掻こうと、一歩……また一歩……と、足を懸命に動かすカレン。
とそこに、遠くから何か微かな音が聞こえてきた。
(何者かが、忍び込んできた……?)
あの男はああは言っていたが、もしかしたら自分の命を消すため、人を送り込んできたのかもしれない。
そう思ったカレンは、ゾンビ男を突き飛ばした地下倉庫への扉に向かい、中に入るとそっと扉を閉じる。
そして念のため、先ほど突き落としたゾンビ男の状態を確認し、完全に息の根が止まっている事を確かめるカレン。
北条によってカレンの命の危機が救われたのは、このすぐ後の事であった。
0
あなたにおすすめの小説
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
才能は流星魔法
神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。
そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。
流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。
ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。
井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。
山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。
井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。
二日に一度、18時に更新します。
カクヨムにも同時投稿しています。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる