どこかで見たような異世界物語

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第八章

第186話 村長宅への襲撃 後編

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 敵の増援の内の一人、気だるげな態度の女魔術師が魔法を使うと、村長が突然肩で息をして、苦しそうに大きく息を吸い始める。

 その大きく吸った息を無理やり吐かしてやる、とでも言うように、身軽な格好をした男が、手に帯びたナックルで村長にボディーブロウをかました。

「じゃがっ!」

 その一撃を、まともに食らってしまった村長は、断末魔と共に意識を手放す。
 そしてデグル自身は無軌道なアウラの攻撃から逃れ、少し後ろに下がって辺りを見回す。

(ふむ……)

 村長は無事に確保が成功し、あの従者の女も脅威ではない。
 仲間の首尾を確認したデグルは、軽く思考を巡らす。
 そして、何か結論が出たのか、追い詰められているアウラへと、交渉を持ち掛けてきた。

「お前たちに提案がある。私の目的はそこの村長と、領主の娘だ。既に村長はこちらの手にあるので、後はお前だけになる」

 デグルが改めて現在の状況を突き付けてくる。
 村長宅の勝手口からは、先ほどアウラが奥の手で行動不能にした斧を持っていた男も、頭を横に振りながら出てきていた。
 その斧男の様子を一瞥したデグルは、話を続ける。

「そこでだ。素直に私に付いてくるのなら、その従者の娘にはこれ以上手を出さず、素直に引こうではないか」

「何を馬鹿な事をっ! 貴様の言葉など信じられると思うか!?」

「どう思うかは勝手だがな。こうしてる今も、その娘の命の灯は消えていってるんじゃないか? 今ならまだ助かるかもしれんぞ? ……ああ、そうそう。二人を連れていくとは言ったが、何も殺したりする訳ではない。二人の身の安全は保障しよう」

 最後の言葉に関しては、アウラもカレンも事実であると判じていた。
 奴らの背後に吸血鬼がいるなら、魅了して手駒にしてくるだろうからだ。
 ……そういった意味では安全であるかもしれないが、代わりに意志を奪われ、操り人形とってしまうのは目に見えていた。


「……アウラ、様。きっと、助けに行きます、ので…………。ここは奴の言う、事、を……」

「カレン…………」

 苦しいであろう筈のカレンの目が、強くアウラに向けられる。
 そのカレンからの言葉なき言葉を受け取ったアウラは、苦渋の決断をする。

「分かった……。貴様の言う事に従おう」

「それが賢明だな。おい……」

 アウラの言葉を受けて、デグルが部下に縄を持ってこさせる。

「待て。まずはカレンの身の安全からだ。今勝手口から出てきた男とは別に、更に部屋の中に二人、いるはずだ」

「二人? ここには四人配置していたはずだが」

「……そこの女の魔法でダーヴィデはやられちまったよ」

「そうか。残る二人は無事なのか?」

 デグルが斧男に問いかけていると、丁度、勝手口から件の二人が出てきた。といっても、先ほどまともに【岩砲】を腹に食らった男は気絶してるようで、もう一人の男に背負われた状態だ。

「俺はっ大したケガは、ない。ただ、こいつは肋骨が、折れてるかもなあ」

 背負われた男は今も意識がないようで、だらりとその体を盾持ちの男に預けていた。

「なるほど、事態は把握した。とりあえずお前たちはこっちへ来い」

 納得している訳ではないだろうが、デグルの声に従って勝手口から出てきた者たちは、大人しく本隊に合流した。

「これでいいな? そちらの娘は後は好きにするといい」

「カレンッ!」

 カレンの周囲から襲撃者たちが離れたのを確認したアウラは、いてもたってもいられず大きな声を上げる。

「私の荷物にレッドポーションがある! 遠慮せずに使ってくれ! 場所は……分かるな?」

 コクリッ……。

 すでに声を出すのもきついのか、アウラの大きな声に、軽く頷きを返すカレン。
 そしてヨロヨロとした足取りで、カレンが勝手口へ入っていくのを見届けたアウラは、

「さぁっ! 後は好きにしろ!」

 と吐き捨てるように言うと、自ら護身用の短剣を鞘ごとデグルの傍に投げ捨てる。

「これは協力的で助かる」

 物事がうまくいったというのに、これといった情動を見せないデグル。
 まるで作業のように、部下に命令してアウラに猿轡を噛まして、魔法を封じさせる。
 更に後ろ手に両手を縄で縛られたアウラは、同じように縛られて意識のない村長と共に、囚われの身となって村を出ていく。

 村長宅は村でも小高い位置にあり、家の北側は、村を囲う柵と面している。
 柵も簡単に飛び越えられる程度の簡易柵であり、デグル達は難無く村を後にした。


▽△▽


「デグ……ドルゴン様。あの娘、放っておいてよかったんですかい?」

 後ろ手に縛られているせいで、少し歩きにくそうにしているアウラ。
 その少し後方を歩いていた、デグルと名乗っていた男に、小声で話しかける部下の男。
 この男の正体は、シュトラウス司祭を信奉する暗殺者、ドルゴンであった。

「あの程度、心配する必要もあるまい」

 部下にそう答えつつも、ドルゴンはすでにカレンについては、時間の問題だと思っていた。

(領主の娘は結局気づかなかったようだが、傷だけならともかく〈ディアルーシ〉の毒まで食らってるのだ。あの様子からすると"毒耐性"は持っているようだが、生半可な耐性で耐えれるもんじゃあない。それに|アレ〈・・〉もそろそろ……)

 〈ディアルーシ〉という植物は、葉っぱや茎、根の部分はそこまで問題でもないのだが、花の部分に強い毒性がある。
 受けた量にもよるが、"毒耐性"を持たない一般人なら、数分で死に至るほどだ。

「当初の目的であった二人は、無事確保してあるのだ。シュトラウス様もお喜びになるだろう」

 縄で縛られた村長もいるため、帰りの足取りはゆっくりとしたものになっている。しかし、目的を果たすことが出来たドルゴンの意識は、すでに崇拝しているシュトラウスの方へと傾きつつあった。


 こうしてドルゴンらが引き上げていく一方、一人取り残されたカレンは、安堵の息を吐いていた。

(これで……ひとまずアウラ様のお命は繋がった)

 アウラにはああ言ったが、カレンは最早自分が助からないであろう事を自覚していた。
 腹部の刺し傷も確かに重傷ではあったが、それ以上に毒の影響が致命的だったのだ。

 それでも必死に毒などにかかっている様子を見せず、アウラにああして訴えかけたのは、無茶をしてほしくなかったからだ。
 もし、カレンが毒でもう助かりそうにないなどと知られていたら、アウラは自らの命をも顧みず、最後まで戦い続けた可能性があった。

 相手も身柄の確保が目的だったようだが、死に物狂いで抵抗する相手では事故も起こるかもしれない。
 それに、どっちにしろカレンには助かる道がなく、それならこうして誰かに託す方が救いもあるというものだ。

『アウラ 村長 捕まった 森の方へ』

 懐から小さな紙を取り出したカレンは、自らの血でそのように遺言を書くと、それを再び懐にしまう。
 それからフラフラとした足取りで、勝手口からキッチンへと入る。

 別れ際のアウラの言葉を胸に、アウラの私室として借り受けている部屋に向かうカレン。
 すでに毒は体内を回っているので、傷口を洗ってもさして意味はないが、ポーションでケガを治せば、或いは毒に打ち勝つ事もできるかもしれない。

 最後まで希望を捨てずにあがこうとするカレン。
 しかし、そこに襲い掛かる影があった。

「……ッ!?」

 カレンの"空間感知"スキルが感知したのは、アウラの【岩砲】の直撃で死亡した筈の男だった。

「ヴァアアアァァァ……」

 言葉にならない言葉を吐きながら迫ってくる男に、カレンは最後の力を振り絞って短剣を突き立てる。
 しかし、男はなんら痛痒も感じないようすで、構わずカレンに掴みかかろうとしてくる。

(これ、は……ゾンビ?)

 相手の正体を見極めたカレンは、突き刺していた短剣を引き抜く。
 それに対し、ゾンビ男はゆったりとした動作で襲い掛かろうとしてくる。
 カレンはそんなゾンビ男の両腕をすり抜け、今度は首元に短剣を向ける。

「ハアアァ!」

 短剣の闘技スキル、"クリティカルダガー"はゾンビ男の首筋に大きな傷をつけた。
 ゾンビはすでに死んでいる為、心臓に剣を突き刺すだけで死ぬとは限らない。だが、頭部を切り離せば数秒で動きは止まり、再び死を与えることが出来る。
 カレンの一撃は頭部を切り離すまでには至らなかったものの、ゾンビ男に大きなダメージを与える事はできていた。

「ガアァァッ」

 しかし完全に止めを刺すには至らず、ゾンビ男は最後のあがきとして、カレンの腕に噛みつこうとしてきた。
 首に短剣を突き刺すため、ゾンビと至近距離まで接近していたカレンは、咄嗟に周囲を見回す。

 その目が地下にある倉庫へと続く階段を射止めると、そちらの方面に向かってゾンビ男の腹に前蹴りを放つ。と同時に、首に刺さってる短剣を、傷口を更にえぐるようにして引き抜いた。

「グアアアァァ……」

 狙いは上手く決まり、ゾンビ男はうめき声のようなものを上げながら、階段をそのまま突き落とされる。

「はぁ……はぁぁ…………」

 一仕事やり終えて脱力した体は、気を抜くとすぐにその場に蹲ろうとしてしまう。

(こんな、所でっ……!)

 しかし歯を食いしばり、最後の最後まで足掻こうと、一歩……また一歩……と、足を懸命に動かすカレン。
 とそこに、遠くから何か微かな音が聞こえてきた。

(何者かが、忍び込んできた……?)

 あの男はああは言っていたが、もしかしたら自分の命を消すため、人を送り込んできたのかもしれない。
 そう思ったカレンは、ゾンビ男を突き飛ばした地下倉庫への扉に向かい、中に入るとそっと扉を閉じる。

 そして念のため、先ほど突き落としたゾンビ男の状態を確認し、完全に息の根が止まっている事を確かめるカレン。


 北条によってカレンの命の危機が救われたのは、このすぐ後の事であった。



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