どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
216 / 398
第八章

第187話 森中の追跡

しおりを挟む

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「状況は理解したぁ。これはすぐにでも追跡するべきだぁ」

 北条の与えたポーションによって、九死に一生を得たカレンは、細かい所は省いて大まかな状況説明を北条達に話した。
 北条の言葉を受け、マデリーネは今すぐにでも動き出そうとするが、機先を制するようにアリッサの声が押しとどめる。

「ちょっとお、マディちゃん落ち着いてえ」

「な、なにを言うアリッサ! 急がなければ、アウラ様が……アウラ様がっ!」

「でもどうやって追うつもりなのお? カレンちゃんを一人ここに残してはいけないしい、村の誰かに知らせないといけないよお?」

「む、それは……」

 アウラの現況を聞いて取り乱していたマデリーネは、アリッサの正論を聞いて押し黙ってしまう。
 何をするにせよ、ここにいるのはカレンを含めても四人だけだ。何か行動を起こすにしても、人手が足りていなかった。

 マデリーネがどうするべきか、と悩んでいると、不意に下草を踏むような音が聞こえてくる。


「誰だっ!?」

「うひゃあぁっ!」

 マデリーネの鋭い誰何の声に、足音の主は気の抜けたような情けない声を上げる。

「え、ちょ……何なの一体?」

 すでにマデリーネは腰元の剣を握り、いつでも抜剣できる状態だ。
 そんなマデリーネに対し、戸惑いながら問いかけてきたのは、北条もよく知る人物……咲良だった。

「おお、咲良ぁ。ちょうど良いとこに。すまんがぁ、この娘を治してやってくれんかぁ?」

「え? あ、はい。それはいいんですけど、一体何があったんですか?」

「その辺は後で話そう。今は時間がなくてなぁ。あ、先に【キュアポイズン】から頼むぞぉ」

「!? 分かりました」

 毒を治す【キュアポイズン】の魔法を求められた事で、何か事件が起こっているのだと悟り、疑問は胸においといて、咲良は先に"神聖魔法"による治療に入った。

「ええっと……。この者を蝕みし毒よ。清浄なる光で浄化せよ。【キュアポイズン】。っと、それから【ミドルキュア】」

「おお、中級の治癒魔法か!」

 流れるような仕草で、解毒と治癒の魔法を唱えた咲良に、マデリーネが感嘆の声を上げる。

「ふう、これで多分大丈夫だと思いますけど……」

 咲良の使った【キュアポイズン】は初級の魔法であるが、【ミドルキュア】に関しては中級の"神聖魔法"である。
 部位欠損まで治すことはできないが、凄腕の使い手ならば、それに近い事まで出来るようになる魔法だ。

 例えば、眼球が潰れてしまった場合や、指を切り落とされたけど、指そのものが紛失していないような状況。
 破損した箇所が完全に紛失したり、焼け焦げたりした場合は治せないが、モノ・・が現存していれば、修復する事も可能になる。 

 更に咲良の"神聖魔法"は、初期スキルに選んだ天恵スキルであり、その効果は他より高い。
 失ってしまった血液までは取り戻せていないが、少し重い貧血状態という位にまで、カレンは回復することが出来た。


「あの、ありがとうございます」

「あ、いえいえ。これくらいの事なら……」

 お礼の言葉が言える程度にまで回復したカレンと、未だ何が何だか分かっていない様子の咲良。
 今度こそは何があったのか聞こうと、咲良が口を開きかけようとする……が、先に北条が口を開く方が先だった。

「これでカレンはもう大丈夫だぁ。後はー、俺とそこの二人で賊を追うとしよう。すまんがぁ、咲良はカレンを安全な所まで送りと……」

「ちょっと、い『お願いがあります!』

 北条の話に食い込むようにして割り込んできた咲良に、更に追加でカレンが強い声で割り込んできた。
 まさかのタイミングで割り込まれた咲良は、思わず口をパクパクとしてしまう。その間に、カレンは続きを話し始める。

「私もアウラ様の救出に参加します!」

「いや、カレン。しかし君はさっきまで危険な状態だったのだぞ」

「ケガも毒も治療して頂いたので問題ありません! それに、私には"足跡追跡"のスキルもあります」

 カレンの提案に、どうしたものかと迷いを見せるマデリーネ。
 アリッサも、事態が呑み込めていない咲良も、発言するべき言葉を見いだせず、無為に時間が過ぎようとした時。
 北条が即断即決で指示を出す。

「よし、わかったぁ。追跡はカレンに任す。咲良もすまんがぁ、一緒についてきてくれ。詳しくは道中で話す。カレンはこれを……」

 そう言って北条は〈魔法の小袋〉から赤いビー玉ほどの大きさの玉を取り出す。

「〈造血玉〉だぁ。副作用はあるがぁ、急速に体内で血を作ってくれる」

 信也達のパーティーには、"回復魔法"を使えるメアリーがいて、こういった場合【ヘマトポイシス】の魔法で失った血をある程度補填できる。
 しかし、北条のパーティーには"回復魔法"の使い手はいない。
 ダンジョンの新エリアで痛い目に会った事もあり、北条は出血という事態に対処すべく、〈造血玉〉をギルドで購入していた。

「何から何まで、本当に感謝致します」

 カレンは礼儀正しくそう言って〈造血玉〉を受け取ると、そのまま飲み下した。
 気安くホイホイ使えるものでもないが、そこそこ出回っているアイテムなので、知名度もそこそこ高い。
 マデリーネ達も身の回りで使われてるのを見た事はあったので、カレンが〈造血玉〉を飲み下す様子をじっと見守る。


「では、早速だがアウラの救出に向かうぞぉ!」

 村の人に事態を報告する事は人数不足の点から今回は排除し、先に救出に専念する事にした北条達。
 北条の掛け声と共に、新たに咲良を加えた一行は、村の北部分へと続く、足跡を辿って追跡を開始するのだった。




▽△▽△



 アウラを救出せんと、村の近くの森に入ってから小一時間ほどが経過した。
 追跡は順調に進み、すでに北条の索敵圏内に敵の一団を捉えていた。

「ようやく追いついたのね」

 道中、急ぎ足ながらも今の状況について説明を受けた咲良は、無事に相手を見つけたことで安堵の息を漏らした。

「アウラ様が……私を信用してくれていたお陰です」

 カレンが謙遜気味にそう言った。
 何でも、カレンによると、アウラはわざわざ足跡が強く残るように歩いているそうだ。
 只でさえ、お仕えする主の足跡の特徴はしっかり頭に入っている。
 その上、分かりやすいように足跡が残されているので、追跡も大分楽になっていた。


「捉えた人数は全部で……十人。特に隊列などをしいている訳ではないがぁ、村長とアウラは中ほどを歩かされている」

 そう言って更に森の奥を観察する北条。

「んんっと、剣と盾を持った男に盗賊らしき男に斧男。格闘タイプの男に、女も二人いるなぁ。恐らく盗賊系と女魔術士だ。それと神官服の男もいる」

「凄い……です。私の"視覚強化"ではそこまで見分けが出来ません」

「いやいや、見える分それでも凄いですよ。というか、そもそも木がたくさん生えてるのに、どーやったらそんなに見えるんですか?」

 咲良からすると、まったく不可解な視界を持つ二人。
 両者とも、微妙に立ち位置を変えながら観察していた事から、木々の隙間を縫うようにして見通していたように思えるが……。

「敵は八人……。それも一人はカレンを軽くあしらうほどの腕前か」

 カレンは最初こそ小姓としてアウラに付き従っていたが、主の役に立ちたいという強い思いで、腕を磨いてきた。
 当初は反対していたアウラも、カレンの意を慮り、カレンを鍛えるための体制を整える。

 護衛としてではなく、情報関連などを主に取り扱う盗賊系として、訓練を重ねていったカレン。
 その結果、『隠密』の職に就いたカレンだが、戦闘の方も鍛錬は続けていて、"暗器術"による戦闘は初見の相手には有効的だ。

 それでも、あのデグルと名乗っていた男に対しては、お得意の"暗器術"を使う暇も与えてもらえなかった。
 レベル的に、Dランク下位の盗賊職に匹敵するカレンは、特に対人の訓練を積んできている。
 それがああも歯が立たないという事は、デグルという男はCランク級の腕を持っているのかもしれない。


「それで、この後はどうするんだ?」

 マデリーネが単刀直入に北条に尋ねる。
 彼女には彼女なりの考えはあったのだが、アリッサやカレンとは違い、マデリーネからすると、北条と咲良については不明点が多い。
 何か事態を打開するいい手があればラッキー、程度に質問をしたマデリーネ。
 そのマデリーネの期待は、良い方に裏切られる事になる。


「そうだなぁ。まずはこいつに登録を頼む」


 そう言って北条が取り出したのは、冒険者にとっては必須とも言われるアイテム。
 さいころの形をした〈ソウルダイス〉であった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

才能は流星魔法

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎に住んでいる遠藤井尾は、事故によって気が付けばどこまでも広がる空間の中にいた。 そこには巨大な水晶があり、その水晶に触れると井尾の持つ流星魔法の才能が目覚めることになる。 流星魔法の才能が目覚めると、井尾は即座に異世界に転移させられてしまう。 ただし、そこは街中ではなく誰も人のいない山の中。 井尾はそこで生き延びるべく奮闘する。 山から降りるため、まずはゴブリンから逃げ回りながら人の住む街や道を探すべく頂上付近まで到達したとき、そこで見たのは地上を移動するゴブリンの軍勢。 井尾はそんなゴブリンの軍勢に向かって流星魔法を使うのだった。 二日に一度、18時に更新します。 カクヨムにも同時投稿しています。

処理中です...