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第九章
第194話 説明会
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ドルゴンによる、村長とアウラの誘拐事件から二日が経過した。
村へ帰還した北条達は、早速今回の事を冒険者ギルドに報告。
事件のあらましを聞いたナイルズは、まずは全員が無事だったことを喜び、そして更なる警備の強化を図った。
後ほど襲撃者たちの正体についても調査が行われたが、特に有益な情報は得られず、最近になって《鉱山都市グリーク》からやってきた者ではないか? という程度の事しか調べがつかなかった。
しかし、襲撃者達がアウラらを攫った後に向かっていた方角から、奴らがどこへ向かおうとしていたかの予測は出来た。
あのまま森を真っすぐ突き進めば、《ジャガー村》の住民でありながら、一人森の奥で暮らしていた、木こりのラッシャーが住んでいた家があったのだ。
ナイルズは、そのラッシャーの家……というよりも小屋というべき建物を、調査すべく、自ら単身で調査へと赴いた。
現役時代に盗賊として腕を鳴らしていたナイルズは、そこいらの若手より断然腕は上で、所有スキル的にもこうした隠密行動は彼のお手の物だった。
久々に冒険者時代の装備を身に着け、ほとんど音も立てず森の中を進むナイルズ。
しかし、結局の所、ナイルズがラッシャーの小屋にまでたどり着くことは出来なかった。
それは何も途中で見つかって襲撃を受けたから、という訳ではない。
小屋までいかずとも疑惑が確信へと変わったからだ。
それほど広範囲ではないのだが、恐らく小屋があるであろう場所を中心に、ナイルズは幾人か周囲を監視している者達がいるのを捉えていた。
見たところ、まともに盗賊技能を持っているものは少ないようで、中には素人同然の者もいたのだが、ナイルズはそれ以上奥へと侵入する事を止めた。
彼ならば気づかれずに更に接近する事も可能だろうが、見張りの者達がいる更に奥には、いくつか罠の気配も感知していた。
それでも罠にかからず近寄ることすら、ナイルズには可能だったかもしれない。しかし、ナイルズ自身、このような調査をするのも久々であったし、何より大分歳も取ってしまった。
すでに疑惑が確信へと変わっていたナイルズは、万が一の事を考えて無理をせず、撤退を開始したのだった。
一方北条は、残りの異邦人達を全員集め、現在裏で進行している事件について、ようやく重い口を開いた。
それは咲良に語っていた内容と同じもので、すでに内容を知っている咲良以外の者達は、それぞれ大きな反応を示していた。
「チッ、あのクソババア。やっぱろくな奴じゃなかったな」
龍之介は素直に長井への苛立ちを表していたが、同じように長井を嫌っていた由里香の方は、大分ショックを受けているようであった。
嫌っていた相手ではあったが、まさかそのような事をするとは思いもしなかったのだろう。
脇に立つ芽衣が、そんな由里香の頭を優しく撫でていた。
「……それで、和泉さん達は無事なんでしょうか?」
苦渋の表情で静かに尋ねるメアリー。
顎に手を当てて、重苦しい声を発した彼女の疑問に、正確な答えを提示できる者はこの場にいなかった。
「ううん、命を奪われるような事にはなってない、と思うがぁ……」
その件に関しては北条も問題ないとは思っていたが、それ以外の部分で問題は起こっているだろうなとは予想していた。
北条の言葉を聞いて、しばし沈黙が辺りを支配する。
その重い沈黙を破ったのは、陽子の質問だった。
「……ねえ。ところで、彼女がその……"魅了の魔眼"だっけ? それを持ってるってのは、どうやって知ったの?」
陽子の質問に他の者も興味をそそられたのか、一斉に北条へと視線が集中した。
「それはぁ……。正確に言うと、"知った"というよりは、状況証拠的にほぼ間違いないって所だなぁ」
「んん? それってどう違うんですか?」
「んー、つまり、だぁ。"魅了"にかかっている男共がいて、スキルを非表示にしている人もいて、現在この場にいない人物……。"魅了の魔眼"は同性には効果が薄いし、この場合残ったのは長井という事になる」
北条の説明を聞いて、由里香や龍之介はそのまま納得していたようであるが、待ったの声を掛ける者もいた。
「ちょっと、待って。そもそも、私達以外の誰かが魅了スキルを持っているって事も、十分あえりえるんじゃないの?」
「まあ、その可能性もないとは言わん」
陽子の質問に対し、一部肯定してみせる北条。
そんな陽子に……いや、全員に向けて、長井が黒だとする根拠を北条は挙げていった。
まず"魅了の魔眼"スキルが、そもそもレアなスキルであり、所有者がほぼ存在しないと言われている点。
だがそんなレアなスキルだろうと、自分たちは最初に選択して取得する事が可能であり、なおかつこれまで接してきた長井の性格からして、このスキルが一覧にあった場合、彼女が選んでいた可能性が高いであろう、という点。
ちなみに各人うろ覚えではあるのだが、最初に表示されたスキル一覧の並び順は全員違っていたらしい事は判明している。
そのため、最初の方のページに有用なスキルがあって者もいるし、そうでない者もいた。
話を戻し、北条が長井を怪しんだ一番の理由は、長井と同じパーティーである慶介が後天的に身に着けたスキルの中に、"魅了耐性"と"魔眼耐性"がある事が一番大きかった。
どちらか片方だけならばともかく、この両方を同じ人物が取得している。
耐性スキルとは、北条による"恐怖耐性"取得トレーニングでも体験したように、"毒耐性"であるなら軽い毒を日常的に摂取したり、"ストレス耐性"であるなら信也のように、常にストレスを感じ続けたりすることが、スキル取得のきっかけとなるものだ。
その事を踏まえ、慶介の二つの耐性スキルを紐解いてみると、"魅了耐性"に関しては、まだ年上の女性に迫られていたから……と強引に捉えることも可能だが、"魔眼耐性"に関しては異色な耐性スキルだ。
"火耐性"だとか"水耐性"だとかの属性系の耐性スキルに関しては、元からの本人の適性によっては、一般人でも取得する事が多い。
"毒耐性"なども、適性のある人が少し腐ったものを食べたり、などといった事の繰り返しで覚える事もある。
しかし、適性者の少ないマイナーな耐性スキルを、その耐性スキルに応じた経験を経ることなく取得するケースは余りない。
適性が抜群にあったとしても、一度や二度使われたくらいでは、耐性スキルが生えてくる事はないのだ。
属性系統の耐性スキル取得者が多いのも、火や土、風などといったものが人々の身近に存在しているからだ。という説を唱えている学者もいる。
「まあ、この辺は後付けな部分でもあるけどなぁ。ただ、ふと思い返してみると、長井はやたらと視線を合わせようとしてきたのを思い出してな」
「そういえば」と、話を聞いていた陽子らも、みんな脳内の検索機能をフル活用して、ほじくり返すように記憶を探り始めた。
そして、幾つか思い当たる点を見出したようだった。
「コミュ症の俺も、やたらと眼を合わせようとしてくる長井には、対応し辛かったぞぉ」
「ふーん。まあ、大体分かったわ」
北条の言葉の一部を受け流し、納得した表情を浮かべる陽子。
元々陽子は何かあるのだと察していたせいか、他のメンバーと比べて表面上は普段と同じように見える。
しかし内心ではショックを感じており、この中で一番冷静そうに見える彼女は、北条の説明の中で気になるような幾つかの点を、聞き逃してしまっていた。
「ねえ……ところでこのアホは大丈夫なの?」
咲良が龍之介を指さしながら突然そんな事を言い出した。
「ああぁ? アホってのは誰のことだ!?」
「アンタよ、アンタ。女性である細川さんと、耐性持ちの慶介君は分かるけど、アンタってノーガードなのよね? 大丈夫? 魅了されてない?」
「な、ちょ、おま……」
疑われたことが心外だったのか、口も回らない様子の龍之介。
「龍之介に関しては、あの時きちんと魅了解除は行っていたし、問題ないハズだぁ……。多分なぁ」
「そーだろう、そーだろう……って、え!? たぶんって何だよオッサン!」
疑いをかけられて頭が回っていないのか、北条がからかっている事にも気づかず、更に必死な様子になっていく龍之介。
「あー、コイツは今の内に縄で強くふん縛っておいた方がいいかもですね」
そこに絶好の機会だと、咲良も調子を合わせはじめてきた。
「おいっ! 俺はミリョーなんてされてねええって!!」
「どうかしら? そうやって必死な所が怪しいケド?」
別に現時点で魅了されていたとしても、近くに魅了解除できる北条がいるのだから、もう一度解除してもらえば済む話なのに、焦りまくった龍之介は言わんでいい事もついぶっちゃけてしまった。
「だからっ、違うって! 今まで隠してたけど、俺の非表示にしていたスキルは"精神耐性"って奴だから、たぶんそのせいで魅了にもかかんなかったんだ。そうに違いない!!」
そう言って、ギルド証を取り出した龍之介は、慌てた様子で非表示の所を明らかにさせた。確かにそこには"精神耐性"というスキルが明記されている。
これでどーだ! といった顔して咲良に視線を移す龍之介。
だが、元々からかっていただけの咲良は、今まで隠してきた龍之介のスキルの事を知って、新しいネタを得た事でニヤニヤとした表情を更に強める。
「へー、そーなんだあ。なんかアンタが必死に隠してたから、もっと凄いスキルなのかと思ってたけど、案外ちゃっちいスキルなのね」
「なにおうっ! こいつのお陰であのババアのミリョーにもかかんなかったんだぞ!?」
「それは、本当にそのスキルのせいか分かんないでしょ」
「いいや! 絶対このスキルのお陰だね!」
内容が内容だけに重い雰囲気になっていた場が、龍之介たちのじゃれ合いによって若干和らいでいくようだった。
(ふう、とりあえず説明は終わった……か)
そんな二人の様子を、少し離れた場所で見ていた北条。
説明に対して、余り深く突っ込まれなかった事に、北条は内心胸を撫で下ろしていた。
一応北条もある程度の受け答えは想定していたのだが、余りそこから外れる質問をされる事がなかったのが幸いだった。
――北条が長井を発端とする、裏の事情を認識した本当の理由。
それは、《ジャガー村》にて久々に『ムスカの熱き血潮』と再会した頃。
北条の下に尋ねてきたとある人物によって、語られた話が原因であった。
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