どこかで見たような異世界物語

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第九章

第193話 選出された一団

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 長井がシュトラウス司祭より与えられた指令をどう達成するべきか頭を悩ませ、エスティルーナが気がかりを残しつつ、ベネティス辺境伯領へと向かっている頃。《鉱山都市グリーク》の南の大門前には、幾人もの集団が立ち並んでいた。

 目立つのは神官服を着た者たちであり、見る人が見れば彼らが同じ神を信奉していない事はすぐに分かるだろう。
 『ゼラムレット』や『ガウディン』、それから『イドオン』や『ダイマード』など、複数の宗派が勢ぞろいしている様子は、普段あまり見られない光景だ。

 更に、神官たちの近くには冒険者と思われる集団もおり、武装をきっちり整えてる事もあって、何か大掛かりな事が進行しているのでは? と不安そうに彼らを見つめる町人もいる。
 目敏い者ならば、その冒険者の中にはここ最近《鉱山都市グリーク》で有望株とされている、『光の道標』がいる事に気づいただろう。

 『光の道標』は、Cランク冒険者パーティーであり、Bランクも目前だと噂されている、期待のパーティーだ。
 リーダーのライオットは『光術師』と『火術師』の職につく魔術士であり、三十代という若さにしては、抜きんでた魔法の腕を持っている。
 他にもゼラムレット教の司祭であり、"付与魔法"の使い手でもあるシャンティアは、二十代にして『司祭』となった才媛だ。

 目立つのはこの二人であったが、他のメンバーもそれぞれランクに見合った実力者達であり、その立ち居振る舞いは威風堂々としていた。


 そして、少し離れた場所では、そういった『光の道標』よりも、更に存在感が強い冒険者のパーティーが、騒がしくしていた。

 まず目に入るのが、二メートル半以上はあろう、大きな背丈をしたハーフジャイアントと思しき男だ。
 背にはその身長に負けぬ巨大なこん棒を背負っており、あのようなもので殴られてしまったら、そこいらの人間など骨ごと全身砕かれてしまうと思われた。

 その男の周囲には、彼のパーティーメンバーと思しき連中が固まっているが、その面子もまた注目を浴びている。
 ドワーフに狐の獣人、それからハーフエルフの兄妹に一人場違いな感じの人族。

 パーティー構成にほとんど人族がおらず、一人だけいるあの老境に差し掛かっている男も、もしかしたら人族ではないかもしれない。などと、一瞬思ってしまいそうになる。

 彼らは《サルカディア》発見の報を受けて、王都の方からやってきたBランク冒険者パーティー、『巨岩割り』の面々であった。
 最近の王都での亜人への差別の事も拠点を移した理由でもあり、この地にそういった差別がなければ、しばらくダンジョンに潜って暮らそうかと考えていた。

 メンバーはリーダーである、ハーフジャイアントのジババに、斧と"地魔法"を扱うドワーフのジュダ。
 他にも狐人族の魔術士などもいるが、回復に関してはパーティー唯一の人族の男、ベルナルドの作る薬や、ポーションなどで済ませていた・・

 しかし、双子のハーフエルフの兄妹がメンバーに加わってからは、兄であるロベルトの"神聖魔法"が、大いに役立っていた。
 ただこの双子に関しては後から入った事もあって、二人ともまだレベルは低く、Dランク冒険者となっている。



 この場には『光の道標』、『巨岩割り』、神官、以外にも幾人もの人が集まっていたのだが、まだ集まっていない者がいるのか、未だに何らかの行動を移す様子が見られない。

 とそこに、中央部が見事に禿げ上がった、筋肉隆々の男が数名のお供を連れてやってきた。
 そして集まっていた面子を見渡すと、

「よおおおおおし! 諸君、よく集まってくれたな!」

 と無駄に大きな声で第一声を発する。
 その男のひと声に、騒いでいた『巨岩割り』の連中も話を止め、そちらへと注目した。
 関心が寄せられた事を察知した男は、一同に向けて今度は少し抑えた声量で話し始めた。

「あー、まあすでに説明を受けているだろうが、お前たちにはこれからとある場所へ向かってもらう!」

 グリーク冒険者ギルドのマスター、ゴールドルは、改めてここに集った者たちに大まかな目的を伝える。
 しかしその後はこの場で詳しい説明は行わず、この依頼に対する参加意思の確認を改めて行うことになり、いくばくかの時間を取られていった。

 誰気兼ねなく、参加意思を表明する者たちに向けて「がんばれよ!」と声を掛けていくゴールドルであったが、ただひとり。やたらと背の高いイドオンの司祭に対してだけは、そのハキハキとした口ぶりも濁っていた。

 「モチロン、ミーもジョインするね」

 そう言った男に対して、ゴールドルは「そうか」と返しただけで、やたらとそこだけ素っ気なかったのだ。
 しかし、そうした細かい違いを気にする者はおらず、参加意思の確認を終えたゴールドルは、そのまま彼らを見送りに南大門まで付き添った。


「では、健闘を祈る!」


 ゴールドルの見送りの声を背に、一行は一路目的地へと旅立つこととなった。
 そんな彼らを見送っていたゴールドルは、心中の不安を誤魔化かのように、筋肉を震わせる。

(……奴の事はずっと気になってはいたが、密かに調査をしてみても、特に怪しい所は見当たらなかった)

 そう独白するゴールドルの目は、先ほどのイドオンの司祭を見つめている。

(だが、俺の"第六感"スキルと俺の筋肉が、奴は危険だと訴えるのだ)

 お供の人が、「もう帰りましょう」と言っているのも耳に届かぬ様子で、ゴールドルは彼らの姿が小さくなるまで眺め続ける。

(しかし、逆に奴をこのまま現地に向かわせた方が良いだろう、とも俺の"第六感"は訴えている。……のだが、俺の筋肉は奴を行かすなと言っている)

 相変わらずゴールドルの筋肉はピクピクと動いていて、その様子をゴールドル自身が神妙な顔つきで見つめている。

(今更であるが、どうしたものか。……そういえば、あの地にはもう一人、俺の"第六感"が強く反応した者がいたな)

 ゴールドルは一人の冴えない中年男の事を思い出す。
 彼については、その後もナイルズを通じていくつか報告が上がってきていた。
 ナイルズ曰く、底の見えない男である、と……。

 彼の事を考えていると、不思議と司祭を送り出した事に反対していた筋肉も、どこか安らかな顔を浮かべているように、ゴールドルには感じられた。


「……奴が今回の件でのキーとなるのやもしれんな」


「え、マスター? 何かおっしゃいましたか?」

「いや、何でもない。独り言だ」

 そう言って、ゴールドルはようやくその場を立ち去り、ギルドの方へと帰り始める。
 その頃にはすでに、先ほど旅立った者たちは遠く、姿を確認できなくなっているのだった。



▽△▽△▽



 《鉱山都市グリーク》を発った一行は、《ジャガー村》へ続く道をひた歩いていた。
 最近になって、両地点を直線で結ぶ街道の建設が始まっていたが、元々街道建設に適していないとされて、迂回されていた場所なのだ。

 そこは街道工事には不向きであり、なおかつ《ジャガー村》の拡張工事も不十分だという事もあって、人材を多く回すことも出来ていない。
 従って、彼らが歩いているのは従来の街道であり、この道を順当に進めば五日後には《ジャガー村》へと辿り着く予定だ。

 かつては、この街道を二十人以上の集団が歩く事など、滅多になかった事だ。それこそ村の開拓に向かった最初の開拓民位ではなかろうか。
 しかし、ダンジョンが発見されて以降は、そう珍しい光景でもなくなっていた。



「なーんで、Bランクであるオヤジが指揮官じゃないんッスかね? これも亜人差別って奴ッスか?」

 その二十人以上の集団の後方を歩いていた、『巨岩割り』のハーフエルフの青年――ロベルトは不満そうな口調で愚痴を吐く。

「そう、なんでもかんでも差別差別って言うもんじゃあない」

 そのロベルトに対して苦言を呈しているのは、パーティー唯一の人族の男性、ベルナルドであった。

「でも、ベル爺。冒険者としての活動歴だってオヤジの方が……」

「かああーっ。だから、何度も言うとるが、何で儂が『ベル爺』で、ジババが『オヤジ』なんじゃ!? 儂はジババより七つも若いのじゃぞ?」

「えー、でもハーフジャイアントと人族とじゃ寿命も違うしー」

「ええい、いいから儂を年寄り扱いするのはよさんか」

「……いっつも思うけど、確かにベルの方が年寄り臭いよ」

「なんじゃとおお!?」

 ロベルトとベルナルドの言い合いに、仲間の狐人族の男性――ツィリルまで話に加わってきて、ますます騒がしくなっていく。
 ロベルトはリーダーであるジババの事を『オヤジ』、ベルナルドの事を『ベル爺』と呼んでいるが、無論彼らの間に血縁関係は存在しない。

 ただ、今は亡きロベルトの両親が『巨岩割り』とは古い付き合いであり、彼らが亡くなった後にジババはロベルトと、彼の双子の妹であるカタリナを引き取ることを決めたのだ。

 その時まだ子供であったロベルトとカタリナは、最初はベルナルドの知人の元に預けられていたのだが、『巨岩割り』を通じて冒険者に対して憧れを抱いた二人は、紆余曲折あって、今では『巨岩割り』の一員として活動している。

「ベル爺の事はどーでもいいけど、今回の指揮官に任命されたライオットさんは、グリークでは有名なCランク冒険者みたいだし、フラッと流れてきたばかりの私達に、いきなり指揮官なんて任されても困るだけよ」

 ロベルトに比べ、双子の妹のカタリナは大人びた所があった。
 それはまるで思春期の中学生の、男女の違いのようなもの。
 別の言い方をすれば、カタリナの方が現実的な思考の持ち主だった。

「そうさな。あの『光の道標』という奴らは、神官たちの間にも広く知られておるようだ。ワシらが指示を出すよりは、あちらさんの方が素直に従うだろうて」

 カタリナに同意の意見を出したのは、ドワーフのジュダだった。

「うー、そッスかああ。んー、でもなあー」

 それでもいまいち納得がいかないのか、ロベルトはウーウー唸っている。

「どちらにせよ、儂らが一番興味があるのは、新しく見つかったダンジョンの事じゃ。余計な仕事を増やす必要はないじゃろう」

「なるほどおおおッス」

 ベルナルドの言葉にようやく納得したのか、ロベルトは大人しくなる。


 彼らが村にたどり着くまであと数日。
 その数日の間にも、彼らの足元に暗い影が忍び寄りつつある事を、陰に潜んでいる者以外、知る由もなかった。



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