どこかで見たような異世界物語

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第九章

第203話 作戦前日

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 北条が長井らによって攫われた翌日。

 異邦人達は拠点に集い、海底の底に沈んだような空気の下、各自訓練を重ねていた。
 中には最近共同で訓練をしている『ムスカの熱き血潮』の面々の姿もある。
 今回の件においては、魔物相手ではなく人間が相手となるので、少しでも対人の練習をしておくのは悪くない選択だ。
 それに、こうして体を動かしている間は嫌なことも一時頭の片隅に追いやることも出来る。

 北条が攫われた事に対しては、メンバーのショックもかなり大きかった。
 前々から北条についていけば大丈夫だろう、という妙な安心感のようなものを抱いていた者が多かったせいだろう。
 それは自身と由里香以外は誰も信用せず、誰も頼ろうともしない芽衣であっても、北条に対してだけはそういった心強さを感じていた程だ。

 その中でも、直接北条が攫われるきっかけとなってしまったメアリーと、最近少しずつ人と話すようになってきた楓の二人は、特にショックが大きかった。
 メアリーはまだ表面上は何とか平静を装う事もできていた。しかし楓に至ってはみんなといる時、以前と同じように隅っこに潜んで黙るようになっていた。

 しかし、訓練の時になると人一番訓練に熱が入っており、自ら進んで他の前衛系との模擬戦を繰り返していく。
 その表情には鬼気迫るものを誰もが感じていた。



「これから村まで昼食を買いに行ってくるけど、何かリクエストはある?」

 陽子がそう大きな声で呼びかけると、ある者は手を止め、ある者は模擬戦を継続しながら幾つか声が帰ってきた。
 この拠点は、村からだと三十分ほど歩いた場所に存在している。
 みんなのリクエストを頭にメモした陽子は、村まで買い出しに出かけた。

 陽子も近接武器の訓練や、投擲武器の訓練もあったのだが、"結界魔法"などの魔法系に関してはどこでも練習は出来るため、こういった雑用は進んで引き受けていた。

 自分に"付与魔法"で【体力増強】や【敏捷増強】をかけつつ、小走りに村に向かう陽子。
 勿論"結界魔法"も常に物理、魔法両方を展開している。"結界魔法"は常に展開する事が多いので、上達の方もかなり早くなっている。

 しばらくして、村で昼食の買い出しを終えた陽子が大通りを歩いていると、何やら大規模な集団が通りを歩いているのを見かけた。
 大きく分けて神官と冒険者からなるその集団は、冒険者ギルドの前で足を止めると、その内の代表者らしき者数人だけが建物の中へと入っていく。

「あれって、もしかして……」

 気になった陽子は、冒険者の一人に声を掛ける。

「あの、ちょっといい?」

 そう言って陽子が話しかけたのは、エルフらしき双子の内の男の方だった。
 エルフらしき、と陽子が思った理由は、以前危険な所を助けてもらったエルフの女性に比べると、耳の形が若干違うように思えたからだ。

「ん、なんッスか?」

 少し幼さが残る声で返事をしたそのエルフらしき男は、人好きのする声で陽子の方へ振り向いた。

「もしかしてアナタ達、グリークから"例の件"で派遣された人たちですか?」

 陽子の質問を聞いたエルフ男は、隣にいる同じ顔立ちのエルフらしき女性の方を向いた。
 そのエルフ女性は顔を軽く横に振っただけで、特に言葉を発することはなかったが、それで意思疎通ができたのか、最初に声を掛けたエルフ男が口を開く。

「えーっと、お姉さんどういう人ッスか? 見た感じ冒険者……っぽく見えるッスけど」

 エルフ男の誰何の声に、改めて陽子も自分が余裕を失っているなと自覚しつつ、自己紹介から始める事にした。

「ああ、そうよね。私は陽子、Eランク冒険者よ。……アナタ達がどこまで聞かされているかは分からないけど、今回の魅了事件に大きく関わっているわ」

 陽子がそう自己紹介すると、エルフ男も納得がいったのか、こちらも自己紹介を返してきた。

「そっか。僕の名前はロベルト、これでもDランク冒険者ッス。んで、こっちのが双子の妹で、同じくDランクのカタリナ」

 ロベルトが隣にいたエルフ女性の紹介をすると、軽く陽子に礼して見せる。

「それでさっきの質問なんッスけど、多分お姉さんが言うので間違いないと思うッス」

「そう……」

「ん、なんかあったんッスか?」

 思ってたより早く応援が到着した事に、安堵の声を漏らす陽子。
 そんな陽子を見て、何かあったと察したロベルトが質問をしてくる。

「……ここじゃあまり詳しいことは言えないんだけど、私の仲間が魅了状態になっていてね。更に昨日は私たちのパーティーリーダーも奴らに捕まってしまったのよ……」

「うわあ、それはやばいッスねえ」

 上辺だけの言葉ではなく、真にそう思っているような声をあげるロベルト。
 隣にいるカタリナも、同情的な視線を陽子へと送っていた。

「だから、応援が来るって聞いて、待っていた所だったのよ」

「なるほどッス。それなら僕たちに任せるッスよ」

「ちょっと、ロベルト。そう気軽に安請け合いしちゃあ……」

 何の気負いもなく言ったロベルトに、カタリナがお咎めを出す。
 しかし彼女も、依頼とそう外れる内容でなければ出来るだけ応えてやりたいとは思っていた。

「ありがとね。当日は私と他の仲間も参加する予定だから、よろしくね」

「え? ほんとッスか? でも……」

 ロベルトが口ごもったののは、この事件の裏に潜んでいるかもしれない存在の事を、知っていたからだ。
 だが、それについてはすでにメアリーから聞かされていて、陽子らも全員知るところとなっていた。

「ああ、勿論無茶はしないわよ。私達は魔術士が多いし、変わった・・・・スキル持ちも多いから、邪魔にはならないとは思うわ。ここのギルマスにも許可は取ってあるしね」

「んー、そうッスかあ。ギルマスが許可したなら僕がどーこー言うもんでもないッスね。わかりました、その時はよろしくッス」

 そう言って手を前に差し出して挨拶を交わす陽子とロベルト。
 とりあえず、目当ての応援部隊が到着した事を確認出来た陽子は、そのまま拠点の方へと引き返していった。

 その数分後、ギルド内へと入っていった数名が戻ってきた。
 そして今回の集団のリーダーである、『光の道標』のリーダーのライオットが全員に向けて話しかけた。

「ここのマスターと軽く話をしてきた。どうやら事態は刻一刻と進行しているようで、明日にでも作戦を遂行する事になった。皆、今日は村に泊まり、英気を養っておいてくれ。詳細については明日、改めて説明をする。以上、解散だ!」

 最低限の伝達事項だけ伝えたライオットは、そう言うなり仲間と共に宿を探しに出かけ始めた。
 それはロベルトら『巨岩割り』も同様だ。
 しかし、神官たちはまずは各々の教会へと出向く事になったようで、宗派によってばらけていく。

「んー、それではミー達もチャーチの方に向かうとするね」

 その中にはやたらと背の高い、イドオンの神官服を着た者もいたのだが、ギルドの建物に入っていった面子の一人であったため、ロベルトと会話していた陽子が彼と接触する事はなかった。



▽△▽



「ただいま。頼まれた分、買ってきたわよ」

 陽子が拠点に戻ると、模擬線でコテンパンにやられてしまったのか、ムルーダが咲良の"神聖魔法"で治療を受けている所だった。
 龍之介との力の差がついた事に、納得している訳ではないムルーダであったが、その事で変に焦ったり、龍之介を妬んだりするといった事はなく、純粋に前を向けているようだ。

「おー、助かるぜ。こうも動き回ると腹が減ってな」

 そう言って近づいてくる龍之介は、ムルーダと模擬線をした後だというのに、これといったケガの様子もなく、少し肩で息をしている程度であった。

「はい、アンタはコレね。あ、そうそう。さっき村で見たんだけど、早速例のグリークからの応援部隊が到着したみたいよ」

「お、マジか!」

「わあぁ、これで北条さんを助けにいけますね」

 ここの所暗いニュースが多かったが、久々の明るいニュースに一同の顔も明るくなる。そして、同時に本番の時の事を考え、身が引き締まる思いも感じていた。

「陽子さん。いまその人たちが到着してるって事は、あしたにでも出発ですか?」

「そうね。詳しくは聞いてなかったけど、多分そうなると思うわ」

 陽子の返事を聞いて、慶介も気合が入ってきたようで、

「こんどは、僕が和泉さんを助けるんだ!」

 と決意を胸に固めていた。
 そこにケガの治療が終わったムルーダや、彼の仲間たち。それから少し離れた場所で魔法の練習をしていた芽衣達も、陽子の下へとやってくる。

「すまねえな。おれらも参加出来たらよかったんだが……」

 そう謝るムルーダと、彼の率いるメンバー達は、今回の作戦への参加は禁止されていた。
 ただひとり、ツヴァイ頼人だけを除いては。

 ムルーダらが参加を禁止されたのは、単純に実力不足が理由である。
 そして、ツヴァイ頼人だけが参加を許されたのは、どうも今回の件に関して重要な情報を持っていて、更には少し特殊な能力も持っている……つまりは、龍之介らに参加許可が出たのと同じような理由からであった。

「今回の件は俺も関わりがあってね……。ムルーダには悪いけど、是非参加させてくれってギルドマスターに頼み込んだんだ」

 ナイルズは、ツヴァイ頼人の未来予知の能力に期待をして参加の許可を出したのかもしれないが、実際の所ツヴァイ頼人にはそのようなスキルはない。
 事実、北条が捕らわれたと聞いた時は、言葉の意味が理解できず、しばし呆けていた程だった。

(北条さん……。これも何かの作戦なんですか?)

 そう内心考えてしまうのは、ツヴァイ頼人が以前の破滅的な結末を迎えた、一週目の時の北条を知っていたからだった。
 しかし、もしかしたら単純に悪い方向に物事を考えたくなくて、救いのあるような方向に思考が偏っているだけかもしれなかった。

(どっちにしろ、俺のやるべき事は……)



 こうして役者が《ジャガー村》へと揃い始め、各人の思惑が交錯する中、陽はいつもと同じく暮れていく。

 そして、運命の歯車が絡み合う、その日を迎える事となった。



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