どこかで見たような異世界物語

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第九章

第205話 敵影発見

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 ライオットによる警告の声が発せられてから十分ほどが過ぎた。
 慎重に足を進める部隊に先行して、盗賊職の冒険者が先に前方を偵察しにいった所、すでに向こうもこちらの進行に気づいており、この先で待ち構えているとの事だった。

 その数は見える範囲内に三十ほど。
 しかし、その内まともに人間と呼べる者は半数以下であった。

「奴らは、一般の村人をアンデッドとして戦力に加えているようです。それと、パペット系の魔物のような……恐らくはマジックアイテムの木製人形のようなものが数体」

 敵方の中に、"死霊魔法"の使い手がいるのは既に知られていた事であったが、魅了の影響下にある者までそのようにして戦力として仕立て上げてくるとは、悪魔以外の戦力については少ないのかもしれない。
 しかし、その人形のマジックアイテムについては事前情報もなかった為、警戒が必要だった。

 魔法道具級ならさほど脅威にもならないが、魔導具クラスの人形タイプの中には、キリングドールなどと呼ばれる物騒な殺人人形も存在しているのだ。
 こういったマジックアイテムは、個々の性能が大きく違うため、一概には言えないのだが、痛覚も持たず精神的な影響も受けずに向かってくる人形は、厄介である。

「その中にナガイと思しき者や、悪魔の姿は確認できたか?」

「悪魔の方は分かりませんが、一人。人形たちに囲われる形で待機していた黒髪の女がいたので、あれがそうかもしれません。距離があったので、正確には見れませんでしたが」

「ふむ……。となると、その人形達は案外厄介かもしれないな。これはあくまで悪魔との闘いの前の前哨戦となるだろうけど、下手に力を温存したままだと思わぬ逆撃をくらうかもしれない」

 斥候の報告を受けたライオットがそう予想する。

「フーン、人形ねえ。あんま戦ったことはないけど、アイツら切っても血を流す訳でもないし、反応もしないしでつまんない相手なのよね」

「ま、それでも悪魔に比べればなんぼかマシやろうけどな」

 兎人族のエカテリーナは相変わらずといった様子で好戦的な言葉を口にする。
 それに対して反対の意見を出すヴォルディとのやり取りも、『光の道標』ではいつもの光景だった。

「ちょいといいかの?」

 そこに割り込んできたのは、『巨岩割り』唯一の人族の老人、ベルナルドであった。

「む、これはベルナルドさん。どうされましたか?」

「うむ。その人形達についてじゃが、そいつらの相手は儂らに任せてもらえんか? ついでに例のナガイとかいう嬢ちゃんも確保するでの」

「……そうですね、わかりました。お願いします」

 相手の数およそ三十に対し、こちらはグリークからの応援と《ジャガー村》の冒険者を合わせた人数だけで五十人近くいる。
 その陣容も、Bランクである『巨岩割り』などの主要メンバーに、Cランクパーティーが三組。"神聖魔法"の使い手である神官達には、対悪魔用のマジックアイテムも分散して持たせてある。
 それと、ランク的に他の人たちからは注目されていないが、陽子たち異邦人もそこに加わっているのだ。

 未知数な相手に一番の戦力をぶつけ、あとは数で制圧する。
 相手が魅了されただけの可能性もあるため、殺さないように加減して戦わないとならないが、アンデッドと人形を除いた人間の数はそこまで多くはない。
 ライオットはそう判断していたし、一行の中でも疑問に思う者もいなかった。

「という事じゃ。理解したかの?」

 そう言って、ベルナルドはパーティーメンバーの方に視線を向ける。

「おおぅ、わかったぞぉおおぃ」

「うむ。そのような人形などワシの斧で薪にしてやるわい」

「ボクの"火魔法"で先に炭に変わっちゃうかもしれないけどね」

「フン、ぬかせい。お前さんが下手に"火魔法"なんぞ使ったら、山火事になってしまうでないか」

「ジュダはボクの"魔力操作"を見くびっているようだね。そんなヘマをする訳ないだろう?」

 『巨岩割り』のドワーフであるジュダと、狐人族のツィリルは日ごろからこうしてよく言い合いをしているが、本気で喧嘩になる事はなく、心の底では互いに認め合った仲だった。

 そして少し間延びした言葉を発したのが、この『巨岩割り』の名前の由来にもなった、ハーフジャイアントのジババだ。
 見た目に寄らずおおらかな性格をしているが、一度怒りスイッチが入ると鬼神の如く暴れまわる。

「オヤジやジュダがいるなら余裕ッスね!」

「あれあれ。それは、ボクは役に立たないって事かな?」

「い"ぃ!? いや、そんな事ないッスよ。勿論ツィリルさんも半端ないッス」

「……儂はどーでもいいってことじゃな」

 ツィリルはからかっているだけだったが、意外が子供っぽい所のあるベルナルドは、少しだけスネた様子を見せる。
 だが、こうした反応をするのも、それだけベルナルドにとって、ロベルトら兄妹が大切な孫のように感じているからだろう。

「はいはい、ベル爺も十分役に立つわよ」

「おおぉ。ほんにカタリナはええ子じゃのお」

 この集団の中でも一番の実力者の集団だけあってか、緊迫した場面の中でもその様子はいつもとさして変わらないように見える。
 『巨岩割り』の面々がそうしていつもの日常会話を交わしていると、ライオットの指示の声が聞こえてきた。

「もう敵はすぐ先だ。ここで一旦各自に"付与魔法"によるエンチャントをかけていく。……ではシャンティア、頼むぞ」

「はい、分かりました」

 『光の道標』のシャンティアは、"神聖魔法"だけでなく"付与魔法"をも使う事が出来る。
 ただし今回は人数が多い為、主要な面子に手早くかけるだけに留まっていた。

 陽子もそんな『先輩』が"付与魔法"を掛けているのをみて、自分も仲間に【筋力強化】や【敏捷強化】などをかけていく。
 これらの強化系の"付与魔法"は、魔力を多めに使えば三十分程は効果が持続する。
 ただ範囲で一気にかける事はできないので、人数が多い場合は掛ける相手と掛ける魔法の種類を絞っていかないといけない。

「へぇ。お姉さん、"付与魔法"を使えるんッスね」

 そうして陽子が仲間にバフをかけていくと、ロベルトが話しかけてきた。

「ええ、そうよ。あなたにも何かかけようか?」

「いや、僕は大丈夫ッスよ。基本は"神聖魔法"で後方支援ッスからね」

「あら、そうなの。なんか意外ね」

「ハハ、まあメインは盗賊職の方なんッスけど、うちはベル爺がいるからそっちはあんま必要なくって」

「おおおぉい。ロベルトぉ、もう討ち入りしにいくようじゃぞお」

 ロベルトが陽子と話していると、少し離れた場所にいたベルナルドが呼びかけてきていた。

「おおっと、噂をすればベル爺ッス。では、僕はもう行くッスね」

「うん。気を付けてね」

「うぃッス!」

 慌てて仲間の方に戻っていくロベルト。
 見ればシャンティアによる"付与魔法"も一通り終え、今は使用した分の魔力を補おうと、シャンティアが〈ブルーポーション〉をグビッっと呷っていた。

 他にもアンデッドが相手方にいるので、神官たちによって【ホーリーウェポン】の魔法が前衛の持つ武器に対して施される。

「あれ? イェリン司祭は【ホーリーウェポン】は掛けて回らないのですか?」

「わたしは魅了を解除せねばならないので、魔力は温存したい」

 そう声を掛けたのはゼラムレットの神官だったので、戦の女神『ダイマード』を奉じるイェリン司祭とは面識がなかった。
 その時彼が抱いた印象も、妙に一本調子で話す人だなという程度だった。

 しかし、イェリン司祭を知るものからしたら、戦を前にそのような態度をする彼女はおかしいとすぐわかっただろう。
 幾ら今回派遣された三名だけの貴重な【リリースチャーム】行使者であるとはいえ、普段ならばそんな事は気にも留めず、前線に出て戦いにいくというのがイェリンという女性だからだ。

「そうですか? では僕は魔法を掛けに周ってきますね」

 そう言って比較的若いゼラムレット神官の男は足早に去っていく。
 その様子を見つめるのは、同じ【リリースチャーム】の行使者の一人、学問や本を司るとされる神『スファイオン』の司祭であるサンダリオだ。

「もう、後戻りはできぬ……か」

「え、何かおっしゃいましたか?」

「いいや、気にすることじゃあない。そう、気にしてはいかんのだ……」

 お付きの神官に質問されたサンダリオが、自分自身に言い聞かせるようにそう同じ言葉を繰り返した。



「ふぅ……。みんなも無理をしないでね」

 ロベルトを見送った陽子が、小さくため息をついた後、同じような言葉を仲間に向けて掛ける。

「ああ。ただ、あのオバハンだけは、一発ぶん殴ってやらねえと気がすまねえぜ」

「北条……さん。必ず……助け出します」

「今度は僕が和泉さんを……。いざとなったら僕にはアレもあるっ!」

 陽子の声掛けに対し、各々が今回の戦いへの意気込みを語り始める。


 それから数分後、一行は敵の待ち構える中に真っ向から飛び込んでいった。
 下手に戦力を分散して数の優位を減らす事はせず、何か罠があろうが数の暴力で食い破ろうというつもりだ。

 というか、斥候の報告によると、特に罠や伏兵の存在は確認されていなかった。
 それに前々から襲撃を知っていたのならともかく、こちらが攻め入る側なのだから、相手側に咄嗟に防衛の準備をしている暇などは無いはずである。


 視界の通りにくい森の中という事もあって、派手な遠距離魔法戦から始まる事もなく、前衛の戦士たちによる突撃と、後衛による単体攻撃魔法による戦闘開始の火蓋が、かくして切られるのであった。


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