どこかで見たような異世界物語

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第十章

第232話 加入の条件

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「パーティーに加えてほしい?」


 そう尋ねる陽子の前に立つのは二人の冒険者、『巨岩割り』のハーフエルフの双子の兄妹、ロベルトとカタリナ。
 突然異邦人達の下へと訪れた二人は、陽子達によって中央館へと招かれた。
 思いのほかしっかりとした建物に、興味深そうに辺りをキョロキョロ見渡しながら、会議室へと案内される二人。

 その二人が拠点に訪れた用件というのは、自分たちをパーティーメンバーに加えて欲しいというものだった。

「え、でも『巨岩割り』はどうするの? その、主要メンバーが失われてしまったかもしれないけど、まだあなた達やツィリルさんがいるでしょ?」

「けど……、もうオヤジもベル爺もいないッス……。これではもう『巨岩割り』でもなんでもないッス」

「そう……」

 前に出てロベルトと会話を交わす陽子。
 異邦人の中でも一番ロベルトと親交があった陽子だが、他の『巨岩割り』主要メンバーと交流が深かった訳でもないので、この話題になると掛ける声も見つからない。

「それに、ツィリルさんには休ませてあげたいッス。ホージョーさんのお陰で状態はよくなったッスけど、Bランク冒険者にまで上り詰めたなら、冒険者としては上出来だと思うッス」

「つまりツィリルさんは引退するってこと?」

「そうッス」

 悪魔の放った魔法によるツィリルの症状は、北条によってある程度改善はされたのだが、幾つか後遺症も残っている。
 戦闘に関する記憶などは残っているので、戦力としては大きな問題はない。
 だが人物の記憶だとかが所々抜けている上、感情が希薄になってしまった。

 そこでロベルトはツィリルのサポート役を買って出て、冒険者を引退した後の仕事などを手配している所らしい。

「ツィリルさん自身は、冒険者を引退することを望んでいるんっすか?」

「……ツィリルさんは感情が薄くなって、自我というか欲望みたいなのも一緒に抜けちゃった感じなんッス。だから、何がしたいかって聞いても『何でもいい』としか答えてくれないッス……」

 話を聞いていた由里香が質問すると、ロベルトが現在のツィリルの様子を語る。
 こうした性格の人間はそう珍しいタイプでもないが、ツィリルの場合は後遺症が残っての事なので、生来の彼の性格という訳ではない。

 この状態のツィリルを下手な所に出してしまえば、きつい仕事を割り当てられたりなどの不当な待遇を受ける可能性もあった。
 しかもそれを当人が不満に思う事もないので、使う側にとってはまさに都合がいい人材になるだろう。

「だからお前たちが"サポート役"を買って出たという事か」

「そういう事ッス。とりあえず今は仕事先として、冒険者ギルドの方に問い合わしてるとこッス」

 冒険者ギルドであれば、Bランクにまで上り詰めた冒険者を不当に扱う事はないだろう。
 実際に冒険者を引退した後の就職先として、冒険者ギルドはよく挙げられる。

「んー、私はこの提案悪くないと思うんだけど、みんなはどう?」

 ロベルトの話を聞いて、まず真っ先に陽子が意見を述べた。
 彼女はこれまでのロベルトとの短い付き合いの中で、簡単に人を裏切るようなタイプではないと判断していた。

「あたしも特に反対意見はないっす!」

「ん~、わたしも由里香ちゃんと同じかな~」

 由里香、芽衣の二人も特に反対意見はないようだ。
 他の面々も特に反対意見がないのか、誰も口を挟む様子はない。ただ気になる点はあった。

「俺も基本的には賛成だが、俺たちは色々と事情があってな……」

「事情ッスか?」

「ああ。そのため気軽にパーティーを組みましょうとはいかないんだ」

 信也の意味ありげな言葉にロベルトは疑問の表情を浮かべる。

「ここからは俺から話そう。俺もお前たちがパーティーに加わる事には賛成だぁ。だがぁ、それには条件を提示させてもらうぞぉ」

「条件?」

 これまで黙って話を聞いていたカタリナが口を挟む。
 その顔はどこか訝し気だ。

「あぁ。まず、前提条件として、俺らは故郷への帰還の為にあのダンジョンに潜っている」

 そう言って北条は、自分達が遠方の地から転移で飛ばされてきたという、例のでっち上げ話を二人に語る。
 それはこの間の会議で話し合った内容も含まれている。
 全員が帰還するとは限らないが、故郷へ帰るためにダンジョンに潜っており、パーティ―の基本方針としてはそれを優先させるというものだ。

「つまり、帰還方法が見つかった場合は、パーティ―メンバーが抜ける事になる」

「話は分かったわ。それで帰還の目処はたっているの?」

「推測だがぁ、サルカディア内に点在する三つのアイテムを集めれば、故郷に帰れるんじゃないかと予想している」

「ふーん……。で、今の所いくつ見つけたの?」

「……いまだ一つも発見出来ていない状況だぁ」

「ってことは、そうすぐにパーティーが解散することもない訳ね」

 そうカタリナが結論付ける。
 それに対し北条や他のメンバーに反論はない。
 しかし、まだまだ日本への帰還が遠い事を突き付けられたようで、表には出さないものの、信也やメアリーなどは心に重しを載せられた気分になる。

「それ位ならいいんじゃないかしら? 固定メンバーでずっと活動し続けられるパーティーなんて、そもそもそう多くないしね」

 命の危険がつきものの冒険者は、時には仲間と死に別れすることもありえる。
 報酬の分配方法を巡って、仲間同士で殺し合いをしたりなんて事も、起こりうるのだ。
 そうした冒険者を生業とする者にとって、パーティ―メンバーとの別れや出会いは、よく目にする光景であった。

「そうッスね。今から何年も先の事とかを話しても仕方ないと思うッス」

「ふむぅ、そうかぁ。それなら後はもう一つの条件について話そう。どっちかというと、こっちが本命の条件だぁ」

「ど、どんな条件ッスか?」

 別に相手を脅そうとしている訳でもないのだが、もう一つの条件について話そうとする北条からは、何か妙な威圧感のようなものが発せられる。
 それを感じたロベルトは、微かに動揺を見せた。

「前もって言っておくとなぁ、別にお前たちを完全に信用していないという訳ではぁない。だが事が事だけに、慎重にならざるを得ないだけだぁ」

 やたらと長い前振りに、ロベルトもカタリナも何事なのかと緊張し始める。

「その条件だがぁ、ま、一言でいえば俺たちを裏切らないでくれって事だぁ」

「え? いや、それは仲間に入れてもらうんならトーゼンの事だと思うッスけど……?」

 ロベルトが「そんな事?」と言った表情で北条へ言葉を返すが、北条は構わず話を続ける。

「お前たちも実際にその目で見ただろうがぁ、そこにいる芽衣は"召喚魔法"というのを使用できる。これは他に類を見ない、希少な魔法だぁ」

 あの悪魔との決戦時、手加減などしていられない凶悪な相手に対抗する為、芽衣の"召喚魔法"や慶介の"ガルスバイン神撃剣"など、これまで公にしてこなかったスキルを幾つか大衆の前で見せている。
 それは共に悪魔と戦ったロベルトらの知るところでもあった。

「だがぁ、あれが俺たちの力の全てではない。他にも見せていない手札がある。その情報を俺たち以外に知られるのは避けたい」

「それは結局、僕たちの事が信じられないって事ッスか?」

「……要は程度の問題だという事だぁ」

「程度ッスか?」

「そうだぁ。最初にも言ったがぁ、俺もお前がそう簡単に俺たちの秘密を明かすとは思っていない。だがぁ、死にそうになるほどの拷問を受けた時に、最後まで情報を吐かずにいるかどうかまでは、確信が持てん」

「それは……まあ、そうッスね。でも覚悟の程を示すってどうしたらいいんッスか? 秘密は守るっていう焼き印でも押すッスか?」

「それに関しては、俺にぁひとつ手がない訳でもない。後はお前たち二人が誓いを立てるかどうかだぁ」

「…………」

 誓いを立てるかどうかという北条の問いに、双子の兄妹は互いの方を向き視線を合わす。
 流石双子というべきか、振り向くタイミングは一緒であったし、再び北条の方へと顔を戻すタイミングも同じであった。
 そして、これまた同じタイミングで二人は声を上げる。

「誓うッス!」 「誓います」

「……そうか。では確認だぁ。もう一つの条件は、ここにいる俺や俺の仲間についての情報を外部に漏らさない。俺たちの不利になる行動、あるいは裏切り行為を働かない。間接的に俺らの情報が洩れると思われる情報についても口を噤み、決して俺ら以外の誰にも話さない事。……他にはなんかあったかぁ?」

 二人への条件を告げる北条は、最後に仲間の方へ振り返って確認を取る。

「そうだな。期限についてや、誓いを破った場合についても決めておいた方がいいだろう。それと先ほど北条さんが言っていた事だが、拷問などを受けた場合、死ぬまで黙っていろというのは流石に酷すぎると思うのだが……」

「ふうむ、ではこうこうしようかぁ。まずは期限についてだがぁ、何らかの問題があってお前たちがパーティーから脱退した場合、それ以降も秘密厳守の誓いは継続するものとする」

 誓いを立てたあと、北条達の機密を聞いてすぐにパーティーを脱退。その後、もう部外者だからと情報をばらまかれでもしたら問題だ。
 そのため期限は永続的なものにする必要がある。

「それと罰則についてだがぁ、もし誓いを破った場合、俺たちを主人とした奴隷契約を結んでもらう。期間は……そうだな、十年ってとこか」

 この発言にロベルトらだけでなく、信也達も俄かに騒然とする。
 ロベルト達――特にカタリナは、そこまでの誓いを求める秘密とはどういったものなのかと、憂慮し始めた。

 信也達の方はというと、日本という社会で生活していた為、奴隷という言葉に対するインパクトが基本的に大きい。
 実際に『流血の戦斧』の亜人奴隷の扱われ方を見ていたため、その思いは猶更強まっている。

「奴隷といっても種類によって扱われ方が変わるけど、その辺はどうなの?」

「この国での奴隷の種類の一つである、借金奴隷と同等の扱いとしよう。不当な扱いを受けた場合は、国に訴え出ることも可能であり、奴隷の衣食住についても主人側が最低限用意しなければならない。そういった感じだぁ」

 北条としても、別に馬車馬のようにこき使ってやろうなどというつもりはない。
 ただ、罰則を下手に罰金などにしてしまうと、今後の冒険者活動によっては支払いの余裕が生まれてしまう可能性もある。

 故に、他に代替案も浮かばなかった為、奴隷契約という話を持ち出した。
 勿論、この罰則は誓いを破られなければ、発動することがないものだ。
 あくまで信用の担保として、ある程度の重さが必要だったに過ぎない。

「ああ、それと、生命が脅かされた場合だがぁ、実際にある程度被害を受けてしまったような状況では、致し方ないものとして例外を許す。しかし、『ちょっと相手が強そうだから』とかいった、安易な理由で情報を吐いた場合は、罰則を適用する」


 北条が一通り条件を告げると、静寂がその場を支配する。
 ロベルトらは改めて先ほどの条件を吟味しているようで、ロベルトの口からは条件内容がかすかに零れ落ちていた。

 信也達はといえば、こちらも同じように先ほど北条が語った事に考えを巡らせているようだった。
 彼ら異邦人の中でも由里香や慶介などは、そもそもそこまでして秘密にしようとする理由がいまいち理解出来ていなかったし、罰則についても厳しすぎるのではないかと思っていた。

 現実的に物事を考えはするが、どこか甘い所がある信也も、相手にそこまで求める北条に完全同意している訳ではない。
 咲良もウーーンと唸りながら考え込んでいるし、北条の言葉に疑問を抱いていないのは、異邦人の中では楓くらいだった。

 しかし、初期に北条が訴えていた、『人前で〈魔法の小袋〉を使うべきではない』という小さな不安の種も、結局は龍之介の迂闊な行動によって種が芽生え、実害となって彼らに襲い掛かった事があった。

 そして今回はその時とは違い、場合によっては権力者に目を付けられる可能性も生まれるのだ。それは〈魔法の小袋〉が山賊などに狙われる事態より、深刻な事態になる可能性が高い。


「僕は――」


 改めて条件について考えを巡らし、結論を導き出したロベルト。
 その表情には強い決意というものが感じられる。
 そしてロベルトは、北条の出した条件に対する答えを述べるのだった。



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