どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第十章

第242話 準備万端

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 ダンジョン内部、レイドエリア十四層の迷宮碑ガルストーンの近く。
 そこには転移してきた『サムライトラベラーズ』と『プラネットアース』の姿があった。
 彼らはまだ探索を開始しておらず、興味深そうに信也に視線を送っている。

 信也はかつてこのダンジョンで入手した、〈ソウルボード〉を手に持っていた。
 そこに、ふたつの〈ソウルダイス〉をはめ込み、下部にあるスイッチをスライドさせる事で、はめ込んだ〈ソウルダイス〉が固定される。
 最後に、スライドスイッチの隣にある、つるっとした白い材質の部分へと魔力を送ると、レイドパーティーの編成が完了する。
 通常パーティー同様、組んだだけでは特に実感というのはない。

「それで、レイドの編成が終わったらこれは外してもいいのか?」

 信也が〈ソウルボード〉にはめ込まれた〈ソウルダイス〉を指さしながら尋ねる。

「確か外しても大丈夫だったハズ……」

 カタリナが少し自信なさげに言う。
 実はロベルトもカタリナも、ダンジョンに潜った経験はあったが、レイドエリアへの侵入は初めてだったし、レイドパーティーを組んだ経験もなかった。

「まあ、試してみるか」

 信也が試しにスライドロックを外し、〈ソウルダイス〉外してみる。
 しかし、元々レイドを組んだ時にも実感がなかったので、これでレイド解除されていたとしても、感覚的に判断できない。

「アアアアアアァァッ!」

 そこへ突如北条が叫び声をあげる。
 声量はそれほど大きくはなかったのだが、突然の叫び声に幾人かびくっと体を竦ませる。

「ちょ、ちょっと……。な、何?」

 特にカタリナは体をびくつかせるだけでなく、突然声を上げた北条に困惑して問いただす。

「んーむ。今の"咆哮"で、別パーティーであるロベルト達に全く影響がない。ってこたぁー、〈ソウルダイス〉を取り外してもレイド編成は解けていないようだ」

 どうやら北条は、パーティーやレイドを組んでいる相手に"咆哮"スキルの効果がない事を利用して、手っ取り早く確認をしたかっただけらしい。
 北条のこうした突然の行動は、いつもパーティーを組んでいる咲良や陽子らにはお馴染みだが、『プラネットアース』の面々……特に新参の双子兄妹にとっては刺激的だったようだ。

「……それはいいけど、今ので魔物が寄ってきたりしないの?」

「一応声は抑えたし、近くに魔物はいないようだぞぉ。まあ来たら来たで、迎え打てばいいだけだぁ」

「そうだな。それなら早速準備を整えよう。召喚する魔物の編成はどうするんだ?」

「ん~、わたしと北条さんで、種類別に分けた方がいいかも~? 北条さんは何体まで召喚できるんですか~?」

 信也が尋ねると、芽衣がさらに質問を加えて北条へとぶつける。

「十は平気」

「え……」

「十体も呼べるのか?」

 短く答えた北条の返事に、芽衣は思わず動きが止まり、信也も驚いた様子で尋ねてくる。

「……あー、こいつぁ"解析"スキルで調べた情報なんだけどなぁ。"召喚魔法"で同時に召喚出来る数は、使用者のスキル熟練度と最大MPによって変わるらしいぞぉ」

 北条は魔法スキルの保有数が尋常ではなく、その分最大MPも高い。
 そのため"召喚魔法"で多数の魔物を呼び出せるようだ。

「んー、それなら前と同じように芽衣ちゃんはオーガを五体呼び出してもらうのはどう?」

 前回のお試しでレイドエリアに挑戦した時の事を思い出して、陽子が提案を出す。

「なるほどぉ。なら、俺ぁ小回りの利いて、集団行動に向いたキラーモールを六体。それから遠距離用にピコを四匹出しておくかぁ」

 そういって北条も召喚で呼び出す魔物を決定する。
 ピコというのは、悪魔討伐戦の時に芽衣が召喚していた魔物で、球体から手足の生えた毛むくじゃらの魔物だ。
 "光魔法"と"闇魔法"を使えるので、遠距離攻撃はバッチリだ。

 キラーモールというのは、鉱山エリアに出てきたツルハシを持ったもぐらのような魔物だ。
 "連携"スキルを持っているので、団体での行動にも向いているし、"力溜め"や"剛力"など、パワー系のスキルを使った攻撃はなかなかのものだ。

 北条と芽衣ら召喚勢が手勢を用意している間、他のメンバーも準備を整えていく。
 信也は芽衣が召喚している図体のでかいオーガに、【ライティング】の魔法をかけていく。

 陽子の"付与魔法"である【筋力増強】などは今回は用いないので、彼女は"アイテムボックス"内のアイテムの確認を行っている。
 魔力を多めにつぎ込めば【筋力増強】も三十分以上は持つのだが、それを複数人数に常時指示用というのは少し厳しい。しかも前衛なら他に【敏捷増強】なども欲しい所だし、陽子は常に"結界魔法"も使用するので、MPは温存しておきたい。
 "付与魔法"は戦闘の直前にかけておけばいいだろう。

 カタリナは、契約したばかりの光の微精霊『ミルア』を呼び出す。
 『精霊術士』は、基本的に戦闘時や"精霊魔法"を使用する時以外では、精霊を精霊石へしまって休ませておく。契約精霊は外へ呼び出している間中、精霊へと魔力を供給しなければならないからだ。

 しかし光の精霊は、ただ存在するだけで光をもたらしてくれる。
 なので、ダンジョン探索では光の精霊を常時呼び出し松明替わりとし、さらに突然の敵襲にも光の精霊で対処する。
 これが『精霊術士』の基本的な立ち回りだ。

「お? そうかぁ。俺もバニラを呼び出しておくかぁ」

 カタリナの呼び出した光の精霊を見て、北条も自身が契約した光の精霊を呼び出す。
 それを見てカタリナは頬を若干ひきつらせる。

「ちょっと……。ホージョーさんのソレ・・。微精霊じゃなくて、下位精霊じゃないの?」

 精霊にもランクというものが存在し、微精霊から下位精霊。中位精霊、上位精霊とランクアップしていくにつれ、自我が芽生え始め、能力も段違いに上がっていく。
 ちなみに下位精霊と契約を結べたら、『精霊術士』としては一人前とみなされるレベルである。

「ん? ああ。こいつぁ一番最初に契約したやつだからなあ。残り二体はまだ微精霊のままだぁ」

「にしたって……。ふぅ、なんだかホージョーさんといると常識ってのがどこかに飛んでいきそうになるわね」

 カタリナが呆れたような視線を送った先では、北条が呼び出した光の下位精霊のバニラが、北条の周りを駆け回っていた。
 その見た目は耳の長い子犬のような見た目をしている。
 微精霊は単純な球状などの形を取ることが多いが、下位精霊ともなると独自に形を持ち始める。

 マンジュウは、自分と似たような形をしているバニラに興味を持ち、前脚で触れようとするのだが、マンジュウの前脚は空を切った。
 よほど高位な精霊でないと、実体化までさせることができないので当然の結果だ。

 「わふぅ?」と困惑した声を上げるマンジュウ。
 一方北条の"召喚魔法"による契約をしているアーシアは、今もベッタリと北条の足に絡みつこうとして、足蹴にされていた。

「お前もそろそろ戦闘モードになれぃ」

 やれやれといった調子で北条が指示を出すと、アーシアはぷるんっと体を震わせモリモリと体積を増大させていく。
 元の体積は六十センチ四方くらいだったのに、今は百五十センチくらいまで大きくなっていた。

「うわっ、でっかくなっちゃった」

「う~ん。アーシアちゃんの上に寝たら、ウォーターベッドみたいになるのかしら~」

「なんか体内に埋められちゃいそうで怖いわね」

 体積が増したアーシアを見て、由里香たちが好き勝手話し始める。
 未だに粗末なベッドで寝ている彼女たちは、もう少しマシな寝床を求めている。だが、契約されているとはいえ魔物ベッドは余り気乗りしないらしい。


「ん……。少し遠いが魔物の反応アリ、だぁ」


 準備を整えつつも、しっかり索敵を行っていた北条。
 魔物の反応をとらえ、仲間に警告を発する。

「いよおおっし! 俺たちの実力を見せてやろうぜっ!」

 やる気満々の龍之介。
 それは何も彼だけでなく、他のメンバーも概ね同じ心持のようだ。 
 特に『サムライトラベラーズ』の面々は、悪魔事件以降初のダンジョン探索である。
 両手の拳を打ち合わせた由里香も闘志をみなぎらせていた。

「では、その魔物のいる所まで案内を頼む」

 みんなの意思を感じ取った信也は、北条へと指示を出す。
 そして一行は、迷宮の奥へと向かい始めた。
 


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