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第十一章
第256話 龍破斬烈槍
しおりを挟むパトリア―クホースとの闘いが始まってから、一時間ほどが経過した。
領域守護者とはいえ、元の魔物にスキルを幾つか増やし、耐久力が上がったくらいで、攻撃力などはそこまで通常種から変化していない。
そのせいかこれまで危険な場面が訪れる事もなく、常に優位を保って戦闘を続けることが出来ていた。
「北条さん、お願いします~」
「おう! 止まれえええええいッ!」
芽衣の合図を元に、北条が"強圧"と"咆哮"のスキルをダブルで使用し、未だにすばしっこく動き回るパトリア―クホースの足を止める事に成功する。
素早く走り回り続ける相手に、範囲攻撃でもないと避けられてしまう可能性が高かったが、これで当てるのに問題がなくなった。
このタイミングに合わせ、芽衣以外の遠距離攻撃持ちも一斉に攻撃を打ち込む。
「フゥ……ッ!」 「そおおいっ!」
「ぷるるんっ」
「ロイド、今よ! 水の槍を叩っきつけてっ」
「では僕は"雷魔法"で……。【雷の矢】」
「あ、私も! 【雷の矢】」
「うぁふううう!」
「おいおい、お前ら余裕だなあ。【エアハンマー】」
陽子や楓が"投擲術"による攻撃を行い、アーシアが"闇魔法"を使用する。
啓介と咲良は取得したばかりの"雷魔法"を使い、マンジュウもそれに合わせて魔法で攻撃を叩きこむ。
啓介と咲良がなつかしの【雷の矢】を使用しているのは、熟練度が低いためまだ他の魔法が使えないからだ。
それを敢えて使用したのは、魔法は一人で練習するよりも魔物相手に実際に使ったほうが伸びやすい、という北条の指摘があったためだ。
要するにタフな領域守護者を熟練度上げの練習相手にしようという訳だ。
龍之介の"風魔法"の後にも、信也が魔眼スキルを使いつつの"闇魔法"による攻撃を加えたり、ロベルトが"風魔法"を使うなど、フルレイドパーティーでもありえないほどの量の魔法が次々と放たれていく。
それらは初級ランクの、火力が抑えめの魔法ばかりだった。
しかしこうも何発も打ち込まれれば、通常の魔物ならよほど高ランクでない限り、お陀仏になっている頃だろう。
しかし、まだまだパトリアークホースの瞳に宿る殺意の炎が消えることはない。
「ううぅぅ……。い、いきま~す。"龍破斬烈槍"」
最後に芽衣が新しく覚えたスキルを使用する。
これは特殊能力系の攻撃スキルで、範囲は慶介の"ガルスバイン神撃剣"よりは狭いが、単体に与えるダメージ……というより貫通力に関してはかなりの力を持っていた。
芽衣が苦痛に耐え、力を込めてスキルを発動させた瞬間、芽衣のすぐ近くの空中に槍が姿を現す。
長さは三メートルほどで、太さも長さに合わせてか少し太い。
シンプルな作りをしていて、その形状から突き刺す事に特化していることが見て取れる。
音もなく芽衣の近くに現れた槍は、再び音もなく的であるパトリアークホースの元へと高速ですっとんでいく。
攻撃を連続で喰らっていたパトリアークホースは、そろそろ状態異常の効果も切れかかってはいたが、この速さで飛来してくる槍を避けることはかなわなかった。
「ヒイイイイイイイインゥ!」
初級魔法の連続攻撃の時にも上げなかった大きな悲鳴を上げて、その場でのたうち回るパトリアークホース。
重要な器官のある場所から外れた場所へと、なんとか槍の攻撃を逸らすことは出来たが、命中した場所はぽっかりと穴が開いており、そこからはどす黒い血が垂れている。
これまでの戦闘の中で、北条が"暗黒魔法"の上位魔法である"漆黒魔法"を打ち込んだ場面があった。その時もパトリアークホースは同様に大きな声を上げている。
ただ"漆黒魔法"は"暗黒魔法"同様に直接HPを削る系統なので、見た目的には実際どれくらい効いているのかが判別しにくかった。
しかし芽衣の"龍破斬烈槍"は、パトリアークホースの左後ろ足の根本近くに
命中しており、そのせいか自慢の足の速さにも陰りが出てきたようだ。
北条のスキル影響下から抜けたあとは、以前のような素早さがなりを潜めていた。
「よし! 今がチャンスだ」
「わわっ……。あたしもーーーっ!」
そんな相手の状態を見て取った信也は、今度は武器を手にパトリアークホースの元へと乗り込んでいく。
遠距離攻撃手段に乏しく、これまでなかなか出番のなかった由里香も、慌てたように後に続き、他にも近接攻撃の出来るものが軒並み近づいていく。
一時間もの戦闘によって疲労がたまっていた一行だが、動き回るというよりは遠距離攻撃が多かったので、身体的疲労はそこまででもない。
ただ魔法やスキルを多く使ったので、そちらの方は人によっては大分MPを使い果たしていたりもする。
なので逆に武器による戦闘の方が助かるといった側面があった。
それに魔法だけでなく、戦闘スキルを磨くにもやはり実戦で魔物と戦うのは効率がいい。
油断……とも違うのだが、すでに相手の力量が大体分かってきた信也達は、取り囲むようにしてパトリアークホースに攻撃をしかける。
悲惨な事に、北条と陽子による"呪術魔法"によるデバフをこれでもかと掛けられ、四方八方から様々な武器で攻撃を受け続けるパトリアークホース。
ただ敵を倒すだけならわざわざそんな事までしなくてもいいのだが、慶介や咲良などの後衛職もこのタコ殴りには参戦していた。
そして北条とロベルト兄妹は、洞窟系エリアではなかなか使いどころのない弓矢による攻撃を行っている。
北条の手にしている弓は、ダンジョン内の木の宝箱から手に入れたもので、特に魔力のない普通の弓だ。
それを、ロベルト兄妹らが思わず弓を引く手を止めて見つめてしまうほどの練達した動きで、次々と矢を放っていく。
このようにして、時を重ねるごとに傷が増えていくパトリアークホースは、それでも最後まで諦める様子を見せることはなかった。
どんなに深い傷を負っても、油断したやつがいたら蹴り殺してやろうと、鋭い眼光を向ける。
それは囲んでる側も重々承知で、北条が言っていた"後ろ足蹴り"というスキルを警戒し、隙があったとしても決して背後から近づくことはしなかった。
そうして二十~三十分ほど物理主体でタコ殴りにした結果、ようやくその巨体が完全に沈黙し、さほど間をおかずして光の粒子へと変わっていく。
その場に残されたのは、本来Dランクであるパトリアークホースのものと比べると、より深い青みの光を滲ませている魔石。
それから領域守護者や番人特有の、特別なドロップアイテムが幾つか。
それらのアイテムは、デデン! と置かれた鉄の箱の上に置かれていた。
「うひょおおおお! やったぜ、宝箱だ!」
「これは……鉄箱だから中身もそこそこ期待できるわね」
迷宮を探索する冒険者にとって、宝箱とは魅惑の言葉である。
低レベルの木の箱や銅の箱であれば、そこまで狂喜乱舞するほどではないのだが、それ以上となってくると話も変わってくる。
以前信也達が《フロンティア》で番人を倒した際にも宝箱はでていたが、あれは宝箱を守る番人だったからであり、番人が宝箱をドロップした訳ではない。
領域守護者は番人よりも宝箱のドロップ率は高いとはいえ、そうホイホイとでるものでもないので、今回は運がよかったと言えるだろう。
「えーっと、こういった形ででる宝箱には罠はないんだっけか?」
「そうッスね。罠部屋の報酬で出てくるような奴は、罠はかかってないッス」
「じゃあまずは箱の上に乗ってるのを片してから箱を開けるか」
「おう!」
信也の提案に二つ返事で返す龍之介。
箱の上に乗っている、Dランク領域守護者のドロップも、それなりに価値のあるものが並んでいる。しかし、龍之介はそれよりも箱の中身が気になって仕方ないようだ。
「それじゃあ北条さんか里見さん。回収をしてもらえるか?」
「おう。それじゃあ"解析"しながら一つずつ収納していこう」
そう言ってドロップ品をひとつひとつ手にしていく北条。
ドロップ品というだけあって、その多くはノーマルのパトリア―々ホースが落とす、肉やしっぽ。それから鬣などが多かった。
ただその中に、レアドロップであるパトリアークホースの頭羽根も含まれていた。
カタリナによると、これはそこそこの値で取引されるらしい。
他には〈ゼラゴダスクロール〉や、〈ワンスターボール〉と〈ツースターボール〉などもドロップしており、次々と"アイテムボックス"内に収納されていった。
「そいじゃあ、次はお待ちかねの宝箱だぁ」
周囲からの期待の視線を受ける北条。
やはり何度経験しても、宝箱を開ける瞬間というのはわくわくするものらしい。
変に俯瞰的にそう考えながら、北条はそう言って宝箱に手を掛けるのだった。
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