どこかで見たような異世界物語

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第十一章

第257話 戦利品とスキル学

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 北条が鉄の宝箱を開けると、中にはいつも通り複数の品が収められていた。
 パッと見で目立つのは、成人男性の身長より少し長いくらいの長さの槍と、丸い形をした盾――ラウンドシールドだろう。
 それらの下に埋もれるように、その他装飾品や〈ゼラゴダスクロール〉と思しき紙片なども収められているようだ。

「ちっ、槍と盾かあ」

「ちょっとぉ。アンタはすでに〈ウィンドソード〉を持ってるでしょ?」

「いや、最近は"大剣術"なんかも覚えたし、剣系がでねーかなって思って」

「あら、剣じゃなくて槍で残念だったわね!」

「ぐぬう……」

 お目当ての武器が入っていなくて残念な様子の龍之介。
 それを咲良が口の端を上げて揶揄する。

「槍といったら北条さんが以前使っていたが……」

 そう言って信也視線を向けると、北条はすでに槍を手にして"解析"を掛けていた。
 "解析"はすぐに終わったようで、一端箱の脇に槍を立てかけると解析結果を報告する。

「こいつぁ見たまんまの性能だな。名を〈フレイムランス〉といって、俺の使ってる〈サラマンダル〉と効果的にはほとんど同じ。火属性の追加ダメージを与えたり、魔力を込めることて穂の部分に炎を宿らせる事ができる」

 北条の言うように、この〈フレイムランス〉は赤系の色を基調とした飾りが施されている。
 特に穂の根本辺りには、ゆらめく炎をモチーフにした飾りがあしらえてあり、一目見ただけでどういった効果があるのか分かりやすい。

「効果が似てる上に俺にはすでに〈サラマンダル〉もある。こいつぁ芽衣が使うんでいいんじゃないかぁ?」

 『ランダ・ヌイ』の職業に就いて以来、槍の腕を磨き始めた芽衣。
 これまで芽衣は、最初に北条が使っていたゴブリンドロップの槍を使っていた。
 ゴブリンランスもゴブリンのドロップとはいえ、そこらのただの鉄の槍よりは性能が良かったのだが、この〈フレイムランス〉には及ばない。

「わかりました~。ではこれはわたしが~、使わせていただきますね~」

「わぁ、芽衣ちゃんおめでとー!」

「ありがと~。由里香ちゃんも早く格闘用の武器が出るといいのにね~」

「ううん、そだねえ。でも、あたしには最悪この"拳"があるから大丈夫!」

 そう言って右手を突き上げる由里香。
 確かに状況によっては、身一つで戦えるというのはメリットでもある。

「うむうむ。それで次のこの盾だがぁ、こいつぁ〈ヴィルディヴァルディ〉という盾だ。防御力や盾の強度も魔法で強化されているがぁ、こいつの一番の能力は"受け流し"にある」

 一口に盾といっても、受け止めるタイプか受け流すタイプかに大きく分類される。
 また盾そのもので攻撃を加えやすい形状をしたものや、物理防御はないけど魔法防御はある、というようなタイプまで様々な種類があった。
 この〈ヴィルディヴァルディ〉というラウンドシールドは、れっきとした魔法装備であり、中でも相手の攻撃を受け流す力に優れたものらしい。

 形状としては、持ち手側に二か所ほどバンドのようなもので腕を固定する箇所が設けられていて、表面……敵に向ける側は、中央部分が他のラウンドシールドよりやや盛り上がっている。
 そして表面は触れると異様にツルツルっとした感触を返してきて、指で触れても指紋の後や油などがつくこともなく、ツルツルスベスベなままだ。

「ふむ……。俺は〈インパクトシールド〉があるから、これは細川さんが使うのでいいのではないか?」

「そうね。それがいいんじゃないかしら」

「あらあら。では私が使わせていただきますね」

 そう言ってメアリーが〈ヴィルディヴァルディ〉を受け取る。
 メアリーは悪魔事件以降の訓練で、これまでのメイス一本での戦い方からメイスと盾を持つスタイルへと変えていた。
 今では"盾戦闘"のスキルも身に付き、徐々に盾の扱いにも慣れてきた所だった。


 その後も北条の"解析"によって鑑定屋いらずの彼らは、次々と箱の中身を分配していった。
 基本的に魔法的効果のない財宝系、装飾品系などはすべて売却用に。
 それ以外のものは装備などは必要な人に獲得の権利があり、欲しい人が重なるようならジャンケンで決める。
 また分配の際には一人になるべく偏らないように分ける。

 ロベルトによると、こうした分配は他の冒険者たちには見られない方式らしい。
 信也達がこのような分配方法をとっているのは、まずは自分たちの身の安全が重要と考えているからだ。
 他の冒険者パーティーだと魔法の品であろうと下手に揉めないように、売り払う事が多いという話だ。
 だがロベルトらも命大事にという方針には賛成のようで、大人しく従ってくれている。

 こうした分配の結果、魔力と氷属性スキルの効果が上昇する〈氷精の涙〉という指輪を慶介が。
 身に着けると精神が強化され、更にそれとは別に精神的な影響を持つ攻撃への耐性が得られる〈マインドネックレス〉。
 これは慣れない様子でジャンケンをしていたカタリナが勝ち取った。
 
 他にも幾つかマジックアイテムの分配が行われ、最後に今回獲得した〈フレイムランス〉と〈ヴィルディヴァルディ〉に、〈ゼラゴダスクロール〉で安全圏の二回までの強化を行う。
 通常武器に使うのはもったいないし、かといって魔法武器がそうホイホイと手に入る訳でもない。
 そんなこんなで使われずに残っていた〈ゼラゴダスクロール〉と、今回獲得したものを合わせて使用した形だ。



「それじゃ、分配も終わったし先行くか!」

 結局装備の分配がなかった龍之介が、気分を切り替えるように言う。
 すでに分配は終わっていて、残った鉄の箱はどーするのかといった話がされていた。
 ちなみにこの宝箱の箱は、ダンジョン外に持ち出しても直に消えてしまうらしい。
 これは他にもダンジョンを構成する壁やら松明やらも同様だ。

「いや、この先に何があるかまだ分からないし、もう少し休んでMPを回復させよう」

 そう言って信也が目を向けたのは、領域守護者エリアボスを倒した後から静かに光を発している、中央の床にある魔方陣部分だ。
 これまでの経験からいって、間違いなくこの上に乗って魔力を込めるなりすれば、どこかへ転移する事になるだろう。

「でも、放置してたらあの光が消えるんじゃねーか?」

「あ、それは大丈夫ッスよ」

「そうね。そう何日も持つ訳じゃないけど、数時間程度で消えることはないハズよ」

 龍之介の疑問にカタリナ兄妹が自信たっぷりに答える。
 この二人が言うなら大丈夫なのだろうと、龍之介も意見を引っ込めてその場に座り込む。早速休息を取り始めたらしい。

 先ほどの戦闘では体力は余り使わなかったが、MPの方は大分派手に使ってしまっていた。
 しかもスキル上げのために、各々の最強魔法ではなく初級魔法などをちょこちょこ使っていたので、戦闘時間も長引いた。

 MP回復にはきっちりした所で睡眠を取るのが一番だが、こうして何もせず休んでいるだけでも通常よりは回復量はよくなる。
 先ほどの戦闘で気づいた点や、反省点などを話しつつ休息をしていると、「そういえば」と龍之介が気になった点を話し始めた。

「戦闘中の……特に最後のタコ殴りの時の事なんだけどよお。なんかしんねーけどいつもより調子が良かった気がすんだけど、あれって"付与魔法"のせいなのか?」

 言ってる本人が確信が持てていないという事は、どこかしら違和感のようなものを感じていたという事だ。
 これが龍之介一人だけだったらたまたま体調が良かった、とかで片づく話かもしれない。
 だが、信也や由里香なども同じような感覚を味わっており、二人とも龍之介に追従するように「そういえば……」と口にし始める。

「それぁ多分俺のスキルのせいだろう」

 そんな彼らの話を聞いて、疑問の答をもたらしたのはマンジュウとじゃれていた北条だ。
 彼の視線の端では、構ってもらえない事に拗ねているアーシアが、北条の視線の端にギリギリ映る範囲を行ったり来たりして、自己主張をしている。

「あぁ……。オッサンのスキルかあ」

 なんだかその一言で、この場にいる北条以外の全員が納得した様子を見せたが、北条は更に補足の説明を加える。

「"指揮"のスキルはこれまでも使っていたがぁ、今回は更に"同族強化"も使ってみた」

「ちょ、そんな。~してみたって、投稿された動画のタイトルみたいに……」

 "投稿"とか"動画"とか、ロベルト達には通じない言葉が飛び出したものの、彼ら……正確にはカタリナには、そんな見知らぬ言葉よりも聞き捨てならない事があった。

「待って。"同族強化"って、ゴブリンチーフなどの指揮官系が使うスキルよね? スキルの効果は身をもって何度も経験してるけど、あのスキルを人族が……いえ。そもそも人類が使ったって話、聞いたことないわ」

「まぁ、そうだろうなあ。こいつぁ魔物から『ラーニング』して得たスキルだからなぁ」

 このティルリンティの世界では、人族以外にもエルフやドワーフなど多様な種族が暮らしているが、それらはまとめて人間、或いは人類と呼んでいる。
 一部の人族の中にはエルフやドワーフなどを亜人と呼んで、人間とは認めないという地域も存在するが、分類としては同じ人間であるとされていた。

 この人種問題はこれまでにも何度も論争されてきた問題であるが、明確に答えを導き出した者はいない。
 だが北条は"同族強化"のスキルを実際に獲得し、その効果がハーフエルフであるロベルトらは勿論、ドワーフやエルフなどにも適用される事に気づいた。
 つまり、人族からみて、エルフやドワーフは"同族"であるという証左である。


「げぇっ! マジか!」

「ふぅ……。そうね、そんな事だろうとは思っていたけど……」

「ううん、やっぱりそれ系の能力ってチートですよねえ……」

 北条が魔物からもスキルを『ラーニング』出来ると聞いて、驚きの声が方々から上がる。
 陽子などは薄々そのことに感づいていたようで納得した様子を見せていたが、龍之介の反応は相変わらず大きかった。
 だがそれ以上に大きな反応を見せたのは、先ほど「待った」を入れてきたカタリナである。

「それって、これまでのスキル学がひっくり返るような発見じゃないっ!」

 龍之介以上に興奮した様子を見せているカタリナは、"スキル知識"というスキルを所持しているくらい、スキルについては造詣が深い。
 元々知識欲の高いカタリナは、大発見をした学者のように興奮した様子で北条へと詰め寄る。

「ぬぅ、待て、落ち着けぃ。そ、そんなあわ、慌てる必要はない……ってか、スキル学ってなんだぁ~?」

 急に眼をキラキラとさせて詰め寄って来るカタリナに、北条もタジタジだ。
 想定外な所で話し込む事にになった彼らの休息時間は、まだ終わる気配を見せない。



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