298 / 398
第十一章
第263話 職業レベル
しおりを挟む一般に職業レベルという存在は知られていないが、感覚的には職業には段階があるという事は、実感と共に知られている。
そしてこれが一定以上の段階まで上がらないと、別の職に転職することが出来ないという事もまた常識だった。
そして高度な鑑定の魔導具では、その職業をどれくらい習熟しているのかというのが、ぼんやりと分かるらしい。
それによると、転職可能となる習熟度は全体のおよそ中間地点辺りである事が判明している。
「……といったのが一般的な解釈だがぁ、俺の"解析"スキルではより正確に数値で知る事が出来る」
「レベルみたいな感じってことね」
「そうだぁ。職業レベルは一から十まであって、五になると転職が可能になる。和泉達はすでに十になっていて、芽衣もあと少しで十に届く」
「それってつまり、レベルの数字だけじゃなくて、必要な経験値みたいなのも分かるってことね?」
「うむ。こちらは俺でも正確な数値としてではなく、ぼんやりとした……ゲージのような感じで把握できる」
「それは便利ッスね」
この世界で生まれ育ったロベルトらからすれば、それは重要な事に感じられた。
職業レベルというのは、魔物を倒していっても上がることが知られているが、やはりその職業に関する作業などをした方が上がりやすい。
とはいえ、どういった作業をすればより経験が積めるのかというのは、感覚的にしか判断できない。
それを事細かに知る事が出来るのなら、より効率的な育成方法も確立できるだろう。
「あの~、他の人はいつごろレベル十になったんですか~?」
どうやら芽衣は、一人だけレベルが十に達していないことが気にかかるようだ。
「あー、それはもうちょい前だなぁ。芽衣の職業『ランダ・ヌイ』はレベルが上がりにくいんだろう。どうも特殊な職業や、上位の職業ほどレベルが上げにくいみたいだぁ」
「なるほど~」
「芽衣ちゃんの職業レベル? があがったら、みんなで転職だね!」
「うぉっし! 次は何になるかな!?」
スキルと違って直接的には影響を感じにくい、普段の生業とは別のシステムにおける『職業』。
剣士などの『職業』に就くことで、剣に関するスキルの習得にプラス補正がかかっていたり、レベルアップの際に筋力や敏捷などの数値が伸びやすくなる効果がある。
そのため『職業』の選択というのは結構重要な事だ。
「あの、ちなみに僕の職業レベルはどんな感じッスか?」
「んー、お前はレベル七の三分の一って所だぁ。転職そのものは出来る筈だぞぉ」
「あー、それは知ってるんッスけど、まだ"マスター"には遠いッスね」
ロベルトの言う"マスター"とは、その職業を最大まで極める事を意味する。
北条の言うように、職業レベルが五まで上がれば他の職に転職できるが、そうなると元の職業に関する事が、前と同じようにこなせなくなってしまう。
これは特にまったく別の職種に就いた場合、特に顕著だ。
しかしこれは職業レベルを上げるほど、その影響を軽減することが出来る。
職業を"マスター"、つまりレベル十まで上げ切ると、他の職業に転職しても前職の職業ボーナスが、百パーセントとはいかないがある程度残る。
この場合の職業ボーナスというのは、筋力などのステータス補正や、その職業に関する作業への補正などだ。
「まぁ、焦るこたぁない。中途半端なレベルで転職するより、じっくり最大まで上げてったほうがいいだろう」
そして北条は職業レベルを十まで上げる利点を話し始める。
この一般の間では、感覚的な事しか知られていない『職業』に関する知識は、"解析"スキルによって得られた情報だ。
"解析"スキルで表示された情報……例えば『レベル』だとか、『筋力』だとか、そういった部分を更にクローズアップして"解析"を使用する事で、そのキーワードに関する詳細検索をすることが出来るのだ。
なお"鑑定"スキルでは、このような詳細検索をすることはできない。
一頻り北条が『職業』に関しての話を終えると、最初話していた予定通り、次の山岳エリアに移動して、探索がてらに芽衣の職業レベルをマックスまで上げることになった。
だが、その前に……、
「っとお、じゃあ俺ぁ獲物を運んでくるわ」
そう言って、北条がストーンサークルの外側まで駆けていく。
そしてしばし石柱の外側で何かしていたかと思うと、再び魔方陣のある所まで戻ってきた。
それも一人ではなく、召喚しなおしたオーガ達と一緒だ。
オーガ達はみんな手に大きな皮の袋を持っている。
「……やっぱそれも持ってくのね」
「もちろんだぁ」
当然だ、というように答える北条に、なんとも言えない視線を送る陽子。
袋の中には水がたくさん詰っていて、レイドエリアの川にいた魚が何匹も泳いでいる。
拠点内に流れる小川に放流しようと、北条が取ってきた魚たちだ。
別に食糧として養殖しようというのではなく、観賞用というか雰囲気づくりのための魚の放流であり、そこまで拘る北条に陽子はあまり理解を示せないでいた。
「まぁ、別に好きにすればいいと思うけど」
結局陽子は我関せずといった返事をし、準備が整っていた一行はそのまま次のエリアへと転移する。
すると、北条はすぐに迷宮碑の傍に"土魔法"で簡易的な生け簀を作り、一端そこに魚を移し始める。
急激な環境変化に元気のない魚もいたが、わざわざ北条は"回復魔法"を使ってまでして、一匹一匹を念入りに治療していた。
「よおし、じゃあちょっくら探索してくるか!」
こうして山岳エリアの、迷宮碑周辺の探索兼、芽衣の熟練度上げが行われ、さっくりと目標を達するや否や即座に帰還。
悪魔との戦闘の際に、芽衣の"召喚魔法"についてはすでに冒険者たちに知られてしまっていたため、芽衣が召喚したオーガという体で、大きな皮袋を持ったオーガ数体を連れダンジョンを脱出。
転移部屋やダンジョン入り口ではちょっとした騒ぎになったが、無事今回の探索でも拠点への帰還を果たした。
▽△▽△▽
「フフフン、健やかに育てよ?」
拠点へと帰還した信也達は、ひとまずここで休息などを取りつつ、好き勝手に行動をしていた。
そんな中、北条は拠点内の小川を数か所周り、ダンジョンから持ち帰った魚を小川に放流している。
その表情は実に楽しそうだった。
「よし、あとはこれも入れて……」
魚を放流した後に、同じくレイドエリア内の川から採取した水草なども取り出し、小川へと投入する。
そして、
「あまりやりすぎないように調整をして……。【グロウプラント】」
続けて北条が使用した"植物魔法"の【グロウプラント】によって、投入した水草が尋常じゃない速度で成長を始める。
この植物を急成長させる魔法は、使用する際に込めた魔力が多いほど、その土地の養分を奪わなくて済むようになる。
北条も別に日本でアクアリウムを嗜んでいた訳ではないので、これでうまく魚が生きていけるのか不安はあったが、今後ちょくちょく様子を見て調整していくつもりだ。
とりあえず今の所、水温に関しては気になったので、これに関しては後で調整するつもりだ。
そうして北条は分散して魚を放流していく。
今は夏真っ盛りなせいか、辺りには雑草がそこかしこで強かに葉を揺らしていて、その周りには小さな虫などの姿も見える。
これなら魚も無事育ってくれるかなと北条が考えていると、視界の端にこちらへと駆けてくる由里香の姿が映った。
このクソ暑い中を元気いっぱいな様子で駆けてくる由里香は、どこかしら楽しそうだ。
「ハァ、ハァ、北条さん。そろそろみんなでギルドに行くっすよ」
「ああ、もうそんな時間かぁ。分かったぁ、一緒にいこう」
信也達が拠点へと帰還した際に、少し休憩を挟んでからギルドへ行くことが決定していた。
そこで今回の常設依頼の報酬やドロップ買取り。それからダンジョン内で故意に魔物を押し付けられた事も報告するつもりだ。
一回程度ならギルドも厳罰を下すことはないが、今後何度も同じようなことをすれば、最悪除名処分になる事もある。
そしてギルドでの用事を済ませた後、ロベルト兄妹以外の面々は《ジリマドーナ神殿》で転職をする予定だ。
魚の放流作業に一区切りついていた北条は、迎えに来た由里香と共に西門へと向かう。
すでにそこでは他の面子が待っていたようで、「すまん、待たせたみたいだなぁ」と言いつつ北条も合流を果たし、全員で《ジャガー町》の東地区へと移動を開始した。
0
あなたにおすすめの小説
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる