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第十一章
第268話 トラウマ克服
しおりを挟む地下へと続く階段を下りていき、地下迷宮エリアへと到達する信也達。
まずはまだ迷宮碑に登録していない『プラネットアース』の面々を、〈ソウルダイス〉で登録しておく。
それからしっかりと"付与魔法"で強化を施してから、迷宮碑周辺の探索に入った。
このエリアの探索はほとんど行っていないので、猿の魔物以外にどういった魔物がいるかの情報もない。
もしかしたら他のCランクの魔物も出てくるのかもしれない。
そうした緊張感の中で探索が開始されてから数分後。
北条の警告の声が発せられる。
「……いるなぁ。こいつぁ恐らく"猿"だろう」
「……ッッ」
初っ端から大当たりを引いた事で、一瞬表情が固まる由里香。
だが直後に軽く深呼吸をして心を落ち着かせると、まだ若干硬さは残るものの、いつでも戦闘に入れる態勢を取った。
「由里香ちゃん……」
何か声を掛けようと思っていた芽衣だが、そうした由里香の様子を見て思いとどまる。
そして少し躊躇った後、最初にかけようと思っていたのとは別の言葉を紡ぎだす。
「今度はわたしも頑張っちゃうよ~! だからあんな奴ら、けちょんけちょんにしてやろ~!」
「うんっ! 今度は……負けない!」
普段では見られない、ハイテンションな様子で声を掛ける芽衣に応えるように、由里香も元気よく声を張り上げる。
その二人の様子を微笑まし気に眺めていた北条。
しかし魔物の方から彼らの方へと接近してきたらしく、警告を発する。
「ウキキキィー!」
「ウキキ?」
「ウッキィー!」
やがて数匹の猿の魔物が通路の奥から姿を現す。
その多くが茅色をした猿――剛力猿だった。
だがその中に二匹ほど毛色の違う猿もいる。白銅色の体毛をしている隠密猿だ。
どちらもDランクの魔物であるが、Dランクに上がりたての冒険者では苦戦するような、Dランクの中でも中位に当たる魔物だ。
「あの百円玉みたいな色の猿は不意打ちタイプだぁ。気をつけろぉ」
北条の警告に幾つか承知の声が返ってくるが、「ひゃ、ヒャクエンダマってなんッスかー!」という少し困惑したロベルトの声も混じっていた。
そんなロベルトの声に答えが返ってくることもなく、八匹ほどの猿の魔物たちとの闘いが始まる。
由里香は初っ端から"機敏"を使って魔物の群れに突っ込んでいき、闘技スキルを派手にぶちかましている。
慌てたようにその後を続く龍之介が、由里香の背後から襲い掛かろうとしていた剛力猿を背中から袈裟斬りにする。
背後でそのようなやり取りがあるのを認識しているのかどうなのか、由里香はそれからもひたすら剛力猿に対して積極的に攻めていき、龍之介はそれをカバーするように立ち回る。
「ハアアアァァッ!」
その様子はまさに鬼気迫るものがあった。
闘技スキルを乱発してるからとかそういった理由もあったかもしれないが、何より親の仇とばかりに闘志を剥き出しにして戦う由里香は、敵である魔物ですら少し怯んだ様子を見せるほどだ。
「死ねえぇ! "龍破斬烈槍"」
「これでっ、ラストぉぉ!」
そして戦いは十分も経たないうちに終結した。
最後は芽衣のとっておきのスキルと、由里香の"剛拳"のスキルで、残っていた最後の剛力猿にとどめが刺される。
確かな手ごたえと共に拳を放った由里香は、しばし荒い息を上げながらその場で立ち尽くす。
あまりにあっさりと勝ち取った勝利に、当初は実感がなかったのか。
「ッッッシャアアアァァァッッ!」
しばし立ち尽くしていた由里香は、次第に事態を飲み込んでいくにつれ脳内にエンドルフィンが分泌されていく。
その結果、強い満足感や達成感を抱いた由里香は、抑えきれない雄たけびの声を上げた。
「由里香ちゃん、おめでと~」
「うんっ……うん……っ!」
「ヘッ、思ってたほどの敵じゃなかったぜ」
喜びを分かち合う二人の脇で、龍之介が身も蓋もない発言をして咲良に杖で頭を叩かれる。
楓も、陽子も。無事に魔物を倒せた事にほっとしているようで、今は大分気の抜けた様子だ。
「……武田はどうやら無事乗り越えられたようだな」
「あぁ。あの時は冒険者を引退するかもと心配したりもしたがぁ、これでひとつ殻が剥けたなぁ」
今回はCランクの魔物である狡猾猿がいなかった事もあって、魔物たちはまっすぐにこちらへと向かって襲い掛かってきた。
もし狡猾猿が混じっていた場合、もう少し集団的にまとまった行動や作戦を取られて、厄介度は増していただろう。
それに対し、由里香たちは以前よりレベルが上がってて、一対一でも十分渡り合える位に強くなっていた。
更に無駄に多いマジックユーザー達が、背後から的確に支援をしたせいもあって、戦闘時間そのものも短く済んでいる。
ただ今回は全員が飛ばし気味にスキルや魔法を使っていたので、単独パーティーでこのエリアを今の調子で探索すれば、途中で体力やMPが尽きてしまいそうだ。
「よおし。この調子であと何戦かしていくかぁ」
それでも現在は二つの合同パーティーで行動しているので、まだまだ余裕はあった。
その後はこのエリアで何度か魔物たちとの戦闘を繰り返した。
このエリアは猿の魔物以外にも厄介な魔物がいて、その内の一体シャドウストーカーはシャドウ系列の魔物であり、通常攻撃が通用しない。
基本は"潜伏"スキルで潜んでいて、冒険者が近づくと今度は"隠密スキル"や"影魔法"で気配を消して近寄る。
それから魔力で出来た糸を、相手の首に巻き付け締め上げてくる。
同ランクの冒険者ならともかく、低ランクの冒険者ならそれだけで首を切断される恐れもある、非常に危険な攻撃だ。
ただ信也達に関しては、北条の感知能力が鋭いので、先に相手を察知する事が出来たので、大して苦戦はしていない。
他にはストーンゴーレムとも遭遇し戦闘に入ったが、物理に特化したストーンゴーレムも、魔法の雨あられには敵わなかった。
強力な物理攻撃と、"斬撃耐性"や"刺突耐性"を持つストーンゴーレムは、物理に関して言えば攻防ともに優れている。
かといって魔法に特別に弱いという訳ではないのだが、耐性スキルによる軽減がない分、魔法の方がまだダメージを稼ぎやすい。
今回は魔術士を豊富に抱える信也達と、唯一物理系で軽減されない打撃主体の格闘術を扱う由里香。それに槌術で戦うメアリーなどもいたので、より戦闘は楽に治められた。
今は一通りの戦いを終え、迷宮碑へと戻っている最中だ。
道中では他にも、最初の魔物の群れにはいなかった狡猾猿《スライエイプ》が率いる猿集団との戦闘も起こっていた。
数は最初の時より少なかったのだが、流石にCランクの魔物が加わったことで、最初の戦闘より苦戦を強いられる。
しかし北条の足止めによって動きの止まった狡猾猿《スライエイプ》を、由里香の必殺の闘技秘技スキル、"炎拳"でもって撃破した後は、すぐに決着がついた。
これによってほぼ完全に猿の魔物へのトラウマは取り除かれ、一行は意気揚々と二十層まで戻っていく。
これで今回のダンジョン探索の目的は大体達成する事が出来たのだが、久しぶりにこの階層を訪れた北条が、気になる事を発見していた。
それを調べるために、あーだこーだしている内に時間も大分過ぎてしまい、結局その日も二十層でキャンプを張る事に。
その日も他の冒険者の姿はなく、新しく発見した事についてワイワイと話しながら夜を明かす。
翌日は、朝早くからダンジョンを発ち、拠点まで辿り着いた後は軽く一休みを入れる。
それから夜に話し合いのために集まる事を決めてから、一旦パーティーを解散した。
今回は軽く潜っただけなので、全員でギルドを訪れるという事はなかったのだが、いつもの習慣というか、他にする事といえば訓練しかなかったせいか。
龍之介をはじめとする数人が、冒険者ギルドへと足を踏み入れていた。
特にこれといった目的がなかった龍之介らは、張り出されている依頼をチェックしたり、軽食を取りつつ他の冒険者を眺めたりしている。
そんな彼らの耳に気になる話題が飛び込んできた。
それは、近くのテーブルに座った三人組の冒険者たちのしていた話題だ。
気になった龍之介は、銀貨を一枚取り出すと彼らに話しかけてその話について更に詳しく聞きこむ。
一緒に行動していたロベルトは事態をよく理解していなかったのだが、龍之介はそれから他の冒険者にも、その話題についての聞き込みをしていく。
結果、集まった情報は最初の三人組の内容とそう変わらないものばかりだったが、どうやら内容自体はデマではない事が判明した。
そしてその情報については、今夜の話し合いの議題のひとつとして取り上げられる事になった。
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