どこかで見たような異世界物語

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第十一章

第271話 プレゼント

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 新たなパーティー編成が決まった翌日。
 この日は一日休みとして、各自明日からの探索の準備を整えたりしていた。
 そんな中、咲良は『スーパー銭湯』の隣に何やらまた新しい建物を建てようとしている、北条の下を訪れていた。

「北条さん、おはようございます。今は建物の基礎を作ってるとこですか?」

「んああ? ああ、そうだぁ」

 まだ土台部分しか出来上がっていないが、大き目な……それこそ庭付きの一軒家ほどの広さの敷地内には、すでに大まかな構造が素人目にも窺えた。
 この建物は、北条が町で誰かと話をした結果建てる事になったものらしい。

「あの、ちょっといいですか?」

「なんだぁ?」

 いつもと違う、少し緊張した咲良の声に、北条は作業をやめ咲良へと振り返って返事をする。

「えっと……。今から町まで一緒に買い出しにいきません?」

「……分かったぁ。ちょっと待っててくれぃ。そこの角の部分だけ先に仕上げとくぅ」

 そう言って、北条はまだ手付かずだった敷地の角っこ部分を"土魔法"で加工していく。
 その作業は数分で完了し、北条は咲良と共に西門の方へと向かう。


「あ、北条さん! どこ行くっすか?」

 途中、訓練場近くの休憩スペースで芽衣と駄弁っていた由里香が、二人に気づいて近寄ってきた。

「ああ。ちょっくら町の方まで買い出しになぁ」

「えっ、町っすか? それならあたしも――」

「由里香ちゃんは~、今日はわたしと訓練だよね~」

 一緒に行こうとする由里香を、有無も言わさないといった様子で芽衣が止める。
 そして芽衣は二人を見て、それぞれ無言で別の表情を見せるとそのまま由里香を引っ張って元の場所に戻っていく。

「じゃぁ、いくかぁ」

「うん……」

 いつもの元気の良さがない咲良に北条は若干戸惑いながらも、静かに町へと通じる道なき道を行く。
 道中、咲良から何か話しかけてくることがほとんどなかったので、もっぱら話題を出すのは北条の方であった。
 だけど咲良はどこか上の空といった感じで、身の入った返事がない。

 結局二人の間に流れる空気はそのままに、町に着いた二人は本当に必要だったかも分からない、日用品や食料などの仕入れをぱっぱと終える。
 あとはもう帰るだけ……なのだが、そもそも咲良の目的がただの買い物にない事は明白で、それでいて咲良の方から話を切り出す事もなかったので、北条としてもどうしたもんかと内心慌てていた。

「北条さん……」

「どしたぁ?」

 そんな事を思っていたからこそ、ようやく咲良が重い口を開いたことで、北条は密かに胸をなでおろす。

「その、あの……。別に和泉さんが頼りないとかって訳でもないんですけど……」

 ひとつひとつ、口に出す言葉を考えながら話し始める咲良。

「でも、それでもちょっとだけ不安……で」

「あー、俺が言うのもなんだがぁ、みんな十分に力は持っていると思うぞぉ。趣味のようにいつも人を"解析"してる俺には、その辺がよく分るんだよ」

「そう……なのかもしれないですけど」

 例えば中級の魔法。
 実は、これはDランク冒険者になりたての奴が使えるようなものではない。
 Dランクになって、しばらくレベル上げや経験を積んだものが使えるようになるものなのだ。
 それを当たり前のように使えるようになっているが為、咲良だけでなく他の魔法使用者たちもその辺の感覚が薄い。

 だが咲良の不安は、何か大きな問題が起こった場合の事だった。
 あの猿の魔物のようなものが現れた時、次は上手く対処できるかどうか自信がない。

 ……それとあともう一つ。

 本人も意識が向いていない事ではあったが、こちらの方が本命だとも言えた。
 つまり、北条と別のパーティーになってしまった事そのものだ。
 咲良はそれを、チート能力を持つ北条がいない事への不安からだと思い込んでいる……思い込もうとしているようだが、実際は北条と離れたくないという思いが燻っているのが原因であった。

 そんな咲良自身も認識していない内面の事を、北条が気づくわけもない。
 答えの出ないまま、お通夜モードで町の露店を見て回る二人。

「おっ?」

 そんな折、北条はとある露店の前で足を止める。
 そこでは簡易な木のテーブルの上に布が敷かれてあって、その上に商品が無造作に並びたてられていた。

 ダンジョンでのドロップは、必ずしも冒険者ギルドで全員が買い取り査定を出す訳でもなく、より高く買ってくれる相手を探して商人などに直接売りつける事もある。
 この露店通りでも、そうした冒険者からの買い取り品らしきもの取り扱う店も多い。
 目の前の店もそうした類のものだろう。

 こういった店では時折掘り出し物が並べられる事もあって、北条も自慢の"解析"スキルを使って時折露店巡りをしていた。

「店主、こいつぁ一体なんだぁ?」

「ああ、これかい? 見ての通り綺麗な星形をしているだろう? なんでもこれを身に付けると星の加護が得られるって話だ」

「ほおう、でいくらなんだぁ?」

「そうだな。これは遠方から伝わってきた珍しい品だ。特別に一金貨でお譲りしよう」

「あぁ? 一金貨ぁ!? 珍しい品だろうがぁ、見たたところ魔力も帯びていない、ただの星の形をした石っころだろう? それにしちゃあボリ過ぎなんじゃないかぁ?」

「……なるほど、お客さん見る目があるんだな? 確かにこいつは魔力も帯びていないような品だが、そこそこの値で仕入れてはいるんだ」

「にしても一金貨は言い過ぎだろう? ……そうだな。六十銀貨でどうだぁ?」

「んー、そいつはちょっと……」

 こうして二人の値切り競争が始まる。
 北条は無駄にチート能力を発揮して、"話術"や"交渉"などのスキルを駆使して値切っていく。
 北条がその気になれば、完全に売り手側に損が発生するくらい強引な値下げをすることも可能だが、その後の事も考えて毎回そこまできつく値切ったりはしていない。


「はぁ……。毎度あり」


 結局北条は七十五銀貨で星形の石を購入し、店を離れる。
 それからしばらく歩いて距離を取った所で、これまで口を閉ざしていた咲良も先ほどのやり取りが気になったのか北条へと話しかける。

「それ、何なんですか?」

 大分値切ったとはいえ、七十五銀貨といえば一般人からすれば相当なお金だ。値切りの時に北条が言っていたように、これがただの石っころならそんな値段を出してまで買うようなものではない。

「こいつぁ〈スターストーン〉だぁ」

 自身有り気に言い放つ北条は、もちろんすでに"解析"スキルでこの石を鑑定済みだった。
 見た目も名前もこれが星であると表しているが、その正体はヒトデの魔物のレアドロップである。

「スター……ストーン?」

 と言われても、咲良としてはなんのこっちゃという表情だ。

「んー、そうだな、あそこがいい。ちょっと来てくれ」

「え、ちょ、ちょっ……!」

 名前だけ告げられアイテムの解説もないまま、北条は路地裏を指さし咲良を連れ出そうとする。
 だが話についていけてない咲良は、その場で戸惑うばかり。そんな咲良を見かねてか、北条は咲良の手をつかんで路地裏へと引きずりこむ。

「あの、あのおおおお!?」

 その強引な行動の北条に、咲良は自然と顔が赤くなり、言葉にならない声を発し続ける。
 だが北条はそんな咲良の様子を気にも留めず、路地裏の隅っこの方、通行人からは誰も見られないような角度で、"アイテムボックス"から小さな金属の塊と魔石を取り出す。

「えっ……?」

 路地裏の壁や死角などを計算しつつ、更に自身の身に付けるマントで手元を隠しながら、北条は先ほど購入した〈スターストーン〉と、"アイテムボックス"から取り出した金属と魔石を合わせる。
 そしてそっと眼を閉じ、傍目で分かるほどに集中していくと、手にした三つのアイテムが形を変え、融合するかのように一つのアイテムへと変化していく。

「わぁ……」

 咲良は"魔力感知"のスキルこそ持たないが、目の前で魔法が使われれば流石にそれを察するくらいは出来る。
 今、恐らく北条が"無詠唱"スキルで発動した魔法は、咲良には一体どんな魔法が使用されたのか見当もつかないものだった。
 ただ、それによって出来上がったモノ・・については、用途は理解できる。

 それは一番の目玉であろう、〈スターストーン〉をメインに置き、先ほどの金属の塊を留め金として合成した髪飾りであった。
 元々は直径十センチ、厚さ一センチはあった〈スターストーン〉なのだが、全体的に少し縮んでいる。

 しかも元々は鈍い黄金色の光沢をしていたのに、何故か黄金色部分は少し明るい色合いに、材質もベタっとした石から半透明の水晶のように変質している。
 この辺は魔石が影響を与えた部分かもしれない。

「おお、これはぁ!?」

 目の前で見せられた謎の魔法に驚いていた咲良だが、何故かそれをやった北条自身も驚きの声を上げている。
 咲良が若干訝し気な視線を送ると、北条は取り繕うように話し出す。

「う、うむ。どうやら上手くいったようだぁ。こいつをお前さんにやろう」

「プレゼント……ってことですか?」

「む、そうだな。今こいつを"解析"してみたんだがぁ、特殊効果として光属性への耐性と魔力の増加。それからMPの回復量増加の効果も付いたぞぉ」

「これを、私に……」

 口早に髪飾りの効果を説明する北条。
 対する咲良はどこか茫然とした様子ながらも、北条から髪飾りを受け取る。

「そいつがあれば、今後のダンジョン探索も楽になるはずだぁ。といっても無理は禁物だぞぉ?」

「……そうですね、これがあれば大丈夫そうです。ありがとうございます!」

 先ほどまでは、どこか得体のしれない不安な気持ちを抱いていた咲良だったが、北条からのプレゼントでその不安も早々に消えていく。
 我ながらプレゼント一つでこうも気分が上向きになった事に、咲良は少し恥ずかしさを覚えもしたが、元気よく北条へのお礼を述べる。

「はっはっは、そうだろうそうだろう」

 元気を取り戻した咲良に、北条も笑い声をあげる。
 こうして帰りは行きの時とは打って変わって、二人は和気あいあいと拠点への帰路につくのだった。


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