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第十一章
第280話 ロベルトの"神聖魔法"
しおりを挟む「僕とカティは、昔は普通の狩人の一家として暮らしてたッス」
そう言ってロベルトは過去の出来事について、簡潔にまとめて話していく……。
エルフである父と人間である母と共に、小さな村で生まれ育ったロベルト兄妹。
元々は冒険者をしていたらしい両親であったが、今では村に腰を落ち着け、家族との静かな暮らしを送っていた。
それは一見どこにでもありそうな家庭に見えたが、他の一般的な村人とは違う点も存在していた。
ロベルト、カタリナの双方共に、天恵スキルを持って生まれていたのだ。
その内、カタリナの"精霊術士の心"については特に問題はなかった。
むしろ天恵スキルというのは基本喜ばれるものなので、何ら問題なく祝福することが出来た。
しかし、ロベルトの"スキルスティール"の天恵スキルは、内容が内容だけに問題が起こる可能性があった。
他人からスキルを一つだけ(と思われていた)しか奪えないとはいえ、それでも使い道は色々考えられた。
特にこのスキルで奪ったスキルは、奪った相手のスキル習熟度のままスキルを使用する事が出来るのが判明していた。
そこで、年をとって後がもうないような凄腕の魔術士などに頼んで、死ぬ前にスキルを譲り受ける事ができれば、それだけで凄腕の魔術士の出来上がりとなる。
ロベルトの両親はこのスキルによるいざこざに巻き込まれないように、子供たち二人にも、"スキルスティール"の事は絶対に内緒にするように、と教えて育てていた。
『転職の儀』も、あれは必ずしも受けなければならないものではなく、自前で転職料金を支払える者は先に済ませる人も多い。
国が主導して行う『転職の儀』は、交通費や利用料金などを国が肩代わりする代わりに、ステータスの確認をされてしまう。
一般的な農民なんかは、逆にそれで国からスカウトされる事が喜ばしい事とされてもいるが、ロベルトの天恵スキルは安穏とした生活を脅かす可能性があった。
「でも……あの時、ついカッとなって同じ村の子供にスキルを使って見せちゃったんッス……」
それは些細な言い争いがきっかけだった。
相手の男の子は体つきこそは貧相であったが、子供ながらに"火魔法"を取得していた。
事あるごとにその事を自慢していたその男の子は、当時ロベルトが好きだった女の子の事が好きで、いわゆる恋のライバル関係であった。
小さな村なので子供の数も少なく、こうした関係になる事も自然な流れともいえた。
だがそんなちょっとした事が後の悲劇を誘う事になるとは、この時のロベルトは思いもしなかった。
「最初は僕のスキルは凄いんだぞ! って思わせたかっただけだったんッスけど……。"スティールスキル"を使ってから、村の人からどんどん距離を置かれるようになっていったッス……」
スキルというものが当たり前に存在するこの異世界において、自分のスキルを奪われるかもしれないというのは恐怖そのものだ。
幼いロベルトはその事について、まだよく理解していなかった。
「それから少しすると、なんかよく分らない人たちが、わざわざうちの小さな村にやってくるようになったッス。基本、父さんたちが相手してたからどんな話をしてたかは分からないッスけど」
だが今思い返してみれば、どんな相手が来ていたのかは予想がつく。
初めのうちは、そうした相手からの話を断っていたロベルトの両親であったが、魔の手はどんどんと伸びていく。
村の人からは村八分にされ、たまに訪れる行商人すらも相手にしてくれなくなった。
それでもロベルトを手放そうとはしなかった両親。
しかし業を煮やした誰がしかが、ついに直接的な手段を用いてきた。
その結果ロベルト一家は村を捨てる事になり、逃亡生活を送ることになる。
だがそれも長い事は続かなかった。
「あの時……。僕らを狙って襲ってきたならず者達は、必死に僕を庇おうとする父を殺すと、僕に話を持ち掛けてきたッス」
「…………」
普段はどちらかというと軽い印象があるロベルトなだけに、その口から飛び出てきた予想外に重い話に、一同は思わず沈黙して話に聞き入る。
ただその出来事自体はもう大分昔の話のようで、確かに辛そうに顔をしてはいるのだが、ロベルト自身も大分この出来事を飲み込めてきているようにも見えた。
(比べるようなものではないかもしれないけど、ロベルトと比べるとあの人は……)
ロベルトの身の上話を聞きつつも、陽子の脳裏に思い浮かんだのはツヴァイの事だった。
本人がそう呼んでくれと言っているので、もはや日本での彼の名前も覚えていない陽子であったが、ツヴァイが自分の能力や過去の出来事について語っている時の彼の表情は、未だに忘れる事が出来なかった。
あの何とも言えない辛そうな表情……。
今回の結末だけで見れば、一週目にツヴァイが体験したような悲惨な結末にはならなかった筈である。
しかし、そんな事とは関係なく彼の心に刻まれてしまった深い傷は、あの時点ではさっぱり癒える気配はなさそうだった。
「――そんな訳で、その時に丁度僕たちの話を聞いて駆けつけてきた、父さんたちの冒険者時代の知り合い、『巨岩割り』の人たちに助けてもらったッス。でも、すでに母さんも大ケガを負っていて……」
不幸な事に、その時"神聖魔法"の使い手であるロベルトの母親は、すでに魔力を限界まで使っていて、これ以上魔法を使用することが出来なかった。
そこでロベルトは涙を流しながらも母の"神聖魔法"をスティールし、譲り受けた"神聖魔法"で必死に治そうとした。
だが"神聖魔法"では、すでに死んだ者を蘇らせる事は出来なかった。
ロベルトの"スキルスティール"の発動には間に合っていたのだが、その直後に母親の命の灯は消えていたのだ。
「だから僕は、母さんからもらったこの"神聖魔法"だけは、絶対に手放す気はないんッス!」
「なるほど……な」
いつも真面目な表情をしている信也が、殊更引き締まったような顔をしつつ言った。
「うう、ロベルトざあ"あ"あ"ぁん」
「うあ、ユリカちゃん。そんなに泣かないでもいいッスよ。僕も完全に割り切ったって訳ではないッスけど、もう大分昔の話ッスし」
「でも……でも……っ」
泣き出してしまった由里香に慌てた様子のロベルト。
芽衣はそんな由里香の様子を見ていて、心のどこかに充足感のようなものを感じていく。
それは何も泣き叫ぶ由里香が良いというのではなく、他人の事なのに自分の事のように思いやれる由里香。そんな人が自分の一番の親友でいてくれる事に対して抱いたものだ。
芽衣は殊更自分自身の事については疎かにしがち……というか、どこか諦めている部分があった。
その分、他人に対してその足りない何かを求める傾向があり、由里香という存在はそんな芽衣にピッタリと合致していた。
「そうだな。本人もそう言っている事だし、それを我々がどうこう言うものでもない。今のロベルト見ていれば、前を向いて進んでいるのは分かるだろう?」
「そう"……っすね」
信也の意見に完全に同意した訳ではなかったが、由里香は目をこすり、涙を拭うと、そっと答えた。
「とまあ、僕の話は以上ッス。そんな聞いてて楽しいような話じゃないッスけど、これから皆さんとは一緒にやっていくので、どこかで聞いといてもらいたかったッス」
と思いの他、明るい口調で言うロベルト。
自分のした話によって暗い雰囲気になってしまったのを、少しでも立て直そうとしているようだ。
「なるほどねえ。アンタにも色々あったって訳ね」
途中で他の事に想いを馳せていた陽子であったが、話自体はちゃんと耳を通していた。
彼女からすれば……いや、他の仲間もそうであろうが、誰かから命を狙われた挙句に両親が殺されてしまう、などといった事は日本ではまず経験していない事だろう。
その為、ロベルトの話はどこか彼らには実感が持てない話ではあった。
ただこの世界ではそういった事が起こりえる世界なんだなあ、という事が漠然と頭の片隅に刻まれたのだった。
それから魔力回復を兼ねた小休憩は、ロベルトの話が終わった後も十分ほど設けられた。
そして休憩が終わり、再び探索が再開される。
心なしか、ロベルトを見る他の人の視線が少し変わったようにも見える。
「あ、ちょっと待つッス。そこに罠が……」
探索再開してからすぐ、ロベルトが罠を発見したようで一同に停止の声を掛ける。
そして罠の解除にかかるのだが……、
「うひゃあっ!」
罠の解除に失敗したらしく、ロベルトのいる方へ、とどこからともなく矢が飛んでくる。
ロベルトのいる方角……つまり、イミテーターなどに対抗するために同席している陽子のいる方角という事でもある。
「アハハハハハッ。『うひゃあ』って何ッスか、ヨーコさん。『うひゃあ』って…………ぐぼぉぁ!?」
思わず陽子の口から洩れた妙な叫び声がツボに入ったのか、ロベルトがつい笑い転げてしまう。
そんなロベルトに向けて、"呪術魔法"の【敏捷低下】からの"投擲術"コンボで放たれた魔弾が、見事ロベルトの腹部に命中。
そのまま腹を抱え込んで膝を地面につける事になるロベルト。
「あら? 『ぐぼぉぁ』って何かしらねえ。『ぐぼぉぁ』って」
苛烈な"反撃"を受ける事になってしまったロベルトは、陽子だけは怒らせないようにしようと、硬く心に誓うのであった。
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