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第十一章
第281話 浮遊する生首
しおりを挟むロベルトが陽子の魔弾を食らってから、おおよそ一時間が経過した。
手にした手書きの地図を見ながら、目の前にある十字路が以前別の方角から通ってきた場所である事を確認した陽子。
前回は北から西へと移動したのだが、今回は南から戻ってきてしまったので、今回は東への通路を進むことなった。
その通路を少し進んだ先。
そこには今まで見た事のない魔物がぽっかりと浮かび上がっていた。
「う、あ、あ、あ…………」
先頭を歩いているロベルトと陽子は、真っ先に魔物の姿を確認しやすい位置にいる。
今回もロベルトが最初にその魔物を発見したのだが、そのすぐ後にロベルトの様子が少しおかしい事に陽子は気づいた。
「ちょ、ちょっと? 大丈夫なの?」
「あっ、わわわっ……。あ、あれ、なんなんッスか!?」
ソレは、人間の生首のように見えた。
体の他の部分はなく、生首だけがふわりと宙に浮かんでいる。
長い髪で隠れていて余り見えないが、その顔色は悪く、まるで死人のようだ。
……いや、生首だけで浮かんでいるのだから、これは立派な死人。すなわちアンデッドである可能性は高いだろう。
(ちょっと、突然どうしたのよ)
そう思いながら、陽子も空飛ぶ生首へと視線を向ける。
するとどこか背筋がゾっとするような感覚を一瞬覚えた。とはいえ、ロベルトのように取り乱したりすることはない。
「あっ! これってもしかしたら"恐怖"の状態異常かも?」
「恐怖……? あの魔物の特殊能力か!」
咲良の言葉に納得がいったという様子の信也。
このパーティーでは、ロベルト以外は北条の特訓によってみんな"恐怖耐性"を持っているせいか、個人差はあれどロベルトほどに効果の出た者はいないようだった。
「里見さん、ロベルトの事はお任せする! 他のみんなは前に出て、速攻であの生首をやるぞ!」
「あ、ちょっと待って! みんなに【ホーリーウェポン】を掛けていきます!」
そう言って咲良が前に出ようとしているメンバーに、慌てて"神聖魔法"の【ホーリーウェポン】を掛けていく。
これは武器や拳などに使うことで、一時的にアンデッドに対する攻撃力が増すというものだ。
まだあの生首がアンデッドかどうか確定してはいなかったが、その身に纏う雰囲気から恐らくは間違いはないと思われた。
「スマン、助かる!」
「いよーし、派手にぶん殴っちゃうよお!」
【ホーリーウェポン】を受けた信也らは、早速飛ぶように前へとせり出していく。
魔物の方は最初に発見した段階で距離がまだあったので、最前列にいたロベルトらの所にはまだ到達していない。
信也と由里香はそのまま生首の方へと向かい、芽衣はその少し後方の位置をキープしながら後に続き、陽子らのいる地点を追い越していく。
魔物の方も接近してきていたので、両者の衝突はすぐにも起こった。
「わっわわわ!」
至近まで近寄った由里香に対し、魔物はその長い髪を器用に動かし、まるで鞭のように由里香目掛けて打ち付けてきた。
「ヒュウゥゥッ」という風を切るような音と、「ピシャンッ」という髪が打ち付けられた音が、静かな迷宮の中に響き渡る。
それも一度だけではない。何度かそうした音が鳴り響き、そのたびに由里香の焦りの感情を含んだ声にならない声も漏れていた。
「お前の相手はこっちだ!」
そんな由里香を見て、慌てて敵意を引き付ける闘技スキル、"プロヴォーク"を発動させる信也。
スキルの効果は覿面だったようで、すぐにも魔物のターゲットは信也へと移った。
しかし……、
「くっ、早くて鋭い」
魔物の攻撃は、ただの髪による攻撃だとは思えないほどに強力だった。
鞭のようにしなる髪の先端部分は、音速を軽く超えて信也に襲い掛かって来る。
いくらこの世界に来て身体能力が強化されたからといって、そのような攻撃を見てから回避するのは不可能だ。
だがこれまでの戦闘経験から、相手の動きを見て攻撃をある程度予測するくらいは出来るようになってきていた。
「ぬ、ぬぬう……。俺がこいつを抑えてるから、みんなは集中して奴を……、ぐわああっ!」
「い、和泉さん!?」
信也の指示出しが途中で悲鳴へと変わる。
見れば信也の足元には体高五十センチほどと、今まで見た中では小型な方である蜘蛛の魔物が、いつの間にか張り付いていた。
信也は最近取得した、一時的にステータスを強化する系統のスキルのひとつ、"強靭"を使用して自分を盾にしようと考えていた。
このスキルは"体力"を一時的に強化するスキルであるが、何故か"体力"を強化すると"守備力"も上がるらしく、同じ速度で小石を投げられた場合でも"強靭"使用時の方が受ける痛さに違いが出てくる。
元々守備よりの信也は、"強靭"を使用して守りに徹するのが当初の作戦であったが、突然現れた小型蜘蛛の魔物によって出鼻をくじかれてしまった。
防御を強化した状態の信也……それも、"痛み耐性"を持つ信也が思わず声を上げてしまう程の攻撃力を、この小型蜘蛛は有している。
信也が改めて辺りを見回すと、幸いにも小型蜘蛛は二匹しかいないようで、その二匹とも先ほどの"プロヴォーク"の影響か、信也にターゲットを絞っているようだった。
「俺の事は心配いらん! 作戦は変わらないが、先に足元の蜘蛛をやってもらえると助かる!」
「足元……、うあっ!? い、いつの間に……」
信也の言葉で小型蜘蛛の存在に気づいたようで、咲良は慌てた声を上げつつも、【リープキュア】を信也へと飛ばす。
本来であればロベルトが魔物の察知を行う役割であったが、今の彼は未だ使い物になりそうにはなかった。
「マンジュウ、ダンゴ! さきにあの蜘蛛をお願い~。他の子もそっちを優先ね~」
信也らのいる位置から少し下がった場所では、芽衣が召喚した魔物やマンジュウらに指示を与えている。
なんだかんだで召喚で頭数を増やせるとはいえ、レイドエリアでもないのでそこまで通路の広さに余裕はない。
なので今呼び出しているのは、ビッグハンドというこの罠エリアで初めて出会った、腕が妙に肥大化した猿の魔物を一匹と、遠距離攻撃用としてピコを四匹召喚していた。
その内ビッグハンドが主の命に従い、信也らの横を通り抜け小さな蜘蛛の魔物目掛けて、その肥大化した腕を力強く振り落とす。
すると「キシャリッ」という、硬質な感じの、金属を殴った音ともまた違うなんとも言えない音が聞こえてくる。
ビッグハンドはその音の事など気にせずに二撃目を振り下ろそうとするが、蜘蛛の魔物はスルリと先に動いて、ビッグハンドの右脚部に齧りつく。
途端に「キイイイイィィッ!」という甲高い声を上げるビッグハンド。
齧られた部位は完全に肉が噛み千切られており、中身の筋肉質な部位が露わにされている。
それを見た信也は、生首の魔物によるものとは別の意味で冷や汗が流れ出る。
先ほど警戒もせずに喰らっていた噛みつき攻撃が、あれほどの威力があるとは思わなかったのだ。
「これは、出し惜しみしてるよゆーはないみたいだね!」
そう言って由里香は必殺技の一つである"炎拳"を蜘蛛の魔物に叩き込む。
かつてCランク相当の実力を持つ、『流血の戦斧』相手にも通用したのがこの"炎拳"だった。
だが、蜘蛛の魔物は攻撃がしっかりと命中したにも関わらず、仕留めきることは出来なかった。
どころかすぐさま由里香に対して反撃に移り、由里香は左腕の一部を肉ごと噛み千切られてしまう。
「由里香ちゃん!」
それを見た芽衣はすぐさま援護の為に由里香の下へと近寄り、中距離からの槍による"二段付き"を放つ。
〈フレイムランス〉による芽衣の"二段付き"は、芽衣の槍の腕前が上がった事によって、低ランクの魔物にはそれこそ必殺の一撃となりえる威力だ。
しかし、"炎拳"をまともに喰らっていたはずの小型蜘蛛に攻撃を重ねても、まだ倒しきることが出来ていない。
それは単純に小型蜘蛛の防御力が高いというだけではなかった。
「この蜘蛛は、火に耐性があるようです~」
咄嗟に芽衣が気づいたように、この小型蜘蛛――グリオンという魔物は、"火耐性"のスキルを持っていたのだ。
しかも信也達は未だ知りえぬ事であるが、この小型な体躯の割に、グリオンのランクはC。
ついでに言えば、あの生首の魔物――スケアリーフェイスも同様にCランクの魔物だった。
いくら"恐怖耐性"をロベルトが持っていないとはいえ、あっさりと状態異常にかかってしまったのは、魔物のランクがそもそも高かったせいでもあった。
「由里香ちゃん、一度こっちに!」
敵の数が少ない事から、最初は短期決戦で一気に押し切ろうとした信也達であったが、思いのほか敵が強かったこともあり、作戦の変更をせざるを得なかった。
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