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第十一章
第282話 生首退治
しおりを挟む「"付与魔法"、筋力と敏捷セットいくわよ」
「はいっす!」
一度陽子の下まで下がってきた由里香に、"付与魔法"の【筋力増強】と【敏捷増強】が掛けられる。
その二つの魔法を掛けられた由里香は、すぐさま前線へと戻っていく。
できればこの後、信也にも"付与魔法"を掛けたいところではあったが、彼は三体の魔物を必死に引き付けているので、こちらに呼ぶ余裕はなさそうだった。
「ならこれでっ! 【筋力低下】」
無理に信也の近くまで接近すれば"付与魔法"の射程には入ったかもしれないが、陽子も先ほどビッグハンドの脚が齧られる現場を見てしまっている。
それならば、と"呪術魔法"の【筋力低下】をグリオンへと掛けていく。
魔物のランク相応に、魔法に対して抵抗力を見せたグリオンだったが、陽子の"呪術魔法"も大分様になってきており、無事に二匹共に魔法は効果を発揮した。
噛みつき攻撃がメインである蜘蛛の魔物に、【筋力低下】が意味があるのかというと、効果はきちんとある。
北条が語っていた話によれば、ステータスの体力の数値は防御力に、筋力は攻撃力に、直接的な影響を与えているらしい。
実際、【筋力低下】を掛けられた後に信也は何度かグリオンの攻撃をもらっていたが、最初の時ほどのダメージは感じなかった。
ただやはり小型の割に攻撃力は高いようで、見た目や体の感覚的な傷の状態とは別に、この世界で戦うようになってから体感し始めめた、HPというものが削られていく感覚は味わっていた。
だがそれも咲良の適切な治癒によって、随時治されていく。
そうこうしてる内に、あれだけタフな様子を見せたグリオンも、ピコ×4による魔法攻撃による削りや、他のメンバーの苛烈な攻撃によってHPをどんどんと削られていく。
そして最後に残ったのは、最初に発見したスケアリーフェイスだ。
この生首の魔物は、髪の毛を操作して攻撃してくる以外にも、時折衝撃波のようなものを放ってきていた。
威力はそこそこあるようで、一度まともに喰らった一匹のピコが、その一発だけで瀕死になりかけた程だ。
余り連発してこないのが救いだが、本命の髪による攻撃の方も油断できるようなものではないので、気を休める暇がない。
それでも流石に多勢に無勢といった有様で、見た目ではどの程度ダメージを与えているのか判別しにくいが、着実に弱らせていっているのを信也たちは感じていた。
……そこに油断した、という訳ではない。
魔物と戦い始めてからまだ一年にも満たない彼ら異邦人だが、これまでの実戦経験から油断は禁物であるという事を、何度も体験してきていた。
だからこれは純粋に魔物の能力が問題だったのだろう。
「――――ァァァァアァァッッッ!!!」
突如、スケアリーフェイスの顔全体を覆う長い髪が左右に分かれ、中から真っ青な顔――顔は女性のように見えた――を露わにさせたかと思うと、身の毛もよだつ声を張り上げた。
その声の持つ色そのものが不快……というか、人の恐怖の感情を呼び覚ます類のものであったのは確かだ。
だがそれだけではなく、その"声"は聞いた者の魂に直接響くような、おぞましい何かが心の中で無遠慮に動き回っているような。
そのような声を聞いた信也達は、程度の差こそあれ皆一斉に動きが鈍ってしまう。
「ひっ、ひいいいいいいいっ!!」
「ぐぁっ!」
「ウゥッ、"心気一新"」
そうして動きが鈍っている信也に、スケアリーフェイスの攻撃がまず向かった。
鋭く打ち付けられる鞭のような髪は、盾でガードする事も出来なかった信也の胸部に命中し、装備していたハードレザーの鎧を切り裂いて、体の内部にまで届いた。
先ほどまでずっと行動不能状態であったロベルトは、スケアリーフェイスの声を聞くや否や、走ってその場から逃げだそうとして、周囲に貼られていた陽子の【物理結界】に頭をぶつけてもんどり打っている。
反対に、由里香は自身の軽い状態異常を取り除く特殊能力系のスキル、"心気一新"によって体の自由を取り戻し、信也を攻撃したついでに薙ぎ払ってやろうと迫る魔物の攻撃を、躱す事に成功していた。
そしてお返しとばかりに高速で魔物へと迫る由里香。
その動きに、攻撃をしかけたばかりのスケアリーフェイスは対処が間に合わない。
「ていやあっ!」
そこに由里香の"剛拳"がさく裂し、スケアリーフェイスはゴム毬のように勢いよく壁や床を飛んでいく。
更にそれを、まるでオモチャのボールで遊ぶ犬のように、マンジュウが追いかけていった。そしてガブリとスケアリーフェイスの頬の辺りに噛みつく。
それもただの噛みつきなどではなく、歴とした攻撃スキル、"雷牙"によるものだ。
噛みつきによるダメージと共に、噛まれた場所から走る電流が、更に相手の体を内部から攻撃するというこのスキル。
元々ダメージを蓄積していた所にこの攻撃を食らい、スケアリーフェイスのHPも尽きかけている。
「ぷるる!」
そこで最後に止めを刺したのは、芽衣が二番目に契約したウィンドスライムのダンゴだった。
魔物に噛みついていたマンジュウごと、ダンゴの放った"風魔法"が襲い掛かったのだ。
慌てたマンジュウは「わふぅっ!?」と声を上げつつ、慌てて咥えていた魔物から離れる。
直後、ダンゴの放った【エアーハンマー】が、ポトリと地面に落ち始めていたスケアリーフェイスに叩きつけられる。
そしてすぐ後には光の粒子が走り、気色の悪い生首が消えていく。
「ぷるるんっ! ぷるん!」
止めを刺した事で、得意げになってマンジュウに何か主張するダンゴ。
マンジュウは手柄を取られた事と、自分ごと攻撃されかけた事で「あぉぉん……」と情けない声を上げている。
「こ~ら! ダメでしょうダンゴ! 仲間を巻き込むような攻撃はメッ! だからね?」
しかし飼い主である芽衣はダンゴの振る舞いを許さなかったようで、早速お叱りの言葉を受けるダンゴ。
シュンッっと、体のサイズを小さくさせて意気消沈するダンゴに、今度はマンジュウが「ウォフウォフッ」と、ザマーミロといった様子の鳴き声をあげている。
「っふう。どうにかなったわね。後はコイツをどうにかしないと……」
一息ついた陽子が近くでうずくまるロベルトを見て言う。
「私たちも、北条さんの"恐怖耐性"訓練をやってなかったら、どうなっていたか分かりせんでしたね」
「……そうね。これまではそこまで危険は感じなかったけど、今回は少し焦ったわ」
そう言う割には、陽子は大分落ち着いているように見える。
近くに取り乱した状態のロベルトがいるから、余計そう見えるだけかもしれないが。
「おーい、みんな! ドロップの回収を終えたら、ロベルトが元に戻るまで休憩に入る!」
「はーい」
「わかりました~」
こうしてヒヤッとした部分はありつつも、敵を撃退してのけた信也達は、ロベルトが正常に戻るまでの数分間の間、束の間の休息を挟んだ。
▽△▽
「うぅ、あの時はホント申し訳なかったッス」
「もう、いいから。さっさと罠の解除を急いでよ」
あれからロベルトの回復を待ち、少し話し合った結果、更に先へと進む事になった。
ただし、今度からは常に陽子の"付与魔法"を切らさないようにして進む。
ステータス増強系魔法は、魔力を多く籠めれば一度で三十分程は持つ。
MP節約の為、全員に全種掛けてまわる事は出来ないが、前衛には筋力と敏捷。信也には体力と精神。ロベルトには少しでも恐怖の効果が軽減できるように、精神と敏捷を。
このような個々人に適したブーストを施しての探索は、更に魔力回復のために時間を取られる事になったが、これまで余り使用してこなかった、魔力を回復させる効果のある〈ブルーポーション〉もケチらずに使って補っていく。
先に進むことにした理由は、そちらの方が迷宮碑までの距離が近いと判断したからだ。
この罠エリアへと分岐してすぐの、罠エリア十一層。
そして次に迷宮碑が配置されていたのが十八層。
このペースでいけば、恐らくは二十五層に次の迷宮碑があると思われた。
ダンジョンの魔物は、エリアが変わるとガラリと強さや種類が変わる事もあるし、同じエリア内でも迷宮碑の配置されてる階層から、魔物の種類が増えていく事はある。
しかし、同エリア内ので階層を一つ二つ移動したからといって、いきなり強敵がウヨウヨする階層に行きつくことはない。
なんだかんだで、前回信也達『プラネットアース』が地下迷宮エリアを二十一層まで踏破した時も、似たような状況ではあった。
今回もその調子で、とりあえず先に進んで迷宮碑を確保しようという訳だ。
そうやって警戒をしつつ、「命大事に」をモットーに先へと進んでいた『プラネットアース』であったが、それからはあの生首や蜘蛛にはあまり遭遇する事なく先へと進むことが出来た。
運が良かったという可能性もあったが、ここまで遭遇が少ないというのは、元々の生息数が少なかったという事なのだろう。
とはいえ、スケアリーフェイスには二度。グリオンには四度ほどエンカウントはしていた。
知っていると知らないとでは雲泥の差があるもので、"付与魔法"による強化を最初からしていたせいか、最初の戦い程の苦しい戦いをする事もなく、無事に『プラネットアース』は目的地である二十五層へとたどり着く。
しかし、迷宮碑が配置されているハズの、階段を下りてすぐの部屋には何も配置されておらず、代わりに彼らはこの階層で別のモノを発見することになる。
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