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第十一章
第283話 亀へのリベンジ
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グリオンやスケアリーフェイスが出るようになってから、先を急ぐことにした『プラネットアース』。
一方北条たち『サムライトラベラーズ』は、特に問題なく階層を進めている。
『獣の爪』と遭遇した毒の魔物が多い箇所を抜け、その先。二十一層の迷宮碑にまで辿り着いていたのだ。
「早速お出ましだぜ!」
待ってましたとばかりの龍之介の目の前には、亀の魔物がのっしりと歩いていた。
前回龍之介達が二十一層に行った時には、この亀の魔物――スタグタートル相手に効果的なダメージを与える事が出来ず、なくなく撤退した経緯がある。
「龍之介ぇ。前よりは成長してるだろうがぁ、あいつはそれでもCランクの魔物だぁ。気をつけろよぉ」
「あぁ、分かった!」
そう言いながらも単身で突っ込んでいく辺り、本当に分かっているのか判断が難しい。
とはいえ目の前にいるのは一匹だけなので、そうそう危険な事になる事もないだろうと、北条は龍之介の後に続いて行き、何かあった時の為に備える事にした。
「まずはー、こいつで!」
龍之介は初撃から"インパクトスラッシュ"を使って攻撃を仕掛けていく。
それに対しスタグタートルは、躱すよりも防御の態勢で龍之介の攻撃を迎え撃つ。
体長四メートルほどの巨体の亀なので、素早く攻撃を躱すのには適していないのだ。
スタグタートルは、その大きな体に頭部に生えた二本の角が特徴的で、防御力が高い事で知られている。
また甲羅部分にあるトゲトゲの針を飛ばしてきたり、水弾のスキルを使ってきたりもするので、動きが遅いのを利用して遠距離からちまちま削るというのも、あまり良い戦法ではない。
ドオオオォォンッ!
ただ打ち付けただけに見える龍之介の剣によって、大きな衝撃音が周囲に響き渡る。
スタグタートルは巨体だけあって吹っ飛んで行ったりすることはなかったが、それなりにダメージは通っているようだった。
そう。この高い防御力を突破する攻撃力があるのなら、接近戦でガンガンぶちかましたほうが、変に作戦を練るよりもあっさり片づける事が出来たりもする。
「チィッ」
ただ龍之介の攻撃は以前とは違ってダメージが通ったようではあるが、ダメージ自体は軽微なようで、すぐさまスタグタートルは反撃に移る。
攻撃を被弾する事前提に繰り出してくる攻撃は、攻撃した側としては隙をつかれたような状態でもあるので、回避するのも難しい。
しかし龍之介はそもそもこの一撃で決められるとは思っておらず、敵の反撃自体は予想していた。
それに北条から指導を受けて取得した、"体術"のスキルが仕事をしたようで、動きのとろさとは裏腹の鋭い爪による魔物の攻撃を躱すことに成功する。
その間にも右からは〈ブラッディメイス〉を手にメアリーが。左からはスライムにしては大きめな体積を持っているアーシアが迫っていき、それぞれ攻撃を加えていく。
アーシアは何気に耐性スキルだけでなく、魔法スキルも覚えていっている。
しかし物理的な戦闘は得意ではなく、そっち系のスキルも余り覚えてはいない。
そこで北条は敢えてダンジョンでの戦闘では魔法を禁止させ、物理を鍛えるように指示を与えている。
どこか出来損ないの人形のような、人型になろうとして失敗した形になっていたアーシアは、手に当たる部分でトゲの生えた甲羅部分を直接殴りかかる。
見た目のぷるるんとした弾力のありそうな見た目とは裏腹に、ステータスが高いというだけで攻撃力に関しては高いアーシア。
それはCランクの防御タイプの魔物に対しても、有効打を与える事に成功する。
そのダメージは先ほど闘技スキルを使って攻撃した龍之介の攻撃と、遜色のない程の威力だった。
更に続くメアリーの攻撃もスタグタートルに有効なダメージを与えていく。
その様子からして、この魔物には打撃系の攻撃の方が良く効くようだ。
「そういう、事かよっ!」
メアリーらの攻撃を見て、龍之介は次の攻撃に"樋打ち"を使用する。
これは剣の腹の部分で攻撃する、剣でありながら打撃属性を持つ闘技応用スキルだ。
見た目は先ほどの"インパクトスラッシュ"よりは地味であったが、威力に関してはこちらの方が上だったようで、スタグタートルは「コォォパァァ……」と、うめき声なのか呼吸音なのかよく分らない声を発していた。
「む、龍之介、細川さん。気をつけろぉ」
注意を喚起する北条の声はいつも通りのものだ。
『獣の爪』の件ではメアリーと意見の衝突はあったものの、その後は二人とも不通に会話をするようにはなっていた。
「龍之介くん!」
「くっ、がああぁぁぁッ! こんちきしょうめ!」
苦しみの声らしきものを上げていたスタグタートルが、突然猛スピードで突進していったかと思うと、龍之介に猛烈なタックルをくらわしていた。
以前も同じ攻撃を信也がもらっていて、それが原因で撤退を余儀なくされた強力な攻撃だ。
龍之介は咄嗟に防御態勢を取ったため、ダメージを多少抑えられてはいたが、壁にたたきつけられた事で一瞬呼吸が止まってしまう程の衝撃を受けている。
それは体ごと押しつぶすようなタックルだったので、龍之介のすぐ傍にはスタグタートルの巨体が未だ立ちはだかっている。
そして、身動きの出来ない状態になっていた龍之介に、爪による攻撃を加えんとしていた。
だがその攻撃は北条の魔法攻撃によって遮られる。
「【岩砲】っとおぉ。ついでにもう一発【落雷】。さらにもう一発ドン! 【漆黒弾】」
北条は"解析"によって、スタグタートルが風耐性スキルを持ち、魔物自体の特性として水属性と土属性への耐性を持っている事を知っていた。
それでも敢えて最初に【岩砲】を放ったのは、その衝撃の勢いで龍之介の傍から引きはがそうとしたからだ。
その目論見は上手くいき、全長四メートルの鈍重な見た目をしているスタグタートルを若干吹っ飛ばす事に成功し、そこへ更に追撃の魔法コンボが火を噴いた。
しかもしれっと悪魔が使用していた"暗黒魔法"の上位魔法である、"漆黒魔法"の【漆黒弾】をも使用している。
見た目は"暗黒魔法"の【暗黒弾】にそっくりなのだが、威力はまさに段違いだ。
"ライフストック"のスキルを持つスタグタートルであったから倒すことこそできなかったが、Cランクの魔物であっても一発で大きくHPを削る程の威力がある。
「ミラン、お願い!」
暗黒魔法や闇魔法系は見た目ではダメージの程が分かりにくい。
実際今の魔法攻撃がどれほど効いたのか測れなかったカタリナは、北条の魔法攻撃の後に、樹の下位精霊であるミランに頼み、スタグタートルを植物のつるで縛りつける。
その植物のつるは見た目に反し、パワータイプのスタグタートルでもそう易々とちぎることはできない。
この間にメアリーは龍之介に"回復魔法"を掛け、戦線復帰させる。
「細川さん、ありがとっ! ……こんの亀野郎、今度はそんな攻撃が出来ないほどぶっ叩いてやるぜ!」
治療を受けた龍之介が、そう叫びながら勢いよく飛び出していく
だが龍之介が攻撃を仕掛ける前に、つるで縛られた状態のスタグビートルをビタンッビタンッと殴打していたアーシアによって、先に止めを持っていかれてしまう。
「えっ……あっ…………」
熱湯に無遠慮に氷をぶち込まれたかのように、龍之介の動きが急速に緩くなっていく。
「ふるるるっ……」
そうして動きの止まった龍之介の脇を、止めを刺したアーシアが通り過ぎていき、北条の下へと少し形の崩れた人型の足で器用にペタペタと歩いていく。
「あー、はいはい。よくやったよくやった……。龍之介もよかったなぁ? 無事リベンジは果たせたようだぞぉ」
北条の周りを「褒めて、褒めて!」とばかりにくるくる回るアーシアを、おざなりに褒める北条。
ついでに龍之介にも声を掛けた北条であったが、龍之介としては最初に少し戦っただけで、ほとんど戦闘した気にもなっていなかった。
「ぬ、ぬうううぅぅ……」
持っていき場のないやるせなさが、龍之介の肩をガクリと下げさせる。
途中でスタグタートルを束縛させたカタリナも、こんなに早く戦いが終わるとは思っておらず、少しポカンとした様子だ。
知識オタクの彼女は、スタグタートルが非常にタフである事を知っていたからの反応なのだが、龍之介と違って倒せたこと自体は良かったねと思っていた。
「ま、いっか」
「……いいや、オレはよくねえ! 次は俺がキッチリ倒してやんよ!」
やたらと威勢のいい龍之介の声であったが、そこまで気張る必要もなく、その目標はその日の間にサクッと片付けられ、『サムライトラベラーズ』は未知なる二十一層の先へと足を踏み入れた。
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この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
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